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    iori_uziyama

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    iori_uziyama

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    アイミス 🖋🦊 まとめ

     アイミスまとめ

    sub風俗かわいそ仄暗い

    「今辞めるって言った?」

    アイクが呆然と問いかけるとミスタは気不味そうに目を逸らした。だんまりを貫く姿に舌打ちして罪悪感を煽るようにまくしたてる。

    「辞めるの?キミが?」

    「散々みんなを苦しめておいて、キミだけ逃げるんだ?」

    「どんな甘言を吹き込まれたか知らないけどここに来る時点でイかれてる事は確実なんだよ?身請けされたって辛い思いするだけだよ」

    「それに逃げ場だって無い」

    「あの子達にはどうやって説明するの、これまでさんざっぱら面倒見てきたのに投げ出すんだ?」

    「君が相手してきた客は誰にやらせるの?君だから加減されてたり、休む期間を与えられてたけど他の子ならどうだろうね、良くて使い捨てじゃない?」

    柔い心に爪を立てるように、追いつめていく。
    それでも下唇を噛み締めて、ミスタはなんにも言わない。言い返しもしなくて、撤回もしてくれない。
    それが憎らしくて、首をひっつかんだ。

    「結局君もアイツらと変わんないんだね、ミスタ。偽善者よりももっと酷い、みんなを神様みたいに甘やかして、守って、急に手を離すんだ、最悪にもほどがあるよ、」

    「君がそのつもりなら、僕、できるだけ酷い客を怒らせて、サブドロップをこじらせて死んでやるから、君のせいで僕が死ぬし、僕はできるだけ残った子たちを煽ってみんなで死ぬように仕向けるよ、君のせいでね。」

    「全部君のせい。」

    「ミスタは君たちが面倒だから捨てたんだよって、もう付き合いきれないって、死んだってどうでもいいって自分だけ優しいご主人さまに買われていったんだよ、って何回でも言い聞かせてあげる。泣くだろうね、そしたらうるさいから殴られるんだろうね、可哀想に、ミスタのせいだよ。」



    ✄✄✄

    少女漫画、桜に攫われる

    ああ早く書きたい書き留めたい。この光景が焼き付いているうちに。アイクはいつだって小説を書くことばかり考えていた。あれはネタになるだとかあれはどうだとか、挙げ句には話を思い付けば書き始める。本人曰く、______「だって消えてしまうんだもの」

    今日の花見だってそうだった。いつだってアイクは流動的で儚い物語を、波に、風に攫われないよう必死かき集めていた。

    ばちり、と星の弾ける音がした。視線が惹かれる。
    その先の一人にただ、目を奪われる。
    ミスタはパクパクと口を大きく動かしていた。

    『あ』
    『い』
    『く』

    目が合ったミスタが桜の花びらの中できれいに笑う。ふらり、と思わず手を引かれるように立ち上がって、踏み出した。

    「あれ、もういいの?」

    「あ〜、うん。いいんだ」

    さっきまで夢中で書いていた小説よりも、いま、この瞬間をミスタから目を離したくなかった。
    幻想を追いかけるよりも、君を見ていたかった。



    ✄✄✄✄✄
    SM アイク&ミスタ
    縄が解かれて、体中がジンジンとする。はふ、と息をつくミスタに優しく声掛けするアイク。
    「ミスタ、大丈夫?」
    「今日はたくさんやったからね、疲れてない?」「暫く、そうだね、この跡が消えるまではやめておこうか」
    ミスタはちょっとぽわぽわしながら「んーん、だいじょうぶ。このままがんばるよ」って答える。
    アイクはそれをじっと見て「ちゃんとできる?」とまた問いかける。ミスタも見つめ返して「うん」と返事した。


    ✄✄✄✄✄

    アイクのゴートシーアーオールスのパンク・ロックファッションのキービジュアルを見てミスタが「ケッツラが良いとなんでも似合うのシンプルに腹立つわぁ〜〜」って共有リビングで叫ぶ。(ネタ6割本音4割)それを聞いたアイクは「君がそれ言う?」ってジト目。だって当の本人がメイド服から中華服、スーツに探偵着、かぼちゃのきぐるみから萌え袖まで似合うヤツなので。

    ✄✄✄✄✄

    アイクは何人もsubを飼っているオーナーらしい。
    らしい、というのも俺は躾部屋で躾されたことが無いから実際のシステムをよくわかっていないのだ。
    よくわからないけれど、俺はアイクの家の合鍵を渡されてて、どの部屋でも何時でも自由に入ることができる。アイクは俺のパートナーでオーナーでは無いらしい。でも、パートナーだからといってオーナーを辞めることはできないそうだ。
    俺にはよくわからないけれど、よく、椅子だとか、足置きだとか、世話焼きがいる。おれもオーナーのパートナーだからか偶に爪を磨きに来るやつがいるけど、大抵は俺のことを見て「どうして見てるだけなんだろ」って顔をする。
    俺はsubだけど、痛いのは好きじゃない。
    だからそれを喜んで享受してるのを見るのは過激なテレビを見てるみたいに現実味がなかった。
    きっと一度体験すれば夢中になるよ。と言われたこともあるけど、たしかに、よくわからなくなって、際限なくご褒美をもらうのは凄く、ドロドロになって、良いものだったのだと思う。でも、アレは戻れなくなりそうで怖かった。サブスペースを怖いと思ったのは初めてだった。輪郭ごと溶けて戻れない気がした。アイクから片時も離れたくないと思っていた。アレは、脳みそがとろけるから怖かった。
    それを言ったらそこで止まるやつと進めるやつがペットとパートナーの違いなんだろうなって言われた。そんで鼻で笑われた。
    しつけ部屋にたまに行くけれど、あいつらが溶けてるのを見ていいなぁ、とは思う。でもやっぱり怖い。そこを踏み越えられる奴らが羨ましかった。
    俺はそのラインは超えられないから。


    ✄✄✄✄✄✄

    言わせるのはアイクがいいな。
    わざとトラウマダンプをさせる。
    何飲み込んでるのほら吐き出してよって。
    だいっきらいだ、死んでくれ
    ああそう、ありがとう。僕も愛してるよミスタ。

    ミスタは優しいから一個でも良いところがあったらなんにも攻撃できないんだな。でもなんの繋がりもないやつにも攻撃できないんだな。
    僕はそのパンドラの箱をこじ開けてぐちゃぐちゃに引っ掻き回してみたかったんだな。
    それで、どうだったの?感想は?
    すっごく楽しいよ
    そりゃよござんした。
    最低最悪の俺のカミサマ。

    ✄✄✄✄✄✄

    互いを見下し合ってる同居の左右不定🦊🖋🦊がみたいですね。
    執筆してる時の追い詰められてヒステリーになってこの世の終わりみたいにぼたぼた泣いて、もがいて書いてる🖋を見て、こいつよりはマシ、こんなにちゃんとしてるやつでもこんなになるんだって思いながらよしよしケアする🦊
    駆けずり回ってボロボロで帰ってきて苛立ちのまま抱え込むみたいにクソッ、くそったれ!ってどんどん太もも叩いて死にたい……ってベッドに蹲るのを可哀想なやつ、って思いながらキレイな瞳にキスを落とす🖋

    これはただの人を借りただけのすごく面倒くさい自己満になるから書かない。

    ✄✄✄✄✄
    じんわり始まる恋

    ほんとに急だったんだよ。多分アイクもふと思ったことを口に出しただけなんだと思う。

    「ねぇ、ミスタ。僕ね、君の顔すっごく好みなんだ」

    「君の顔、すごく綺麗だと思う」

    たったそれだけを急に言われて、その瞬間じわじわと嬉しくなった。

    「んふふ……そうなの?」

    「何その笑い方。そうだよ」

    「そっかそっか、アイクは俺の顔好みなんだ」

    「ウン」

    そんだけで、会話は終わったんだけど。
    たったそんだけのことが、アイクを好きになったきっかけだった。

    んでなんとなくアイクに見た目をアピールすることに戸惑わなくなる。投げキス飛ばしたり、ウインクしたり、目があったときに笑ったり。コイツ、こんなカッコいい見た目してんのに、俺の顔好きなんだもんな、って思うと擽ったくて、嬉しくてさ。
    そしたら、アイクもいつからかそれが随分可愛く思えてゆるゆると恋に落ちていく。


    ✄✄✄✄✄
    それぞれ重いドムサブ

    気付いたのは、たまたまだった。
    偶然、僕がDomで、パートナーが居なくて、かつ人より程度の重い、欲求を持て余していたから。
    __不器用なサブドロップに気が付いた。

    ことん、かたん。そういう、微々たる音だったと思う。オフコラボで集まって、ミスタは一足先に部屋に戻っていた。リビングルームは騒がしかったし、誰も気付いていなかった。気の所為だと思ったけれど、でも僕は無性に気になった。だから、2階に向かった。
    一段、また一段と階段を上がるにつれて、本能がガタガタと揺さぶられた。居る、在る、そこに。
    そういう確信だった。ミスタの部屋の前、思わず息を詰めた。この扉を開けて、どうなるのか、自分にだって予想出来ない。それでも、ガタゴトと騒ぐ本能が、不気味なほど静かなその扉に手を伸ばした。

    □□
    ああ、人間の理性なんて儚いもの、とっくに壊れていたんだろうな、とどこか冷えた頭で考えていた。
    ノックもなしに踏み込んだその部屋で、ミスタは暴力から身を守る子供みたいに蹲っていた。
    本当なら、駆け寄って、どうしたのと声をかけなければならない。
    しかし、本能がゾワゾワと粟立って全身の神経をバチバチと刺激する。ミスタがsubだと、サブドロップに陥っていると本能的に自覚した。Careが必要だ。
    Careが、必要だ。わかっている、紙みたいな薄っぺらい理性が建前を申し訳程度に提示している。
    僕は、Careが必要だとわかっていて、場合によっては医療機関への連絡も考えなくちゃあいけないとわかっていて、暴走した。何を言ったって言い訳にもならない。

    だって僕は、その為に部屋の鍵を閉めたから。

    □□

    硬質なヒールが床を叩く音、それと、鍵が閉まる音で弾かれたように顔を上げる。
    そこにはアイクが立っていて、ただ、ジッとこちらを見つめていた。冷や汗が背中を伝う。ブワッと全身の毛穴が開いたような感覚だった。
    Domだと、肌で感じた。
    バレた、だとかなんで鍵を閉めたのかとか、どう言い訳しようとか、迷惑をかけてしまったとか、その他自分への罵倒が頭の中を駆け巡る。ピリッと張り詰めた空気、息苦しくて、思わず口をはくはくと動かして、惹かれるように、導かれるように、自然な動きだった。

    何をいうよりも先に、アイクの靴へ額づいていた。

    予感、というのだろうか、探偵としての第六感なのか、subとしての本能だったのかはわからない。

    □□
    心臓の音が耳の奥から聞こえていた。どくどく、どくどく、忙しく、五月蝿く、全身に血液を巡らせる。鍵を閉めて、踏み込んで、ただ、僕は、ぼうっと立っていた。動けなかった。だって確信があったから。僕はミスタにきっと酷いことをしてしまう。
    いま、踏み越えたのは自分なのに、怖気づいていた。
    そうこうしている内にミスタが顔を上げた。
    目が合って、口が、何がを紡ごうとして、飲み込まれた。ミスタは、ゆっくり、軋んだブリキ人形みたいに、手を伸ばして、ぺたり、ぺたりと四つん這いで僕の前に来た。
    そうして、自然な動きで額づいた。
    ミスタの白くて丸い、綺麗な顔はふせられていて、ただ、革靴越しに額がそっと当てられていることがわかった。ばくん、と心臓が大きな音を立てる。
    ミシミシと蓋をしたDom性が暴れだす、手綱を離せとギシギシ訴えている。

    □□

    「ご、めんなさい」







    アイクはミスタとのプレイで初めて、大義名分を得た。彼はサブドロップしながら、自分がドロップした原因であるこんなことをしてしまったこうするべきだったのにという細かい細かい誰も気にしないようなミスを並べ立てて、ビシャビシャ泣きながら土下座した。叱ってくれと頼んで、爪先に額ついた。
    アイクの倫理観はガンガンと警鐘を鳴らし、優しく悪いことなんて何もしてないよ、大丈夫だよ、いい子だよと慰めねばならないと言っている。
    が、アイクの体は額づくミスタの頭をもう片脚で手酷く蹴っ飛ばしたのだった。

    こっ、と空気の塊が押し出される音がして、ミスタはあえなく吹っ飛んで、横に倒れる。
    頭がグラグラしているようで、目がウロウロとさまよっていた。

    「黙って。そんなに自己弁護がしたいの?」

    ミスタはハッとしたように上体を起こして首を激しく横に振った。
    アイクは肩あたりをまた蹴って、地面に転がす。

    「ステイ。起き上がれって言ってない。」

    ミスタは力なくべシャリ倒れて、視線だけでアイクを見やる。息が小動物のようにはねていた。


    アイクの頭は興奮で沸騰しそうになりながら、氷塊のように冷静だった。

    「ミスタはさ、」

    伏せたままの背中に緩やかにヒールを沈ませる。
    下から息が詰まるような音が聞こえる。そりゃあそうだ、アイクは細いが立派な成人男性である。その体重をかけられれば肺は圧迫されて、呼吸は苦しくなる。

    「いつもいつも自分が悪いことをしたって全部わかってるけどまたやるよね、もしかしてお仕置きされたいからワザとやってるの?」

    「っちが!」

    横っ腹に爪先を食い込ませて蹴り上げる。
    深い溜め息を吐いて、冷めた目で蹲るサブを見た。

    「ミスタぁ〜〜〜?黙れって言ったのもう忘れちゃったの?本当に自己弁護しか頭にないんだね」

    ああ、やめなければ、やめなければと理性が騒ぎ立てている。もし、僕以外の優しい正常なドムであればきっと、ミスタのドロップ癖から直しにかかるんだろう。お仕置きなんかせずに「良い子」だと褒めて撫でて愛してあげるのだろう。
    アイクにはそれができない。ずっとずっとずっっっと、我慢していた。ずっと、内心に留めていた。
    なのに、目の前にどうぞ、と首をさらけ出す獲物が居たのだ。

    アイクはやめなければ、と何度も考えていた。
    それでも、毛頭やめるつもりはなかった。


    □□

    こんなにもノーマルっぽい思考回路のドムは初めて見た。アイクは思考回路と倫理観はNormalど真ん中のくせして、バース性は強く、重かった。
    そしてそれを発散させるようなプレイは彼の倫理観のもと目打ちされて、どうにか騙し騙し今まで生きてきたらしい。

    俺はといえば死ぬほどドロップしやすい体質で、更にケアするためには手酷い躾が必要なタイプだった。
    というか、Rewardはラスト一回で十分なのだ。基本的に自分は悪い子という幻想の中で生きているので褒められても受け止められない、らしい。妙に納得した。これだけの罰を受ければ少しくらい罪が清算されたのでは?と思うくらい罰を受けてなお、一度しか受け止められないのだ。自分でも厄介だと思う。一般でこんなプレイをしてくれる理想のパートナーを探すのは早々に諦めて、そういう嗜好のバーへと足繁く通った。
    が、大抵のDomは世間一般Normal性に勘違いされているような奴は少なくて、大抵会うなり病院を勧められたり、心配されたり、この状態のsubとのプレイなんて責任が取れないだの、お優しい奴らばかりだった。
    正しいドムなんてクソ喰らえだった。
    アイクの言う正しく、優しいドムは俺には付き合いきれない。俺を治そうと愛を注いでくる癖して暫くしたら被害者みたいなツラして「ごめんね、自分じゃもう無理だ」って悲しみながら離れていく。
    最後まで付き合う気がねぇならそれって自己満足なんじゃねぇの。こっちは頼んでもねぇのに勝手にやり始めて、面倒臭くなったら捨てるんだ。

    その点、アイクは救世主だった。
    神様かと思った、もしくは俺の幻覚。
    だって、俺のして欲しい事を全部叶えてくれるから。頭の中が全部わかるんだろうか、と思った。

    俺はずっと頭の中で自分を叱ってて、なのに治りゃしないから自分に失望してた。痛みは救いだった。
    俺のダメさをわかって、叱ってくれて、愛してくれる人が欲しかった。
    俺を許さないで居てほしかった。怒られないほうが、叱られないほうがよっぽど惨めで、辛いから。
    自分に暴言を吐き続けるのも頼むから死んでくれと鏡越しに願うのも疲れたのだ。
    俺を過大評価しないで。期待を裏切らないようにもっともっと神経を張り巡らせなきゃいけなくなる。



    まあそれはさておき。こうして破れ鍋に綴じ蓋、二人はパートナーと相成ったのである。


    ✄✄✄✄

    重めドムサブ別パターン

    こんなにもノーマルっぽい思考回路のドムは初めて見た。アイクは思考回路と倫理観はNormalど真ん中のくせして、バース性は強く、重かった。
    そしてそれを発散させるようなプレイは彼の倫理観のもと目打ちされて、どうにか騙し騙し今まで生きてきたらしい。

    ミスタは死ぬほどドロップしやすい体質で、更にケアするためには手酷い躾が必要なタイプだった。
    というか、Rewardはラスト一回で十分なのだ。基本的に自分は悪い子という幻想の中で生きているので褒められても受け止められないのだ。これだけの罰を受ければ少しくらい罪が清算されたのでは?と思うくらい罰を受けてなお、一度しか受け止められないのだ。我ながら厄介である。

    まあそれはさておき。こうして破れ鍋に綴じ蓋、二人はパートナーと相成ったのである。

    アイクはミスタとのプレイで初めて、大義名分を得た。彼はサブドロップしながら、自分がドロップした原因であるこんなことをしてしまったこうするべきだったのにという細かい細かい誰も気にしないようなミスを並べ立てて、ビシャビシャ泣きながら土下座した。叱ってくれと頼んで、爪先に額ついた。
    アイクの倫理観はガンガンと警鐘を鳴らし、優しく悪いことなんて何もしてないよ、大丈夫だよ、いい子だよと慰めねばならないと言っている。
    が、アイクの体は額づくミスタの頭をもう片脚で手酷く蹴っ飛ばしたのだった。

    こっ、と空気の塊が押し出される音がして、ミスタはあえなく吹っ飛んで、横に倒れる。
    頭がグラグラしているようで、目がウロウロとさまよっていた。

    「黙って。そんなに自己弁護がしたいの?」

    ミスタはハッとしたように上体を起こして首を激しく横に振った。
    アイクは肩あたりをまた蹴って、地面に転がす。

    「ステイ。起き上がれって言ってない。」

    ミスタは力なくべシャリ倒れて、視線だけでアイクを見やる。息が小動物のようにはねていた。


    アイクの頭は興奮で沸騰しそうになりながら、氷塊のように冷静だった。

    「ミスタはさ、」

    伏せたままの背中に緩やかにヒールを沈ませる。
    下から息が詰まるような音が聞こえる。そりゃあそうだ、アイクは細いが立派な成人男性である。その体重をかけられれば肺は圧迫されて、呼吸は苦しくなる。

    「いつもいつも自分が悪いことをしたって全部わかってるけどまたやるよね、もしかしてお仕置きされたいからワザとやってるの?」

    「っちが!」

    横っ腹に爪先を食い込ませて蹴り上げる。
    深い溜め息を吐いて、冷めた目で蹲るサブを見た。

    「ミスタぁ〜〜〜?黙れって言ったのもう忘れちゃったの?本当に自己弁護しか頭にないんだね」

    ああ、やめなければ、やめなければと理性が騒ぎ立てている。もし、僕以外の優しい正常なドムであればきっと、ミスタのドロップ癖から直しにかかるんだろう。お仕置きなんかせずに「良い子」だと褒めて撫でて愛してあげるのだろう。
    アイクにはそれができない。ずっとずっとずっっっと、我慢していた。ずっと、内心に留めていた。
    なのに、目の前にどうぞ、と首をさらけ出す獲物が居たのだ。

    アイクはやめなければ、と何度も考えていた。
    それでも、毛頭やめるつもりはなかった。

    □□□
    正しいドムなんてクソ喰らえだった。
    アイクの言う正しく、優しいドムは俺には付き合いきれない。俺を治そうと愛を注いでくる癖して暫くしたら被害者みたいなツラして「ごめんね、自分じゃもう無理だ」って悲しみながら離れていく。
    最後まで付き合う気がねぇならそれって自己満足なんじゃねぇの。こっちは頼んでもねぇのに勝手にやり始めて、面倒臭くなったら捨てるんだ。

    その点、アイクは救世主だった。
    神様かと思った、もしくは俺の幻覚。
    だって、俺のして欲しい事を全部叶えてくれるから。頭の中が全部わかるんだろうか、と思った。

    俺はずっと頭の中で自分を叱ってて、なのに治りゃしないから自分に失望してた。痛みは救いだった。
    俺のダメさをわかって、叱ってくれて、愛してくれる人が欲しかった。
    俺を許さないで居てほしかった。怒られないほうが、叱られないほうがよっぽど惨めで、辛いから。
    自分に暴言を吐き続けるのも頼むから死んでくれと鏡越しに願うのも疲れたのだ。
    俺を過大評価しないで。期待を裏切らないようにもっともっと神経を張り巡らせなきゃいけなくなる。

    「ミスタ、聞いてるの?」

    びくりと体に力が入ってしまって、図星なのがバレてしまった。深い溜め息が聞こえて、背中から重みが消える。またやらかしてしまった。どうしよう、どうしよう、と回らない頭をカラカラ動かす。
    アイクがベッドに腰掛けて足を組んで、靴の先を揺らした。

    「Rick」


    「人間は考える葦らしいけど後悔を繰り返して叱っても叱っても学習しないミスタは毎回毎回おんなじような風におんなじように靡くただの植物なのかな」

    「この頭はスッカラカランでなんにも入ってないんじゃないかって疑いそうだよ。もしかして猿から大脳新皮質を発達させずにヒトの形になっちゃったのかな、それは不憫だね。可哀想に。お気の毒さま。僕には関係ないけど。」

    「ミスタは犬としての才能ならあるんじゃない。5回言ったらやっと言うこと聞けるくらいだから駄犬には違いないけど。僕は犬好きだよ。馬鹿だけど愛嬌はあるから。賢い犬はもっと好きだけど、君には期待できそうにないし、妥協はある程度必要だよね。」

    「ねえミスタ、安心して。君の脳みそがどれだけちっぽけでも僕は何度でも言い聞かせて躾けてあげる。君が鳴いても吠えても出来るまで諦めずに」

    「それとも君は畜生のままが良いのかな。僕には理解できないけれど」

    「その場合僕はどうしようかなぁ、君の飼い主にならないといけないのかな。まあ、ウン。いいよ、ちゃんとペット皿にドッグフードでも用意してブラッシングして、2日に一回は丸洗いしてお世話するよ。」

    「君はなーんにも考えなくていい、全部僕が考えて、決めて、君はその通り動くだけ。僕の機嫌と指示に従うだけ。どうしようかミスタ。どうしたい?」

    「Speak」

    「おれ、は」

    確かに、そういうパートナーの形があるのは知ってる。し、アイクのバース性の重さからして可能なんだろうとは思う。

    でも、

    「配信者をやめたくない、企画を考えるのも好きだから、やりたい。」

    分不相応な願いだとはわかっている。けれど、考えることをやめたくなかった。毎日毎日死んでしまえと鏡越しに呪いをかけても、毎日毎日体中の水分が無くなるんじゃないかってくらい泣いても、真っ暗闇に落ち込むようなサブドロップを起こしても。 それでもミスタはミスタとして生きたかった。
    ミスタのままで生きたかった。

    ミスタは縋るように飼い主を見た。


    ◇◇◇
    「そう、なら君はその空っぽな頭のまんまでヒトにならなきゃいけないわけだ。」

    「いいよ、付き合ってあげる。君の決めたことだからね、舌先三寸だったなんて言い逃れは出来ないよ。」

    「そう、まずは、サブドロップの癖からだよね。毎日毎日飽きもせずにおんなじようなことでおんなじように落ち込んでる君にはどういう躾をしようかな」

    「後悔なんて誰でも出来るんだよ、何回後悔を繰返しても変わらないんじゃ意味がない。何かしらの対策を講じて、結果を変えなきゃ」

    「ううん、そうだね。完璧になるまで頑張ろうか。単純だね。君が自分を認められるくらい一点の染みすらない完璧に一日を過ごせたらいいんだよ。」

    「ちゃんと(・・・・)出来るようになるまで頑張ろうねミスタ。」





    ◇◇◇
    みんなが俺の自虐に悲しい顔するのわかってんのに、話したってこれは盛り上がらないだろうな、ってわかってたのに口すべらしちゃってさ、結局配信で話して、俺構ってちゃんじゃあるまいにちがうんだ、わかってるのに気付いたときには喋っててダメだ~ってなりながら止めどころが分かんなくて結局話し切っちゃう。チャットに心配かけてさ、ほんとに、どうしようもないんだ。


    ミスタ、君はわかってるって言うけど、それはわかったつもりになるだけでちっとも理解してないんじゃない?君は小さい子どもみたいに試し行動してるんだよ。ねえ、みんな今日こんな辛いことがあったの、慰めてよ、かわいそうでしょって。シンデレラ気取り、君は灰かぶりじゃなくてエンターテイナーのはずなのに。まあ、イギリスのユーモアからしたら自虐もそうなのかもしれないけど。僕には理解できないね。
    チャットに思う存分よしよししてもらえば?








    □□□□

    「good……」
    3時間にも及ぶプレイはたった一回のリワードでようやく終わりを迎え、アイクの頭を冷静にさせる。
    本能の時間は終わり、理性が発達するのだ。

    アイクは目前でぐちゃぐちゃになっているミスタを見て背中にだばだは汗をかいていた。
    思うことは唯一つ。マズイのでは??である。
    いやはやこれまで20数年生きてきたけれどこれは圧倒的に犯罪者ではないだろうか、きっとミスタの服の下には目も当てられない用な痣ができているだろうし口の中も多少切れているはずだ、あとは一番重大なのが精神面だろう。いやどう考えてもサブドロップしているサブに対して暴行した最悪なドムじゃないかよく見るぞニュースで、僕捕まるのかな、ていうかほんとに大丈夫かな、生きてる????
    とまぁ先程までの冷酷な主人はどこへ行ったのやら情けない男がオロオロと声を出した。

    「み、みすた?Are you okay……」

    ミスタはぐったりとしたまま転がるようにして仰向けになって、はひはひ息をしていた。震えながら手をアイクに伸ばして、

    「It's so Goooooood……」

    とグッジョブサインをしてきた。
    雰囲気が持たないところまで似た者同士である。
    アイクは思わずぺたりと座り込んで呆然としながら

    「打たれ強すぎない???」

    と言った。

    さてはて十分程経過し、ミスタも少し落ち着いて上体を起こしてよっこら喋り始める。まあいわばピロートークのような物だが一試合やりきったぜ、とかサウナで整ったあとみたいな雰囲気だった。

    あぐらをかいて2リットルペットボトルの水をゴキュゴキュ飲み下し、ぷはぁ!と酒飲み親父のような声を出してから、アイクに目を向けた。

    「いや、まじでほんとに良かったよ。コレコレコレーーーーーーーッッッ!!!!!!!って感じだったわチャット風に言えばTSKR?」


    「ミスタ、君さぁ。よくもまああんなに酷いプレイしたあとに馬鹿みたいな感想が出るよね」

    「あれ、アイクってプレイと私生活分けないタイプ?俺それは流石にムリなんだけど」

    「いや分けて結構。僕もシラフじゃ出来そうにない」

    「酒でも飲んでたの?」

    「バース性の本能って銘柄だよ」

    「あら奇遇俺もそれ飲んでたわ」

    ケラケラ笑って、さっきまで尊厳全部を明け渡してたやつには全く見えない。しかしまぁこのサブが死ぬほど調子がいいと言うのは本能で認識できる。

    「いやほんとにさ、俺はこれが向いてるってわかってんだけどサブドロップはしやすいからみんな手加減するんだよね、元気な状態じゃないとハード系のDomでも躊躇するやつが多くてガチで相手居なかったんだよ」
    ほんっっっとーーーに最高だったわ、ガチで。

    ◇◇◇◇

    「ねぇミスタ、ものは提案なんだけど君がされたいことを一度僕にやってみてほしいんだ。僕も参考になるだろうからじっと黙ってるし、後々文句も言わない」

    ミスタは青い瞳をきょろりと斜め上にウロウロさせた。

    「んんんんん、やるのはいいと思う、けど、う~~~ん、お仕置きは欲しいかな、たぶん、申し訳無さでドロップする」

    「ソレがなくてもドロップするだろうから結局はプレイするけど?」

    「気持ちの問題だよ気持ちの問題。悪い事する前に罰があるって決まってたらやりやすいだろ?」

    「ふうん、僕は逆だと思ったけど君にとってはそうなんだね。OK、お仕置きすることにするよ。」

    「はいよ」

    「もうぱっとスタートできる?」

    「ん~~、コンビニか、公園あたり行ってから帰ってきてくんない?ちょっと整理する」

    「わかった」

    ◇◇

    ガチャリ、と扉を開ける。

    コップ一杯の水を頭っからぶっ掛けられたり、

    声が耳障りなんだよ、ほんとに、喋ってくれるな、頼むから。

    死ねって言われながら首を絞められたり

    お前が死んでくれるだけでどれだけ幸せになれるかって言われたり

    足置きにされたり、口の中に指突っ込まれて無遠慮に暴かれてえずいたり、

    ◇◇◇

    配信でもお互いパートナー(恋人関係ではない)だからバース性のちょっかいコメントはやめてねーって言ってるしなんでパートナーになったの?みたいな話題で「「プレイの相性が死ぬほど良かった」」ってお互いきっぱり言ってるのみたい。
    んでどんなプレイするの?みたいな際どい質問(場合によってはかなりのセクハラ)に秘密って答える二人。んでぼやかしつつ「俺はすんごい面倒なサブだと思うんだけどアイクはまじで付き合ってくれてほんとに助かってるんだよね」
    「僕は重たいドムだからミスタがそれに付き合ってくれて助かってるよ」って。
    んでヴォ辺りはミスタの不安症に付き合えるくらいの重たいドムってことは束縛が激しいタイプか、尽くしすぎて駄目にするタイプだろうなーって算段つけてる。

    ◇◇◇◇

    んで同軸でドムサブパートナー兼恋人サニバーンと絡む。

    「ミスタせんぱい!」

    「おー、アルバーン!ちょうしどう?」

    「報告があって!サニーとパートナーになったんだ!んで、前に相談したサブドロップ癖もちょっとマシになったんだ!」

    「おーー!!良かったなー!」

    「ありがとお!!!」

    みたいな。んでアルバーンはスラム暮らしで泣かないように辛いことを我慢するようにってしてたら辛いのを基本的に認知できなくて、リワード貰った瞬間に気が緩んでドロップする感じ。だからまあリワードでドロップしちゃう面倒なサブだったんだけどサニーは献身的に全部全部受け止めてずーーーーーーっと褒め続けるメリハリがなくてひたすら砂糖水につけられるみたいなプレイをするんだけど、それがアルバーンにピッタリハマって毎日のようにサブドロップするけど幸せなのね?
    んでここで勘違いが発生するわけ。
    ・毎日サブドロップする
    ・サブドロップしたままプレイする
    ここは一緒なんだけどサブドロップを抜け出すのに必要なのが
    ・手酷いお仕置き
    ・ひたすらグチャ甘なリワード漬け
    って対極的なのが伝わってなくてお互いにお前んとこどうなの?みたいな話をしてる。
    「いやー、まあお前が幸せなら良いんだけどさ、まさかサニーにそんな癖あるなんてな〜。アイクもだけど、ほんと、ひとは見た目によらねぇよな」
    「えー?そうかな?サニーはイメージ通りだったよ。というか妄想が現実になったのかなってレベルだけど。」
    「あ、それわかる。初めてプレイしたとき頭グラグラしながら夢でも見てんのかなって思ったもん俺。」
    「あ〜、グラグラするよね。わかる。てかアイク先輩のプレイ全然想像つかないな、あの人どっちかって言うと猫ちゃんみたいでそういう感じじゃないでしょ?」
    「まぁそれはそうなんだけど、内心抑え込んでたみたいでさぁ、俺も溜め込む方だからお互いに爆発してプレイして〜みたいな感じ。」
    「あ〜〜、なるほど?」
    「サニーはどうなの?」
    「う~~ん、こまめにドロップさせられるかな。前までの人たちと比べたら。やっぱり、普通の人ってドロップすると躊躇したり中断されるんだけどサニーはそこんところわかってくれてるから遠慮なく続けてくれてほんと嬉しいんだよね、後々も楽になってくるし」
    「ほんっっっとーーーにそれだよな!!!俺はもともと毎日ドロップするからアイクも誘発されてくれてさ。マジで容赦ないから助かってる。」
    「ウンウン、容赦ないよね、泣いても喚いても暴れてもずーーっと宥められて終わんないんだもん」
    「そーそー、何しようが向こうが終わらせるまで終わんないからね。」

    ◇◇◇◇

    ミスタがあんまりにも強いドム性をもつアイクの躾に慣れすぎて普通のドムにGlare向けられても全然普通に対応するところも見たいし普通に競り負けて自分のドム以外に従ってしまった、主人だと認めてしまったみたいなのでメンタルぐちゃぐちゃになってラクシの前でプレイすることになる二人が見たい。
    わかったわかった、メンバーででかけてたときにミスタがクソドムにちょっかいかけられてて他のメンツがア!って焦ってるのをアイクが余裕綽々で見てて「お前のパートナーだろう!」って言われて「僕のパートナーがあんな雑魚に負けるわけ無いでしょう」って言うやつ。んでGlareぶつけられてんのに普通に「マナー違反だぜファッキンシット!」つって蹴り倒してるやつ。んでミスタってつえええってなってかなり普段気をつけてたヴォックスの気が緩んで後日ゲーム中にヴォがGlareはなっちゃって人外だからくっっっっそ強くて、ミスタが腰抜けでぺたんておすわりするやつ。んで過呼吸起こす。あいく、あいく、ごめん、違くて、ってなってるから慌ててアイクを呼ぶ。
    すまない俺の落ち度だっつってケアしてくれって頼むんだけどわかったって言ったのに。

    「Hiミスタ、君はいつから飼い主の顔もわからなくなったの」つって過呼吸起こしてぶっ倒れてる頭を踏みつけるわけ。
    当然周りは焦るんだけど
    「今は君たちの仲間のアイクイーヴランドじゃないんだ。ミスタのパートナーのアイクだ。ケアしろって言ったのはそっちでしょう?邪魔しないで」
    一息ついてまたミスタへと視線を戻す。

    「僕はね、部屋で仕事をしてたんだ。〆切が近いのがあるから頭を回転させてカリコリ一所懸命書いてたんだけど。君のせいで中断する羽目になった。マッタク、駄犬の飼い主になるとこういうことになる」

    「ごめん、なさい」

    「本当にミスタは馬鹿だね、僕は喋れって言ってないけど?」
    って首を引っ掴んて気道が圧迫される。ギューーーって絞めながら
    「もういっそ海の魔女みたいに声を取っちゃおうか、そうすればミスタも毎回叱られずに済むよ」
    チカチカ狭まっていく視界の中で緩く頭を振った。
    「そう、君も懲りないよね」
    ぱっと手が離されて急に舞い込む空気に咳き込んで、芋虫みたいに丸くなる。
    「さて、ミスタ。今回の失態は何?それくらい自分で話せるよね、Speak」

    おれ、はアイクというパートナーが居るのに、油断してて、

    「Stop」
    簡潔に話して、君が、何をやらかしたのか。どういう理由で、とかの言い訳はいいんだよ。ただの結果が聞きたいの。はい、もう一回。Speak

    「他のドムに、お座りしました」

    「ふうん、へぇ、聞いてはいたけどそうなんだ。どうする?僕からヴォックスに鞍替えでもしてみる?きっとダッドみたいに優しくしてくれるんじゃない?」
    思わず口を開きかけたミスタを遮るようにアイクが重ねた。

    「ミスタ覚えてる?」

    「Speakのコマンドで与えられる君の発言権は一回だけだよ」

    「少しくらいは覚えてほしいんだけど」

    「やっぱりダメだね、こんなのじゃ他のドムに受け渡しもできない。だってドムの名折れだもの。お前のしつけはどうなってるんだって元飼い犬の失態を責められる羽目になる。ちゃんとよそに行っても安心できるくらいいい子になってからじゃないと。」

    「まあそれがいつになるかは甚だ疑問だけどね。」

    ◇◇◇◇

    今回のプレイ内容としてはGlareで腰抜かす、ぺたんて座り込む、過呼吸で崩折れるなのでニールが一瞬しか保ててないわけ。だから完璧なニール講座するよ。姿勢が少しでも、指先が少しでもズレたらやり直し、足の角度、サボったらやり直したった30秒保たせるだけなんだけど、アイクがジッと見てくるしタイマーがなったあとに「5秒でつま先が動いてたね、13秒で頭が揺れた。もう一回」って指摘されるから15回はやり直し食らう。んで後半はGlareを真正面から押し付けるみたいに「なんでたった30秒のお座りすらまともにできないの?」って威圧して余計に震えて出来なくなる。んで汗ボタボタ垂らしながらもう目が霞んてアイクを見つめていられてるのかすら分かんなくなったときに合格もらう。

    ◇◇◇◇
    「good」

    頭も撫でずに冷たい目で見下ろしたアイクがそういった途端、ミスタの完璧なニールは崩れた。
    まるで病気の犬みたいに肺がかすかに膨らむの以外に身動ぎすらしなかった。

    アイクはそれを気にも留めずコーヒーを淹れに行った。執筆がまだ残っているので。エナドリでも良かったがプレイ後の余韻があるので。

    ピリピリした空気の中ミスタが口を開く。

    「待ってアイク、今気付いたんだけどさ」

    「こっちこそ待ってほしいんだけど切り替え早いんだよ君は」

    周りはケロッとした変わりようにまたあ然とする。
    ミスタは普通に起き上がって胡座をかく。この二人にとっては何ともない切り替わりなのだが周りからするとグッピーが死ぬ温度差である。
    そりゃあそう、SMも真っ青の尊厳踏みにじり大会が目の前で起こったと思えば次の瞬間にはサウナ後の外気浴で整ってるんだから。どう考えてもあれ?おれ?だれ?なに?案件である。ヴォックスも死ぬレベルの温度差である。

    「ちょ、ちょ、喉乾いたわ。黙ってるの長いと口の中カラカラになるんだよね」
    とパタパタ立ち上がって冷蔵庫からペットボトルの水を取り出しグラスに注ぎながら戻ってくる。
    そのままさっきまでぶっ倒れていた床に元通り胡座をかいてくぴくぴのみはじめた。

    「そーそー、アイクの靴の話!いつものヒールに慣れてたせいでめちゃくちゃ違和感だったわ」

    「仕方ないでしょう?ヴォックスが慌てて呼びに来たからルームシューズから変える暇がなかったんだよ。執筆中とかにヒール履いてると座りっぱなしだから足がしんどいんだよね」

    「それにしてもジェラピケのふわふわスリッパはプレイに合わなさすぎる」

    「それは思った。でもここに来てから気づいたんたもの、急かされてたし。かと言ってあ!靴が違うからチョット待って!って履き替えに行くのも違うじゃない。どうしようもなかったんだよ」

    「それはそうだけどさぁ、」

    「靴といえばスリッパだとやっぱり蹴り心地が違うね」

    「あー、そうそう。おれもドカッじゃなくてペタッモサッって感じだったから内心感触確かめてたよ。虫だったらどうしようかと思ってた」

    「ゾッとすること言わないでくれない?」

    「あとニールキツすぎで裏腿つるかと思ったわ。明日筋肉痛になりそう」

    「ニールで筋肉痛になるサブって滑稽だね。少しくらいは筋肉つけるか柔軟したら?」

    「俺がそんな殊勝なことすると思ってんの?」

    「全く?」

    ミスタはそれで良しと言うように鼻を鳴らした。

    「ふう、とりあえずの応急処置は終わったしこれで大丈夫そう?」

    「うん、ヴォックス相手だったしそんなショックもないや。だって鬼だし規格外じゃん。」

    「まあそうだね。」

    「んじゃ僕は執筆に戻るよ。」

    「あいよー」










    ◇◇◇

    僕はミスタにしてることは酷いことだって自覚があるし最低だなぁとか痛いだろうなァって思いながら痛めつけてるよ。それを丸まんまやり返されたとしても僕がやったことだから怒らないし受け入れる他ないなぁってなる。
    まあ躾はするだろうし、痛いだろうけど怒りはしないよ。

    あくまでも僕とミスタは対等だと思ってるし、そこにSubもDomも関係ないんだよ。例えミスタが僕に歯向かったって腹立たしくはないよ。なぜなのかは気になるけれどね。

    ◇◇◇
    コーヒー飲んでるの見てコーヒーぶっかけられるのもいいなぁって思ったり、苦いから床に垂れたの舐めるのもいいかもしれんとか。でも木造なら染みるかな?
    染みといえば失禁だよね。ありそうだけど一回目は「アイク、アイク、ちょっとまって。漏らしそう。一瞬このままやらかしてもいいかなって思ったけどここお前の部屋だし」

    「ンンンン、たしかに。なんの準備もしてないから避けたいね。OK、報告ありがとう。」

    くしゃりと頭を撫でて今日のプレイを終いにする。
    一旦と切れた雰囲気を立て直すのは無茶に近いので。

    「ペットシーツ引くのは?」

    「うーん、空気的に避けたいかな。それをメインでやる日ならまだしも」

    「まあそうなったらいそいそ引くっていうのも常時引いてあるのもなんだかって感じだしな。」

    「難しいよね、というか君はNGはないの?」

    「俺はサブドロップしてる時に罵倒で上がるタイプだぜ今更だろ。アイクこそ避けたいやつないの?」

    「大きい方のスカトロとうーーーん、刺すのは無理かな、ナイフとかで傷つけるやつ」

    「おう…それは俺もちょっと無理かも。俺も思いついたけど暗いとこに閉じ込められるのは嫌かな。」

    「ああ、恐怖症はプレイに使うべきじゃない。それは重々わかってるよ。」

    ってお互いに落とし所をさっぱり話すし、尊重しあってるから本当に信頼関係のあるパートナーになれるのね?アイクのドム性が重いのに倫理観が正しいって性質があってこそモラハラドムにならないやつ。しっかり擦り合せをする。

    ◇◇◇◇

    なんていうかさ、内心ずっとこうやって泣いてるわけじゃないんだ。多分、サブドロップしやすいのはもともとの性質。んで、サブドロップするとなんていうかさ"採点"か始まるんだ。今日一日の減点方式の採点。んでこれの言い方はここの振る舞いはこの接し方はって全部マイナスつけられてこれを毎日やってたの。昼間はひっかかるとかやらかしたかな、って思ってもそんなボロボロ思い詰めるほどじゃないんだけど、スイッチが入るんだよ。ちょっとした引っ掛かりが凄く大きな失敗に思えるんだ。んでこんなことも出来ない、こんなことをやってしまったってマイナス思考でドロドロになって、そうなると罰を受けないと気が済まないんだ。
    だから昼間は割と楽しいよ。アイクとのプレイも満足してる。でも、サブドロップは収まんないと思う。大麻でも延々と吸って頭を馬鹿にしてたらしないかもしんないけど、そんなのゴメンだし。


    ◇◇◇

    アイクは出版社のパーティーに出席することとなり、なんとなくパートナーとしてミスタを誘った。
    アイクはミスタとパートナーになってから自らのドム性に負い目を感じることが無くなっていたので丁度いい機会だし公開してもいいか、と思ったのである。
    然し乍ら、その判断は間違いだったようだ。

    「いやぁ、まさかアイク先生があの(・・)ドムだとは!!全く気付きませんでしたよ!ははは!」

    「ほんとですよ、こんなに物腰柔らかな人が、まさかドム性持ちとはねぇ……」

    「アレでしょう?我々には理解不能ですが人を痛めつけて興奮するらしいじゃないですか、想像がつきませんからぜひ見学させてほしいですね、ハッハッハ」

    嘲り、侮蔑に、好奇の目線。ノーマルの偏見を軽視していた。ここまでとは。アイクは内心苛つきながら大人な対応をしていた。
    さてミスタも嫌な思いをしているのではと会場を見渡すとなにやら可愛らしい女性と話している。
    なにやら雲行きが怪しい。

    「失礼、」

    一言断って大股で歩を進めた。近づくに連れて女性がギャンギャンと騒ぎ立てるのが聞こえる。あと3歩、といったところでトドメのセリフだった。

    「貴方なんか!アイク先生のパートナーに相応しくないのよ!!!この身の程知らず!!」

    ミスタの背中に力が入るのが見えた。
    頭が沸騰したみたいに熱くなって、それ以外は鈍く冷たくなった。スイッチが切り替わる感覚だった。
    カツリ、と態とヒールの音を立てて、ミスタの頭上でグラスをひっくり返した。

    「少し落ち着きなよ、ミスタ」

    頭っからポタポタ水を垂らすミスタは呆然として、行き場を失った力が抜けた。女性は呆気にとられて口を魚のようにぱくぱくとさせていた。

    「ニール」

    無視してコマンドを出す。公衆の面前だとか、そんなのは気にならなかった。ミスタは崩折れるように座り、それはお手本のように整った姿勢だった。

    「そう、ステイ」

    アイクにしては珍しく褒めるように柔らかい髪を梳くように撫でた。ミスタは正しい姿勢を保ったまま何も言わない。

    「で?君は誰?僕の飼い犬に何の用だったの?」

    異様な雰囲気に包まれる会場で、女性はモゴモゴと吃るばかりで明確なことを何も言わない。アイクは幻滅したように冷たい目で、鼻を鳴らし、

    「本当に耳を疑ったのだけれど、僕には身の程知らず、だとかミスタが僕のパートナーに相応しくないだとかそういうことが聞こえたんだ」

    あってる?と小首を傾げるその仕草とにこやかな笑顔は可愛らしいはずなのに誰も動けなかった。
    アイクはミスタへ目を向けて床についた手を躙るように踏みつけた。相当痛いだろうにミスタは僅かに唇を引き結ぶだけで声も出さず、身じろぎもしない。

    「躾の行き届いた賢い犬でしょ?」

    「rick」

    新たなるコマンドにようやくミスタは動き始める。垂れた横髪を耳にかけ、ゆっくりと舌を伸ばして、アイクの靴を丁寧に舐めた。その仕草は洗練されていて行為とは裏腹にひどく美しかった。

    「僕は君が誰だかすら知らないんだけど、僕のパートナーを侮辱して、相応しくないって言って。その次に言いたかったのは『自分こそが相応しい』って所かな」

    「それで君は本当に僕の事を受け入れられるの
    僕はお世辞にも優しくないよ。ドム性はかなり重いほうだし、サブドロップって言ってまあ、パニック状態みたいなサブにとって命の危険がある状態でも僕は今みたいなプレイしかしない。現にミスタは毎日のようにサブドロップを起こしてる。
    それでも君は僕の飼い犬になりたいって言うんだよね?」

    訥々と話すアイクとは対象的に女性の息はどんどんと跳ねていく。真っ向からGlareを浴びせられていた。偏見のある中、ドム性を隠している作家も会場内に数人いたが、全員がGlareの強さに冷や汗を流していた。

    「ミスタ、ストップ」

    ピタリ、舌を伸ばした状態で、きれいに動きが止まる。

    「ニール」

    ミスタはお手本のようなきちんとした姿勢を作る。

    「ステイ」

    さ、君の番だね。女性の目はもうあちらこちらへと焦点がズレていて正気でないことは明らかであった。そこに容赦のないGlareとともにコマンドが与えられる。

    「ニール」

    倒れ込むように女性が床に座り込んだ。項垂れるように下を向いてぐったりとしていた。まるで断頭台に立った罪人のようだった。ひゅうひゅうと喉がなる音が聞こえる。過呼吸になる寸前だった。更にグレアが強まる。

    「姿勢がなってないね。僕は伏せろなんて言ってないのに。もう一度、ニール」

    女性の体がガクガクと不自然に震えて、呼吸のテンポが明らかにおかしく引き攣れていた、グレアは止まない。

    「ねぇ、出来ないの?」

    アイクは無機物でも見るような目で女性を見つめる。呼吸に異音が交じり、呼吸すら出来ていないのがわかった。数秒、数十秒そのままただジッとGlareを浴びせ続けて、ようやく。
    すわ失神寸前、泡を吹いて昏倒する寸前でやっとグレアは収められた。

    「ミスタ、stand」

    ミスタはスクっと立ち上がってアイクの隣に並んだ。アイクは上機嫌にうっそりと笑って子猫にやるように喉を人差し指で擽った。

    「さて、僕たちはお暇させて貰おうかな。こんな騒ぎを起こしてしまったし、これ以降パーティーは参加しないことにするよ」

    「カム、ミスタ」

    スタスタと歩き始めたアイクの後ろをミスタは忠犬のように着いていく。
    会場の扉を出る直前で、アイクは思い出したようにピタリと止まって。

    「ああ、そういえば。特定の誰とは言わないしなんとも思ってないただの感想なんだけど」

    ドム性を暴力的で野蛮で理解できない異常者扱いするのに、よくもまあ不遜な態度がとれるよね?その異常者がなんで大人しくしてると思うんだろうって不思議だったよ。じゃあね、

    それだけ言ってアイクはするりと猫のように扉を出ていった。
    心当たりのあるものは顔を強張らせ、会場は凍りついたように誰も動かないまま扉を見つめ続けていた。

    ◇◇◇

    「ミスタ、ごめんね、公衆の面前だったのに確認も取らずにプレイした。頭に血が上って冷静じゃなかったよ、ごめんね。君はすごくおりこうに従ってくれて、とっても良い子だったよ『Good boy』」

    リワードを受けた瞬間ミスタのピンと張られた背中がゆるりと丸まった。

    「いや、びっくりしたけど平気。俺もムカついてたし」

    「本当に嫌な思いをさせてごめんね。バース性の偏見がこんなにあるなんて初めて知ったんだ」

    「あ~、いままで隠してたんだもんな。へーきへーき、あんなの慣れっこだから」

    アイクは少し落ち込んだ様子で、ミスタの濡れた髪やら肌をハンカチで拭っていく。ミスタはされるがままだった。

    「でも今日はほんとにおりこうだったね、姿勢もキレイで、非の打ち所がない位だった」

    「だって俺サブドロップしてない状態だったし、中身が普通なら意識すりゃ出来るよ、普段は頭も鈍いから反射的にやっちゃうだけで」

    「なるほどね」


    ◇◇◇◇

    「こんばんわ〜〜〜、あ!お久しぶりです〜!アイク先生!」

    「ああ、良かった。今日は居るかどうか分からなくて賭けだったんだ。久しぶり」

    「え〜〜〜〜!私に会いに来てくださったんですか?すごく嬉しいです〜〜!」

    にこにこと背景に花でも飛んでいそうな雰囲気のお嬢さん。アイクがこの場所に訪れた理由であった。

    「あの、あのあの、新作の『縺れる糸』読ませて頂いたんですけどほんっっっとーーーに最高でした〜〜〜!!!また編集部からファンレター届くと思うんですけど、せっかくなので直接言わせてください!!!!」

    「あの穏やかで品行方正で真面目な主人公くんが中盤で吠えるシーン、ほんと〜〜〜〜に良かったです。あの心がぐちゃぐちゃになって中身がドロドロに溶けちゃった瞬間の描写が最高に最高でもうスタンディングオベーションでした!それが〜〜〜であとーーーのところもーーーでほんとにーーが!!!☓☓☓☓の所も驚いて、思わず泣いちゃいました!!ほんっっっとーーーに最高でした!!!次回作も楽しみにしてます〜〜〜!!」

    「あはは、ありがとう。いつもファンレターが来るの楽しみにしてるんだ。負担にならない程度で送ってくれると嬉しいよ。」

    「も〜〜送らずには居られない本能みたいなものなので!!毎回長文ファンレター送りつけせて貰います〜〜!!」

    このお嬢さんはアイダと言う名前で、日本から来たらしい。アイクのサイン会で興奮したように感想を喋り、ファンレターも送られてきて、配信にも来ているのでアイダを認識するのに時間はかからなかった。そして、世間とは狭いもので。ミスタがパートナーになる前よく行っていたというフェティッシュバーが、アイダの職場であった。
    ミスタはよくここで管を巻いてはお試しプレイをして、挫けてを繰り返していたらしい。
    初めてミスタに連れて来られたときはお互いに目を丸くしたものだ。「アイダさん?」「アイク先生??ミスタさんと相性バッチリのパートナーができたとは伺ってましたけど、世間って狭いものですねぇ……」


    ◇◇◇

    「私としてはバース性とか、そんなの関係ないと思うんですけど、やっぱり差別する人は居ますよね。私、バース性としてはNORMALですけど、全然ノーマルじゃないですし、結局の所個性の話だと思うんですよ」
    へへ、と照れたように笑う。
    「私、産卵が好きなんです。ちょっと苦しいとちょっと気持ちいいの境でふらふら不安そうに揺らいでるのが本当に可愛くって!最初はみんな私の性癖に付き合ってあげてる、位の気持ちなんですよ。でも、お腹に卵を入れてあげて、2時間くらい後ろから抱き締めてお腹撫でながらお話するんです。それで大丈夫?温かくしないとね、元気な子が産まれますように〜って何度も声をかけてると段々不安そうにするんです。ほんとに卵を宿しちゃった気分になるんですね?それで、お腹の中に入ってるからやっぱり違和感とか、圧迫感とかがあるわけで。自分でそろそろ撫でたり、もう出していい?ってソワソワしだしたりして、みんな可愛くなるんです!産むときは一番感情が揺さぶられるみたいで、みんな泣いちゃうんですけど大丈夫だよ〜頑張って、あと少しだよ〜って声掛けして、手を握って撫でてあやして、そうするとちょっと落ち着いて頑張ってくれるんです。みんな生み終わったあとぐったりして甘えたになっちゃって。あと素質ある子はお腹が寂しいとか空っぽとか思うようになるんです。その時はすっごく興奮しましたね〜〜〜!産卵プレイお仕置きとしてもご褒美としても勿論基本プレイとしてもオススメですよ!」

    キラキラとした語りを受けてううん、とアイクが頭をひねる。産卵プレイなぁ、どっちかって言うと。寝バックで卵をお腹の下に入れて割らないようにちょっとお腹に力を込めて浮かせてないといけないってことにすれば自分で締めつけることになるし、運が良ければ腹筋がつってビクビク跳ねて苦しませられるかも。などと自然な思考でド外道鬼畜方向へ練っていた。

    「ウン、検討するよ」

    「はい!是非!」

    相変わらず声と見た目と雰囲気に話す内容が伴わないがそれにも慣れて本題に戻った。

    「他にも初心者向けのを教えて欲しいんだけれど」

    「そうですよね、ミスタさんとのプレイのマンネリ防止!全力で協力します!」

    簡単なものだと、緊縛ですよね。例えば手首を簡単に纏めるだけでも抵抗できない感が出るので雰囲気に酔いやすい子はオススメです!
    あと、次にメジャーなのは鞭ですかね、一本鞭は扱いが難しいのでバラ鞭か、痛みの許容量が大きめなら乗馬鞭でもいいと思います。かなり手慣れた人ならケインも使いようによっては最高ですね!

    「あ!そうだこれ!!!オススメです!!」

    アイダが明るい顔で取り出したのはハートのカバーがつけられた乗馬鞭だった。キョロキョロしたあと「マーク付けてほしい方いらっしゃいますか〜?今日はハートですよ!」と店内に呼びかける。
    すると大人しそうな女性がおずおず近づいてきた。

    「あ〜〜〜!☓☓さん、今日はまだ話せてませんでしたね!会えて嬉しいです〜!何処がいいですか?お腹?脇腹?太ももにします?それともお胸?お尻もいいですよね〜」

    「えっと、」

    「ん〜〜〜?」
    相変わらずにこにこ優しそうだが目はニンマリと弧を描いている。

    「ふとももと、胸に、付けてほしいです」

    顔を真っ赤にして、女性がぽそぽそと言った。

    まぁここはフェティッシュバーなのでこういうこともあるし、見本を見せてくれようとしているのだから見るべきなのだろうがこう、居た堪れなさがアイクに襲いかかる。今の状況って百合に挟まる男というか、かなり二人の世界展開してるところで地味にカメラワークに映り込んでしまった一般人感がある。アイクはドム性こそ重いもののバース性の関わらない部分はノーマルなのでソワソワしてしまうのだ。

    「はぁい♡わかりました、じゃあまずスカート上げられますか?後ろ向いて、太ももの真ん中辺りまで見えたら良いので。自分で、ゆっくり上げてください♡」



    □□
    んでまぁなんやかんやで教えてもらいつつ、緊縛でゆるくミスタを縛るあいださん、教えてもらいつつ真似するアイク、ここまではゆるいお試しっぽい雰囲気。んでミスタもケラケラ笑ってるものの割と色んなところ縛られてて動けない感じになってる。
    ついに鞭かケインで叩く番になって。ミスタは首を後ろにひねる感じでアイダと話し込んでるアイクをぼんやり眺めていた。
    アイクの目が、スッと切り替わるのがみえた。ミスタだけが知っている、プレイ中の目だった。
    その瞬間に、ミスタのスイッチもバチンッと音を立てて切り替わる。はぁ、と熱い息が漏れて、腰が悩ましげに揺れた。ふ、とアイクの瞳がこちらを捉える。

    「ミスタ」

    硬質な声だった。全身をくまなく観察するように視線が滑る。
    気付かれてしまった。心臓がバクバクとうるさい。

    「なに興奮してるの?」

    カッと顔が熱くなる。いや、多分項まで真っ赤だった。図星だった。アイクの目を見た瞬間、あぁ、虐められるんだって期待した。きっと欲しい物をくれるって。勝手に期待してたのが恥ずかしくて頭ン中がダメんなって、言葉未満の喃語が溢れる。

    「僕はね、万一にもプレイの範疇を超えてただの暴力にならないように真剣に考えてるんだよ」

    君のためを思ってね?

    アイクの持っていた乗馬鞭でスラックス越しの皮膚をなぞられる。神経がイヤに過敏になっていて、それだけで全身がゾワゾワとした。

    「なのに君は一人で興奮してたんだ?」

    乗馬鞭が腰骨から脊柱をなぞるようにしてスルスルと登っていく。ミスタは縛られた体を、ぴくぴく跳ねさせては、下唇を噛んだ。バース性のプレイとは全く違う、濃密な性のニオイ、それを理解してミスタはこの一線を超えたあと"どう"なるのか想像もつかなかった。

    □□

    アイク先生はまだ初心者で加減ができないのでなぞったり、つねったり、油断したタイミングでぺちっとしたり、正面から見つめながらアイダに叩かせたりする。
    なのに、我慢できなくなって、項まで真っ赤にして潤んだ目で「……あいく」って名前を読んでくるミスタに煽られて、思わず強めに叩いてしまって、「痛い!」とか「あ!」とかじゃない「ふっ、ぐーーッッ!!」みたいな耐える声を出させてしまった時点で、自分がコントロール出来なくなってることを自覚してプレイを終了する。


    □□
    ミスタの要望(好きなプレイ)を正しく認知するためにミスタにやってもらうんだけどそれを見られたら2度見される。ラクシエムは特に一回目撃してるから「ああ……お邪魔しました…………?!??!?ぎゃく?!?!??」ってなる。


    □□

    なんらかでノクテイクスといるときにミスタがサブドロップを起こして「サニー!お願い!ケアして!ミスタは僕とおんなじなんだ!普通のドムじゃ無理なんだよ!」っていってケアするけどお仕置きなしのリワード漬けじゃミスタは上がれない、アイクが来る、頬をペチペチ叩いて、視線が合えば強く頬を張った。「説明、これで何度目?」
    「2回目です」
    「そうだね、僕は今日何してた?」
    「仕事…」
    「そうだよ、わかってるじゃない。で?今君は何をしてる?」
    「サブドロップを起こしてアイクの仕事を邪魔しました」
    「そう。わかってるならなんでやるんだろうね」


    □□



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