「こら、秀。くすぐったい」
「にぅ」
肩の上に乗り、すりすりと体を擦りつけてくる秀にそう声をかけても、わかっているのかわかっていないのか、返事をしてまたぐりぐりと頭をおしつけてくる。
何度膝の上に戻しても、すぐに器用に服に爪を立ててよじ登ってくるバイタリティーには恐れ入る。いたちごっこだな、と思いながらそのちいさな体を両手で持ち上げる。長い尻尾がプラプラと重力に逆らって揺れていた。
「秀、何か言いたいことでもあるのか?」
鼻がつくくらい近くに顔を近づけ、そう問いかける。きっと通じないだろうと思った通り、秀が首をかしげる。猫相手に自分は何をしているんだ、と思った時だった。
「にゃ」
愛らしく一声鳴いた秀が、ちょん、とその鼻先を俺の鼻先へと当てた。
驚いて目をぱちぱちと瞬かせている間に、手の中からするりと逃げ出した秀は、満足そうな欠伸をして俺の膝の上で丸くなった。
「……この挨拶が、したかったのか?」
「に」
耳をぴくぴくと動かし短い返事をしたあとは、何度呼んでも返事を返してくれることはなく。1時間半後、秀が水を飲みにいくまで足をしびれさせることになった。