イルミネーション 部活終わりの帰り道。
俺と総悟の前にズイとスマホが突き出された。
「なぁ!今からここ行こうぜ」
近藤さんの提案はいつも突然だ。
画面には近くの並木道までのマップが表示されていて、今話題になっているデートスポットだということは、そういう情報に疎い俺でもわかった。
なんでも、木々が彩られ輝くのではなく足元が光るというちょっと珍しいイルミネーションらしい。
「……男3人で、ここにか」
「もうすぐクリスマスじゃん?お妙さんとのクリスマスデート、絶対に失敗したくないじゃん?」
「近藤さん、今日の昼休みその女にぶん殴られてやせんでした?」
*
なんやかんやと言いながら、
たどり着いた並木道には思っているより人がいた。
予想通りほとんどカップルだ。話に聞いていた通り、足元が様々な色に光っている。
楽しげな彼らに混ざりポン、と足を踏み出すと赤い光の輪が広がった。近藤さんの足元を見ると緑色の輪が広がっている。
パタパタと足踏みをしている総悟の足元は次々と輪が生まれて虹色に輝いていた。歩く毎に様々な色が広がり、混じってまた新たな色に輝く。
なるほど、面白い。それに想像していたよりずっときれいだ。
しばらく男三人で歩いていると、ご機嫌に足元しか見ていない男と衝突しそうになった。避けようとしたが間に合わず、軽く肩がぶつかってしまう。
「スイマセン」と頭を下げたにも関わらずジロッと一瞥されてしまった。なんなんだ。そっちがぶつかってきたんだろうが。
男はサッと目を逸らすと俺なんていなかったみたいに、横に連れた彼女らしき人物に笑顔を向け楽しそうに話しはじめていた。
むかつく。さっさと別れちまえ。
心のなかで悪態をつく。
ただの人工の光に浮かれやがって。ここにいる全員、クリスマス前に破局しろ。
こういうちょっとしたイラつきがあるとダメなのだ。連鎖してどんどん負の感情が湧いて出てくる。
正直、好きな女子の名前を教室の真ん中で叫び、クリスマスデートに誘おうと鼻息荒くしている近藤さんにさえイライラしてしまっている自分がいる。
どうしても比べてしまう。
堂々と人に話せない自分と。担任に不毛な気持ちを抱える自分と。
俺だってちょっとくらい浮かれてみたいのに。綺麗なものを一緒に見たかったし、同じものを見て感動したかった。
キラキラ無邪気に光るイルミネーションは、騙し騙しやってきた自分の意地悪な心さえ無理矢理照らしてくるようで少し息苦しかった。
この場にいる全員が足元の光に夢中になっている中、逃げるように空を見上げる。周りが輝いているからか遠くの空はより深く夜に染まっていて、なんだか落ち着いた。
冷たい冬の空気を吸って白いため息を1つついた時。真っ暗な空にスゥと光の筋が通った。
流れ星だ。
しかも今までに見たことないくらい長い尾を引いた大きな流れ星。
その星はいつか科学の本で見た彗星にそっくりで、たっぷり時間をかけ空をなぞって消えていった。
すごいものを見てしまった。思わず止まっていた息を慌てて吸い込んで二人に話しかける。
「ちょ、今の、見たか!!???」
興奮したまま話しはじめたから声が上ずる。
「どうしたトシ?」
「あの、アレ、空!!!」
「空?」
「見てねぇや。下ばっか向いてたもんで」
「「嘘だろう!!!!??」」
俺が放った言葉が、前方の違う場所からも聞こえた。
聞き覚えのありすぎる声にドキッとする。
目を向けると同じく男3人組。
「オイオイオイ!!!今の、アレ、空!!!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
興奮した様子の白いもじゃもじゃが隣の男を叩きながら話している。
「何でわざわざケツを叩くんだよ!俺が痔なの知ってんだろうが殺すぞテメェ!!!」
「アハハハハハハ!!」
特徴のある笑い声に気づいた総悟も、前方にいるその男達を見つける。
「あり。銀八だ」
おーいと手を振ると3人組は振り向いた。
銀八に服部先生、そして坂本先生。
俺達以上にむさ苦しい3人組がこの場いるとはサンタクロースもびっくりだろう。
「なんでこんな所に1番不似合いな先生達が来てるんで?」
さらりと毒を混ぜて総悟が訊ねる。
「その言葉、そっくりそのままバットで打ち返すわ」
ボリボリと頭を掻きながら銀八が答える。
「いやいや、近くでちょっと生徒同士の揉め事があってのォ」
「まぁ大した事なかったんだけどよ。そのまま帰んのもシャクだし、アラサー男3人でデートスポットでも冷やかしに行って雰囲気ブチ壊してやろうって考えたワケ」
シンプルに最低だ。
「そしたらこいつが急にテンション上げやがって」
「そうそう!!!さっきすげぇ流れ星流れたの、見たか!?」
ドッと心臓が動いた。
「流れ星。」口の中で呟く。
「図鑑に出てくる隕石みたいなやつでよ。なのにこいつら、全然見てねぇの!」
「見ねぇよ。醜女探すので忙しいんだよ俺ぁ」
「イルミネーションに来てわざわざ暗い空を見上げるとは、ほんに酔狂な男じゃのォ」
ドキドキと心臓がうるさい。
「夜にグラサンかけてる坂本せんせーにだけは言われたくないですマジで」
曇ったメガネをマフラーで拭きながら銀八は続ける。
「あーあ。本当、見たことないくらいすげぇ流れ星だったのによ。
てめーらも人工の光に踊らされて足元ばっか見てたんだろもったいねぇ……
…………おい。なーに変な顔してんだ土方。」