歌が聞こえた。心地好い低音によって、紡がれた旋律。
誰だろうと辺りを見回してみれば、歌の主は、隣で狩猟具の手入れをしている響だった。
「いい歌だな」
笑って、素直な感想を口にする。すると響は歌を止め、恥ずかしそうに少し頬を染めた。
「……今、俺、歌ってたか?」
「歌ってた。気付いてなかったのか?」
そう指摘すると、響は少し複雑そうな顔をした。響がこんな顔をする時は——死んだ昔の恋人が、関わっている時だ。
「……そうか。俺は歌ってたのか」
「……」
「昔、凛音が生きてた頃、よく聞かせてやってたんだ。凛音は俺の歌が好きで……だから凛音が死んでから、俺は歌を歌わなくなった」
不意に響が、俺を振り返る。その口元には、小さな笑みが浮かんでいた。
「きっと、お前のおかげだ」
「響……」
「俺がまた自然に歌えるようになったのなら、それは、お前が側にいてくれるからだ。だから——ありがとう、サクヤ」
その、あまりにも愛おしい笑顔に、俺は弾かれたように響を強く抱き締めていた。響はそれに一瞬、驚いたように固まりながらも、すぐに腕を俺の背に回してくる。
「もっと聞かせてくれ、アンタの歌……天国まで届くぐらい、たくさん」
「ああ、ああ……凛音は喜んでくれるかな……?」
「喜ぶさ、きっと。アンタの歌を、また聞く事が出来たんだから」
腕の中で、響がまた歌を歌う。涙声混じりのそれは、まるで祈りにも似て。
それを聞きながら俺もまた、この時間がずっと続くようにと、そう切に願った。