泥中の蓮ある日の昼下がり。隠れ家のアトリウムにきゃらきゃらと楽しげな子どもだちの声が響く。元気に走りまわる賑やかな足音と本で覚えたのだろう数え歌が混じるそこは、いまだ戦いが続く日々において平和そのものだった。子どもたちの輪の中心にいるのが、厳めしい顔をしたウォールード国王だということと、その下半身が人間でないものに変質していることを除いては。
バルナバス・ザルム。ウォールード国王にして召喚獣オーディンのドミナント。アルテマの手先にしてかつての仇敵。幻想の塔での死闘にて人の救済のために死に逝こうとしたこの男をあの日、半ば無理やり生かした。救済への渇望は本物で、語る慟哭は真実で。死を救いとする悲しさも放ってはおけなかった。
5904