無題。「オイ」
桜井琥一が女子生徒を見下ろしていた。
顔面蒼白な女子生徒。
この場面だけを切り取ると、桜井琥一が女子に絡んでいるようにしか見えないだろう。現に、周りがざわめき始めた。
「……琥一くん、どうかしたの?大丈夫?」
そこに現れた彼女。
「……なんでもねーよ」
「あっ、そういえば、ここペンキ塗り立てだったよね。看板どこ行ったんだろう?」
「え……?」
女子生徒が振り返る。確かにその縁はつやつやとしていた。戸惑ったように桜井琥一を見上げる女子生徒。
桜井琥一は眉間に皺を寄せてチッと舌打ちをして、その場をあとにしようと背を向ける。
それを追うように彼女もまた歩き出す。
「教えてあげたの?」
「……そんなんじゃねーつってんだろ」
「素直じゃないなぁ。じゃ、ナンパでもしてた?」
「は?んなわけねぇだろーが。………ペンキは、服についたら取るのに大変なんだよ」
「やっぱり教えてあげてたんじゃん」
「そうじゃねぇ」
「もう、本当に素直じゃないなぁ……でも、優しいよね、琥一くんは」
「う、うるせぇよ」
桜井琥一は眉を顰めるも心なしか頬が赤いようにも見える。そんな彼を見て、彼女はふふっと笑う。
シンと静まったまま、桜井琥一と彼女を見送るその場にいる生徒たち。