全身を駆ける鋭い痛みで、ギコヤは目を覚ました。
それはすなわち、思念体であるギコヤが依り代とする肉体の本来の持ち主が意識を失ってしまった、という緊急事態である。
そのことを理解しているギコヤは、所有権を得た肉体を通して、眼球だけを動かして周囲を見渡す。
すると、すぐに答えが出た。
どういう経緯かまでは不明だが、肉体の本来の持ち主がよくつるんでいる人間に異常が起きているらしい。
猫を模したアーマーに身を包んだ人間は、上体を前屈みに、両腕をだらりと垂らし、ゆらゆらと不安定にゆれている。
普段から挙動が面白い部類の人間ではあるが、それを差し引いても様子がおかしい。
頭部は地面へと向いていたが、もとが獣であるギコヤには、猫型のメットの奥の眼光がこちらに向いていることに気がついていた。
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