夏越の祓ꕤ夏越の祓ꕤ
六月の三十日に行う行事。半年分の穢れを祓い、残り半年の無病息災を祈願する。
❀主な出来事❀
一、茅の輪くぐり
神歌を唱えながら茅で造られた大きな輪をくぐる。方式は長くなるので割愛。
一、人形流し
人の形を模した紙製の形代である人形に名前を書き、触れる事で罪や穢れを託す。貴公の神社では人形を焚き、祈願する。
茅の輪くぐりの後に行う。
✿成すべき事✿
一、茅の輪の浄化
茅の輪に神力を込める。人の子らに神気を授ける媒体となるので丁重に行う事。
一、人形の浄化
人形の紙に神力を込める。此方は穢れを引き受けるだけなので少量であっても機能はする。
手を抜くのならこっちにしなさい。
しっかりやるのよ。
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……そんな事、言われてもぉ……
「っあー……」
「めんどくさぁい!!やりたくなぁい何一つしたくなぁい」
「よっしゃいっそ仕事さぼって……」
『働かなければ弟君達と居られる時間が少なくなってしまうわよ』
「っ〜……」
「あーもう!やるやるやればいいんでしょっ」
「俺神力込めるの嫌いだけど…!」
ぐっ
「しょーがないからやってやんよ」
「んぐぐぐ……」
「ぬあぁあ……!」
「おりゃぁああああ!!!!!!」
パアッ……!
「はあっ……はあっ……」
「やったか……」
「……おし!上手くいった」
「早く帰ってあいつらと遊ぼ〜っと」
パアンッ!
「へっ」
「あ、やべ……神力抜けてる……」
「そーいえば、維持させるには結構力いるんだったっけ……」
「最近さぼってたからそんなんねぇし……」
「じゃあ無くなるたんびに神力供給しなくちゃあ駄目?なら……」
……い、居残りしなくちゃならないって事……
「う、うわぁぁぁあぁん!!!!!!」
*
《──数刻後──》
……茅の輪くぐり……か
もう、そんな時候なのか……
時の流れとは、こんなにも速いものだっただろうか……?
「ねえ、そこの人間さん」
「……!」
「そんな遠くから羨ましそ〜に見てないでお前も参加したら?」
「うちの神社なら飛び入り参加も大歓迎だよ!」
「……」
「な〜んてな!はははっ!」
「聞こえる訳ねえけどなっ!」
「……御心使いには感謝申し上げます」
「!?」
「ですが」
「……私のような余所者が、此の用な儀に参じる訳には……」
「はあぁっ」
「お前俺の事視えんの」
「……はい」
「まじで全然そんな感じしねぇのに!変な奴だねぇお前!」
「……良く、言われます」
「あっそう、まあどうでもいいけどさぁ」
「てか、ほんとにやんなくて良いの?見てたって事は興味あるんだろー?」
「それは……仰る通りには御座いますが……」
「ならやってけば?ここの神てきとーだからどこの誰でも気にしないって!」
「……申し訳ありません」
「えーっ」
「実の所、私はここに居た痕跡を遺す訳にはゆかぬのです……」
「なんで?」
「それは……」
「あ、もしかして逃亡中の罪人かなんかなの?」
「なーんちゃって……」
「……近しい、です」
「えっ……本当に?」
「……はい」
「へーそうなんだ、じゃあしょーがないね」
「はい……御声を掛けて下さり有難う御座いました……」
「え何帰ろーとしてんの?」
「……?」
「ちょっと待ってろよ……あ、あったあった!これこれ!」
「それ……は……」
「人形流し用の紙〜知んない?」
「いえ……存じております……」
「なら使い方分かるよな!ホントなら茅の輪くぐりやった後にやるもんだけどまあいいっしょ!」
「うちの神社なら最後燃やすからこれなら証拠残んないし〜名前ちらっとでも見られんの嫌なら俺がここで燃やしてやるから!ね!至れり尽くせり破格の条件っしょほら〜やれよ〜やるって言えよ〜」
「……良いの、ですか」
「えっ?」
「……私、なぞが……其の用な……」
「……っあ〜もうっ俺が良いって言ってんだから良いに決まってんだろていうか俺きゃわいい弟達と居られる時間伸ばすために成る可く沢山の奴の願い事叶えなきゃいけないの!この程度のやっすい願いで徳積めるなら万々歳なのだから早くやるって言えよ」
「……」
「あ、やべぇ言い過ぎた……げふんっ!」
「で、やるの?やらないの?」
「……その……」
「その?」
「……お、お願いします……」
「やるって事」
「……はい」
「だろうな言うと思った」
「はいコレあげる〜早く書いて!」
「あ、字書くヤツ持ってんの?どっか書ける所探す?」
「双方問題有りません……ありがとうございます」
「ふーん?ならいいけど」
こくっ
「では……」
「うん早く名前書いてー書けたらちょうだい?」
「はい」
さらさら……
まだー?
「もう少し、です……」
すりっ
「……できました」
「おっし!じゃあ……」
ボワッ
「はーい証拠隠滅……じゃなかった、祈願完了〜」
「じゃっ、俺もう行くから!」
「あ……すみません、少しだけ……御時間を下さい」
「あん?何よ」
「改めて……深く御礼申し上げます」
「……有難う、ございました」
「え」
「俺別にそんな感謝されるような事してないけど?」
ふふ「貴方様は、謙虚であらせられますね」
「そう?」
「ええ」
「……この土地の主様に此の様な御好意を頂けてこの身に余る幸いに御座います」
「……げっお前何で知って……」
にこ
「心ばかりの物とはなってしまいますが、此方……どうか、受け取って下さい」
「……何ソレ?」
「この土地の、稲荷寿司に御座います」
「おいなりっ」
「はい……それも、遠方より買いに来る程の価値がある物です」
「……お前まさかこれの為にウチの土地来たの?」
「はい」
「色々やばいねお前」
ふふ「良く言われます」
「あ、そう……ま、言われてみればうちの土地にある店のおいなりは食べた事なかったかも」
「あんがと」
「いえ」
「では……そろそろお暇させて頂きます」
ぺこっ「有難う御座いました」
「こちらこそ……」
にこっ
すたすた……
「……なんか、アレだな」
「久々に人間といっぱい喋った気がす……る……」
「はっ神力の総量が一気に増えてるどゆこと」
「あれっぽっちの願いじゃそこまで徳詰めない筈……むしろ神力譲渡された時みたいな増え方してんだけど」
────
「まさか……」
バッ!
「……やっぱり!」
「お、おいなりから神気出てやがる…」
「てことは……」
「アイツ、お忍びで来てた神だった…てコト」
「う、うわぁ……」
「やっべぇ……もし、目上だったら……」
「……んーまあいっか!そん時はそんときっしょ!」
「気ぃ悪くした様子無かったし!なんか色々貰えちゃったし!こんだけ神力あれば傍に付いてなくても神力維持できるし!」
「早く帰ってあいつらとおいなりた〜べよっ!」