ブ〇〇コドン 今日の飲み会には遠野がいなかった。
面倒見役がいないことでペース配分を誤ったのか、お開きになる頃にはほんのりと顔を赤くし、定まらない視線でポーッとどこかを眺めている郁弥が出来上がっていた。
「旭、送ってあげなよ」
サラッと貴澄がそんなことを振ってくるが返答は分かっているはずだ。
「逆方向だよ」
「そっかぁ。じゃあせめて酔いが覚めるまで付き合ってあげたら?」
言いながら歩いてニ、三分のところにある公園までの地図を表示したスマホの画面をこちらに向けてくる。
お前も一緒にくればいいだろ、という言葉は飲み込んで貴澄とはその場で別れ、郁弥と共に公園に向かった。
さっきまでのボンヤリとした様子が嘘のように、軽やかな足取りで郁弥が歩いてくれたお陰であっという間に公園に着くと、真っ先に目につくブランコをめがけて急に駆け出した。
「立ち漕ぎはダメだからな! 座って乗れよ!」
酔っ払いの行動は本当に突拍子ない。
ブランコに乗るなり全力で漕ぎ始めるとギィギィとやや耳障りな音を立てる。
三往復ほどするとタンっと足をつき、一回完全に動きが止まった。その後は踵をつけたまま前後に緩く動かすだけになった。
「飲みすぎるなんて珍しいな」
隣のブランコに座り、身を乗り出し郁弥の方を向きながらそう声をかける。
遠野が世話を焼いているのは確かだが、自分でも許容量は大体把握しているはずだ。ほろ酔い程度ならまだしも、一人で帰るのも難しいくらい酔うなんてちょっと珍しい。
「今日は日和がいないって、言い訳が使えるから」
「ん?」
「お持ち帰りでも、送り狼でも、どっちでも」
ジッと地面に視線を落としたまま、こっちを一切見ずに爆弾発言を落としてくる。
ガチャンとわざと音を立ててブランコから立ち上がり、郁弥の目の前に立つ。座面を吊るしている鎖をガッと掴み粗めに引き寄せると、パッと郁弥が顔を上げる。
「言ってみただけ、で済ましてやらねぇぞ」
首を少し突き出し、視界がぼやけるギリギリの辺りまで顔を近づける。
「じゃあ旭も寂しかったから、なんて言い訳しないでよ?」
すうっと細められた目は多少の潤みはあったもののしっかりと正気を残していた。
酔っ払ってねぇのかよ、というツッコミと、そういう展開になる前にちゃんと告白したいという思いと、さっさと帰って今の態度を後悔させたいという欲が、静かに脳内でせめぎ合っていた。