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    #fuldrops 🐣🐑

    犬耳尻尾わんこぴおちゃが可愛いの極みすぎてちまちま書いてたやつ

    「ふーちゃん」
    聞こえるか聞こえないかの小さな、躊躇いがちに呼ばう声。そっと膝に掛かる僅かな重みとぬくもりに本へと落としていた目線を上げる。人間よりも犬猫の数の方が多いこの家に、人語を喋る存在はふたりしかいない。まあ今となってはその比率はあやふやだけれども。
    それというのも理由がある。顎をちょこんと乗せてこちらを上目遣いで伺っているドッピオの頭にある、ピンと立った犬耳。もちろん髪色と同じ大きな尻尾も生えている。元々鋭い犬歯は変わりはないしさすがに肉球まではないものの、どこからどう見ても大きくて可愛い子犬のマゼンダレトリーバーだ。
    どうしてこうなったのかと聞かれれば説明は難しい。むしろ俺が聞きたい。一言で語るならば“バグ”という言葉がそれに当たるとは思う。というのも、仲間という仲間が元々人ならざるモノが多いせいか、イベントのように月一くらいで何かしらこういった軽いものから世界の危機に相当するものまで多種多様のハプニングが起こる。だから気にするだけ無駄でもあるし、宇宙人やらがいる時点でお察しだ。
    「どうした、ぴおちゃん。眠くなったか?」
    先ほどまでいじっていたはずの携帯ゲーム機の画面は暗く落とされてカーペットの上に所在なく転がっている。たとえトラブルが当たり前の日常だとしても、さすがに普通の人間も暮らすこの世界でコスプレだとも押し通せない大きな犬耳尻尾を付けたままそこら辺を歩くことは出来ない。故に原因が判明するか自然に消えるまで謹慎を言い渡されたドッピオに、家に来るように誘ったのは自分からだった。
    自分ならば大型犬も飼っていて万が一の時の扱いもお手のものだし、猫も二匹いて遊び相手にも事欠かない。D_Dがある街に比べれば田舎なのは申し訳ないが一軒家で部屋も余っているから狭い思いはさせない。それにこの状態のまま、ひとりでは心細いだろう。他のメンバーも集まるラウンジで膝を抱えてしょんぼりと項垂れる子犬を見ていられずそう声を掛ければ、力なく垂れていた尻尾がぶんぶんとすごい勢いで揺れ始めたのに声を出して笑ってしまった。
    「……ぅん。おれ、ねむくなっちゃった」
    見上げてくるとろりと蕩けたペリドット。いつもは元気でハキハキとした口調が今は眠気でふにゃふにゃになっていて、父性とも庇護欲ともつかない甘酸っぱい感情で胸がいっぱいになる。たまらず小さな鼻先を指で優しく擽れば「くぅん」と甘えた鳴き声、次いでくありと大きな口を開けて欠伸をするものだからつられて俺も欠伸をひとつ漏らす。
    壁に掛かった時計を見れば針が指しているのは十五時。休憩するにはちょうど良い時間だ。読みかけの本に栞を挟みサイドデスクに置いて、ドッゴにするようにぽんぽんと自分の胸のあたりを叩く。
    「おいで。少し昼寝でもしよう」
    「する……ふーちゃんと、ひるね……」
    もう眠気も限界なのだろう。ちいさな子どものように舟をこぐドッピオはのそのそと身体を緩慢に動かしてソファーに乗り上げたはいいものの、途中で力尽きてしまって。自分よりも体格の良い人間に全体重を預けられたらひっくり返るのも当然なわけで。我が家のソファーがデカくて良かったと今ほど思ったことはない。
    頬に触れるとんがり耳。のしかかられる重みはドッゴと同じぐらいか。ぬくぬくと伝わる自分より高い体温が心地好い。しかし、いかんせんドッピオという高品質な湯たんぽを得た自分は良いが、このまま寝てはさすがに彼が風邪をひいてしまうかもしれない。身体の半分以上が機械ではあるがあいにく発熱機能はない。夏はひんやりして良いのだけれど。
    「ぴおちゃん、ちょっと動くぞ」
    言いしな、よいせと我ながら年寄りくさい声とともに近くに置いていたお気に入りのブランケットを取って大きな背中に掛けてやる。毛布としては心許ないがないよりはマシだろう。ふわふわに包まれた肩を寝かしつけるように優しく叩いてやれば、睡魔に負けて言葉になりきれない鳴き声に思わず笑みがこぼれていく。
    「……ふーちゃん……」
    「うん?」
    「おれのこと、いつもたすけてくれて、ありがとう」
    ぎゅうと腰に回る両腕。たどたどしい言葉は食べたら消えてしまうわたあめのよう。一回りと少し年下の彼にとって、この”世界”はいまだ知らないことばかりだ。手に入れてしまった特異能力もあってそれに拍車をかけている。ただの人間であれば得なかった不幸もあるだろうし、口にしないだけで苦労もあったに違いない。そして今まさにどうしようもない理不尽な目にもあっている。
    けれど、と。呼吸をするたび小さく上下する背を撫でながら眦を緩める。毎日のようにやかましく呆れ返るほどに普通でない『世界』だとしても、ひとりではないのだと思えたのなら。少しは呼吸がしやすくなることを俺は身を以って知っているから。
    「いいや。俺がしたいからやっているのさ」
    これはただの偽善、むしろエゴにも近いだろう。同僚、仲間、友人、後輩。ごちゃまぜの関係性のなかでもドッピオ・ドロップサイトという男はどうしようもなく放っておけない。他の誰よりも俺の懐に入ってきて、ともすればノクティクスのメンバーよりも素を見せているからだろうか。
    ふと鼻腔をかすめる同じシャンプーの匂い。長い前髪から覗く、綺麗なシトリンには自分の顔だけが映っていて。互いの隙間に埋まる温度が少しだけ上がった気がした。
    「ぴおちゃ、?」
    「このままふーちゃん家のドッゴになったら、ずっと一緒にいられる?」
    小さく低く潜められた声に諧謔の気配はない。捕らえられた腕の中、逃げ場のないソファーの上。少しでも動けば鼻先が触れてしまいそうな距離に心臓がひとつ跳ねる。偶然だと片付けるには真っ直ぐに見つめる色があまりにも無垢で、誤解だと飲み込むにはどうにも感情が邪魔をしていた。
    きっと楽しいだろうな、と笑って冗談にしてしまえばここで終わる。ふたりでの配信でだって、こういうやりとりはふざけてしたこともある。そういうフリにすればいい、ただそれだけの話だ。だのに頭では理解しているのに”そうしたくない”。いつもであれば良く動くはずの舌は役立たずにも縮こまったまま。甘く掠れた声で名前を呼ばれれば背骨代わりのサイバネに言い逃れできない電気信号が走る。
    「ねえ。オレ、いいこにするから」
    おねがい、と。ギシリと鳴るスプリング音。覆いかぶさる影が落ちて唇に乾いた柔らかい感触が触れる。薄い皮膚に触れる熱。頬を擽る髪。組み伏せられる胸板の厚さ。オオカミに喰われる前のウサギというのは、こういう気持ちなのだろうか。
    そうだとしても嫌だとは思わないのはドッピオだからに違いなくて。自他ともに認めるマゾだとしても、あいにくこういうことをするのは人間だけだと決めている。
    「ステイ。待て、だ」
    力が抜けてしまいそうな腕をどうにか動かして、柔らかい頬を手で挟む。そうすればふわふわの耳がぺたりと垂れるのが見えて罪悪感に胸が潰されそうになるのをどうにか奮い立たせてきゅうきゅうと鳴く子犬と視線を合わせる。
    「ドッピオ。俺は犬と恋愛をする趣味はない」
    「う、ぇ、」
    「だから、”そういう”つもりなら、ちゃんと言ってくれ」
    「いいの?……いやじゃ、ない?」
    頬に触れる義手に重なる大きな手のひら。先ほどから心臓はいつもより速いリズムで動きっぱなしだ。なんせ俺たちはふたりして道を踏み外そうとしているわけで。それでも後悔はしないとわかっている。だから早くその声で聞かせてほしい。その熱で、教えてほしい。
    「―――嫌なら、とっくに殴り飛ばしてるよ」

    こんなに死ぬほど恥ずかしい告白は、生まれて初めてだ。
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