あつあつ「……それ、ホットにする意味あるか?」
熱々のコーヒーにしつこくしつこくふーふーと息を吹きかけていたら、ハンサムが半ば呆れたような顔でこちらを見やった。
奴の手元には湯気が立ち上るマグカップが握られている。そして俺の手元にも同等に熱いコーヒーが、揃いのマグカップに収まっている。
「そんなに冷ますくらいなら最初からアイスにでもすればいいじゃないか」
ハンサムはそう言いながら、同じタイミングで入れたはずの熱いコーヒーをぐーっと一息に飲み干してしてしまった。信じられねぇ。火傷で舌がベロベロになりそうだ。
「熱いのが飲みたいときもあるだろうが。そういうときにぬるいコーヒーが出てきたらテンション下がるだろ」
「えぇ……? そもそも熱いのが飲めないくせにか?」
「それとこれとは話が別なんだよ。お前、ぬるくなったビール飲めんのかよ」
「それこそ話が別じゃないか」
ぬるいビールを想像したのか俺の口先三寸に呆れたのかは分からないが、ハンサムは酷く顔を顰めた。いつもの、お前の考えることはよく分からないという顔だ。
「あとは……そうだな。同じものが飲みてぇじゃねぇか、お前と」
「……は?」
ハンサムは顔を顰めたまま首を傾げ、非合理的だぞと非難がましい目で俺を睨んだ。口説いているのが全く伝わっていない。
他に言うことはないのかと今度は俺の方が顔を顰めてしまったが、この朴念仁に期待するだけ無駄なことを今更ながら思い出した。
「何でもねぇよ」
呆れ半分に再び熱々のコーヒーに息を吹きかけながらそう言うと、ハンサムはしばらく無言で俺の顔をじっと見た。十年来の付き合いがあるとはいえ、あの大きな目で穴が開くほど顔を見られるのは居心地が悪い。
思わず視線を逸らすと、しばらく時間を置いたのち、「ふふ」と軽やかな笑い声が聞こえた。
「何だよ」
声に釣られて視線を戻すと、ハンサムは俺の顔を見ながら気恥ずかしそうにはにかんだ。
「……次はもう少しゆっくり飲もうかな」
無邪気な少年が好いた相手に向けるような、どこか照れ臭そうで幸せそうな笑顔だった。
破壊力抜群の不意打ちに、俺がマグカップを取り落としかけたのは言うまでもない。