束縛の咬魚は誘惑と番いたい【3】(上)*****
休日にオクタヴィネル寮の談話室を利用する人はあまり多くなく生徒の姿はまばらである。部活動に励む者、各々の部屋でゆっくり過ごす者、麓の街などに出掛ける者、モストロ・ラウンジで働く者の四つのパターンに大体の寮生が分けられるからだ。
この週末のジェイドはオープンから夕方までのシフトに入っていた。夕方以降はアズールと交代なので、本日の業務の引き継ぎと来週の予定の大まかな打ち合わせを済ませて、やっと部屋に戻ろうかというところだったのだ。休日ということで日中のカフェはなかなかの盛況振りであったが、そのわりに疲労はあまり感じていない。だというのに、ジェイドは閑散とした談話室の強化ガラスの向こう側の海でのんびり泳いでいる魚たちや華やかな珊瑚礁をぼんやりと眺めながら暫し立ち尽くしていた。ここのところ気付けば何度もあの日の夜のことを思い返している。
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