嘘をつくのがとにかく下手な「兄者、晩酌でもどうだ」
膝丸が部屋を訪ねてきたのは、髭切がちょうど床を延べおわったときだった。折よく、明日はともに非番だ。見あげた髭切の方も、もう少し夜更かしをしたい気分だった。
「いいね、この前買ったお酒、開けようか」
二振りとも酒には滅法強い。本丸に置かれているものでは度数も量も足りなくて、自分たちで酒を買うことはままあった。その酒をこうした夜だったり、どちらかが誉を取ったときなどに景気よく開けて楽しむのだ。
さて、あの酒はどこに置いたのだったか。思い出そうと、弟にやっていた視線を部屋のなかへ戻す。すると、まるでその視線を追うように、
「兄者」
膝丸が再び、そう呼んだ。
「うん?」
見やった弟は、何か言いたいことがあるのだろう。
「その」
「うん」
わずかな沈黙。続きを促すその静けさに耐えかねたのか、膝丸の目がふと逸らされる。
――いや、これは。
「言いたいことがあるなら、言ってごらん」
言葉にして促すと、膝丸の手がぎゅっと浴衣を握りこむのが見えた。本刃は知る由もないが、これは沈黙を貫くときの弟の癖である。
ああ、こうなっては言わないだろうな、と見切りをつけて、髭切は答えを口にした。
「ほんとは晩酌じゃなくて、そういう誘いなんでしょ?」
本当は、弟が声をかけてきたときから気づいていた。晩酌をと言うわりに、酒も酒器も持ってこなかったこと。かけてきた声が、少し揺れていたこと。
何より、明日が揃って非番である、ということ。
弟が言ったとおり、ふつうに晩酌を楽しんでもよかったのだが、兄にすがりつつも言いだせない、そんないじらしさを目の当たりにしたら、可愛がってやりたいという思いが勝った。
そして、髭切が放ったそれは、まさしく答えだったのだろう。
「ち、ちが、……う」
弱々しい否定に反して、白い頬を彩る朱は強くなる一方で。それが下手な嘘を暴かれた羞恥のせいか、身に燻る熱を持て余すせいか、なんて、髭切にとってはどちらでもよかった。
もはや兄の顔を見ることすら叶わず、潤んだ瞳を伏せる膝丸の手を引いてやる。
「もう、へたくそ」
可愛くていけないね。
囁いた耳までたちどころに真っ赤になるのを見届けて、髭切は愛しい片割れを真っ白な布団に押し倒した。