郁弥が片思いしてた旭郁が両片思いになったその後の話「ずるくないか?」
いつかそんなこと言い出すんじゃないかと思ってたけど、予想よりも早かった。
「ずるいってなにが?」
本当はその先に続く言葉は分かっていたけど、旭の口から聞きたくてわざととぼけてみる。
「先に好きになった方が勝ち、みたいなやつ」
口を尖らせて不満そうな表情を浮かべているけど、僕のことを恋愛対象だと認識したのはつい最近のはずなのに、随分と横柄な態度だ。
「別に勝敗があるわけじゃないでしょ、こういうのは」
そう言いつつも僕はちょっとだけ優越感を覚えている。
旭がこれまで友達として呑気に過ごしていた間も、僕にとっては好きな人と過ごす特別な時間だったから。
楽しいことばかりじゃなかったけど、恋をしているってだけでこんなにも景色が変わるんだって驚いた。昔、猿みたいだとバカにしていたあの旭が相手なのに。
優しくされると嬉しくて、気安くされるとドキドキして、愛想の良さに勝手に嫉妬して、静かに燃える闘志と真摯な眼差しに刺激を受けて、そんな他愛のない日々の記憶が胸いっぱいに降り積もっている。
受け入れてもらえるなんて思ってなかったから、このキラキラを大きな瓶にずっと閉じ込めておいて、たまに取り出しては眺める、みたいなことをひとりで繰り返すんだと思っていた。だから少しでも中身を増やしておきたくて、些細なことでも忘れないように大切に覚えている。
「量で勝てないなら質で勝負するしかないか」
なんか変なこと言い出したなぁ、と思っていると急に肩を抱かれ引き寄せられる。それから数秒の間を置きパッと手が離された。
「写真?」
スマホの画面を内側に向けたまま、いわゆる自撮りの要領でツーショット写真を撮られていた。
「郁弥、あんまり写真撮ってないだろ。これなら俺の方がちょっとは有利だな」
みてろよ、俺の方が好きなんだってこれから認めさせてやるからな、という謎の宣戦布告に胸が高鳴った。