まるで、ゴーストタウンのようだった。
アニマルシアの文化や生活様式はよくはわからないのだが、
それでも、ここが集落にあたるものだということは人間であるニャンパルサーにも理解できた。
つい先ほどまで、現地民が生活していたかのような空気が漂う。
その中に明らかな異物があった。
街の広場のような場所に、ニャンパルサーと似た背格好の無機物なヒトガタが佇んでいた。
「ワンパルサー……」
「ふん、遅かったな。」
わかりやすくおびき寄せてやったつもりだったのだが?
と、純粋な疑問を投げかけてくるワンパルサーに、ニャンパルサーは小声でうるせーな……と呟きながら視線を斜め下に外した。
センサーは良好だったのだが、マップが複雑に表示されてしまい少し迷ってしまったのと、街が気持ち悪いほど静かだったので、反応がダミーなのでは?待ち伏せをされているのでは?と、いつも以上に警戒をして無駄な探索をしてしまった…。
と、つい数十分前の自分の様子を思い返しながら、これを格好悪くない感じに説明するのはちょっと無理があるよなぁ…などと考えつつ、口を尖らせているニャンパルサーである。
メット越しでは変身者の表情が相手に割れることはない…の、だが。
額の猫の顔が「=・3・=」となっていることを、変身者自身が認識することもできないのである。
そんなニャンパルサーの様子を見て、詳細はわからない(知りたくもない)ものの、
大筋を理解してしまったワンパルサーが、あからさまに大きなため息をついた。
「はぁ………、本当に緊張感の無いやつだな。」
片手で額をおさえて首を横にふりつつ、やれやれ、という動作をした。
その時である。
コツン。
ワンパルサーのボディに何か硬いものがぶつかった音がした。
石。ニャンパルサーの感覚からすると小石。
正直、変身前の生身の人間の状態であたっても全然痛くなさそう。それくらいの威力。
それでも、石は石なので、金属めいたワンパルサーのアーマーに当たると、それなりの音がしてしまう。
その音はニャンパルサーの耳にしっかりとキャッチされた。
少し体を傾けると、クロスケぐらいのサイズの犬っぽい生き物がぷるぷると震えているのが、バイザーごしに見えた。
あ、なんだ現地民か。ぷぷぷ。ワンパルサーのやつ仲間?にも嫌われてやんの。
と、ニャンパルサーがいつもの調子で悪態を突こうとした途端。
どうしたことだろう。
軽いめまいに襲われて意識が遠ざかるのと同時に、
瞳孔が開く音を、たしかに聞いた気がした。
ワンパルサーも同じように背後の存在を視認したが、彼がその存在を害することはなかった。
姿は違えど同族だから、というのももちろんあるが、
なにより、自分の脇をとんでもない速さですり抜けようとした青黒い塊を取り押さえることに全神経を集中させる必要があったからだ。
爆発のような音と衝撃波が何発かその場から放たれる。
ワンパルサーに石を投げた現地民は、その音と光景に驚き、一目散に逃げていった。
2つの無機物な塊は土煙の中で緑と赤の閃光で線を描きながら拮抗していたが、
意志を持った動きをしている赤が、わずかに先を取り、青黒い無機物を地面に叩きつけた。
バキバキと街の広場の石畳が波打ちながら崩れ、土煙が霧散していく。
その衝撃の中心にはワンパルサーがニャンパルサーの頭部を地面に押さえつけながら片膝をついていた。
「機械と変わらん動きをしているような奴に、遅れをとる俺ではない…。」
ワンパルサーは肩で息をしながら、投げ捨てるようにニャンパルサーの頭部から手を離す。
自分の望み、そう。唯一の存在になるなら、ニャンパルサーが気を失っている今が絶好のチャンスだ。
しかし、ワンパルサーはふらふらと立ち上がると何処かへ去っていってしまった。
彼が何を思って、ニャンパルサーを見逃すことにしたのか、
その真意はワンパルサーのみが知るところである。