オセロゲーム⑤ その日は部活の稽古が終わったあと、土方は独り残って道場を片付けていた。格子状の窓からは、鈍いオレンジ色の光が差し、道場に長い影をつくっている。昼間は初夏の陽気だが、陽が傾くと涼しい風が吹いた。稽古の後の汗ばんだ身体には、これくらいの風の方が心地良い。
そろそろ帰るかと入り口の方へと振り返ると、すぐ目の前を人影が遮った。扉の向こうから西陽が差し込み、逆光になって顔は見えなかったが声ですぐに誰か分かった。
「遅くまでご苦労!土方殿ッ」
後ろに立っていてのは4年生の先輩、村田鉄男だった。4年生と言っても2年留年しているらしい。留年の理由は、家業の武具屋の手伝いに身を入れすぎたからだと聞いた。そのせいで勘当寸前だとも。剣道部でよく利用する武具屋だが、土方は村田とはあまり話をしたことはなかった。
2809