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    botomafly

    よくしゃべるバブ

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    ジュナカル 遠路春々 7_2

    雑踏の中人とぶつかりそうになるのを避けると次の人とぶつかりそうになる。常に誰かが喋っていて、足音が途切れることはない。少しでも歩調が緩い者は後ろの人に足を踏まれ、あるいはイラつかれながら後ろから追い抜かれ、歩調が急な者は前の人を避けるべく踏み出し人の間を縫うように歩いていく。
     その中に紛れ込んでいたカルナは視界に入る人間たちの目線や足先からルートを予想してぶつからないように先へ進んでいた。歩くのにまさかこれほど神経を使うとは思わなかった。いや、普通に歩く分には構わないのだ。自分の歩幅で歩こうとすると人の足並みから外れるので周囲をよく見なければならないだけで。
     首都圏に来ると人混みの中歩くのはストレスだ。母から車を借りられるのは彼女の仕事がない日に限り、今回は数日滞在する予定だったので交通機関を利用して訪れている。車で来られたらこうも苦労はしないだろう。就職活動で何度かこちらに来ているが交通機関を利用すると目的地に辿り着いたときには既に疲れていたりする。夕方ともなれば尚更だ。
     冬にもかかわらず人の熱気と暖房で建物の中は暑い。カルナの髪は一つに括られていたがそれだけでは熱を逃せず、彼は上着の前を寛げながら目的地へ歩いている間に恋人の姿を認めた。
    「アルジュナ」
     スマートフォンを見てそわそわしている様子のアルジュナに呼びかけると彼はカルナに笑顔を向けた。それからカルナの恰好を見て徐々に顔を強張らせる。
    「ぬ?」
    「寒くないんですか?」
     カルナのコートの下にあるのは真冬に着るには襟が広い長袖と薄そうなピンクのカーディガンだ。長袖に至っては胸が丸く空いているのを紐で結んである。おまけに髪は一つに括られ、首元を寒さから守るものは一つもなく白い肌が晒されているのだ。見ているだけで寒い。
    「地元よりは暑い。あちらは山だから雪も降っていてもっと冷える」
    「そー……ですけど。暑いのは違うと……温かいの間違いでは」
     首元を晒しすぎだ。他人に彼の項や首元を見られていると思うとモヤモヤする。もっと着込んでほしい。
     逡巡した後、アルジュナは肩にかけていたヒップバッグから服を取り出した。本当はもっと落ち着いたところで渡すつもりだったのだが今渡して付けてもらおう。カルナは防寒具をあまり持っていないのだ。
     きっとまだ買っていないだろうとアルジュナがクリスマスプレゼントに選んだのはマフラーである。手は繋げば温かいし、そもそも冬の彼は手が温かいのであまり必要性を感じないと言っていた。
     綺麗にラッピングしてもらったものを自分の手で破壊したアルジュナはゴミを適当に纏めると薄いピンクのマフラーで輪を作る。カルナの胸倉を掴もうとして掴めるのが紐しかないことに困惑し、仕方がないからカルナの頭を押さえて頭を下げさせマフラーに潜らせた。
     カルナはというとアルジュナが丸めた包装が気になるようで律儀に広げて小さく畳み直している。その途中で手を止めないままターコイズブルーがアルジュナをちらと見たので、アルジュナはマフラーで埋まりそうな口元にキスをした。キスをして、ここが外であることを思い出して硬直する。
    「お前のそういうところはいつまでもかわいいよ」
     畳んだものを自分の荷物にしまったカルナが目を細めた。罰が悪い顔をしたアルジュナは自分のマフラーに顔を埋めて目を逸らす。彼といると調子がどうしても崩れる。周囲のことを忘れるなんて、彼がいないところでは絶対起こり得ないのに。
    「それ、クリスマスプレゼント。本当は青にしようと思ったんですが、カルナは赤い持ち物多いから」
    「ありがとう」
     カルナが柔らかく笑んだのが分かってアルジュナは頬を微かに染めると彼の手を引いて外に出られるエスカレーターへと歩き出した。手が熱い。初めて冷たい手に触ったときよりも落ち着かない気持ちになる。
     会うのは、実は三カ月ぶりくらいだ。夏休みにカルナが就職活動でこちらに何度か滞在していて顔を合わせていた。いつもよりも短い期間の空白で会えたのが擽ったくて照れ臭い。
     カルナが先にエスカレーターに乗ったら後ろから凭れたり抱き締めたりしたくなってしまうから、自分が先を歩かなければ。なんて思いながらエスカレーターに乗るとカルナがアルジュナの肩に肘を置いて凭れてきた。
    「……危ないですよ」
     振り返らずに言ってエスカレーター横の鏡に映る己の顔を見たアルジュナは、目を見開いてから足元へ視線を落とした。恥ずかしいくらい耳まで赤かったから、恐らくカルナも気付いているだろう。エスカレーターを下りた後にカルナを見たら嬉しそうな顔を向けられて、どこに昂った気持ちを吐き出せばいいのか分からなくなる。人が多くて満足にカルナに絡むこともできないのだ。本当なら顔を合わせた瞬間も抱き締めたかった。
    「カルナは就活終わったんですよね。会社に呼び出されたとかですか?」
    「そんなところだ。代わりに春休みの呼び出しはないらしい。あと菓子と紅茶の茶葉を幾つか貰った。忘年会の景品の余りだとか」
    「紅茶……」
    「好きならやろうか? 菓子と一緒に幾らか持ってきたんだ」
    「いただきます」
     当り障りのない会話を重ねて、日が傾き暗くなりつつある中で商店街のようなところを抜けていく。どこに向かっているのかアルジュナは知らない。いや、知っているのだが、知らない。カルナが昨夜メッセージアプリで目的地のホームページや地図を送ってくれたが見ていないのである。
     建物の名前でどういう場所かは分かった。良心の呵責で見ていないだけ。
    「本当にラブホ行くんですか?」
     アルジュナは小声で訊ねた。本来であれば高校生は行ったらいけない場所だ。内緒で行くことになる。二人で暮らし始めたら利用することは滅多にないだろうから今のうちにとカルナが言ったのが始まりだ。数年前彼の母親がカルナをやんちゃだと言っていた。なるほど、やんちゃ。いいぼかし方だ。
    「お前が嫌ならやめようか」
    「嫌ではないです」
     では行こうとカルナが歩き出してアルジュナがそれに続く。手は繋いだままだ。ずっと繋いでいると暑くて、カルナに寒いと言ったもののアルジュナもコートの前を開けて冷たい空気を取り入れた。ひょっとして彼の地元が温かいのではなく彼が熱いいから暑く感じているだけなのではないだろうか。
     手汗が出ていないことを祈りながら歩く。別に手汗くらいでカルナはとやかく言わないだろうが、彼の手は温かいのにすべすべしていて気持ちがいいのだ。自分だけ手汗を掻くのはちょっと嫌だ。
    「お前の方は? 荒れてないのか」
     ここ最近のやり取りをアルジュナは振り返った。カルナとは近況報告はしあっているが愚痴の類は言っていない。きっとそのせいだろう。
     といっても愚痴を言ってないというよりは、愚痴が無いのだ。比較的平穏が保たれているのである。弟二人はある程度の自立心を持ち始め二人で行動しているのでアルジュナが構うことはなくなった。兄たちも家を出ているのでいない。三年前より静かである。今までの人生で一番苦労したのは間違いなく三年前といえよう。
    「今まで大人しかったのと、頻繁にカルナのところへ遊びに行っていたのが幸いしたようです。教訓から家事もちゃんと手伝っていたので兄たちに比べたら全然」
    「そうか、よかった。お前が受かって生活が落ち着いたらまたこちらに来る。家を決めなければならん」
     家を決めるという響きに未来が見えたようでアルジュナは口元を綻ばせた。あと半年も経たないうちに彼と一緒になれるのだ。
     その為にも決めておくことは決めておかなければ。兄たちもそうだったが、親にはいつまでに家を決めるのか、どの地域にするのかは言っておかなければならない。二人で暮らすのでアルジュナはアルバイトの給料を幾ら家に入れるのかなども伝えておく必要がある。
     そういう決めごとも今日はする予定だ。
     話をしているうちに目的地が見えてきた。自動ドアから見えるロビーは綺麗で、カルナは特に躊躇いなく入っていく。アルジュナは手を引かれて深呼吸しながらそこに踏み入れた。


     部屋に入ると入り口は玄関になっていて、何故か入ってすぐそこにまたドアがあった。カルナ曰く、声が丸聞こえにならないようにドアで隔てているのだろう、とのことである。
     ベッド以外にもソファーや小さいテーブルが置いてあり、部屋もモノクロを基調としているので綺麗だ。壁にかかったテレビは大きいし、ベッドも広い。少なくとも修学旅行で泊まった部屋よりずっと綺麗で高級感がある。
     カルナが下準備で浴室へ行っている間、アルジュナは数分探検をして、やめた。テレビはアダルトビデオが流れ、部屋のスイッチを適当に押したらカルナがいる浴室の壁が何故か透け――勿論バレていないことを信じて慌てて戻した――、ナイトテーブルの下を見ればアダルトグッズ、冷蔵庫を開ければ精力剤である。他にもボードゲームなどが置いてあったが余計なことをするのはやめておいた。
     彼が帰ってくるまでにやることといえば、カルナと話し合わなければならないことをベッドでごろごろしながら確認するくらいだろうか。アルジュナも風呂に入ろうとしたのだが別にいいと言われたので暇なのだ。夕飯のメニューはテーブルの上に置いてあるが、少し覗いたらコスプレの衣装や部屋に置いていないアダルトグッズなども並んであったのでそっと閉じてしまって読んでいない。読んでいる途中でカルナが戻ってきたときのことなど想像したくもない。頭の中でカルナが「そういう趣味とはな」と言った気がした。
     自分のスマートフォンしか信じられないという体でそればかり弄っていると、やがてカルナが浴室からバスローブ姿で戻ってきた。
    「凄いぞアルジュナ。あの風呂はスイッチを入れると虹色になる」
    「へー……」
    「ジェットもついていた」
    「へー、よかったですね」
     壁透け事件は彼の方には伝わっていないらしい。胸を撫で下ろして仰向けでスマートフォンを弄っていたアルジュナは身を起こすと部屋の中をうろうろするカルナのバスローブの紐を掴んだ。あちこち探検されてアルジュナが漁ったのがバレるのは正直いただけない。なるべく取り出したものは元に戻したはずだが。。
     アルジュナは紐をリード代わりに掴んだままベッドに横になってカルナを眺めた。先程まで一つに括られていた銀髪が団子になっていて、白い項にまとめきれなかった短めの髪が張り付いている。風呂上がりだから熱を持って少し赤くなっているのが少しそそられる。
     ナイトテーブルの下にあるアダルトグッズを発見したカルナはアルジュナの視線を受けながら電気マッサージ機のコードをすぐそこのコンセントに突っ込んだ。電源を入れてそれが振動し始めると横になっているアルジュナの頬に押し当てる。うぅ、と呻いたアルジュナはカルナの手を退けてマッサージ機を奪い電源を切った。
    「今絶対やると思いました」
    「そうか?」
     にっと笑ったカルナは上体を起こしたアルジュナを他所にまだ探検を続けようとベッドから離れようとする。彼が目を付けたのはナイトテーブル傍の壁だ。照明の類を調節するスイッチが並んでいる。無論壁が透けるスイッチも。ああそこを触ってはいけない。
     アルジュナはバスローブの紐をリードの如く引っ張った。
    「ほらそこにお座りなさい。遊んであげますから」
    「では遊んでもらおう」
     カルナは小さく笑いながらスプリングの利いたベッドに上がりアルジュナの前に座った。これではアルジュナが保護者のようだ。
     バスローブがはだけて布の隙間から白い肌が見えたのをアルジュナの手が直そうとして止まる。どうせ直してもすぐに脱がすのである。このままでいいだろう。
    「しかしお前の親もよく泊まりを許したな」
    「カルナの家に泊まるのは今までにも何度かありましたからね。羽目を外さなければいいと言われました」
     つまりアルジュナはカルナが滞在する彼の父の家へ泊まると言って遊んでいるのだろう。
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    botomafly

    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

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