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    iori_uziyama

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    iori_uziyama

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    かわいい探偵にご用心、🦊受けオンリー展示品です。
    博愛主義者のヴォックスに振り回されて腹を括ったミスタが啖呵を切る話。

    この浮気者!「こンの浮気者!」

    何度目か、兎にも角にも両の手では足りないほどの回数、同じ光景。ミスタはワナワナと身体を震わせて、ヴォックスに詰め寄った。いっそ頬を引っ叩いてやろうと胸ぐらを掴んで、ふと、堪忍袋の緒が切れるとは此のことだろうか。怒りは収まらないものの頭が冷えていく。

    「もーいい、諦めてやる、諦めてやるよ」

    据わった目で深いため息を吐く。
    ヴォックスと一緒にいたセクシーな女の子がオロオロと戸惑っているのが見えて、にっこりと笑顔を向けた。女の子に罪はない。そこの素知らぬ振りを貫いている男は別として。

    「ごめんな?デートの邪魔して」

    スルリと艷やかな髪を撫でる。女の子はちょっぴりドキドキして、ミスタをジッと見つめた。ミスタもヴォックス負けず劣らずいい男だった。
    そして、恋する者は等しく魅力的なものなので。
    その少し影のある微笑みはときめきを感じさせるにはうってつけだった。

    「やぁ、ミスタ。ご機嫌いかがかな」

    「わかりきったこと聞いてんじゃねぇよ」

    ヴォックスはいつだってそうだ。ミスタが泣こうが怒ろうが恋人だろうが何一つ響いちゃいない。
    また怒りが再燃しそうになって、噛み殺す。
    その代わりに分かりきった問いを投げかける。

    「なぁヴォックス、オレの事好き?」

    「もちろん好きだよ、ミスタ」

    予想通りの答えにハッと鼻を鳴らして、掴んだ胸ぐらを引き寄せて、勢いよくキスをする。
    俺に好きって言ったその口でまた他のヤツにもおんなじ事言うんだろうが。その答えに喜んでしまうのも、胸クソ悪い。
    前歯がぶつかって、血の味がする酷いキスだった。
    ヴォックスは少し驚いた顔をしたものの機嫌よくキスに応じる。目は閉じなかった。睨みつけたまま舌を絡めて、吸って、下唇を噛んで離れる。

    何回お前が浮気したって、他のやつに愛を囁いたってきっとオレはヴォックスのことが好きだ。

    上等だよ色男、ぜってぇ振り向かせてやる。

    ミスタは静かに覚悟を決めて、くるりと踵を返した。腹を括った男が一番強いのである。

    □□□

    さて、まずは依存からの脱却である。ミスタはADHDの傾向も含め、生活能力が少し低めだった。
    そして最たる例としてミスタが振る舞った料理でヴォックスが腹を壊したことは記憶に新しくない。
    そんなこんなでそこまで離れてもいないヴォックスの家に呼ばれては、飯をご馳走になり、ゆったりと時間を過ごす。
    この流れを繰り返して、いつの間にやら半同棲のようになっていた。生活に必要な物はヴォックスの家に当たり前のように用意されていたり、増えたりと。そして同じ家にいれば世話を焼かれるし、きっと接すれば接するほど覚悟が緩んでしまう。
    だってアイツは甘やかすのが上手すぎる。
    だから出ていくことにした。もとから正式な同棲な訳でもない。ただミスタが入り浸っていただけだ。適当なエコバッグとゴミ袋を出して、片っ端から私物を回収して、要らないものはゴミ袋へ入れいく。流石に大きいものはそこまで持ち込んでいなかったようでホッとした。生活用品やらパジャマやらアクセ、スキンケア用品がこの家にあることが、かなり不味いのだが、もう出ていくので気にしないことにする。

    久しぶりに帰ってきた家は少し埃っぽくなっていて、どこか他人行儀になっていた。自分の家に帰ってきたはずなのにそこまでの落ち着きはなく、自分の中での家があちらになりかけているのを感じてから笑いをこぼす。慣れない片付けやらで疲れたミスタは少し湿度を含んだ、寝心地の悪いベッドで眠りについた。嫌なことに独り寝の寂しさには慣れていた。

    □□□

    啖呵を切ってからとくにヴォックスとは連絡を取っていない。家を出たことについてもノーリアクションだった。そんで、買い物行ったらコレかよ。

    「アイク、ほんとに君は素晴らしいよ」

    「あぁそう、別に口説き文句に興味はないからさっさと帰ったら?」

    カフェテリアでパソコンを開き恐らく原稿をやっているアイクと、正面に座りにこにことした笑顔で甘やかに言葉を紡ぐヴォックス。アイクは完全に無視を決め込んでいる。

    見慣れてっけどさぁ、やっぱクるもんがあるよな。
    痛みを誤魔化すみたいに浅く息を吐いて目を逸らして、振り払うように早足で立ち去った。
    その夜、アイクからDiscordで電話がかかってきた。

    「hi アイク、どうしたの?」

    「hi,ミスタ。いや大した事じゃないんだけど、今日の昼間××通りのカフェテリア近くにいた」

    「ア~、うん。アイクとヴォックスが居るとこを見かけたよ。買い物の後だったからそのまま帰ったけど」

    「声掛けてこないの珍しいな、と思って。しかもどうせ一緒の家に帰るんだし、ヴォックスを回収してくれれば良かったのに」

    あ、そっか。アイクはオレがヴォックスの家から出てったことを知らないんだ。というか、ヴォックスも話さなかったんだ。ちょっとムッとしてため息をついた。

    「……ヴォックスと喧嘩でもした?」

    何かを感じ取ったらしいアイクが声のトーンを抑える。その気遣いがくすぐったくて、やっぱり一人で抱えるには無理があったから、甘えたくなった。

    「ビデオ通話に切り替えようぜ、そんで酒でも飲みながらさ、話していい?」

    シラフじゃこのヘラった思考は余りにもイタいから、酒の力を借りるに限る。アイクは嬉しそうな声音で、「もちろん!」と言った。

    □□□

    「___ってワケ」


    ヴォックスはアイクを好んでおり、アイクは芯を持っていて揺らがない。ミスタは芯をヴォックスに預けていて依存気味である。では、まず依存から脱却しなくてはならない。言うなれば自立である。

    しかし、そう上手く行くわけでもなく。

    ミスタが出ていこうがヴォックスは揺らがず、それどころか相変わらずアイクを口説いている始末。暖簾に腕押し、凹むものは凹む。

    「なんだか、ええと、ごめんね、ミスタ……」

    気まずそうに言葉を選ぶアイクに力なく手を振った。

    「んや、アイクは悪くないよ。全然、まったくね」

    酒を舐めるようにして飲んで、喉を焼く。少しぼんやりとした頭で、探偵の性というか行動と心理を予測してしまう。

    「アイツさ、支配者気質なんだよな。もとより、なんつーの?上位種族だか、領主だったか知んね〜ケド」

    「たぶん、ナメられてんだよ。」

    ガキの反抗期とおんなじくらいに思ってるんだと思う。で、アイクとかシュウとか、上手く自分の支配下に入らないヤツが珍しくて面白くて、惹かれてるんだと思う。

    「マ、オレとは真逆なわけ。速攻でオチたし」

    アイクは困った顔をして、酒をチビチビと飲む。

    「あ~あ、なんでヴォックスなんか好きになっちまったんだろう」

    そんなことを言いながらミスタの口はムニムニ弧を描いていた。アイクはなんだか強烈な惚気を聞かされているような気分になって少々頬を染めながら目を逸らした。恋っていいなぁ、と思いながら。

    □□□

    「よう、ルカ」

    「ミスタ!久しぶり!」

    ひらひらと手を振ると大型犬が尻尾を振っているみたいに喜色満面でルカが駆け寄ってくる。勢いよく
    抱きしめられて、満更でもなくワシャワシャと撫で回した。この明るさが眩しいときもあったけれど、今では面映ゆいものの少しずつ受け入れられるようになった。

    二人でのんびりと公園を歩きながらポツポツと近況を話して、ルカが思いついたように言う。

    「ミスタ、なんか明るくなったよ」

    「そうか?全然変わってねぇと思うケドなぁ」

    「変わったよ!」

    ルカはきっぱりと言い張る。その目はいつになく真剣だった。気圧されるように黙る。このゴールデンレトリバーのように無害な男は、時に人を黙らせる雰囲気がある。

    「だってさ、ミスタ、前までならオレがどうやって誘ったって、外になんか出てこなかったもん。ましてや『散歩しながら喋ろう』なんてさ、」

    前までならきっとDiscordで十分だって言ってたと思うよ。だから、変わったよ。

    どこかホッとした顔で太陽のようにニッカリ笑うルカにつられて吹き出した。

    「そーかよ、」

    「うん」

    確かに、環境的には変化があった。と言っても生活のほぼ全てに関わっていたヴォックスと少し距離をおいただけだ。自分では何か変えられたような実感は無い。それでも、ルカが変わったと真剣に言うのだから、少しは変われたのだと思えた。

    「ルカ、ありがとな」

    「どういたしまして!!」

    POG!なんて口癖とともにやっぱりルカは太陽みたいに笑った。


    □□□

    なんだかんだ、ヴォックスから離れて自立を目指したことはミスタにも良い影響を与えていた。
    もとより溜め込みがちで甘えベタだった性質が、ヴォックスに頼るまいと他のメンバーに相談し、酒を飲みながら愚痴を喋ることによってハードルが下がり依存先が分散された。

    魅力的であろうとジムやら普段の運動量と外出が増え、そうなると消費カロリーも増えるものだからヴォックスが居なくたって飯を3食食べるようになった。
    さらにどうせ3食食べるのならば、と惣菜やスーパー、外食に頼りつつも適度にバランスを考えるようになって、まぁ、みるみると心身共に健康体になったわけである。劇的ビフォーアフターだった。

    そして肝心のヴォックスとの関係と言えば___

    「ン"」

    「どうしたんだい、ぼうや」

    クツクツと喉で堪えるように笑う。
    頭をヴォックスの肩に預けてグリグリと擦り付ける、ミスタなりの『撫でろ』の合図であった。

    「随分甘えたじゃないの、」

    ア~、この脳みそまで砂糖が染み込むみてぇな感覚、ひっさしぶりだなぁ、なんて考えながらクシクシ撫でてくれる大きな手に擦り寄り。

    「甘えてンの、甘やかせよ」

    ビイ玉みたいに澄んだ瞳を向けて

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