本気④悠仁が目の前にいる。
その空間は白くて柔らかい光に包まれていた。
歯を剥き出して笑う笑顔とは違って、優しく微笑んでいて、頬を赤らめている。
『五条先輩』
元気いっぱいに呼ばれるのとは違う。胸の奥がじんわり暖かくなる呼ばれ方。
『五条先輩…』
(ゆう…じ…)
名前を呼ばれると幸福感に満たされた。
悠仁が両手を伸ばして、俺の頬を包み込んだ。
『先輩…好きだよ』
やっぱり、居心地いいな
(悠仁、俺も…)
悠仁の背に自分の腕を回した。
◻︎◻︎◻︎
「…んぱい。ご、じょう先輩。五条先輩!」
「はっ!」
だんだん大きくなる悠仁の声に目が覚める。
さっきの悠仁は夢だった。
「早く飯食って、高専戻ろうぜ」
「ん?え、あぁ…」
「あはは、先輩、寝癖やばいよ!」
「あ、あぁ…」
悠仁は昨夜の口数少ない彼と違って、いつも通りだった。
昨夜は疲れていたからなのだろうか。
しかし、そんな事よりも夢の悠仁を思い出してしまう。
(俺、悠仁のこと好きだったのか)
それに気づけば、居心地の良さにも納得する。
両想いなんだから、さっさと伝えて付き合ってしまおう。
悠仁のいる和室に行くと、朝食が机に並べてあった。
「朝食も部屋食なんだね!」
「あぁ、そうなんだな」
「先輩は、ご飯どんくらい食べる?」
「俺、朝はあんま食べないから、いらねえ」
気持ちに自覚してから、美味そうに飯を食べる悠仁を見ると、更に愛おしく感じる。
「悠仁、口元に米ついてるぞ」
「ん?…取れた?」
「ちげぇ。そこじゃない」
「あ、ありがとう!」
頬についた米粒を取ってやると、悠仁は眉を顰めて顔を真っ赤にする。
やっぱり、悠仁は俺のこと好きなんだな。
「悠仁、付き合ってやるよ」
「どこに?どっか行きたいって言ったけ?」
「ちげーよ。俺とお前。付き合うだろ」
「は?五条先輩、まだ寝ぼけてんの?」
頬からは一気に赤みが引き、悠仁は疑問の眼差しを向けてきた。
思っていた反応と違う。逆に疑問を投げかけた。
「え?俺のこと好きだろ?」
「あー、うん。まぁ」
「俺も好きだからさ。付き合うだろ」
「だから、なんでそうなんの?」
可笑しい。ここは赤面して、泣いて喜ぶところだろ。何故か、悠仁の頭には更にハテナが増えている。
「え?俺が好きって言ってんだよ?付き合わねーの?」
「付き合うって何。先輩のこと好きだけど、そういう意味では好きじゃねーよ。」
「は?」
「あれか、昨日のでなんかハイになった感じ?俺気にしてねーよ!だって、先輩疲れてたんだもんな!」
悠仁は俺に笑顔を返して、また飯に集中してしまった。
思っていた反応と違すぎて、訳がわからなくなる。
俺のことを好きで懐いていると思っていたが、それは本当に親しみの意味だった。
…こんなこと初めてだ。
この後どうやって迎えに来た車に乗ったか、あまり覚えていない。
(振られた…)
迎えに来た車中でも、ずっとこの事が頭の中を占めていた。