大したことない話※自分たちのおまんじゅうマスコットが発売される世界
※一般人のグッズが出ることに誰も違和感を抱かない
※細かいことは気にしない
夕飯も風呂も終え、大学の課題に取りかかろう思いながらもダラダラとスマホをみていると、郁弥から突然電話がかかってきた。
急にごめんね、から始まった会話は緊急性のあるものではなく他愛ない話だった。
週のど真ん中の平日に電話がかかってくることはあまりない。そのうえ、雑談とはいえなんとなく集中しきれていない空気が漂っていた。
「で、本題は?」
話題がひと段落したタイミングを見計らってそういうと、グッと言葉に詰まっている気配がした。
「大したことじゃないんだけど」
「でも、聞いてほしくて電話してきたんだろ?」
モヤモヤしてこのままじゃ眠れなくて、でもメールだとうまく伝えられないと思ったからこその行動だろうし放っておきたくはない。
「おまんじゅうマスコットの、新商品のことって聞いてる?」
「シールのやつだろ?」
先に発表済みのマスコットを模したフレークシールが発売されるという連絡は今日の昼にあった。ちょうどそのとき一緒に学食にいたハルや貴澄ともその話をしたばかりだ。
「それ。僕って凛チームなんだって」
「あ~、なんかそんなようなこと書いてあったな」
マスコットのボックスと同じ分かれ方で、ハルと凛がそれぞれの代表みたいなネーミングになっていたはずだ。
「これから言うこと、ちゃんとワガママだって自覚してるからね」
「おう」
「……僕、ハルのチームじゃない?」
「は?」
なにを言われるのかピンとこなくて、反射で聞き返してしまう。
「凛が嫌とかじゃなくって、ハルのチームがあるなら僕はそっちじゃない? って話」
「……」
「きいてる?」
「思った以上に大したことじゃなくてびっくりしてた」
「ちゃんと最初に言ったでしょ!」
変なこと言ってる自覚はあるらしい。これを言いよどんでいたんだと思うと、じわじわとおかしくなってくる。
「いや、でもほら、関係ねぇって、そんなの」
「笑ってるの、分かってるからね」
こらえながら話そうとするものの、不自然に言葉が途切れるのですぐにばれてしまう。
「いや、だって、おまえ……!」
これ以上は絶対に拗ねるだろうなと分かっていたものの、抑えきれなくてついに声を出して笑ってしまった。
「僕だってくだらないってわかってるからね!」
バカ! と言いたいのを我慢していると思うと余計におかしさに拍車がかかる。今回バカなのは明らかに郁弥の方だからだ。
「いや、悪い悪い。そうだよな、郁弥も俺と同じハルのチームがよかったよな」
なんとか呼吸を整えてそう返すと、別に旭はどうでもいいなんてそっけなく言われる。
「なんか、旭と話してたら本当にどうでもよくなってきた」
もう切るね、と言ってあっさりと郁弥は通話を終わらせた。
笑いすぎたかな、と少しだけ反省していると一通のメールが届く。もちろん差出人は郁弥だ。
『さっきはありがと。おやすみ』
言い忘れたことだけ送った、と言わんばかりの簡単なメールにこっちも手短に返信をして、今日はもう寝ることにした。大学の課題は、明日どうにかしよう。