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    hidaruun

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    hidaruun

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    さみさに♀(雨さに♀)

    #さみさに
    onInformationAndBeliefs
    #雨さに
    inTheRain

    概念を買ってしまった審神者小間物屋で硝子細工を見ていた。窓から降りそそぐ陽が硝子に反射して眩くきらきらと光を散らばらせている。
    同じ商品棚の周りをぐるぐると虎のように何度か回って、彼女はひとつの硝子の小皿を手に取った。指先で紫色の縁取りを少しだけなぞってみる。全体は透明で、桔梗の花が皿底に描かれており支えている手のひらを透かしていた。
    「それ買うの?」
    「うん……なんか五月雨っぽいかなって……えっ」
    「ん?」
    さっきまでは影も形もなかったのに、お皿を落とさないようにしながら彼女が勢いよく振り返ると、そこには桑名がいた。
    たしかに一緒に買い出しに来てはいたのだが彼女が小間物屋に足止めされたので「本屋に行ってくるね」と言って別行動をしていたのに。いつの間に戻ってきていたのだろう。
    「今の……」
    桑名の問いかけにぽろりと口から飛び出してしまった言葉は江の面々には特に聞かれたくないものだった。一人で黙々と考え込んでいたものだから、うっかりしていた。彼女は恐る恐る前髪で良く見えない桑名の瞳を窺う。
    「なに?」
    「えっと……」
    「うん?」
    「……なんでもない」
    前髪がふわりと揺れて不思議そうな返事が戻ってくる。聞かれていなかったのか。はたまた深掘りする気がないのか。桑名の様子をジッと窺ってもはっきりとは分からない。どちらにせよ彼女もこの件に関してはそのまま濁すことにした。全て説明してしまったら、それこそ決定打になってしまうのだから。
    「これ買って、帰ろっか」

    ◇◇

    「頭」
    いつもよりトーンの高い声が春のそよ風のように執務室に飛び込んできた。
    「どうしたの?」
    「はい」
    どこか嬉しそうな五月雨に投げかけた質問に対する真っ当な返事は無く、何故だか彼女の両手を取って五月雨はそのまま指の間に指を滑り込ませてきた。恋人繋ぎ、なんて言葉が頭を過ぎる。大きな手に握り込まれてしまい「えっ」と彼女は動揺の声を上げる。反射的に手を引こうとするも、しっかりと握られたその手からまったく逃れることはできない。
    「な、なに?」
    握られてしまった手をまじまじと見つめ、そのまま顔を見上げると満面の笑みを咲かせた五月雨がいた。「わぁ」と感嘆のような驚きのような声が漏れる。そこだけ満開の桜の木の下みたいでその美しさに眩暈がした。手を握られているだけではなく、とびきりの笑顔にぶつかって倒れ込んでしまいそう。
    「桑名から聞きました」
    ふわふわとした心地の中で五月雨が発した言葉に彼女はスッと現実に戻る。
    桑名が五月雨に何を言ったのか。想像に難くない。午前中の出来事のことがすぐに脳裏に浮かんだ。
    桑名江め……。心の中で彼女はあの目隠れ姿を睨みつける。
    何も聞いてませんみたいな顔した癖にこれである。まあ、実際前髪で顔が見えたわけではないのだが、あの態度は聞こえてたとしても知らないふりをするつもりだったのではないのか。そういう流れだったじゃない。とんだ裏切り行為だ。
    彼女はまたも心の中でではあるが地団駄を踏んだ。今度の晩御飯に桑名からお菜を奪ってやる。
    「頭」
    桑名に怒り心頭していると、ぎゅっと手を更に強く握られて、今の状況にハッと引き戻された。繋がれた手はそのままだし先ほどより顔が近くなっている。ぶわりと体から何かが湧き上がる。
    「小皿を見て私のことを思い出してくださっていたと。しかも、それを買われたと」
    本当に全部喋ってるじゃないかと、彼女は俯いてしまう。五月雨のことを考えて五月雨っぽいものを買うなんて本人に知られて恥ずかしくないことがあろうか、いや恥ずかしい。だから内緒にして欲しかったのに。確かに内緒にしてとはっきりお願いしたわけではないけれど。でも、でも、と往生際悪く抵抗する彼女に五月雨が更に顔を寄せてきたのがわかる。紫の前髪がさらりと額に触れる。
    「頭」
    声が近づいてくるから反射的に体を逃そうとするが手を握られてて叶わない。握られた両手が最早元の形を保っていると思えなかった。
    「とても嬉しいです。それを見せて頂けませんか」
    近すぎる声に音無き悲鳴を上げてしまった。なんでこんなことになってしまったのか。そもそもどうして五月雨はこんなにぐいぐい来るのだろう。ちらりと様子を窺えば、先ほど打ちのめされた五月雨の笑顔がやはりそこにあった。あの硝子の小皿をみたいに眩く煌めいているから、またそっと目を伏せてしまう。

    ………桑名江許すまじ。彼女は胸中で桑名に恨み節をぶつけるしかなかった。
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