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    iori_uziyama

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    iori_uziyama

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    人様に捧げる予定のトラウマ執筆サブドロップ🖋の進捗。小説の書き進め方が変なのでバリクソ読みづらいわよ。

    早く書き上げたい🙄アイクが過去にあったトラウマを執筆のために掘り起こして思い出してグラグラ吐きながら書き上げて、それはあんまりにも最高な出来だったんだけど、あまりにも細部まで掘り起こしちゃったのでサブドロップから戻れなくなる話。
    感覚が蘇って冷や汗が止まらなくて一歩も動けないほど怖いのにじっとしていられない。叫び出したいのに叫んだら死ぬような気がする、ってドロップによる混乱でめちゃくちゃになりながら、そのトラウマの原因となったやつが脳裏に焼き付いたように離れなくて、せめて、せめてアイツなら。って現パートナーを思い浮かべるんですね。あの発言もあの行動もあのプレイもせめてアイツなら心はひどく痛むけれど何処か安心した。んで大混乱中のアイクのトラウマを正しく上書きすべく押さえつけながら×××する。みたいなのどうでしょうか。


    ん〜、トラウマが起こったときのアイクの行動は、全て無かったことにする、だった。サブドロップを起こして、部屋に閉じこもって、ひたすらアニメやら音楽やらを接種し続けた。情報で頭がこんがらがるまで読んで、聞いて、見て。似た背格好の人物や、特定のエンジン音を聞くたびに体が硬直するのも、やがてなくなった。誰にも話さず、というか一度は警察に行ったのだ。死ぬと思ったから。しかし、彼らは。アイクの痣を見て、ぱっと視線を上げたあと、首輪に気がついて呆れたような顔をした。バース性は情報として浸透しているもののNormalにとっては理解不能なものだったんだろう。
    そして話そうとしても、悍ましい出来事を言えばサブ専用の保護施設への案内もあるだろうに、アイクの喉は凍りついたように動かなかった。
    そして、「いえ、やっぱり、いいです。すみません。」とポツポツ言って帰路に着くほかなかった。
    いつでも辛い話を聞いてくれる友人はいたが、聞かせてどうなる、ただ淀みを押し付けるだけだと飲み込んで、飲み込んで、飲み込んで、家の床で蹲って泣いた。でろでろとした涙と嗚咽が止まらなくて、体中がゾワゾワしてやたらめったらに引っ掻いた。首に触れる髪が虫みたいに思えて気が狂ったように暴れたあと、震える手でハサミをひっつかんで髪をザンバラに短く切った。細かい髪を落とそうとバスルームへいって、頭っから冷めたいシャワーを浴びた。服すら脱いでいなかった。水音だけのバスルームでへたり込んで、また泣いた。
    真っ暗闇に足を踏み外したみたいな絶望感が襲って、自分の体を自分で強く抱きしめた。
    あいつを告発できなかったことが、自分にとっての汚点にも思えた。

    ■■

    「え!セーフワード言ったのに止まってくんなかったの?!」

    カフェで隣から聞こえた言葉にピクリと反応した。

    「うん、で、逃げたんだけど、人に話したの今日が初めて」
    若者らしく情感たっぷりにハグして擦り寄って「ウワーッ怖かったよね、てか今でも怖い?だいじょぶじゃないよね?一緒にケアいく?」とまくしたてる。その対応に息をついた少女は「大丈夫だよ、もう落ち着いたから」と笑っていた。


    「そ?ならいいけど、」


    「そういえば警察には行った?」

    「、え?ううん、逃げるのに必死で、言ってない」

    「ええええ!!!だめじゃん!!!またそのクソdomに苦しめられるsubが増えちゃう!怖かったのに他の子にもそれを味わわせるの?!だめだよ!なんで通報しなかったの!」

    無駄に、聴覚が研ぎ澄まされて、無かったことにした、あの記憶を思い出した。ぐるぐると胃が痛む。カフェインを取りすぎたのだろうか。原因がソレでないことはわかっているのに、わざとらしくそう考えた。

    ■■

    昔の写真?

    そーそー!学生の時とかさ!

    ルカは陸上やってたときの表彰写真あったんだ。全然変わってなかったよ。

    あ~~~~~どうだろう、あるかな。
    カチカチとパソコンのフォルダをスクロールする。


    お、あったよ。これ、2年前かな。

    みたいみたい!お??アイク2年前はかなり髪が短いんだね。

    ああ、うん。そうだったなぁ。

    なんかきっかけとかあったの?

    いや、襟足が首に触るのが嫌だったんだ。ただそれだけ。

    あ~~~~~慣れるまではソワソワするよね。


    ■■
    まってトラウマの内容思いついたわ。最初は良好なパートナーで、ちょっと不器用な所もあるけどまあ可愛いと思ってた。なのに、正式なCOLORを送られた後、態度が豹変した。典型的モラハラ男ね。
    んでサブはドムからの指示やら時間的拘束やらを守ろうとするじゃん。それをいいことに無茶な時間をつけて、破るとRewardもなしにひたすら罵倒と本で頭を軽くたたかれる。それが2時間くらい続いて。
    アイクはサブドロップ間近で放置されることが増えるわけ。時間経過で回復したらまたそんなのが来るからどんどんどんどん削られて、主人からの命令だから従う、とか従いたいから従うとかじゃなくて怖いから従う。になる。こわくて、怖くて、明日はこうこうこういう理由で門限が守れそうにないんだけど、許してくれないかって一個ずつの行動に許可取るようになるの。昼間はすごく優しくて、いいよ、そんなの、なんでビクビクしてるの。って頭を撫でられる。んでそれにもビクビクしちゃう。でもへへ、って笑ってこれで良かったんだ。僕が叱られるのは出来てなかったからなんだ。みたいな。
    でもどんどんパートナーの態度は悪くなっていって、昨日までは怒られてなかったことが急に怒られたり、食べれないものを無理やり食べさせられたり、不味そうな素振りを出すとまた怒られたり。
    服、靴、態度までぜーーーーーんぶ管理されて。
    何が怒られるかわからない(そりゃそう、向こうの気分次第なので)、どうすればいいのかもわからないでドロップまっしぐら。んでドロップしたときに「なにドロップしてんだよ!お前が出来損ないなのが悪いんだろうが!!!!!内心俺のこと見下してんだろ!!!!」って余計に怒られる。まあきっと、アイクとパートナーは本の趣味が合うとかで仲良くなって、パートナーになったんだろうな。んでパートナーも趣味で小説書いてるけど本業はサラリーマンとかで。んでアイクは何冊も本を出してる。からそこの嫉妬もある。いつからかパートナーが書いた小説を見せてくれなくなって、アイクの小説も読まなくなって、本の話もしなくなって。でも惰性と情で付き合ってたら歪んだんだろうなぁ。
    さてはて話は戻って。アイクが逃げ出すきっかけとなったのはある日。コーヒーを飲んでるときに怒られる。アイクは新作の見本誌が届いてたから、読みつつ確認してたの。
    パートナーはそれが自分を馬鹿にしてるみたいに思えて。コーヒー持ってるのに、椅子に座ってるのに「kneel」って言うわけ。アイクはもうパートナーのコマンドに怯えるようになってるから。ビクってして、震える手でコーヒーを机に置いて今度は何が怒られるんだろうってザーーーって考えながらビクビク跪くわけ。
    「遅い!!なんでいちばん簡単なコマンドすらすぐ従えないんだよ!ノロマ!ほんとにお前は馬鹿でどうしようもない出来損ないだな!」
    って死ぬほどイライラしてて。
    机の上の本を取ってアイクの側頭部強めに殴るわけ。ばしって。くらくらして横に倒れるんだけど、「なんで姿勢を保てないんだこのグズ!!!」ってまた怒られるからよろよろ座り直して項垂れる。
    いつ終わるだろう彼はいつ落ち着くだろういつ優しい彼に戻ってくれるだろうって耐える姿勢なのね。嵐が過ぎ去るのを待つっていうか。
    その死んだ目が自分なんて眼中にも無いように思えてまたパートナーはイライラするの。
    んで、本をアイクの目の前に叩きつけて上からコーヒーをぶっかけんの。

    キレイな装丁が施されたアイクの書いた小説が、茶色いコーヒーを塗れになって、グシャグシャにされるの。それが、アイクには自分の世界ごと潰されたみたいに思えて。
    (ぼくの、ほんが、)
    震える手で本に手を伸ばすけどやっぱりパートナーはこっちを見もしないのにイライラして(怯えてるから目が見れないんだけどね)、アイクの手を本ごと踏みつける。グリグリしながら、語気を荒げて

    「look」
    アイクは手の痛みすら感じずに、目は本に釘付けになっていた。踏みつけられている、本に。

    「……look!!」
    アイクは今まですべてを許してきた。全て自分が悪いのだと思っていた。でも、でも、でも、
    (もう、だめだ、逃げなければ)
    その目に光が宿る。アイクは喉が痛いくらいの大声でセーフワードを叫んだ。初めてアイクが歯向かったのをみて、パートナーが動揺する。
    力の抜けた足を振り払って、本をギュッと抱きかかえた。

    「残念だけど、僕らはもう終わりだね」

    「それじゃ」

    パートナーは真っ白になって。何も言えなくて。アイクは貴重品と汚れた本だけ持って家を出た。
    編集者に連絡してホテルを取ってもらい、そこに向かう。途中、足がガクリと震えて、倒れ込みそうになった。思わず横道へ避けて路地裏へと入った。臭いし汚い、ジメジメした空気の暗い路地裏。
    ゴミ箱の隣で汚れるのも気にせず座り込んだ。息がはねていた。苦しくて苦しくて仕方がなかった。
    パートナーを裏切ってしまったと思った。


    ■■■
    アイク、ねぇ、お前に何があったのか知らないけどさ。頼ってよ。何がお前を苦しめてるの、俺はバカだけど仲間が苦しんでるのを見てほっとけるほど薄情な男じゃないんだよ。
    何でもいいんだ。どんな下らないことだって、もしくは大きすぎることだって、話してくれよ。

    それとも、俺は頼れない?ヴォックスでも呼んでこようか?それともシュウのほうがいい?

    「違う、違うんだ、ミスタ、」

    「ウン」

    「僕は、みんなを信頼して無いわけじゃない、すごく頼りにしてるでも、僕は」

    「うん」

    ミスタはぜいぜい呼吸をする背中をさすりながら決して急かさず、ただアイクの言葉を待った。

    「僕は、話せないんだ、これを、話そうとすると涙があふれるし、戻ってこれないような感覚がする、自分でもおかしいと思うんだ、でも警察にもカウンセラーにも話せなかった、信頼してる友人にも話せないんだ、だから、僕が自分でどうにかするしかないんだ、僕が、自分でやらなきゃ」




    「アイク、忘れちゃった?俺の仕事。」



    「アイクが嫌ならもちろん詮索はしない。許可なしに踏み荒らしたりしない、絶対に。」


    「でももし、お前が誰かに頼りたいのに話せなくて頼れないなら、俺が暴く。勝手に調べて、ソレを代わりに言語化してやる」

    「俺がアイクの拡声器になるんだ」


    「どう?」


    「、」

    そんなことできるのだろうか、アイクの身体にはあざも残らなかったし、病院にも警察にも話していない。内心と過ぎ去った過去にしか無いものをどうやって突き止めるのだろう。それでも、マリンブルーの瞳に縋った。


    「OK.任せろ」

    声も出せなかったのに、彼は笑って僕の頭をポンと撫でた。ドロップしているのに酷く安心した。

    ■■

    Qアイクが今回体調を崩したのはなぜ?
    A.執筆のためにトラウマを掘り起こしてしまったから

    Qなぜアイクはそれを書こうと思った?
    A.おそらく、自分の中で吹っ切れたと思っていたから。多分、トラウマから時間は経ってる。
    自分の話じゃないという体で話そうとした?

    Qアイクのトラウマとは?
    執筆中の原稿を確認。現在執筆は中止。
    筆が止まったページから遡るように紙をめくる。
    途中から明らかに情景描写がリアルになっていて、筆跡も震えている。恐らくトラウマを元に書いたシーンであると仮定。

    Q小説の題材は?
    虐待サバイバーもの。暴力がなく、パッと虐待だとわからない見えない虐待をもとにした作品。
    暴力の種類としてはティッシュ箱、スリッパ、平手。叩くのは頬ではなく頭。主人公が逃げ出すきっかけが書き直されている。ボツ案をゴミ箱から発見。ボツ案の方は世界で一番大事にしていたピアノを汚されたから逃げる事になっている。
    本編の方は壊されたから。しかし筆跡を見るにボツ案のほうがアイクに関わっていると仮定。
    何か大切なものを汚された?

    カラカラと名探偵は頭を回して仮定を積み上げ過程を探る。

    Qなぜボツにしたのか?
    自分のエピソードと似通いすぎていると思った、もしくは虐待として成立しないと思った?

    Qなぜアイクは話せなかった?
    虐待シーンから、気付かれないからこそ助けてもらえない、周りからの理解が得られない、という場面原稿にあり。パッと見助けてもらえないような被害のわかりにくいもの?内部、家の中、会社、

    Qアイクは実家以外で誰かと暮らしたことはあったか
    パートナーを組むのは初めてではないと言っていた。COLORは苦手、首が過敏。2年前は髪が短かった。2年前に首がだめになった?パートナー関連?

    パートナー関連であれば警察で一部ノーマルに冷めた目で対応されることもある。そこでもしかして被害を受けたと思っているのは大袈裟なのでは、と認識した?だから相談できない?サブドロップに落ちやすくなった?

    首、COLORが苦手でということはCOLORにも何かしらある?

    □□□
    アイクが過去にあったトラウマを執筆のために掘り起こして思い出してグラグラ吐きながら書き上げて、それはあんまりにも最高な出来だったんだけど、あまりにも細部まで掘り起こしちゃったのでサブドロップから戻れなくなる話。
    感覚が蘇って冷や汗が止まらなくて一歩も動けないほど怖いのにじっとしていられない。叫び出したいのに叫んだら死ぬような気がする、ってドロップによる混乱でめちゃくちゃになりながら、そのトラウマの原因となったやつが脳裏に焼き付いたように離れなくて、せめて、せめてアイツなら。って現パートナーを思い浮かべるんですね。あの発言もあの行動もあのプレイもせめてアイツなら心はひどく痛むけれど何処か安心した。んで大混乱中のアイクのトラウマを正しく上書きすべく押さえつけながら×××する。みたいなのどうでしょうか。

    ■■

    「え!セーフワード言ったのに止まってくんなかったの?!」

    カフェで隣から聞こえた言葉にピクリと反応した。

    「うん、で、逃げたんだけど、人に話したの今日が初めて」
    若者らしく情感たっぷりにハグして擦り寄って「ウワーッ怖かったよね、てか今でも怖い?だいじょぶじゃないよね?一緒にケアいく?」とまくしたてる。その対応に息をついた少女は「大丈夫だよ、もう落ち着いたから」と笑っていた。


    「そ?ならいいけど、」


    「そういえば警察には行った?」

    「、え?ううん、逃げるのに必死で、言ってない」

    「ええええ!!!だめじゃん!!!またそのクソdomに苦しめられるsubが増えちゃう!怖かったのに他の子にもそれを味わわせるの?!だめだよ!なんで通報しなかったの!」

    無駄に、聴覚が研ぎ澄まされて、無かったことにした、あの記憶を思い出した。ぐるぐると胃が痛む。カフェインを取りすぎたのだろうか。原因がソレでないことはわかっているのに、わざとらしくそう考えた。

    ■■

    昔の写真?

    そーそー!学生の時とかさ!

    ルカは陸上やってたときの表彰写真あったんだ。全然変わってなかったよ。

    あ~~~~~どうだろう、あるかな。
    カチカチとパソコンのフォルダをスクロールする。


    お、あったよ。これ、2年前かな。

    みたいみたい!お??アイク2年前はかなり髪が短いんだね。

    ああ、うん。そうだったなぁ。

    なんかきっかけとかあったの?

    いや、襟足が首に触るのが嫌だったんだ。ただそれだけ。

    あ~~~~~慣れるまではソワソワするよね。


    ■■
    彼との出会いは、ありがちだけど大学の講義中だった。文学部で、とある教授が出した課題が僕にとってはすっごく楽しくて、魅力的な物だった。それで、目を輝かせてタイピングしてる時に声をかけられた。彼もその課題を心底楽しんでる一人だったんだ。当然僕らは盛り上がって、大学が閉まる時間になるまでひたすら話し合って、それでも興奮が収まらなくて、そのまま飲みに行ったんだ。
    そうしたら、お互い物書きを目指してることを知った。

    最初は良好なパートナーで、ちょっと不器用な所もあるけどまあ可愛いと思ってた。なのに、正式なCOLORを送られた後、態度が豹変した。典型的モラハラ男ね。
    んでサブはドムからの指示やら時間的拘束やらを守ろうとするじゃん。それをいいことに無茶な時間をつけて、破るとRewardもなしにひたすら罵倒と本で頭を軽くたたかれる。それが2時間くらい続いて。
    アイクはサブドロップ間近で放置されることが増えるわけ。時間経過で回復したらまたそんなのが来るからどんどんどんどん削られて、主人からの命令だから従う、とか従いたいから従うとかじゃなくて怖いから従う。になる。こわくて、怖くて、明日はこうこうこういう理由で門限が守れそうにないんだけど、許してくれないかって一個ずつの行動に許可取るようになるの。昼間はすごく優しくて、いいよ、そんなの、なんでビクビクしてるの。って頭を撫でられる。んでそれにもビクビクしちゃう。でもへへ、って笑ってこれで良かったんだ。僕が叱られるのは出来てなかったからなんだ。みたいな。
    でもどんどんパートナーの態度は悪くなっていって、昨日までは怒られてなかったことが急に怒られたり、食べれないものを無理やり食べさせられたり、不味そうな素振りを出すとまた怒られたり。
    服、靴、態度までぜーーーーーんぶ管理されて。
    何が怒られるかわからない(そりゃそう、向こうの気分次第なので)、どうすればいいのかもわからないでドロップまっしぐら。んでドロップしたときに「なにドロップしてんだよ!お前が出来損ないなのが悪いんだろうが!!!!!内心俺のこと見下してんだろ!!!!」って余計に怒られる。まあきっと、アイクとパートナーは本の趣味が合うとかで仲良くなって、パートナーになったんだろうな。んでパートナーも趣味で小説書いてるけど本業はサラリーマンとかで。んでアイクは何冊も本を出してる。からそこの嫉妬もある。いつからかパートナーが書いた小説を見せてくれなくなって、アイクの小説も読まなくなって、本の話もしなくなって。でも惰性と情で付き合ってたら歪んだんだろうなぁ。
    さてはて話は戻って。アイクが逃げ出すきっかけとなったのはある日。コーヒーを飲んでるときに怒られる。アイクは新作の見本誌が届いてたから、読みつつ確認してたの。
    パートナーはそれが自分を馬鹿にしてるみたいに思えて。コーヒー持ってるのに、椅子に座ってるのに「kneel」って言うわけ。アイクはもうパートナーのコマンドに怯えるようになってるから。ビクってして、震える手でコーヒーを机に置いて今度は何が怒られるんだろうってザーーーって考えながらビクビク跪くわけ。
    「遅い!!なんでいちばん簡単なコマンドすらすぐ従えないんだよ!ノロマ!ほんとにお前は馬鹿でどうしようもない出来損ないだな!」
    って死ぬほどイライラしてて。
    机の上の本を取ってアイクの側頭部強めに殴るわけ。ばしって。くらくらして横に倒れるんだけど、「なんで姿勢を保てないんだこのグズ!!!」ってまた怒られるからよろよろ座り直して項垂れる。
    いつ終わるだろう彼はいつ落ち着くだろういつ優しい彼に戻ってくれるだろうって耐える姿勢なのね。嵐が過ぎ去るのを待つっていうか。
    その死んだ目が自分なんて眼中にも無いように思えてまたパートナーはイライラするの。
    んで、本をアイクの目の前に叩きつけて上からコーヒーをぶっかけんの。

    キレイな装丁が施されたアイクの書いた小説が、茶色いコーヒーを塗れになって、グシャグシャにされるの。それが、アイクには自分の世界ごと潰されたみたいに思えて。
    (ぼくの、ほんが、)
    震える手で本に手を伸ばすけどやっぱりパートナーはこっちを見もしないのにイライラして(怯えてるから目が見れないんだけどね)、アイクの手を本ごと踏みつける。グリグリしながら、語気を荒げて

    「look」
    アイクは手の痛みすら感じずに、目は本に釘付けになっていた。踏みつけられている、本に。

    「……look!!」
    アイクは今まですべてを許してきた。全て自分が悪いのだと思っていた。でも、でも、でも、
    (もう、だめだ、逃げなければ)
    その目に光が宿る。アイクは喉が痛いくらいの大声でセーフワードを叫んだ。初めてアイクが歯向かったのをみて、パートナーが動揺する。
    力の抜けた足を振り払って、本をギュッと抱きかかえた。

    「残念だけど、僕らはもう終わりだね」

    「それじゃ」

    パートナーは頭が真っ白になって、何も言えなくて硬直した。アイクは貴重品と汚れた本だけ持って家を出た。
    編集者に連絡してホテルを取ってもらい、そこに向かう。途中、足がガクリと震えて、倒れ込みそうになった。思わず横道へ避けて路地裏へと入った。臭いし汚い、ジメジメした空気の暗い路地裏。泥酔した誰かの吐瀉物が端にあって、それを見た瞬間アイクも胃の中を空っぽに吐き出していた。チカチカ点滅する視界の中、ゴミ箱の隣で汚れるのも気にせず座り込んだ。息がはねていた。苦しくて苦しくて仕方がなかった。
    パートナーを裏切ってしまったと思った。
    出来損ないのサブだという言葉が背中に刻まれた気分だった。

    耳がじーーーっと嫌な音を立てている中でやけに下手くそな息遣いが聞こえて、そこでアイクの世界はバツン、と途切れた。

    ■■■

    目が覚めると病院だった。アイクは親切な誰かによる通報で病院に運び込まれたらしい。
    隣には担当編集も居た。

    「先生!心配したんですよ!どうなさったんですか、何があったんですか!また無茶な取材でもしたんですか!?」

    それで、その隣に、バツの悪そうな顔をしたパートナーが居た。
    それを見て、アイクは気づいたら喉が痛くて、びっくりした。無意識の内に絶叫していた。
    医者やら看護師やらに押さえつけられていて、ボタボタ泣いていた。パートナーは担当編集に押されて

    「アイク!」

    僕の名前を呼ぶ声が、やけに寂しそうに聞こえた。
    僕はうーうー唸ってCOLORを引っ掻いた。
    どうしても自分で外せなかった。
    これは僕を殺すギロチンでありながら、僕を唯一パートナーのサブとして認める印だった。

    これをなくしたら、出来損ないで愚図なサブ。ただの欠陥品の一人ぽっちのサブになってしまう。命綱を自分から手離すみたいに怖かった。
    バンジージャンプの命綱が首に引っかかった状態で空を蹴っている気分だった。外さないと死んでしまうけど外しても死んでしまうのだ。もうどうしたらいいかアイクにはわからなかった。
    だからバカみたいに唸りながらボタボタ泣いて、COLORを引っ掻くしか出来なかった。
    アイクの精神はとっくの昔に壊れきっていた。
    自覚がなかっただけで、とっくに限界を超えていた。






    カウンセラーや医者やら、警察やら、沢山の人が病室を訪ねて、それに答えようとするたびにアイクはサブドロップを何度も繰り返した。結局何も言えなかったけれど、パートナーが病室に現れることは一度もなかった。それに安心しているのに、また首を引っ掻いてしまった。
    何も話せないのが、その人たちの目が、恐ろしく感じて入院を丁重に断った。家は残念ながら無くなってしまったような物なので今までの士貯蓄を頼りに暫くホテル暮らしすることになった。ホテルを手配してくれた担当の編集者は何度も、何度も念押しするように「いつでも連絡してください」ときつく抱き締めてから、心配そうに去っていった。

    アイクは寝るたびに悪夢を見て、起きるたびにサブドロップを起こした。サブドロップを起こすと皮膚が過敏になって、内腿や腕の内側、頭皮、首を掻き毟った。ミミズ腫れのような赤い線がいくつもついて、爪には皮膚片が溜まっていたけどやめられなかった。ある時は首に触れた髪がすべて虫のように思えて半狂乱で暴れながら食べて、吐いて、眠って、飛び起きて、抑制剤を飲む。この無限ループに疲れ切って、ある日眠るのも食べるのも諦めることにした。
    部屋に閉じこもって、ひたすらアニメやら音楽やらを接種し続けた。情報で頭がこんがらがるまで読んで、聞いて、見て。気絶するみたいに眠れば夢もぼやけて、ドロップしない目覚めもあった。
    全部全部気の向くままに好きに過ごした。
    似た背格好の人物や、特定のエンジン音を聞くたびに体が硬直するのも、やがてなくなった。誰にも話さず、というか一度は警察に行ったのだ。死ぬと思ったから。しかし、彼らは。アイクの痣を見て、ぱっと視線を上げたあと、首輪に気がついて呆れたような顔をした。バース性は情報として浸透しているもののNormalにとっては理解不能なものだったんだろう。
    そして話そうとしても、悍ましい出来事を言えばサブ専用の保護施設への案内もあるだろうに、アイクの喉は凍りついたように動かなかった。
    そして、「いえ、やっぱり、いいです。すみません。」とポツポツ言って帰路に着くほかなかった。
    いつでも辛い話を聞いてくれる友人はいたが、聞かせてどうなる、ただ淀みを押し付けるだけだと飲み込んで、飲み込んで、飲み込んで、家の床で蹲って泣いた。でろでろとした涙と嗚咽が止まらなくて、体中がゾワゾワしてやたらめったらに引っ掻いた。首に触れる髪が虫みたいに思えて気が狂ったように暴れたあと、震える手でハサミをひっつかんで髪をザンバラに短く切った。細かい髪を落とそうとバスルームへいって、頭っから冷めたいシャワーを浴びた。服すら脱いでいなかった。水音だけのバスルームでへたり込んで、また泣いた。
    真っ暗闇に足を踏み外したみたいな絶望感が襲って、自分の体を自分で強く抱きしめた。
    あいつを告発できなかったことが、自分にとっての汚点にも思えた。

    □□□

    アイクがサブドロップを起こした。
    夕飯時になる頃、アイクは原稿があるからって引き籠もってた。ルームシェアを始めてからも何度もあったことだった。だのに、嫌な感じがした。
    それで見に行ったら、アイクは過呼吸気味にびゅうびゅうぜぇぜぇ息をしていて、その目は焦点が合ってなかった。首をしきりに引っ掻いていて何本もの赤い線が走っていた。
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