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    卯月たまご

    成人済腐女子。降新を書いたり、たまに描いたりする文字書き。

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    卯月たまご

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    『セックスもしくは片方が片方の命を奪わなければ出られない部屋(ただし仮想空間なので現実には死なない)に送り込んだ任意の2名の選択について。』
    というお題?に沿ってヤンデレについて考えてみたお話。ちょっと物騒です。いちおう両片想い。

    #降新
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    ヤンデレとは🤔🤔🤔『───こちらは二人でセックス、もしくは片方が片方の命を奪わなければ出られない部屋です。なお、ここはあくまでも仮想空間ですので現実世界においての童貞、処女、及び命に関しては失われることはありませんので、ご安心下さい。』
     
     何もない真っ白な部屋のど真ん中に設置された台の上のモニター画面に表示された文面を読んで、降谷は深々と溜め息を吐いた。
     急ぎの案件が報告待ちという段階まで進んで、少しくらいは仮眠してもいいだろうと警察庁内の自席で目を閉じたら、これだ。
     何もない部屋───いや、ひとりだけ同じようにこの部屋に呼ばれてしまったのだろう人物がいる。
    「おーい、工藤くん。起きてる?」
    「……起きては、います。さすがに突っ立ったまま寝る趣味はありませんよ」
     降谷の直ぐ横で呆然と佇むのは、久し振りに顔を合わせる高校生探偵の工藤新一だった。
     よりによって彼とこんな部屋に巻き込まれるとは。
     このテの『出られない部屋』に関する案件は、近年急増していた。それでいて何ひとつ解決策は導かれていない。
     ただ分かっているのは、指示された内容さえこなせば確実に部屋から出られる、それだけだ。
     モニターを挟んで右側にはキングサイズもありそうな立派なベッドがひとつ。
     そうして左側には、山のように殺傷能力のありそうな様々な品物が積まれていた。ナイフや包丁、金属バットなんて分かりやすいものから、果てはフライパンまで混じっているのだから笑えない。殺人願望のある異常者であれば酷く喜びそうな部屋だ。
     降谷が徐ろに左側の山に近付けば、新一が慌てて後ろを追い掛けてきた。
    「あの、降谷さん……」
    「大変に遺憾だし不本意だけれど、指示に従いさえすれば必ず外には出られるから、安心して」
    「それは、分かってるんですけど……」
     足で山を崩しながら凶器の物色をしていると、なかなか良さそうなものが見つかった。
     ひょいと拾い上げて、目視で分かる範囲で状態を確認する。
     H&K P7M13。
     降谷が私物として好んで扱っている型だった。
     警察の支給品として有名なニューナンブM60でもなく、わざわざこんな逸品が用意されているだなんて、悪趣味にも程がある。
    「……うん、問題なさそうだ」
     軽く点検を済ませたそれをすっと差し出せば、思わず、といった様子で両手で受け取った新一が、「うわぁ!?」、叫び声を上げた。
    「なんてもん渡すんですか!」
    「君なら扱えるだろう」
    「そういう問題じゃなくて!」
    「ここにあるやつの中で、それが一番確実に一発で殺せると思うよ」
     殺傷能力だけで言えば他にも適した武器が無くはないけれど、手応えを感じてしまうようなものは避けるべきだろう。
     拳銃ならば至近距離から引き金を引くだけで簡単に即死させることが可能だし、撃った瞬間に目を閉じてしまえば死に様を目にすることもあるまい。
     正面から撃てば、身体に空く穴も最小だ。弾丸というものは体内で弾けるものが多いから、貫通した背中側のほうが酷いことになるのだ。
    「なんで、勝手にそんな……っ、」
    「だって僕、君を殺すなんて嫌だもの」
    「そんなのオレだって嫌です!」
    「じゃあセックスする? 僕は別にそっちでもいいけど」
    「せ、……ッ⁉︎」
     案の定、新一の顔が真っ赤に染まった。
     まぁそんな選択肢、初めから選ぶ気などないのだけれど。
     ぱくぱくと口を開閉させるだけで何も言えなくなってしまった新一をよそに、降谷はモニターの横に置かれていたリモコンを手に取った。
     まるでテレビのチャンネルを操作するためにあるようなそれは、試しにボタンを押してみたら本当にモニターの画面が切り替わるのだ。
    「あぁ、なるほど」
     適当にボタンを押すと次々に表示されるのは、それぞれの武器の使い方だった。ときにはレクチャー動画混じりのそれに、思わず乾いた笑いが漏れてしまった。
     なんともご丁寧な配慮である。この部屋に入れられたのが猟奇的な人物であれば、目を輝かせて喜んだことだろう。
     何せボウガンや猟銃など、本来なら一般人が気軽に手に取ることは出来ないような代物まで、説明書ならぬ動画付きで用意されているのだから。
     ぴっ、ぴっ、と一定の速度で画面を切り替えていたら、突然肌色が映り込んだ。
     まさかのセックスのレクチャー動画まで用意されていたのだ。
     男女のそれから次に進めると、男性同士、つまりアナルセックスの講座まで始まるのだから、単純に感心してしまった。
    「工藤くん、男同士がどうやってセックスするか知ってる? こうやってアナルを洗浄して、」
    「降谷さんのバーロー‼︎」
     突然横から体当たりを受けて、リモコンが奪い取られてしまった。
     ぴぴぴぴっ、と画面が高速で切り替えられていくのを、降谷は遠慮なく笑いながら見守る。
    「それで、どうする? 僕を殺すか、僕とセックスをするか。準備の手間暇を考えたら、それでずどんと一発で終わらせる方が簡単だと思うけど」
    「だから……ッ、なんで、オレなんですか! 降谷さんのほうがこういうの、使い方も慣れてるじゃないですか!」
    「そりゃあ君よりはね。人を殺すことにも慣れているとも」
    「……っ、」
     新一が言おうとしなかったことを、あえて口にしてやるのは意地悪でしかなかった。
     降谷とて幾度か発砲経験はあるけれど、拳銃を使って直接人を殺したことなど一度としてない。どちらかと言えば降谷の一番殺傷能力の高い技術は、情報操作だったからだ。
     それを新一に伝える気はないけれど、勘違いさせたままでもいいだろう。それさえも利用してやろうじゃないか。
    「それでも僕は、たとえ仮想空間だとしても君を殺すなんて嫌だ。君だけは、嫌だ」
    「降谷、さん……」
    「少しでも僕を憐んでくれるのなら、君だけは殺させないで」
     我ながら卑怯だと思う。
     明確に想いを伝えるわけでもないのに、彼の優しさにつけ込んで罪悪感だけ煽ろうと言うのだから。
     ───彼のことが好きだった。
     こんな馬鹿げた仮想空間で、現実の世界には何の影響もないと言われても彼を抱くことも殺すことも出来ないくらいには、好きだった。
     想いを伝える気はない。彼の隣に並ぶには、あまりにも降谷の生き様は汚れ過ぎている。直接この手を下したことはないけれど、立場に守られていなければ立派な殺人者だ。それだけのことをして来た。
     すべて降谷自身が選んで行って来た、この国を守るための正義だ。かの組織を潰すことに関して言えば、彼を守ることにも繋がったのだから、悔いなどひとつもない。
     それでも、厚顔無恥にこんな手で彼に触れることなんて、降谷にはできない。
     だからこの恋心は、一生秘めていくと決めている。
     彼の幸せを遠くから見守ることさえ出来れば、降谷は満足なのだ。
     仮想空間といえど、彼に触れることなどしたくない。殺すだなんて以ての外だ。
    「……自分は嫌だと言っておいて、オレには殺せって言うんですね」
    「言うよ。君だって仮想空間とは言え、僕とセックスするよりはましだろう」
     持て余すように手のひらに載せたままの拳銃を見下ろす新一の手を取って、無理やりグリップを握らせる。
    「君でもスクイズコッカーの銃なんて初めてだろ。こうやって握るだけで射撃可能になるから、ダブルアクションが必要になるやつより命中率が高いんだ」
    「降谷さん」
    「まぁ少しばかり癖はあるけどね。使い慣れると結構いいものなんだよ。製造が終わってしまったのが残念だけれど、」
    「降谷さん!」
    「なぁに?」
     今にも泣き出しそうな顔で見上げてくる新一に、降谷は殊更優しく応えてやった。
     現実世界に影響はないと言っているのに、それでもこんなに嫌がってくれるのか。
    「ほら、腕を伸ばして、しっかり握って。撃ち抜くのはここ、心臓。引き金を引き切るまではちゃんと目を開けてて。撃ったら直ぐに目を閉じること」
     想いを叶えたいなんて微塵も思ってはいないけれど、ほんの僅かにでも、彼の心に傷になれたら。
    (そのくらいなら許されるだろう?)
     どれほどの重犯罪人の命さえも、罪は法廷でこそ裁かれるべきだと掬い上げて来た彼に、殺されたい。
     それは彼とセックスするよりも、よほど降谷に興奮と恍惚を与えてくれるだろう。
     たとえそれが仮想空間であったとしても、この嫌がりようだ。きっと彼に一生忘れることの出来ない衝撃を与えることが出来るはず。
     思わず緩みそうになる顔を、なんとか引き締めた。
    「工藤くん。ここで経過する時間が、現実世界にどれほどの影響を与えるか分からない。申し訳ないが、僕は緊急案件に関わっていた最中なんだ。こんなところで無駄に時間を浪費したくない。……協力、してくれないか」
     留めとばかりに言葉を重ねて、拳銃を握らせた震える手を包み込むようにして撫でてやる。
    「早く、こんな馬鹿げた空間から出よう。今の案件が片付いたら、久し振りにご飯でも食べに行かないか?」
    「……高い、肉がいいです」
    「分かった。戻ったら直ぐに予約をしておこう」
     深呼吸をひとつ、新一の手の震えが収まった。
     優しい子供は、降谷のために降谷を殺す決意を固めてくれたのだ。
    「降谷さん。せめて、目を閉じていてくれませんか」
    「閉じなきゃ、駄目?」
    「幾ら仮想空間と言われても、こんなふうに目を合わせたままじゃ、引き金なんか引けません」
    「分かったよ」
     そのくらいは彼の要望に応えてやるべきだろう。降谷は徐ろに目を閉じて、両手を降参の形に上げてみせた。
    「カウンドダウンは、必要かい?」
    「……お願い、します」
    「じゃあ行くよ……さん、にぃ、いち」
     ───ぱぁん!
     だだっ広いだけの真っ白な部屋に、一発の銃声が響いた。
     
     
     *******************
     
     
     がばっ、と身を起こすと、そこはリビングのソファの上だった。膝の上から読み掛けだった上製本が滑り落ちて、ごとりと重い音を立てる。
     ───なんて悪趣味な夢だろう。
     新一とて、『例の部屋』などと呼ばれる怪奇現象の噂自体は知っていたけれど、よもや自分が巻き込まれることになろうとは。
     ましてやあの降谷と一緒に、だ。
    「……何が君だけは嫌だ、だっつーの」
     本当にタチの悪い男だ。あれだけ熱い目線で新一のことを追いながら、指一本すらまともに触れようとしないのだから。
     あんな仮想空間に放り込まれても、迷うことなく新一に殺されることを選ぶし。
     なんだってあの男は新一のことをあんなに神聖視しやがるのか。本当に理解が出来ない。
     一瞬だけワンチャン、なんて期待をしてしまった自分が馬鹿みたいだ。
     せめて、現実でなくとも降谷に、触れられたかった。
     あの男の熱を、感じてみたかったのに。
     どうせ降谷のことだ。新一に自分を殺させて、悦に浸りたかったのだろう。新一の探偵としての不殺の矜持を良く知るからこそ、尚更。
    「ざまあみろってんだ!」
     ぼすり、と再びソファに背を預けたところで、けたたましくスマートフォンが着信音を鳴らし出した。相手なんか見なくたって分かっている。
     テーブルの上の、すっかり冷め切ってしまった珈琲を啜りながらしばらくぼうっとしていると、外から唸るような排気音が聞こえて来た。
     住宅街を爆走して来たのだろうな、と思うと笑いが込み上げて来るようだった。
     仕方ないから出迎えてやるか。
     新一はゆっくりと立ち上がって、玄関に向かう。
     タイミング良く、玄関扉が激しく叩かれた。たぶん一分も放置すれば蹴破ってでも無理やり押し入って来そうな勢いだ。
    「ちょっと待って下さい」
     外に声を掛けてから、がちゃりがちゃりと二重に掛けたロックを外して行く。
     途端にがちゃりと開けられた扉から、ひとりの男が乱入して来た。
     胸倉が掴み上げられ、どん!、と玄関脇の壁に叩きつけられて、堪らず咳き込む。男の力は緩まない。
     鼻先が触れそうなほどの距離で、男が低く唸った。それが心地良くて、新一は呼吸を妨げられながらも思わず笑ってしまった。
    「無事に脱出できて、良かったですね」
    「……君を、殺してやりたい……!」
    「あの後、すぐに出られたんですか?」
    「あぁ、出られたとも! 頭半分吹っ飛んだ君の身体を支えたところで、すぐにな‼︎」
    「あはは、さすがの降谷さんも脳漿が飛び散る瞬間なんて見たの、初めてだったでしょ!」
     あの部屋からの脱出条件は二つ。
     ひとつはセックスをすること。
     もうひとつは、片方が片方の命を奪うこと。
     片方がA、片方がBとして、AがBを、もしくはBがAを、という指示まではされていなかった。
     ───だから新一は、己の頭に銃弾を撃ち込んだのだ。
     あの少し特殊な拳銃で良かった。重い撃鉄を起こす必要もないし引き金も軽かったから、こめかみに当てたまま酷く簡単に撃つことができた。
     降谷によってトラウマを植え付けられるところを、新一は逆に植え付けてやることに成功したのだ。
    「いたいけな高校生に酷いことをさせようとするから悪いんですよ」
    「いたいけな高校生は優しい大人に酷いことをしない!」
    「優しい? 何処が。オレにあんたを撃たせようとしていたくせに!」
    「早く、確実に脱出するためだ! それをあんな、確証もない一か八かの方法で‼︎ ……かんべん、してくれ……」
     胸元が緩められたと思ったら、降谷がずるずると崩れ落ちて行くではないか。
     仕方なく新一もしゃがみ込んでやれば、すぐさま長い腕が巻き付いて来た。そのまま二人して玄関マットに上に転がる。
     新一を強い力で抱き込む降谷から、小さな嗚咽が聞こえて来たことに、じんわりと滲んで来たのは確かな喜びだった。
     我ながら性格が悪いと思う。
     けれど、新一にここまでさせたのは降谷なのだ。新一は悪くない。
    (ようやく、触れてくれた……)
     それが嬉しくて、きっと無様に歪んでいるだろう男の顔を見てやろうと覗き込んだところで、唇が塞がれた。
     早急に潜り込んできた舌先を、少しだけ戸惑いながらも受け止める。どうせなら初めてのキスはロマンチックなものが良かったのだけれど、仕方あるまい。
     どうにか自由に動く手のひらを男の広い背中に回して、口付けを堪能させてもらうことにする。なんだか色んなものをすっ飛ばしてしまったけれど、結果オーライだ。
     やがてキスも抱擁も緩やかになったところで、降谷の顔が上げられた。
     もうすっかり落ち着いてしまったようだったけれど、涙に濡れたままの瞳で睨まれるのは、キスよりも遥かに気持ち良かった。
    「ねぇ降谷さん。泣かせちゃったお詫びに、セックスしましょうか」
    「君とは、絶対に、しない!」
     完全に拗ねてしまった降谷があまりにも可愛くて、思わず笑ってしまったら、再び唇が塞がれた。
     こうして抱き合ってキスが出来るようになったのだ。きっとそのうち、肌を触れ合わせることだって出来るだろう。
     ひとまずは与えられる熱だけで我慢してやるか、と新一は妥協して、見様見真似で降谷へと舌先を伸ばすことにしたのだった。
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