Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Xpekeponpon

    @Xpekeponpon

    @Xpekeponpon
    主にTRPG関連の絵をぶっこむ

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍀 🈁 👉 🌍
    POIPOI 156

    Xpekeponpon

    ☆quiet follow

    支部間交流戦の話

    #ELDORADO_SYNDROME

    そんなこんな、素敵な一日 ●

    「閃、最終確認だ。わしが言ったことを復唱してみろ」
    「連絡先は交換しないように。手加減はしなくていい。2試合連続は許可しない」
    「よろしい」
     ディメンションゲートの前、黄連と、こがねが丘高校のジャージ姿の閃が向かい合っている。
    「菊葉支部長、ありがとうございます。僕の為にわざわざこんな」
     礼を言う閃の言葉は既に喜色に満ちていた。今から遊びに行く子供のようだ。
    「……まあ、うちしかUGNを知らん貴様には知見を広げるのにちょうど良いだろう。こちらとしても新設支部だからな、よその支部に顔見せと挨拶程度はしておきたい」
     人脈は金脈に勝る。黄連の言葉に閃は「はい!」と頷いた。この支部長の秘書として相応しく努めねば、と決意を新たにする。
    「良かったですね閃さん! 無理しない範囲で満喫してください!」
     二人を見送るのは康平だ。嬉しそうな閃の様子に、康平もまた嬉しそうにしている。
    「水分補給はしっかりと……それから、怪我しないでくださいね」
    「はい、重里先輩。お気遣いありがとうございます。気を付けつつ頑張ります」
     さて見送りはもう一人いる。その一人たるトウジは上司の方を見る。
    「じゃ、留守番はしておきますので」
     命令があれば選手として出ただろうが、そういうのもなかったので。支部長と戦闘員一人が出かけて手薄になった牙城を護るのが、今回のトウジの仕事だ。
    「うむ。頼んだぞ碓氷、重里。何かあれば連絡しろ」
    「了解」
    「はいっ!」
     では行ってくる――いってきます――黄連と閃の姿が、ディメンションゲートの向こうへと消えた。

     ●

     UGN管理下の地下アリーナ。
     ここはUGNエージェントの訓練場だ。異能が一般人の目につかぬよう、あるいはエフェクトの被害が発生しないよう、こうして地下に造られているのである。
     閃は秘書として黄連の挨拶回りにしばし随伴した後――今は選手として、煌々とした照明の下に立っていた。見上げる眩さに目を細める。見回せば、客席に様々な関係者。そして競技場には、闘気を漲らせた選手達。広い会場の別ブロックで、既に試合が行われている。熱気。騒々。汗のにおい。歓声に拍手、ブザーの音。
    (ああ――)
     慣れ親しんだ正方形のリングでこそないけれど、またここに――技術と技術をぶつけあえる競技の場に、帰ってこれるなんて。
     深呼吸をする。この会場の空気にめいっぱい、身も心も浸して――両手で、前髪を掻き上げる。燃える旭日のような髪色を晒し、闇を射抜けとつけられた名の如く、前を見据える。
    「閃! 分かっとるだろうな!」
     試合場の傍ら、関係者席にちょこんといる黄連が声を張る。コクリと閃は頷きを返し、前へ進んだ。
     手加減無用、デミクリスタルは使わない、試合後に連絡先を交換しない。政治の為の接待やら手加減やらは一切しなくていい、思うように戦ってこい、と言われたのは閃にとって嬉しいことだった。

     かくして相対する。
     一礼。
     そして――試合開始のブザーが鳴った。

     相手はエグザイルシンドロームらしい、メキリと音を立ててその両拳が硬い骨のガントレットで覆われた。
     このひと強いな――閃は直感する。長いこと戦いの場に居たからか、構えて相対するだけで相手の凡その実力が分かるようになっていた――重心低く踏み込んでくる相手の拳は、挨拶代りと言わんばかりに閃の顔面へと振り抜かれる。
    (あ! ボクシング! このひとボクシングの人だ!)
     紙一重で回避する。硬くて重たい拳が、避けられなかったもしもの閃を殴り飛ばしていく。当たったらこうなっていただろうな、というノイマンの思考力による演算がスリルを生んで、魂と体を加速させる。
     次の瞬間、相手のボディへ槍の如く突き刺さるのは、閃のデミクリスタルの足。通常なら激痛に悶絶させる一撃――だが、それは相手が胴へ集めた骨によってガードされる。
    (硬いな だけど――碓氷先輩の氷より、脆い!)
     先輩との手合わせを思い出しつつ、そのまま蹴り押す。衝撃は防御の上から相手の体内に確かに響いていたようだ。顔をしかめ、たたらを踏む相手の口から胃液が漏れる。
     ――その時にはもう、黄金の脚が相手の側頭部に迫って、そして、精確に打ち払う。黄金の軌跡を描くアクセルキック。「ぱんッ」、というインパクト音は黄連の場所まで聞こえた。鮮やか且つ見栄えする『武術』に、観戦者らが「おおっ」と歓声を上げる。人々の視線の先、脳を揺らされた相手が倒れ込む。

     ……普通の人間の戦いならこれで終わり。だがこれはオーヴァード同士の戦い。

     ゆらり、切れた唇で笑いながら、その者は立ち上がる。
    「……!」
     ただならぬ戦い。向けられる「おまえをブチのめす」という闘気。それが少年を昂揚させる。興奮する。心臓がドクドクして、魂がゾクゾクする。強い人が、自分をブチのめそうと躍起になっている。今、この強い人の「ヤってやる」という覇気は、自分にだけ向けられている。一瞬でも油断したらどうなっちゃうんだろう、骨が砕けて脳が揺れて臓器がシェイクして、痛くて苦しくてゲロと鼻血と脂汗にまみれてのたうち回るハメになっちゃうんだろな。嗚呼!
    (戦えるんだ。戦っていいんだ! 強い人といっぱい、たくさん! すごい! すごいすごいすごい!)
     ここでは超能力は卑怯なチートでもなんでもない。当たり前なのだ。
     当たり前に、思いっきり、戦っていいのだ。
     迫る拳を紙一重で――最低限で回避しつつ――稲妻を纏う脚が加速する。

     嬉しい――楽しい。楽しい!

     ●

     一方その頃、ゴールデンダイナーのバックヤード。

    「大丈夫ですかね……怪我とか、してないといいんですが……」
     留守番が始まってから、康平は精神のセルフグルーミングめいて掃除をしつつ、さっきから定期的にその言葉を繰り返している。根っから争いは苦手なのだ。閃の実力を認めていない訳ではないのだが、それでも、閃が殴られたり蹴られたり……というのを想像すると、電子の回路が落ち着かない。
    「そうだなぁ」
     ソファに座って、長い脚を組んで、広げた新聞を適当に流し見していたトウジが生返事をする。最初こそ「向こうにも医療チームなりいるだろ」「また、脚が取れたりはしないだろ」「ルールで守られた試合程度で重体になるんなら、これからはバックアップ班に回った方がいいだろうな」など律儀(?)に答えていたのだが、今はご覧の有様である。
    「そうですかぁ……」
     康平はそう答え、そわそわしたまま掃除を続ける……リフォームしたての支部施設はどこもかしこも綺麗で、そろそろ拾う塵もない。一通り掃除をしてしまったのでどこを掃除したものか。途方に暮れると、またあの心配が鎌首をもたげてくる。

     そんな時であった。

    「ジェンガするか」
     おもむろにトウジがそう言った。
    「ジェンガ。知ってる?」
     その言葉に、康平はパッと顔を明るくした。
    「知ってますよ! パズルの一種ですよね。私ジェンガ得意なんです!」
     持ってきますよ! と康平は持ち前のサービス精神で休憩室からジェンガを持って来る。綺麗に箱をひっくり返せば、机の上に、積み木のような塔ができあがる。機械的な計算を以て、その塔に一ミリの歪みもない。
    「それじゃ、一勝負」
     新聞を畳んで置いて、トウジの長い指がブロックを一つ引き抜いた――。

     ――康平はパズルが得意である。ノイマンの才能が遺憾なく発揮される分野である。
     閃は0を1にするような、戦略構築や瞬発力のあるアイデア出しが得意なタイプのノイマンだが――康平は1を2にしたり、100の中から1を見つけ出すのが得意なタイプのノイマンだった。
     つまり、地道で即時で精確な計算が凄まじいのである。

     そんな『天才ノイマン』を、ただの人間が相手取るなど無謀にも見えるが――トウジは善戦していた。
     正確に言うと、その氷の力によって自分の手番の時だけブロックを固定するというイカサマをしていた。
     だがしかし、それにぼちぼち康平が気付く。
    「……あれ? このブロック妙に冷たい……、アッ‼ ズルはよくないですよ! トウジさん!」
    「持ってる能力を使ったまでだよ。ロボット君だって使ってるだろ?」
     ほら、ヒューマンズネイバーだっけ? あとノイマンの演算力。その淀みない返事は、まるで指摘された時のことを既に予測していたかのよう。そんな、しれっとしたトウジの即答に、立ち上がっていた康平は……しばらく沈黙と共に熟考し……
    「アッッ⁉ 本当ですね⁉」
     ポン、と手を打つ。当たり前のように使っていたので自覚がなかったのだ。
     ノイマンに舌先で勝ってみせた男は、くつくつ含み笑って「ほら、次はロボット君の手番だよ」と、ドサクサに紛れて自分の手番をスキップするという新たなイカサマを発動していた。もちろん、康平は「はい‼」と元気よく騙されていた。

     ●

    「はぁ はぁ 本ッ……当に゙……すごぐ……だのじがっだ……でず」
     インターバルを設けつつ、医療チームによる回復を適宜行いつつ(医療チーム見習いの練習の場にもなっている)、侵蝕率や体の具合を見つつ。
     様々なエージェントと思う存分戦いまくった閃は、最後の試合も勝利をもぎ取り――顔のそこかしこからダラダラ流血しつつ、黄連のもとへ戻ってきた。鼻血が詰まって酷い鼻声だ。辛勝したので(なかなか有名なエージェントが相手だった)足取りもフラフラで、後ろに撫で付けていた赤い髪もボサボサで、左腕がだらんとして動いていない。それでも目はキラキラ輝かせ、声まで弾ませていた。
    「ま゙た連れでぎで頂い゙でも……! いいでずが……!」
    「分かった! 分かったからすぐ医療チームのところへ行け!」
     闘争衝動ではない黄連には、殴り合って痛い目に遭ってもこんなに楽しそうにしている連中のことは、ちょっと分からない……戦闘狂、ヤバイ……。

     ●

     帰路もディメンションゲートで一瞬だった。医療チームやモルフェウスシンドロームのスタッフによって、閃の見た目は出発した時と変わらない。表情は明らかに充実したホクホク顔だったが。
    「ただいま帰りました。碓氷先輩、重里先輩、お疲れ様でした」
    「お二人共おかえりなさい! どうでしたか?」
     出迎えた康平の言葉に、閃は「楽しかったです!」と嬉しそうに頷いた。
     一方の黄連へはトウジが「子守り、お疲れ様です」と声をかける。ノイマン達の土産話と無垢な相槌を背景に――閃よりぐったりしている支部長に片眉をもたげた。
    「支部長、まさか試合に出たんです?」
    「出たら死人が出るぞ……わしという死人が」
     軽口に軽口を返し、黄連は肩を竦めた。端的に言うとこれは気疲れだ。閃の試合を見ている間、暴走しないか、大怪我をしないか、デミクリスタルが思わぬ活性化をしないか、ずっと気が気でなかったのだ。杞憂だったからそこはよかったものの……しかし、閃が一撃をもらうたび、心臓が嫌な跳ね方をし続けたものだ。
    「はぁ……わしは少し休むぞ、報告があるなら後で……」
     黄連は眉間を揉みつつ休憩室へ向かう。「お疲れ様です」、と部下達は声を揃えた。
    「じゃあ僕は――」
     もう夕方ですし帰ります。……と、閃は口にするのかと思いきや。
    「今日の反省とちょっと試してみたいことと次回の対策の為にトレーニングルームお借りします」
     物凄く楽しそうに……そう言った。
     全人類の中で最も『青春』という狂気に寵愛された存在、それが男子高校生という生き物なのである。


    『了』
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works