アイクがモブ的要因で死ぬほどサブドロップに落ちて戻ってこれなくて、てか外で落ちるようなことがあって、でも猫みたいに警戒心が強いからうちに帰ってきてからドロップするわけ。他のみんなはすぐ駆けつけてどうしたんだやら大丈夫か、ってケアしようとするんだけど拒否。てかお願い放って置いて一人にしてって弱ってる時ほど来ないでこないでって警戒心が強まる。近寄らないでほしいけど安心はできる場所として認識されてる。でもなかなか浮上しないし、部屋から泣いてる嗚咽とか、嘔吐の音とか。せめて水のまないと脱水になるからドアの前に置いてても出てこない。絶対にテリトリーから出てこないし、だれも入れない。
だから、それが夜帰ってきて、朝になっても続いてたらミスタが静かにノックして泣きそうな顔でこういうんだ。
「ねぇ、アイク。入ってもいい?おれ、サブドロップの止め方知ってるんだ。本当に最悪な方法だけど、自分だけで上がれる」
「、入って」
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「ほんとに、最悪な方法。ケアを受けるのが一番だと思う」
でも、それを選べない時があるのわかるから。
いつかケアを選べるようになるまでの最低な時間稼ぎなんだ。
アイク、鏡を見て、自分の顔、目を合わせて。
「配信でやってただろ、今のはナシ、忘れるビームって。あれに似てる」
『昨日は何もなかった』『昨日はいつもと変わらない普通の日だった』
薄れるまで、何回でも言うんだ。それで、原因が薄れて、ちょっと上がったらダメ押し。
「あれ、俺なんで泣いてんのおかしーの」
そんで何でもないみたいに笑って、終わり。
出来れば、こんな方法使わずに、ヴォックスでも誰でもいい。頼ってほしいけど、コレを教えられるのは俺だけだと思うから。
アイクが震えながら顔を上げて、鏡を見る。
酷い顔色だった。
「きのう、は、」
フラッシュバックのように映像がループしている。脳みそに焼きつけられたみたいに。それを無視して声を絞り出す。
「なにも、なかった」
映像はアイクの声を無視してカラカラ回り続ける。
でも、息が詰まる様な感覚が薄らいだ気がした。
「昨日は、何もなかった」
「なにもない、普段通りの一日だった」
映像が薄れる、何もなかったみたいに。
「キャビアトーストを食べて、配信して、散歩に行って、本屋に寄って。………帰ってきてみんなで夕飯を食べた。それで、お風呂に入って普通に寝た」
いつもどおり、を思い浮かべて、何度も思ったこうであれば良かったのに、をそのまま事実にする。
「普通の、なにもない、いつもどおりの日だった。」
映像はぼやけて、いつも通りのアイクがいつも通り過ごした記憶がにわかに作られたように感じる。
昨日が本当にそうであった気がする。あとひと押しで上りきれると確信があった。態とらしく鏡を見て、呟いた。
「え、なんでこんなに顔色悪いの?風邪でもひいたかな……」
サブドロップのせいだった体の震えは風邪のせいになって、体が元に戻っていく、そう、サブドロップなんて起こしてないんだから。だって何もなかったから。
なんだか、ご機嫌な鼻歌も歌えそうだった。音程はひどく不安定で、震えていたけれどアイクは気付いていなかった。
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「おい、ミスタ。何をしたんだアレは。確かに上がっているが不安定すぎる」
「なかったことにさせた。サブドロップの原因も、記憶も、サブドロップしたことも。だから、そうやって扱って。じゃないとまたドロップしちゃう」
「それは、余りにも、」
「じゃないとアイクが死んじゃうって思ったんだ、ケアを受けられない状態で、部屋から出られないってなったらどんどんトラウマに飲み込まれちゃう」
これは一時凌ぎだけど、半年くらい経てば本当に過去になって、向き合えるようになる。体力も気力もないときにケア受ける元気もないんだ。