不器用なマイフェアレディ それはあるうららかな午後の事。
「……あのさ、教官」
「何、愛弟子?」
「……この態勢は止めねえ?」
背中からすっぽりと恋人の腕の中に収まった己の体を見て、サクヤは言った。
久々の二人で過ごす休日。ウツシの家でのんびり過ごす事になったのはいいものの、サクヤがそこで取らされたのはこの、通称「後ろからギュッ♡」の態勢だった。
「何つーかこう、ガキ扱いされてるみたいで恥ずかしいんだけど」
「俺は楽しいよ? 可愛い愛弟子を、存分に可愛がれて」
「そりゃアンタはそうだろうな……」
当然のように返された言葉に、サクヤは深く嘆息する。こういう時、ウツシがサクヤの意見をきいてくれた試しがなかった。
「ねえ……キスしていい?」
不意にウツシが、抱き締める力を強めながらサクヤに言う。他の事は強引な癖に、キスだけは、ウツシはサクヤの同意を得たがった。
「嫌だって言ったら?」
「泣く」
「ガキかよ……」
再び嘆息しながら、サクヤは考える。正直に言えば別にウツシとのキスは嫌ではないし、それどころかたくさんしたいというのが実際のところではある。
しかし性格上、どうしてもそれを素直に言えないし、行動に移せない。照れが勝ってしまって、つい反発してしまうのだ。
けれど。
「いい? サクヤ」
そんなサクヤにいつも、「全部解ってる」と言いたげに。ウツシが、優しく微笑んでくれるから。
「……好きにしろよ、バーカ」
こんな自分でも愛してもらえるのだと。サクヤは、心から安心出来るのだ。
そうして重ねられた唇は、蜂蜜のように甘かった。