「ふーちゃん」
聞こえるか聞こえないかの小さな、躊躇いがちに呼ばう声。そっと膝に掛かる僅かな重みとぬくもりに本へと落としていた目線を上げる。人間よりも犬猫の数の方が多いこの家に、人語を喋る存在はふたりしかいない。まあ今となってはその比率はあやふやだけれども。
それというのも理由がある。顎をちょこんと乗せてこちらを上目遣いで伺っているドッピオの頭にある、ピンと立った犬耳。もちろん髪色と同じ大きな尻尾も生えている。元々鋭い犬歯は変わりはないしさすがに肉球まではないものの、どこからどう見ても大きくて可愛い子犬のマゼンダレトリーバーだ。
どうしてこうなったのかと聞かれれば説明は難しい。むしろ俺が聞きたい。一言で語るならば“バグ”という言葉がそれに当たるとは思う。というのも、仲間という仲間が元々人ならざるモノが多いせいか、イベントのように月一くらいで何かしらこういった軽いものから世界の危機に相当するものまで多種多様のハプニングが起こる。だから気にするだけ無駄でもあるし、宇宙人やらがいる時点でお察しだ。
3123