$パロ 🎋愛され/握i手会プロローグ
昔テレビで見たアイドルに憧れてこの世界に入り、諦めの悪さだけを取り柄になんとか地道に一歩ずつ駆け上がってきた。まだまだ大きなステージには立てないけど、徐々にライブチケットの空席も少なくなり、人がほとんどこないハイタッチ回なんてのも乗り越えて、少しずつCDの売れ行きも、ミュージックビデオの再生回数も伸びてきて。俺なんかを応援してくれるファンの数もどんどん増え、ついに握手会つきミニライブを開催!握手券付きのCDは週間ランキングに食い込むほど売れ、ライブチケットは発売開始から10分で見事に完売となり、俺はマネージャーのナオトと泣きながら抱き締め合い喜びを分かち合った。
自分のもてる実力のすべてを出し切ったライブ。小さなハコでも、いや、小さいからこそもっと、来てくれたファンのひとりひとりに寄り添えるライブにしよう。そう思って一曲一曲大事に歌い上げた。あの手拍子や拍手、歓声が耳から離れない。ペンライトの光が、ステージから見たファンのひとたちのうれしそうな顔が、まだ頭から離れない。心臓が騒がしいくらい鼓動を刻んで、枯れるくらい声を出して。ライブの最後にはボロボロ泣き出してしまったし、ライブが終わってもまだ涙がぶり返して、ふわふわのフェイスタオルに顔を埋めたまま、鼓動は興奮を隠しきれてない。
「ほら、武道くん。次は握手会ですよ。準備!」
「………わがってる」
「……まだ泣いてるんですか。ほんとに、君はすぐ泣きますね」
「なおと」
「なんですか」
「いづも、ありがとお…っ」
「…まだまだこれからでしょ。ほら、早く準備してください!」
「う゛ん…!!」
ナオトに急かされるまま握手会の会場へ向かい、スペースに入る。ライブの感想とか聞かせてもらえるのかな。直接ファンと話せるって貴重な時間だよな。握手の時間は握手券一枚につき5秒。人によってはたった5秒。でもこのたった5秒の大切さを、俺はよく知ってる。自分の手をぐ、ぱ、と閉じて開いて、会場のアナウンスがはじまったのを耳でしっかり聞きとり、よし、と気合いを入れ直した。
「それでは、これより握手会をはじめます」
※
握手券三枚 15秒
「タケミっち!」
「八戒!来てくれたんだな!」
「来るに決まってんじゃん!握手会だけだけど!仕事抜けてきたよ!っあー、ライブ見たかった~!」
「うん、次は絶対見に来てな!俺、八戒に楽しんでもらえるようがんばるからさ!」
「アッ好き…絶対…次は絶対ライブ行くから…!」
「待ってる!あ、今って忙しいの?あんま無理すんなよ?」
「う~、ありがと!なんか柚葉がさ、今が売り出し時だって仕事詰めてんの。だからライブ見れなかったの!」
「えーと、柚葉?って、マネージャーさん?だっけ?」
「……うん。マネージャー兼オネエチャン。今度紹介するね」
「うん………うん?紹介?」
「俺だけじゃなくて、俺の家族とも仲良くなって欲しいし!そしたら安心してうちに嫁げるでしょ?タケミっちの部屋もリフォーム済みだし、他のとこも準備はもうできてるからさ!あとは親族の顔合わせくらいじゃん?あ、もう時間か、タケミっち最後に「八戒だいすき♡仕事がんばれ!」って言って!」
「えっ、えっ?あ、は、八戒!大好き!仕事がんばれよ!」
「ありがと~!がんばる!」
「お時間です離れてください」
「はーい。バイバイタケミっち!」
「ば、バイバ~イ。…、……?……今俺なんかすごいこと言われた…?」
「気にしなくていいです。次行きましょ次」
「は、ハイ」
握手券五枚 25秒
「おいクソドブおまえまた振り付けミスってたろ笑って誤魔化したのすぐわかったわバーカついでに新曲音外しそうになってたしMCで二回も噛むとかプロ意識低すぎじゃねえの?ライブの出来もまあまあだな前回のミニライブよりはまあマシになってたし曲もヘドロにしちゃ聞けるもんにはなってんなまあまだまだ下の下の下だけどな!しかもまたライブ中にワンワンガキみてえに泣くしちゃんと冷やしてあっためねえともっとブスになっからなまあ今もブスだけど顔もいつもよりむくんでっしどうせまた寝不足なんだろ目の下の隈メイクで隠したつもりかもしれねえけどまるわかりなんだよライブ前は早寝のドブが寝不足ってことはこの前買ったっつってた枕やっぱ合ってないんじゃねーかおまえどうせそんなことだろうと思ったわいつものゴミ箱(差し入れボックス)に間違えて買った枕捨てといたしそれ使えばいいんじゃねーの?いいか別にお前にやるんじゃねえ喜捨だ喜捨おまえのためじゃねえんだからな忘れんな!別におまえの基礎情報を元にオーダーメイドしたわけじゃねえし!いいな!自惚れんなよ!はる、はるちよくんすきっていえ…!」
「いつも来てくれてありがとう春千夜くん、大好きだよ!次のライブもまた来てね!」
「っう、あ、ば、バーカもう来ねえよ!!!!!!死ね!!!!!!」
「バイバーイ!」
「いつもあれ言いますよね」
「でも絶対次も来てくれるんだよね。なんかかわいく見えてきたなァ…」
「それは100%幻覚なんでね」
握手券五枚 25秒
「っこんにち、………わァ…」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あの」
「…ンだよ」
「は、はじめまして、ですよね?今日は来ていただいてあり「?」ォア…」
「はじめましてじゃねえ」
「と申しますと…?」
「…人の人生観変えといてよくも「はじめまして」なんて言えたな」
「へ?」
「本当に覚えてねえんだな。あいつらのことも、八戒や柚葉のこと、……あのクリスマスのことも」
「えっと、?」
「…………チッ」
「エッ?!?!!?!?!!?!」
ちゅ
「…必ず手に入れる。覚悟だけしとけ。いいな?」
「はわ…」
「握手のみ!握手のみです!それ以外の接触禁止!!頬へのキスなんてもってのほか!出禁ですよふざけんな!!」
「はわわ…」
「帰ってこい花垣武道!乙女になるな!!クソッ…柴大寿…恐ろしい男…!」
握手券二枚 10秒
「あっ、あっ、はな、はなが、あっ、あっ、そ、っあ、ああ、あっ、あ、」
「あ、え、い、いつもありがとうございま、あっ、」
「あ、ああ、あああ…っ」
「え、え、大丈夫ですか?え?」
「あ、お、おうえ、おう、して、いつも、あっ、あっ、おっ、ア、」
「10秒です離れてください」
「あああああ…っ」
「ま、また来てくださいね…!」
「コミュ障オタクを絵に描いたような男ですね…」
「応援してくれてるのは痛いほど伝わった…」
「彼、若手実業家の九井一ってこの前テレビでも取り上げられてましたよ」
「すごい人なんだな」
「一体武道くんの何が彼をあそこまで変えてしまったのか」
「いつもの感じだったらまた来てくれるかな?」
「まあ来るでしょうね。あと三回くらい」
「たのしみ~」
「はあ…」
握手券四枚 20秒
「よっタケミっち」
「三ツ谷くん!お久しぶりっす!」
「久しぶり。仕事が忙しくてなかなか会いに来れなかったワ」
「お仕事お疲れさまです!無理しないでくださいね?」
「サンキュ。今日会えて充電できた。やっぱタケミっちに会うと元気でるな」
「へへ…そう言ってもらえると嬉しいっす!俺の元気いーっぱいおすそ分けします!俺も三ツ谷くんに会えて、元気もらいましたから!」
「、そ、そっか。ありがとな。そうだ、今日のライブもよかったぜ。…衣装も、悔しいけどタケミっちに合ってた。ステージのおまえ、スゲー輝いて見えたよ」
「あっ、ありがとうございます…!三ツ谷くんに言われたらなんか照れるっすね」
「でも俺ならもっとタケミっちを「魅せる」デザインを作れる。おまえの魅力をもっと引き出せる自信がある。今回の衣装担当よりおまえのことわかってるし、俺の手でもっと輝くおまえを傍で見ていたい。と言うわけで何度も言うけど俺を衣装担当として雇ってみる気はないか?今なら衣のみならず食住全部つきハッピーセットでお買い得なんだけど」
「え?え?」
「新進気鋭の若手注目デザイナーが何言ってんですか、ハイ20秒です」
「あー、じゃあこれだけ聞かせてくれ、タケミっち」
「アッハイ」
「タケミっちは白無垢派?それともウエディングドレス?」
「あんたそんなこと聞いてどうするんですか20秒経ったっつってんだ早く離れろ!」
「えーと、よくわかんねえすけど、ウエディングドレスすかね…?なんか夢ありますよね!」
「馬鹿正直に答えるな!」
「わかった。じゃあ今日のとこは帰るわ。…ウエディングドレス、楽しみにしててくれ」
「あー、あー、あー!」
「何だよナオト急に…」
「自分の首を自分で締めるな…!」
握手券五枚 25秒
「花垣…!」
「イヌピーくん!来てくれたんすね!」
「ああ、今日も最高だった」
「へへへ…そう言ってもらえると嬉しいなあ…」
「花垣はウエディングドレス派なのか?」
「え?あ、さっきの会話聞こえてました?そうなんですよね、いや、まだまだずーっと先の話だとは思ってるんですよ?今はアイドル活動が第一ですし!…でもその、やっぱ憧れはあるっていうか?」
「ああ…大丈夫だ、そんなに先の話じゃない」
「ェア?」
「それに、俺も花垣にはウエディングドレスが似合うと思う。真っ白なドレス姿の花垣…きっと綺麗だ。世界一の花嫁だな」
「あっいや、俺が着るんじゃなくて!」
「? 俺が着るより、花垣が着る方が似合う」
「おっと?噛み合ってない?」
「花垣は何も心配しなくていい。その身一つで嫁に来てくれ。あとのことは俺が何とかする。花垣は俺と幸せになる覚悟だけしていてくれればいいから」
「いやあの、イヌピーくん、あのね?俺はアイドルだからその、」
「ああ。アイドルの花垣も最高にかわいい。結婚しても続けたらいいと思う。ただ、やきもちは焼く。みんなの花垣でいてもいいけど、俺だけの花垣も欲しい。…こんな俺はわがままで嫌か…?」
「わがままっていうかなんていうか…?」
「! 受け入れてくれるんだな…!ありがとう花垣…」
「受け入れてないですハイ25秒経ちました、どうぞお帰りください」
「準備ができたらすぐ迎えに来る…それまで待っててくれ」
「え、あ、え、マ、また来てねイヌピーくん…!」
「! ああ!必ず迎えに来る!」
「君はなんでそう…余計なことを…」
「え?今の余計だった?」
「はああ……」
握手券五枚 25秒
「よっ相棒!」
「千冬!また来てくれたんだな!いつもありがと!」
「トーゼン!なんてったっておまえの相棒だからな」
「そう言ってくれて嬉しいよ!新曲どうだった??」
「よかったぜ!俺個人の感想だけど、前のシングルより好きかな。ハイテンポでノりやすい!一緒に叫べンのいいよな!」
「よかった!俺も今回の新曲好きなんだ!C&Rもしやすいし、みんなで盛り上がれるだろ?!千冬も好きになってくれて嬉しい!」
「おう!ライブの定番曲になりそうだな!」
「うん!あー、千冬と話せるの楽しいなあ~、いつも来てくれてほんとにありがとな!」
「こっちこそ、そう言ってもらえると応援しがいがある。これからも見てるよ」
「ありがとう!!」
「そうだ、なんかさっきウエディングドレスがどうのって聞こえたんだけど…」
「千冬にまで聞こえた?なんか連続でウエディングドレスの話が出てさ。でも俺には早いっていうか、まあ今はまだ全然考えらんないっていうか!」
「なんだ、そっか!そうだよな!だって相棒は俺と心中するんだもんな!」
「はぇ?」
「?? 前からそう約束してたろ?おまえは俺と心中するんだ。だからウエディングドレスなんか着ないし、結婚もしないし、俺の傍から離れたりしない。そうだよな?」
「初めて聞くそんな情報…」
「三ツ谷くんのウエディングドレスがどんだけ似合おうが誰が迎えに来ようが絶対そいつと一緒には行かないもんな?おまえが選ぶのは俺だろ?」
「さっきここにいた??話の内容びっくりするくらい把握してるね??」
「答えろよ。そうだろ?な??」
「まっマネージャー!!」
「動くな!相ハラ(相棒ハラスメント)警察だ!ハンザップ!ハンザップ!」
「うるせえ!警察如きが俺達の絆を阻めると思うな!そうだよな相棒!」
「警察なめるんじゃねー!」
「落ち着いてマジで二人とも…エッさっきまですげー和やかだったじゃん急に??急にこんな殺伐とするもんなの??」
「テメエ前々から気に食わなかったんだよ…タケミっちの相棒は俺だ。こいつの隣にいるべきは俺なんだよ、部外者は引っ込んでろ!」
「いやこれでもマネージャーなんではちゃめちゃに関係者なんですよね(笑)ってことで警備員!こちらの部外者(笑)つまみ出してください!」
「こら!ファンのこと部外者とか言うな!…ごめんな千冬、ひどいこと言って…その…また来てくれるよな…?」
「?!?!!?!???来るに決まってんだろ!!相棒なんだから!!」
「ありがとう!!俺、待ってるから…!!」
「おう!!ぜってー来るから!!またな…!!」
「おう!!」
「………あいつ嫌いなんですよ」
「完全にナオトの私情じゃん…」
「ほらもう気を取り直して次ぎ行きましょ」
握手券一枚 5秒
「はな、はながき、あっ、あ、」
「あ、あの、さっき言いそびれたんすけど、いつもファンレターくれてますよね…!?」
「えっあっ、あっ、」こくこく
「やっぱり!あの、ココくんって呼んでって書いてたから…呼んでもいいですか?」
「あ!あ?!あっ、ああ、ア──────ッ!!」
「5秒です離れてください」
「ま、また来てくださいねココくん…!!」
「あ、あっ……!」
「…あと一回は来ますよ多分」
「一周回って癒されるな…」
「それはそう」
握手券五枚 25秒
「武道」
「あ、タクヤさ「タクヤでいいから」おおおうタクヤ…!」
「俺ら幼なじみだしさ。さん、なんて他人行儀だろ?」
「幼なじみではないんだけども、来てくれてありがとう!」
「来るに決まってるだろ?相棒より部下より親密な幼なじみなんだから」
「幼なじみではないんだけども?」
「うん」
「…………」
「…………」
「……ええと…」
「…………」ニコッ
「ひえ」
「俺、武道のことならだいたい何でもわかるんだよな」
「そ、そう、なんだァ…」
「おう。だから、わかるよ」
「えっ」
「わかるからな」
「そ…そ…ソッカア…」
「…おまえがまた俺のことを幼なじみだって言ってくれるの、待ってる」
「……幼なじみの話はおいといてさ、いつも来てくれて嬉しいよ。応援ありがとうな!」
「おう、これからもずっと応援してる!今日もキメるとこキメらんなくてダサかったけど、最高にかっこよかったよ!」
「どっちだよ!」
「アハハ」
「お時間です離れてください」
「うす。じゃあまた」
「おう!また来いよ!」
「………武道!」
「え?」
「おまえは今も昔も、俺のヒーローだよ!」
「…ハハッ、よくわかんないけど、サンキュー!」
「おう!」
「………武道くん、大丈夫ですか?」
「なんかわかんねえけど泣きそう。やばい。でも泣かねえ…っ」
「……はい。泣かないでください。君はアイドルなんだから。人を笑顔にするのが仕事ですよ」
「うん……っ」
握手券四枚 20秒
「よォ」
「場地くん!来てくれたんすね!」
「まあな。お前転けかけてたろ、相変わらずどん臭ェなあ」
「う…は、恥ずかしいっす…っ」
「ま、お前らしくていいライブだったし、最高に楽しかったぜ!お疲れさん」
「場地くんに誉められるのスゲー嬉しい…!えへ、んへへ…!」
「ング、お、おう…!」
「?場地くん、ほっぺ真っ赤っすよ?あ、ライブ結構熱気あったから、のぼせちゃいましたか!?だ、大丈夫っすか…!?」
「大、大丈夫に決まってんだろ!もう一杯!」
「??……………アッ、モーマンタイ…?」
「それだよ!この前千冬が言ってた!」
「スゲー場地くん、中国語話せるんすね!かっけえ!!」
「ア?ま、まあな……中国語だったんか……………そんでよ、あ、あー、その…」
「あハイ」
「武道、」
「ウス」
「……………今日はCの18な」
「ありがとうございます…ありがとうございます…ありがどうございまず…っ」
「泣くなよ…いつも悪ィな…」
「いえ…こちらこそほんとに…感謝してます…いつも助かります…!」
「お時間です、離れてください」
「おう。んじゃ、また来るワ。悪ィけどよろしくな」
「了解っす!ほんと、来てくれてありがとうございました…!会えてよかったです!」
「ン。……がんばれよ」
「はひゅ」
「武道くんは今日いったい何度ほど乙女になるんですかね」
「いやだって最後のニカッからの八重歯チラリはやばいじゃん…?見た?ヤバくない?俺のハート、ピックアップされちゃったァ…」
「ここって掲載誌なか○しの世界になったんですか?」
「なるわけないんだよな」
「どう足掻いても地獄ですからね。じゃあ次いきますか」
「うん」
握手券五枚 25秒
「今日も目、合ったよな。ずっと俺のこと見てたもんな?むしろ俺しか見てなかったよな。そうだろ?な?」
「そ、そうっすね一虎くん!目、合いましたね!今日も来てくれてありがとう…!」
「お前の彼氏なんだから毎回来んのは当たり前じゃん」
「彼氏ではない」
「??????」
「スンマセンなんもないス」
「俺らこんなに想い合ってるから実質彼氏じゃん?だろ?だってあんな広い会場でも俺を見つけて俺のこと見つめてたんだし、俺に向かってウインクしたのもちゃんとわかってるからな、俺の後ろの奴勘違いしてさァ、自分にファンサもらったとか抜かしてんの。ハ?俺への愛情表現に決まってんだろ殺すぞってなった」
「殺してない?殺してないね?大丈夫ね??」
「当たり前じゃん、そんなことしたら武道に会えなくなるし、武道悲しむだろ?そんなん耐えらんねえもん」
「よ、よかったっす…!お、俺一虎くんに会えなくなるのほんとに嫌だから、お願いだから他のファンとかスタッフともめないでね…!」
「うん、じゃあ席は?」
「えっ」
「お前そんなに俺のこと想ってんのにほんとは俺がどこにいたか気付いてなかったとかないよな?俺今日どこの席いた?わかるだろ?目ェ合ったし舞台と客席でも心は繋がってたんだから、そうだよな?わかるんだよな?嘘とかついてねえな??」
「し、C18でしたね!前回より舞台の近くだったんで、ちゃんとわかりましたよ!わかりましたからね!」
「…………………………よかった!やっぱ俺たち相思相愛なんじゃん!安心した~、嘘だったら今ここでお前のことどうにかするとこだった!」
「……一虎くん前みたいに刃物とかメリケンサックとか手錠とか持ち込んでないですよね?」
「当たり前じゃん!武道傷付けたくないし!今日はスタンガンだけ♡」
「けけけけけけけけ警備員さんこの人です」
「ア?」
「いややっぱなんもないす」
「持ち物検査引っかかんないやつ取り寄せるのに時間かかってさあ~効果は普通のと同じくらいだから大丈夫なんだけど」
「なにが??」
「すいません、25秒です、離れてください」
「チッ…もう時間かよ。はあ、早くプライベートでも気兼ねなく会えるようになりたい…あともうちょっと待ってて、な?」
「もうちょっとで一体俺に何が起きるんすか…?」
「内緒!楽しみにしてろよ!じゃあ行くわ、次も絶対くるから!あと差し入れボックスにお前の好きなポテチとコーラ差し入れしといた!また感想聞かせろよ!」
「あ、あ、ハイ!ありがとうございます!バイバイ!」
「……………あの、武道くん」
「ハイ」
「彼からの差し入れのコーラからまた薬品反応出たんで…とりあえず処分しといていいですか…?」
「また……?」
「薬物反応出て「また?」って反応控えめに言ってヤバいんですよね」
握手券三枚 15秒
「結婚してください!!」
「えっ」
「結婚してください!!!!」
「き、聞こえてます、あの、すま、スマイリーくんすよね?どうしたんすか?い、いつもはもっとこう、悪口…とは言わないけど結構辛口なメッセージをくれてたのに…?」
「このままだと埒が開かねーなと!!!!」
「アッその、鼓膜にくるんで…ちょっと静かにしてくれると…」
「いつもより時間がないので単刀直入に言います!!戦てねェ喧嘩に勝ちにきました!!幸せにします!!俺と!!結婚!!!!してください!!!!!!」
「もう声量がサイレンなんすよね」
「火事ですか、救急ですか!」
「関係ねぇやつは引っ込んでろ!!一世一代のプロポーズ中だゴラァ!!」
「握手会で求婚するな!15秒です!離れてくださ力強ッ!ちょ、警備員!」
「結婚してくださ──────い!!!!!!」
「あ、そ、え、来てくれてありがと───!!またねー!!」
「嵐のような男ですね…つっかれた…」
「遊びのドンがオロロですね?え?なんて?」
「鼓膜が馬鹿ンなってら…」
握手券三枚 15秒
「タケミっち兄ちゃんがゴメンね、怪我しなかった?手、痛くない?」
「大丈夫っすよ!今日も来てくれてありがとう、アングリーくん!」
「うん。今日のライブもすごくよかったよ。お疲れ様。この後はゆっくり休んでね」
「うう…優しい…ほんとうにありがとうございます…!」
「今回俺たち二人あわせて六枚しか握手券ゲットできなくてさ。いつもより時間短いから、とにかく熱意は伝えないと、とは言ってたんだけど…まさかああなるとは思わなかった…。ほんとにごめんね」
「い、いえ…熱意は感じたっすから…!」
「ならよかった。あ、でも兄ちゃんのプロポーズ、無理に頷かなくていいんだよ。兄ちゃんが嫌なら俺のとこに嫁いでくれたらいいから。むしろ大歓迎だしさ。無理せず、タケミっちが好きな方を選んだらいいからね?俺、待ってる」
「えっ?あ、…?うん、ありがとう…?」
「15秒です、離れてください」
「また来るね、タケミっち。がんばりすぎないでね!」
「あ、ハーイ!バイバーイ!…………、……………いま俺の自由意思が問われたようで実質選択肢何個あった?」
「2個だけです。兄か弟か」
「…………?」
「すごい誘導作戦ですね…なんて優秀なネゴシエーターなんだ…僕も見習わないと…」
「おっと?」
握手券二枚 10秒
「あっ、ココくん!ココくんだ!また来てくれたんすね!」
「はな、あっ、うっ、あっ、」
「またお話しできないかなって思ってたんで嬉しいっす!」
「そ、あ、あっ、ああ、」
「いつも来てくれてありがとう!ココくん!」
「ッッッ」
「エッ」
「うっ、う、ヴヴヴァ…ッ」
「な、泣かせてしまった…!」
「うっあっうっ、ァ、うっ」
「なっ、泣かないでココくん!」
「…10秒経ったんですけど…延長します…?」
「そんなシステムあったの…?」
「彼だけに適応されます」
「これが無害認定の男の力…」
「とりあえず泣きやむまでは傍にいてあげてください」
「そうする…ココくん、大丈夫だからね、ゆっくり深呼吸してね」
「ア─────ッ、アア────ッ」
「余計に泣いちゃった…」
「いっそ引きはがした方が彼の為なのか…?」
握手券二六九三枚 3時間44分25秒
「やっほ、タケミっち♡」
「あ、あ、えっと、」
「こんにちはマネージャーです失礼します。…あの、今回の握手会から上限を設けてるんですけど。一回25秒で。」
「俺が最後なんだから別にいいじゃん。わざわざ他の奴終わんの待ってやったんだけど」
「いやそうじゃなくて、回数はどう小分けにしてもらってもいいんですけど、ひとり最大でも握手券五枚、25秒までって決まってるんですよ、ってことをCDの帯にも歌詞カードにも握手券にもホームページにも公式SNSにも記載してるんですよね」
「見てなかったわ」
「逆にどうやったら見ないでここに来れるんです??会場にまで貼ってるんですよその注意書き」
「つーか、俺はタケミっちと話しに来てんだよ。おまえ邪魔」
「誰のための注意書きだと思ってんだ!あなたがハイタッチ回のチケット買収しつくして独占したからこういう対策が練られてんだよ!あれだけの会場借りて来たファン一人だけ!しかも武道くんは合いの手ばっかりであなたは武道くんの両手掴んだまま八時間ずっっ…………っっっと喋りっぱなし!は?サイコパスの見る悪夢か??」
「あの時はいっぱい話せて嬉しかったよ♡今日は3時間44分25秒分しかチケット手に入んなくてさ。ごめんね?」
「こいつもう出禁にしましょう武道君」
「な、ナオト、落ち着いて」
「……は?今俺の時間でしょ?何他の男の名前呼んでんの?」
「マッマネージャー!一旦引いて!ネ!!」
「チッ…隣で控えてますんで…」
※
「やーっと二人で話せるね♡今日のライブもよかったよ♡♡」
「あ、ありがとうございます…!」
「やっぱあの新曲いいね。振り付けもタケミっちの良さが出てる。今回の振りあんま難しくないから踊りながら会場見渡す余裕あるかもって昨日りべったーで言ってたじゃん?だから俺もめっちゃタケミっち見てた。歌ってるとき目線79回くれたでしょ?全部わかったよ。やっぱり運命なんだね。ほら、新曲のあの歌詞のとこ、「運命が交わる」ってとこ俺見て歌ってくれたじゃん。タケミっちも同じように思ってくれてたんだね。嬉しい」
「え、あ、アハ、」
「俺が贈った衣装着てくんなかったのはまあいいや。確かに今回の衣装の方が曲には合ってたし。贈ったのは別の機会で着てね。そうだ、新曲のカップリング曲お披露目したじゃん、珍しくラブソングだったやつ、あの歌詞さ、あれスゲーいいね。歌詞カードすり切れて破れるくらい読んだよ。誰のこと思って書いたの?俺以外だったらそいつ殺すけど。あと振り付けちょっと間違ったとき、あっ!って顔してすぐはにかんで誤魔化してたじゃん?あれで勃った」
「なんて?」
「勃った」
「なぜ…?」
「つい…」
「つい…?」
「それとあと、」
「えっと、佐野さ、」
「あ?マイキーくんって呼べっつったろ」
「ヒッ」
「オイ早く呼べよ」
「ま、マイキーくん…っ」
「うん、なあに、タケミっち♡」
「(怖…っ)…えと、あの、あのねマイキーくん、」
「どうしたの?」
「き、来てくれてすごく嬉しいんだけど、その、ここ、握手会の会場なんすよね…?」
「知ってるよ?」
「だから、ええと、早く握手を…」
「は?他の奴の手垢が付いた手と握手すんのヤなんだけど?てかさ、俺だけのタケミっちでいてっつったじゃん。なんで他の奴と握手すんの?俺以外いらなくね?浮気してんじゃねえよ、舐めてんの?しかも今回ぜんっぜんCDも握手券も買い占めらんなくてさあ。俺のタケミっちなのに他の奴らも魅力に気付き出してんの。ちょっと前まで俺だけだったのに。許せねえよな?俺が一番に見いだしたんだけど?」
「え…あ…う…」
「握手しねえと終わらないなら一生終わんないね。一生俺といてくれるんだよね??最高じゃんぜってえ握手しねえワ」
「お、おねがいします…握手してください…っ」
「ほら、楽しくおしゃべりしよ、タケミっち♡」
※
「───でさあ、やっぱ俺が一番タケミっちのことはわかってンだよ。だからあのプロデューサー?意味分かんねえしいなくなった方がいいじゃん。俺のタケミっちはそのままがいいんだって。変な小細工なんかしなくていーの。それを全然わかってねえよなあいつ。タケミっちだっていなくなった方がいいと思うだろ?そうだよな?うん、タケミっちならそう言うと思った。やっぱり俺たち一番相性いいし、一番わかりあえるんだよな、だから一生一緒にいような?」
「ヒィ…ひゅ…ひゅ…」
「あれ?嬉しすぎて涙出てきちゃった?かわいいなあもう。食べちゃいたい」
「───3時間44分25秒経ちました!やっと!!離れてください!お時間です!」
「な…なお…グズっ」
「あああああ泣いちゃってる!かわいそう!武道くんかわいそう!」
「まだ離れらんねえよ。握手してもらってねえもん。な?タケミっち?」
「握手してなかろうが時間が来たら終わりなんだよ!」
「「みんなとちゃんと握手して、お話して、みんなが楽しいって気持ちになっておうちに帰れるようににがんばります!」」
「…………」
「…………」
「握手会前にタケミっちがりべったーに投稿してたけど、忘れたわけじゃねえよな?」
「………………ヴッ」
「タケミっちは嘘つきじゃねえもんな??なァ??」
「ウッ…ヴッ…ごめ…なさ…グスッ」
「ひ…人の揚げ足を……、……いやSNSチェックしてるんじゃないですか!!じゃあ知ってただろ!!25秒だって!!」
「ちょっと何言ってるかわかんないな」
「こいつ悪びれもせず…!もういいから握手して帰ってください!見ろこの武道くんを!こんな生まれたての小さな命みたいに泣く花垣武道を!!これを見て良心が痛まないのか!!」
「ねが…おねが…しま…おねが…も…ゆる…ゆるひ…ひん…」
「タケミっちかわいい…ちんこ痛くなってきた…」
「最低ですよあんたは」
「うう…う…おねがい…ズビッ…あくしゅ…あぐ…ぐしゅ…」
「チッ…しゃーねーな。ほら」
「…………」
「…………」
「……マイキーくん」
「なあにタケミっち」
「つかぬことを聞くんすけど…」
「俺のこと知りたがるなんてかわいいね♡何でも聞いてよ」
「いや…今握手もせず指で計った俺の左手薬指のサイズ感を…一体どうするつもりなのかなって…」
「…………………ケンチン!!近くのジュエリーショップ調べて!!今すぐ!!!!」
「 ワッ 」
「誰か!!!!つまみ出せ!!!!」
「待っててタケミっち、次はちゃんと指輪と花束でプロポーズするから。他の男のもんになるなんて許さねえ。だったら先に俺のもんにしちまえばいいよな?」
「ウッワッ」
「出禁!!出禁案件!!ブラックリストに入れろ!!指名手配しろ!!」
「んじゃまたな!タケミっち!」
ちゅ
「んう!?」
「ほっぺはさっき大寿のやつに取られたから俺はこっち。あ、許してねえからな?ほっぺただろうが何だろうが他の男にキスさせてんじゃねえよ次させたら唇溶けるまでキスすっかンな」
「ヒッッ」
「まあ今日はこのくらいにしとくわ。指輪買わなきゃだし。バイバーイ」
「…………………う…、ウオオオ…もうやだ…やだよお……っ」
「こんな全身で泣く武道君はじめて見る…」
「おっ、おれ次はたぶん逃げらんねえ…っ」
「気を確かに持ってください武道くん…まだ逃げ道はあります…法は我々の味方です…!」
「ほんとに…??」
「……………多分!」
「ふざけんなバーカ!」
※
エピローグ
楽屋に戻り、ソファの上で打ち上げられたワカメのように倒れ込む武道くんを見ながら、はあ、とため息を吐く。この男と来たら本当に面倒な男しかひっかけない。普通のファンだっている。ただ面倒でやっかいな輩の個性があんまりに強くて印象に残ってしまうだけで。そしてその面倒なファンたちが有権者ばかりだったために、近々この花垣武道は武道館でコンサートをすることになるのだが、当の本人はそんなこと全く持って知らないのである。何にも知らない彼がいっそ羨ましくて、ひよこみたいなやわい頭にフェイスタオルをかけてやりながら「風邪引きますよ」と苦言なのか母親の小言なのかわからないセリフを吐き出した。
「………ナオト、」
「なんですか」
「俺…これからもやってけるかな…」
怒涛の握手会を考えれば当たり前の疑問である。なんと返してやるべきかわからず、腕を組んでしばらく考える。あんまりに沈黙が長いので、不安になったらしい武道くんが涙目でのろのろ顔を上げこちらを見上げるので、う、と眉間にしわを寄せた。「やっていくしかないでしょう」
「君はアイドルなんだから」
「…………そうだな。そうだよな」
武道くんが何度か言い聞かせるように繰り返して、それから、よし、と体を起こした。やる気が戻ったようでなにより。ふっと息を吐きながら微笑んでその姿を見つめ、「ああでも、」これだけは、と念を押す。
「何度も言いますが、くれぐれも、前のことを覚えていることは悟られないように。バレたら終わりますよ」
「わかってる。びっくりするほど危機管理能力が鍛えられてる気がするし………いやまじでみんなやばくない?バレたら俺どうなる?死?死??」
「具体的に何エンドかって話ですか?メリバも有り得そうですけだ有力株は監禁エンドか調教エンドですね。もしくはヤンデレ囲い込みエンド」
「エッ何怖っ」
「佐野なんかいい例ですよ。あの男の所業、病んでいると言わずしてなんとするか」
「なるほどわかりやすい…」
「まあつまり要約して、バレたら終わりなんです。いいですね?」
「はい」
珍しいくらいにお行儀のいいお返事を聞いてから、打ち上げどこがいいですかと優しく聞いてあげる。武道くんは途端にパァと表情を明るくして、呑気に「焼き肉がいい!」と安い食べ放題の店を携帯で探しはじめるのである。
そんな楽しそうな姿を見たら、何人かには多分バレてますけどね、とは言えなかった。言えなかったのだ。
おまけ
握手券五枚 25秒
「タケミっち、久しぶりだな」
「ドラケンくん!お久しぶりっす!来てくれてスゲー嬉しい!」
「俺も会えて嬉しーよ。ライブも見たぜ。どんどん手が届かねえ存在になってくんだなってちょっと寂しいけど、ダチが活躍してんのはやっぱ嬉しいワ」
「ドラケンくん…!ありがとうございます!今の俺があるのは、ドラケンくんたちファンのみんなのおかげっす!これからも一緒に夢を見ましょーね!俺、がんばるから!」
「オウ、楽しみにしてる。でもがんばりすぎんなよ。おまえ、前から変にがんばりすぎなとこあるし。諦め悪いっつーか何つーか…」
「まあ、諦めの悪さだけが取り柄なんで!」
「ハハ、確かに。タケミっちの諦めの悪さは筋金入りだしな。おまえの武勇伝なんか言い出したらキリねぇか」
「え、え、俺ってそんな武勇伝持ってます…?え~、て、照れるなあ…っ」
「あるある。みんな知ってンぜ。昔コンサート前に不審者と遭遇したときのとか。あんとき怪我したって言ってたの、もう治ったか?」
「えへへ、ちゃんと治ってます!元々かすり傷だったし。心配してくれてありがとう!…でもなんか、そういうの知られてるのって、恥ずかしいっすね…」
「あとはあれだな、俺とマイキーの喧嘩止めてくれた時とかな?どうせ今日マイキーも来んだろ?ここでもっかい喧嘩してみっかなァ…」
「えっや、やめてくださいよ!!こんな狭いブースであんな喧嘩されたらたまんないっす!仲良く!仲良く!!」
「タケミっちがまた止めてくれりゃいいだろ?」
「止めるったって…アイドルが頭にウン…ごほん、流石に問題になりますって…!」
「タケミっちならいけるんじゃね」
「もう!ドラケンくん!だめっすよ!」
「ハハ!嘘だって、アイドルにそんなことさせねえよ」
「エッアッよかった~~~!」
「おまえなんでも信じるから、ついからかっちまった」
「ううう…ひどいっすよ…!でも安心しました…あーよかった…」
「ああ、俺もよかった」
「え?」
「ちゃんと覚えててくれたんだな。喧嘩のことも、仲直りの方法も。確認できてよかったワ」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………アハハハハハッッッッ!!!!!!」
「デッッケェ声…」
「あの、えっと、何言ってるかよくわかんなくて、その…ゆめ…夢…?そう!夢で見たんすよ!そんな景色を!!えっドラケンくんも同じ夢みたんすか!?すごいっすね?!ね!?!?運命感じちゃうなァ!!!!」
「ンー、ま、運命ってのは悪かねえし、そういうことにとくか。今は、な」
「ヒッ」
「誰にも言わねえよ。…ふたりだけの秘密だな?」
「なおろたしゅけれ」
「はいナオトですよ、25秒です、離れてください、記憶も消してください」
「それは無理。今日はここまでか。じゃーまた来るワ」
「もうこないれ」
「?」
「また来てくださいね!待ってます!」
「ン、またな」
「…………武道くん、」
「ご、誤魔化した、誤魔化したから…ネッ」
「……………パスポート持ってます?」
「祖国を捨てる選択肢が浮上してる感じ?」
「むしろそれしかない感じですね」
「涙出ちゃった」