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    再走(サイソウ)

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    POIPOI 13

    大好きな漫画をお借りしました。
    https://twitter.com/Ja_moroG/status/1680227571634683907

    嘘をつくのがとにかく下手な「兄者、晩酌でもどうだ」
     膝丸が部屋を訪ねてきたのは、髭切がちょうどとこを延べおわったときだった。折よく、明日はともに非番だ。見あげた髭切の方も、もう少し夜更かしをしたい気分だった。
    「いいね、この前買ったお酒、開けようか」
     二振りとも酒には滅法強い。本丸に置かれているものでは度数も量も足りなくて、自分たちで酒を買うことはままあった。その酒をこうした夜だったり、どちらかが誉を取ったときなどに景気よく開けて楽しむのだ。
     さて、あの酒はどこに置いたのだったか。思い出そうと、弟にやっていた視線を部屋のなかへ戻す。すると、まるでその視線を追うように、
    「兄者」
     膝丸が再び、そう呼んだ。
    「うん?」
     見やった弟は、何か言いたいことがあるのだろう。
    「その」
    「うん」
     わずかな沈黙。続きを促すその静けさに耐えかねたのか、膝丸の目がふと逸らされる。
     ――いや、これは。
    「言いたいことがあるなら、言ってごらん」
     言葉にして促すと、膝丸の手がぎゅっと浴衣を握りこむのが見えた。本刃は知る由もないが、これは沈黙を貫くときの弟の癖である。
     ああ、こうなっては言わないだろうな、と見切りをつけて、髭切は答えを口にした。
    「ほんとは晩酌じゃなくて、そういう・・・・誘いなんでしょ?」
     本当は、弟が声をかけてきたときから気づいていた。晩酌をと言うわりに、酒も酒器も持ってこなかったこと。かけてきた声が、少し揺れていたこと。
     何より、明日が揃って非番である、ということ。
     弟が言ったとおり、ふつうに晩酌を楽しんでもよかったのだが、兄にすがりつつも言いだせない、そんないじらしさを目の当たりにしたら、可愛がってやりたいという思いが勝った。
     そして、髭切が放ったそれは、まさしく答えだったのだろう。
    「ち、ちが、……う」
     弱々しい否定に反して、白い頬を彩る朱は強くなる一方で。それが下手な嘘を暴かれた羞恥のせいか、身に燻る熱を持て余すせいか、なんて、髭切にとってはどちらでもよかった。
     もはや兄の顔を見ることすら叶わず、潤んだ瞳を伏せる膝丸の手を引いてやる。
    「もう、へたくそ」
     可愛くていけないね。
     囁いた耳までたちどころに真っ赤になるのを見届けて、髭切は愛しい片割れを真っ白な布団に押し倒した。
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    Replies from the creator

    再走(サイソウ)

    DONETL膝膝企画、三回目の開催おめでとうございます&ありがとうございます!
    前作(https://poipiku.com/4918557/11429448.html)の続き、「懸想している」と自覚した別本丸出身の二振り目と、彼の片思い相手に思い当る世話役の一振り目の話。
    終わらせるつもりだったのが続いてしまいました…。
    ※二振り目が薄緑と呼ばれています
    傾ぎ流れる 空調の風が規則的に首筋を撫でては遠のいていく。温湿度が管理された書庫で、薄緑は今日も何冊かの書物を紐解いていた。
     書庫のすみに設えられた机の上に、まるで塔のように積みあがっているのは、いずれも恋愛に関する本である。医学的なものから風俗的なものまで、とにかく恋愛について触れたものなら見境なく本棚から抜きだして、ただひたすらに読みふけった。すべてはあの日、「まるで相手に懸想しているようだ」と膝丸に言われた一言がきっかけだった。
     ――しかし、果てしない……。
     非番のたびにこうして書庫を訪れるようになって二週間ほど経つ。これまでに読んだ本の数は……端から数えてなどいなかったので不明だが、その感情の底知れなさを証明するように、いくら知識として身に着けても自分事として咀嚼できるかはまた別問題だった。
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    再走(サイソウ)

    DONE2025/3/16に開催されたHARU COMIC CITY 34の無配…予定だった散文。体調不良で欠席し配布できなかったため、こちらで供養します。
    同日がトーハクのdkj展の最終日だったので、それに合わせたネタです。2月のVRFで配布したこちら↓とうっすら繋がってますが、単品でも読めると思います。
    https://poipiku.com/4918557/11382208.html
    同一ケース展示の話 ―最終日― 展示物を眺める人々のささやくような声が、薄暗い室内の空気を密やかに震わせる。展示室の中央、ことさら目立つ位置に並んで展示されている膝丸と髭切は、空気を隔てる硝子越しに今日も流れゆく人々を見つめていた。
     注がれるいくつもの熱心な視線、佩裏まで見られるのは面映ゆい心地でもあったが、そんな眼差しを受けとめるのが今代の彼らの役目のひとつだ。
     ――でも、今日の弟はそれどころじゃないみたい。
     髭切が視線を走らせた先にいるのは、今回の展示の目玉のひとつであり、髭切がここに呼ばれる所以ともなった弟刀・膝丸である。刀身へ注がれる視線を前にして、今朝から何度も周囲を気にしては居住まいを正し、を繰りかえしている。人出が少なくなってきてからは、もはや動くまいと決した心を物語るように、両手を膝の上で固く握りしめていた。
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