寒いのが苦手な審神者と散歩に行きたい五月雨「頭、庭に散歩に行きませんか?」
そう言いながら部屋に入ってきた五月雨が襖を静かに閉じれば残り香みたいな冷気が僅かに漂ってきては彼女の頬をかすめて消えた。ホットカーペットに寝転がり、ブランケットを体にかけてぼんやりとしていた彼女は五月雨の突然の誘いに迷わず首を振る。
「寒いから嫌」
何をしている訳でもないのだけれど、このぬくぬくでだらけた時間が至福だった。起き上がって部屋を出て、更には外に行くなど考えられない。
「以前よりずいぶん暖かくなりました。今日は風も無いですし梅の蕾が膨らんでいる木もありましたよ」
「行かない」
五月雨的には寒さが和らいだのかもしれないが、彼女としては相変わらずに体を強張らせるような気温が続いていると思う。だからここから離れたくない。この温もりを手放すつもりはないとブランケットの端を握り込んで断固拒否の姿勢を崩さないでいると、彼女の隣に五月雨がころりと寝転んで来た。癖のない藤紫色の髪がカーペットに流れる。普段は五月雨の方が背が高いから、なかなかしっかりと顔を見合わせることは無い。彼女は「ほぁ…」と思わずため息を漏らす。長い睫毛に、きめ細やかな肌。鼻、目、眉、どこを取っても端正な顔立ちにブランケットの中の温度が上がった気がした。
「頭は……私と一緒に散歩をするのはお嫌ですか?」
「……」
表情はいつもと変わらないけれど、同じ角度で合わさった瞳はどこか寂しげで彼女は眩しいものを見た時みたいにギュッと目を細める。
「……狡いじゃん……その聞き方は」
彼女は思わず暖かなカーペットに顔を伏せた。熱がじんわりと顔中に伝わってくる。わざわざしっかりと目を合わせてくるところも狡い。
「褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてない!」
くぐもった声で反論しても、気にしていないのか五月雨は彼女の手に自分の手を重ねる。大きくて、思いのほか熱い。
「頭。いかがですか」
彼女がコートを着るまであと一分。