番外編:こぐまと、あたらしいふく。 子熊はのしのしと、心なし強い調子で森を歩いていた。口をきゅっとひき結び、眉をしかめて前を睨んでいる。
ケンカをした。
内容は自身の服装についてである。急に背丈が伸びたことで新調された服を受取りにいけば、前と寸分違わぬ意匠の黄色い服。さがるはそれが気にくわなかった。
この色はそもそも幼く自分のないさがるが、うっかり森で迷子になったときに土方が空から見つけるためのものだ。今や、しっかりした自分と言葉を獲得して、幼さを脱そうとしている伸びざかりの自我は、強く反抗を覚えた。
最初は丁寧に、自分にはもう必要ないから別の意匠をと提案した。服を持ってきた副長は、煙管をくわえてこちらを見ないまま、生意気を言うなと一蹴した。そこでまた、カチンときた。
そしてオオワシと子熊は言い争い――といっても、大人の一方的な通告に吠えたけるちびっこという形で――をしてしまったのだ。
口達者なさがるにしびれをきらしてでてきた拳骨から逃げ、その勢いのまま詰所を飛び出した。
それからあてもなく怒りのまま、歩いている。さがるは、何故かときおりじわっと浮かぶ涙をごしごしとこする。斉藤や篠原がいれば、土方に対する苛立ちと、好きな相手と言い争いをした罪悪感から心細さを感じているのだとわかってくれたかもしれない。しかし、最近感情の発露を覚えた子熊には、自分の気持ちを自ら察して機嫌をとる、という行動にうつるには、まだ経験が足りなかった。
ゆえに、自分が何をしたいのか分からないまま、足をうごかす。誰にも会いたくない、とだけぼんやり思い、狼のいる場所にも行けなかった。
さまよい歩いた先に、腰掛けるに手ごろな倒木があった。苔むした胴は意外としっかりしていた。座ってぼんやりと森を眺める。縄張りから飛び出して、だいぶ歩いた。さがるは今、自分がどこにいるかはさっぱり分からない。ねぐらがある以上、身の内に従えば帰ることはできるため恐怖はないが、不安はあった。
さがるは友人のおかげで「言葉」を獲得した。ずっといっしょにいた「大きなひと」とも話すことが出来た。待ち望んでいたものに不満はない。ただ、思ったよりもいろいろと上手くいかないのだ。
自分を相手に伝えることができるし、相手の自分を知ることが出来る。それによって、前よりも周囲とお互いに理解を深める――よりも、衝突が増えた気がするのだ。特に、副長の土方十四郎と。
マヨネーズまみれのものは食べたくないし、あんパンはそんなに好きじゃない。
最初に伝えたときの反応は想像以上だった。瞳孔を広げて青筋を浮かべ、震えながらマヨネーズチューブを握りつぶす様は、知識にだけある「鬼」そのものだった。オオワシに睨まれた子熊を、通りがかった狐が助け出さなければどうなっていたことか。近藤にはじめてストーカーは良くないと伝えたときは、「さがるが難しい言葉を」と涙ぐまれて別の意味で閉口したが、まだましだった。
このところ土方とは顔を合わせるたびに、ひどい口をきいてしまう自覚はあった。何かと世話を焼いて、心配して、話しかけてくれる土方のことは好きだ。だけど、我慢ができない。自分はそんなことまでされなくてもいい、と反抗してしまう。以前は何でも受け入れることが出来たのに、ひとりぼっちの心は、もしかしたら土方も以前のほうが良かったと思っていないだろうかなどという想像までかかえてしまう。
子熊は足を持ち上げて抱え込んだ。そうしていないと、熱くなった目の端から次々とこぼれそうだったからだ。あまり効果はなく、うーっと唸る。歯を食いしばった口の横を雫がつたっていった。
手首までのぞくようになった袖口で、ぬぐってもぬぐっても止まらない。こんなに手足も伸びたのに、ひとりで膝を抱えて泣いている自分の情けなさを実感して、また涙が出る。言葉を失ったかのように喉奥から唸りをあげた。
下草を踏む音を聞いて、そちらを向く。
「あ……」
きまり悪そうに頬をかいている地味な眼鏡の姿があった。さがるは慌てて顔をそらし、涙をごしごしとぬぐう。恥ずかしさで頬が熱かった。
「きみ、どうしたの? 迷っちゃった?」
茶色い帽子から茶色い耳をのぞかせ、青い袴を穿いた眼鏡は穏やかに話しかけてきた。
「……迷ってないよ」
これは本当だ。そもそも帰るべきねぐらが存在して、それを知覚する自分があるのだから「迷う」ことはありえない。やはり己はいまだ自分がなく言葉もない幼いひとに見えるのだと、さがるの目にぶわっと涙が浮かんだ。眼鏡が慌てている。
「あっそうか! いやごめんごめん! 違うんだって!」
泣く子をどうすればと考えを巡らせたらしい先で何かに気づき、子熊に近寄る。
「きみが一人前なのは分かってるよ。ただ、その……こっちの知識はまだ浅くて」
いったい何を言っているのだろうか。さがるが訝しんで様子をうかがうと眼鏡はにかっと笑った。
「僕は志村新八。きみは?」
「……さがる」
さがるくんか、とほっと息をつく新八は、帽子から耳こそ生えているものの尾がなく、何の動物か一見してはわからなかった。新八はさがるの隣に腰掛ける。
「泣いてたみたいだけど……どこか痛い?」
首を横に振る子熊に、そっか、と眼鏡はまた安堵している。その後しばらく、ふたりは並んで座っていた。
さがるは不思議だった。目の前の新八はただそこにいるだけで、かわした言葉は最低限だ。しかし、心は落ち着き始めていた。
「あの」
「うん?」
くりっとした目をこちらに向ける新八に、さがるはおずおずと尋ねた。
「このあたりが、縄張りですか?」
「いや、ええと、もう少し先の? ほう? というか、僕のものじゃないしなあ……」
もしかして失礼をしたのではないかという気付きと怯えからの質問に、新八が疑問で答える。子熊は首を傾げた。うーん、と考え込んだ後に、眼鏡はまた何かに気づいた様子で、あ、そうか、とつぶやいた。
「別にここにいても僕は怒ったりしないけど……、他のひとが来るかもしれないから。ちょっとウチにこない?」
ね? と差し伸べられる手に、さがるは目を丸くした。初対面のひとを自分の休息場所であり、ときに取り合いすら発生するねぐらに案内するようなひとがいるだろうか。やはり舐められているのだろうか、とも思ったが、新八にそのような様子は見えない。
そっと、手を握りかえす。相手は穏やかに微笑んだ後に、じゃあ行こうか、と声をかけた。
みちみち歩きながら、自分が真選組の一員であることを話すと新八は驚いた。
「えっ、じゃあ近藤さんや土方さんの……」
「知ってるんですか?」
「まあ、少し……?」
あはは、と、新八はどこか遠い目をしている。何かあったのだろうか。不安になって隣を見上げる。
「あ、れ……? 真選組で、さがる……。あの、もしかして君ってクマだよね」
「……そうですけど?」
耳と尾を見て分からないのだろうか。と、いってもさがるからも新八が何の獣か未だ検討がつかないのだが、棚に上げた。ふいに新八が足を止める。手を繋いだままのさがるも止まり、ふいに手が離れて向かい合う形になった。眼鏡の奥のはしばみ色が、まじまじと子熊を観察する。
「……君、前によろず屋に来た、あの子?」
さがるはまたたいた。何を言っているのか咄嗟に理解が出来ず、おくれて飲み込めたのは「よろず屋」の単語だった。今の境界の「番人」がねぐらとしている「甘味屋」とつけられた奇妙な邸だ。さがるが尋ねたことはない。
なんでも一番の保護者である土方は、個人的に「番人」と反りが合わないらしく、用で尋ねるときは近藤、もしくは代理を頼まれた篠原が向かっていた。少し前まで自分がないと思われていたさがるは、連れて行かれることはなかった。余談だが、嗜好品であるあんパンやマヨネーズなどは、そこからの土産であることが多い。
「あっ、覚えてないのか! ごめん、忘れて」
新八ははっとして口をおさえる。ぽかんとしているさがるに向かい、慌てて弁解する。その後、あらためてまじまじとさがるを頭の上からつま先まで見て、微笑んだ。
「そっか、ずいぶん大きくなったから分からなかったよ」
頭を傾けている子熊は、その言葉に少し自尊心をくすぐられる。が、すぐにうなだれた。天国から地獄の様子に、新八はふたたび焦った口調になる。
「あのー、さがるくん。僕、変なこと言った?」
首をぶんぶんと振る子熊の頬はふくらんでいた。
「……副長は全然言わない」
唇をとがらせて、それだけをこぼす。新八は少し黙ったあと、かがみ込んでさがると目線を合わせた。優しい声で語りかける。
「言わないだけじゃないかなあ」
「……お前にはまだ早い、生意気だって」
あらら、と新八はため息をついた。立ち上がるとふたたび手をつなごうと促す。さがるは大人しく従った。
「そうだね。それは土方さんがよくないね」
最初に投げられた同意に、さがるは驚いた。はっきりと、副長をよくないと言い切った言葉を初めて聞いた。
周りは自分と土方がなにやら揉めても笑って見ているだけだし、飛び出して狼などのところに行って帰ってくると、何かしら土方が周りに言ったのか。元気がないから声をかけてやってくれなどと頼まれる。
みんなの必死さにしぶしぶ声をかけにいくと、オオワシはまったく平気な顔と声で「また勝手に遊びに行きやがって」などと説教をし始めるものだから、最近は周りの頼みも億劫で逃げていた。
「ウチでしばらくゆっくりするといいよ。甘いものもあるし」
目頭がまた熱くなってきて、子熊は頷くしかできなかった。
新八が、邸に「ただいま戻りました」と声をかけたことで、さがるは驚いた。「番人」のねぐらが帰る場所ということは、新八も「番人」であるということだ。目を丸くした子熊に新八はなにやらを察して苦笑する。
「住んでるわけじゃないんだよ。ここで働かせてもらってるだけ」
働くということは、役目を頂いているということでそれはやはり「番人」ではないかと思ったのだが、眼鏡はそれ以上を話さず、さがるを招き入れた。
「銀さーん、ちょっとお客さんいれますよ」
玄関先からふたたび手を繋がれる。新八は通る声で奥に呼びかけた。返事はないが、よし、とつぶやいてからさがるの手を引いた。
「お茶とお菓子持ってくるから、ここで待っててね」
見たことのないふかふかした椅子に座らされたさがるは、無言でこくこくと頷いた。通されたおそらく客間には、万斉のねぐらにあったような珍しいものが無造作に転がっている。「境界」を自由に行き来し、越えても良いとされる唯一の存在の「番人」のねぐらだから当然なのかもしれない。好奇心がおもむくままに動く性質のあるさがるも、さすがに初対面の、それも格上の存在の持ち物と思えば気がひけた。縮こまって座っていると、戻ってきた新八が笑った。
「そんなに緊張しなくて良いんだよ」
はい、と、目の前にお茶と白くて丸いものを並べられた。新八は向かいのふかふかした長椅子に座る。おまんじゅうだよ、美味しいよと促し、自分の白いものにかぶりついた。子熊はおずおずとならい、かじりつくと、ふわふわもちもちとした生地と餡の甘さに夢中になった。旺盛な食欲を新八が微笑ましく眺めていると、襖が開いた。
「おいおい、俺の分は?」
ぼりぼりとあわせに手を突っ込んで腹をかきながら、銀髪の男は二人が食べるまんじゅうを睨む。
「糖尿はお茶だけすすってください」
「俺が家主で作った人なんですけどォォ!?」
新八の冷遇に吠える銀髪の頭には揃いの丸い耳が生えていた。裾からのぞくのは銀色と黒の縞模様の長い尾だ。どうやら白い虎らしい。
ったく、とぼやきながら手ずからお茶を入れているこの男性が家主――「番人」であるらしい。さがるはまんじゅうを置くと、姿勢を正して頭を下げた。
「お邪魔しております」
折り目正しい挨拶に、銀髪は一回またたく。
「何このおガキ様。どこの誰?」
「さがるくんです。真選組の。ほら、戦争の後に土方さんが……」
あまり意味をなしてないひそひそ話に、さがるの耳がぴくりと動いた。
「俺、ここに来たことあるんですか……?」
いぶかしそうな、心細そうな声に、眼鏡は頬をかいて苦笑し、銀髪はけだるげにあくびをした。
「覚えてないのも無理はねえか。お前ミジンコサイズだったし?」
「んなわけねーだろーが! ……そうだね、一回ここに来たことがあるんだよ。さがるくんは」
ツッコミのあとに、新八はため息をついた。そーそー、と隣で銀髪は鼻をほじる。
「お前が生まれたばかりのときに、多串くんが連れてきてんだよ」
「誰だァ多串って! っていうか、喋っちゃっていいんですか? さがるくん覚えてもないのに」
「時効だろ時効」
「でも土方さんは、というか時効とかあるんですかこっちには」
新八は番人が、ぴん、と鼻くそを飛ばすのを避けた後に、きったねーなオイ! とちり紙を寄せる。あの、とさがるが切り出した。
「俺、聞きたいです。何で俺、ここに来たんですか?」
さがるの真剣な目に銀髪はニヤけ、新八は少しだけ眉を下げた。
双方の世界が大きな打撃を受けた大きい戦の処理もまだ終わっていないころ、真選組副長・土方十四郎が幼いひとを抱えて、できたばかりの「よろず屋」を訪れた。戦で知り合い、後に「番人」となった坂田銀時を訪ねてきたのだ。
この子熊――さがるはウチで面倒を看たい。そう言って、深く頭を下げた。
会えば戦の最中であろうが喧嘩腰、足を引っ張り合ってつっこまれることすらあった反りの合わない相手のいつにない様子に腰を抜かしかけたのは隣にいた新八で、銀時は落ち着いたものだった。
未だ戦の傷跡も癒えぬなか、真選組は新しい「番人」の補佐として、巡回を含めた任を今まで通りに続けてもらうことが決まっていた。幼いひとを保護し、世話をするのは他のひとに任せるのが合理的であり、道理であった。しかし、どうしても、なのだという。理由も言わないまま、ただただ頭を地にすりつけて、プライドの高いオオワシが頼み込んできた。
思い返せばそもそも、誰が誰の保護をして、世話をすることは、別に「番人」が管理することではない。申し出なければ、気づかなかっただろう。だが、この男はそれもよしとしなかったのだ。
ケジメだろうな、と銀時はつぶやいた。子熊を手元で育てる許しを請いにきたのではない。土方十四郎は「真選組の一員としてさがるを迎える」ということを、任を背負う身として伝えに来たのだ。
銀時は、それを受け入れた。
「ヤローがなんでそうしたかったのか、俺は知らねえ。知る必要もねえ。あの男が軽くない頭を下げてまで、お前を受け入れたかった。それだけの話だからな」
銀時はお茶をすすりながら、いつのまに手のうちに仕入れたのか、あんパンを頬張っている。新八はそれを見とがめた様子だったが、ふう、と諦めて肩を落とした。さがるくん、とうつむいている子熊に声をかける。
「土方さんは、君のことを真選組だと誰よりも思ってるんじゃないかな。だからよく叱るし、気にかけてる」
こくり、とさがるは頷いた。
「たくさん話してあげなよ。また土方さんが怒ったり、生意気だって言われるかもしれない。でも、土方さんは言葉のままの、それだけを言いたいんじゃないと思うよ」
子熊はぐっと唇を噛み締めた。いろいろな想いがわきあがって、小さな胸と喉を押さえつけている。
そのとき、がらりと玄関の開く音がした。
「ただいまヨー!」
声と一緒にぱたぱたと走る音がして、ほどなく客間にひょこりと朱色の頭と長い耳をはやした少女が顔を出した。
「菓子の匂いがするアル! 私にもよこすネ!」
「わうん」
その後ろから巨大な白い毛玉が顔をのぞかせる。瞬間、さがるの頭に記憶が流れ込んだ。
生まれたばかりのさがるは、連れてこられた邸の縁側にぼんやりと腰掛けていた。手にはあんパンがある。先ほど、これでもどうぞと眼鏡からもらったものだ。しかし、子熊はまだ食べることもよく分かっていない。持たされたものをただ持っているだけだ。
両手にあんパンを持って、どこも見ていない黒い目は「境界」を示す霧の向こうを見ている。見ているうちに心の奥で誰かの声がした気がして、口を開けた。
そして、暗黒に飲み込まれた。
「定春、変なもの食べたらメッ!」
突然の暗闇に驚くひまもなく身体を振り回され、すぽーんという音とともに発射される。ずぼんっ! と何か柔らかいものの中に着陸、もとい埋もれた。鼻孔を満たすのは甘い――を通り越して甘ったるさの暴力というべき匂い。けふ、と咳き込みながら危険から逃れようと動くと、目の前に白い毛玉がいた。本能的恐怖から頭をひっこめようとして、そのまま、食われた。
そこからの記憶がない。ただそれから、あんパンを見て匂いをかぐと、顔が青ざめるようになった。
刹那のあいだに流れ込んできた恐怖の記憶に、さがるは飛び上がった。がうー! としばらく忘れていた獣の声をあげて、客間から飛び出す。さがるくん!? と新八が叫ぶのを背に、来た道を戻り玄関まで走った。大きな扉を開け、駆け出そうとして何かに抱きとめられた。
「――さがる!?」
聞き覚えのある声に、顔をあげる。瞳孔を驚きで大きく開いた土方がいた。
「あれ、土方さん?」
ぱたぱたと後ろを追ってきた新八が呼びかける。その後ろをゆるゆるとついてきた銀時は、二人を認めるといやらしい笑みを浮かべた。
「なーに多串くん。わざわざこんなトコまで来ちゃって。あ、もしかしてさがるくんが何処にもいないから此処なら分かると思ったんですかー?」
「なっ、バッ、テメー……!」
土方は言葉に口をぱくぱくさせたかと思えば、ギリギリと歯ぎしりをしだした。さがるをだきとめていた手が拳を握り、殺気を放っている。
オオワシの頬には、汗が光っていた。腰にいつもくくりつけている煙管は見当たらない。室内ではしまう大きな翼は広がったままだ。
それらを認めたさがるは、土方の腰に抱きついた。衝撃にオオワシは、拳をほどいて子熊を見る。
「ふくちょー、帰りましょ」
ぎゅっと抱きついたまま、顔を見せずにさがるは言った。土方は気の抜けた表情を一瞬見せてから、銀時をにらみつける。
「……貸しはすぐ返す」
「あーはいはい。さっさと迷子のおまわりさんを家に帰せよ」
面倒くさそうにひらひらと手を振る銀時に、土方が中指を立てる。新八は呆れた顔で笑っていた。
いつもどおり背中にさがるが捕まると、ん? と土方は首を傾げる。
「重くなったな?」
「大きくなったんです!」
むすっと頬をふくらませる子熊に、オオワシは前を向いてから笑み崩れた。
「そうか、……そうだな」
詰所に着くと普段どおりの風景が広がっていた。近藤も篠原も斉藤も、二人におかえり、おかえりだZとそれぞれ挨拶をしてくれて、沖田は昼寝をしている。さがるは仲間たちに挨拶をして、部屋に戻る。
そこには飛び出す前に新調してもらった服があった――様子を変えて。
土方の纏うような黒い肌付きに、短くて黄色い貫頭衣が添えてある。さがるは目を丸くしてから、おそるおそる服に近づいた。持ち上げて身体にあわせ、間違いなく自分の着丈であることを確認する。
しばらくしてから、新しい衣装で副長の自室まで駆け出す子熊の姿があった。