演目「口上」「探したぞ類!こんなところにいたのかっ」
昼休み、ふと思いついたアイデアを次のショーに盛り込めないかと相談すべく、文字通り学校中を探し回っていた司は、屋上にてようやく目当ての姿を見つけぜぇぜぇと乱れた息を整えた。
早速この素晴らしい案を伝えようと、座ってフェンスにもたれかかっている類に近づけばその目がとじられていることに気づく。
「なんだ寝ているのか」
よく見ればしっかりヘッドホンまでつけているではないか。
恐らくいつぞや寧々が使っていた遮音性抜群のものであろう。
ステージでの名乗り口上を類から突然頼まれ、スターに相応しいポーズとともに名乗ったものの実は遮音機能の実験だったことは記憶に新しい。
(全くこいつらは人のことを一体なんだと……)
どんどん雑になっていく自分への扱いを思い、苦々しく笑いながらとすんと隣に腰を下ろした。
そろりと寝顔に視線をやれば、目元にうっすらと隈ができている。
また徹夜でもしていたのだろうか?
「ちゃんと寝るのも仕事のうちだとアレ程言っているだろう」
風で微かに揺れるメッシュの前髪を優しく撫でながらそう呟いてみるが、起きる気配はなさそうだ。
「このヘッドホンじゃチャイムを聞く気なんてなさそうだな……」
司の声がチャイムより大きいかはともかく、この男が休み時間の終わりを特に気にしていないのは確かだろう。
ショーの素晴らしいアイデアをすぐに聞いてもらえないのは残念だが起こすのはしのびなく、かといって共に授業をサボる気はない。
ただ、せっかく会えた恋人に気付かれもしないというのはやはり残念ではあるわけで……。
しばし悩み、立ち上がる。そしてどうせ聞こえないならと
「天翔けるペガサスと書き、天馬!世界を司ると書き、司!」
最高にカッコイイポーズでいつもの口上を述べ
「そして――神代類の恋人、天馬司!!」
と早口でつけ足した。
(お、思っていた以上に恥ずかしいなこれは!!)
寝ている相手に何を言っているんだオレは、と赤く染まった顔を背けると同時に腕を引かれ、前のめりに目の前で座る男へと抱き寄せられた。
「嬉しいけどステージでその口上は笑顔の客層が変わりそうだね」
「なんで聞こえてるんだっ!」
羞恥のあまり睨みつければ「これは特に弄っていないからね」とヘッドホンを外しながら涼しげに返される。
「ねぇもう一度言ってよ、恋人の天馬司くん?」
ゆっくりと類の顔が近づく。
──もう、言うものかっ
零れた照れ隠しは重ねた唇に飲み込まれていった。