それはふたりだけのひめごと 夜中に目を覚ましたリーンハルトは、パジャマのズボンがぐっしょりと濡れて冷たくなっている事に気づき、この世界が終わる程の絶望感に襲われていた。
まだ5才の子供が粗相をする事など珍しいものではないのだが、それでもリーンハルトは恐ろしかった。
ミルド王夫妻に失望される事が、お前なんかいらない子だと言われることが、何より恐ろしかった。
見回りの衛兵に気づかれないように、声を殺してべそをかきながらリーンハルトは世界地図を描いてしまったシーツを引きずり、真っ暗な王宮の廊下をそろそろと歩いていた。
どうやってこの秘密を一人で処理するかなど、到底幼いリーンハルトに思いつく訳もなかったが、それでも自分が犯した重大な失態をどうにかして隠蔽しなければと、リーンハルトの頭にはそれしかなかったのだ。
「おや、リーンハルトどうしたこんな夜中に」
その声に、リーンハルトは背中を大きく震わせた。
恐る恐る振り返れば、そこには今誰よりも会いたくなかった、誰よりも敬愛するミルド王が、カンテラを持って立っていたのだ。
「どうした、怖い夢でも見たのか?」
「あの……おれ……」
背中に隠したつもりだろうが、小さな体からはみ出したぐしゃぐしゃに丸められたシーツ、股の所の色が変わってしまったパジャマ。
そして何より、自分を見て酷く怯えているその瞳。
リーンハルトの身に起こった事を、リーンハルトがしようとしていた事を理解したミルド王はふむ、と髭を撫でるとリーンハルトの目線に合わせてしゃがみこんだ。
「のう、リーンハルト今から風呂に付き合わんか?」
「おふろ、ですか?」
「ああ、そうじゃワシ一人では寂しいからな」
呆気に取られたその小さな手を握ると、ミルドは何も言わずに王専用の浴場へと連れて行きパジャマを脱がせて湯舟に浸からせた。
「あの、怒っていませんか……」
「ほっほっほ、何のことかのう?」
おずおずと自分を見上げれるリーンハルトに、ミルド王はとぼけたように笑って見せる。
「さて、あまり長湯をしてはいかんからそろそろ上がるかな」
そう言って、従者に持って来させた新しいパジャマをリーンハルトに着せてやる。
「こりゃいかん、ワシとしたことがリーンハルトのシーツまで洗い係に渡してしもうたな、これからシーツを張り替えるのも手間じゃろうて、今日はワシの部屋で一緒に寝なさいリーンハルト」
「え、良いんですか?」
「ほっほっほ、ワシは寝相が悪いからな、蹴とばしてしまったら許してくれ」
「へへ、俺もです」
ようやくリーンハルトの体から強張りがとれて、笑顔を見せるとミルド王は安心したように微笑んで、またその小さな手を握って寝室へと向かった。