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    みずひ梠

    @mizu240

    主に妖怪松版ワンウィークチャレンジ参加作品となるSSを投げています
    よろしくお願いします

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    みずひ梠

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    【青九カラ一】+α
    《粗筋》百物語による呼び出しが続く間、青行燈は九尾の狐の社を離れ人里にて暮らしていた。其処に一通の便りが届く。

    恋人達の残暑見舞「此度も不発、か…」
    仮宿に腰を落ち着けた後、凄惨たる今宵の結果を前にして、思わず俺はそう呟いていた。俺が呼び出される話数である九十話に達した回数は十程、其れだけ有ろうが百話目には至らない。
    近頃、百物語が為される数そのものは妙に増加したが、完遂された例は一つとして無かった。
    人間共が多少は利口になったと考えるべきか?否……適当な人間にそれとなく聞き出した所、『百物語の百話目を語り終えると真なる物の怪が姿を現す』との話を聞いたと有ったな。何故だ?
    そうだ、青行燈の集う定例の儀にて噂好きの後輩が何か言っていたような。
    彼が云うには通信手段の発達のせいだ、と。
    とある物が開発され、全国規模にて繁栄した為遠方に住まう者達に起こった事象であろうが簡単に知らせる事が出来るようになったらしい。確か──葉書、と言ったか。
    『其処に与太話と称して怪異を書いて記す者が居たんでしょう、〝百物語を終えると何が起こるのか〟も例に漏れず、な!』
    したり顔でそう言っていた。成程、百物語についての其の類の話が広まっていたという事実が確かに有ったならば、面白半分で手を出す愚か者の数が増えつつも完遂される事は無い昨今の状況の説明がつく。
    然し何故其の様な事を知っているのかと問い詰めれば、人間に化けて仕事をしていた時に密かに葉書を覗き見た、と……。全く、下らない。
    そのような取り留めも無い思索にふけって居た際、ふいに仮宿の襖が開け放たれた。断りを入れる事も無く其の様な行動に出るなぞ、礼知らずに違いない其の者には応答する間も与えず罰をやろうと密かに幻火の術を用意したが。
    「先輩〜」
    不本意ながら良く知る声に術の発動を取り止めざるを得なかった。此奴は少々喧しい節の有る、青行燈としての後輩なる者だった。噂をすれば、か。
    「何か用か。」
    種族程度しか共通点の無い其の者と定例の儀以外で相見える事は稀ではあるが、所詮は下らない事だろうと顔を上げずにそう応えた。
    「あっ、今は人の姿なので先輩も化けて下さい!オレが変人扱いされちゃいます」
    帰ってきたのはその言葉。早急に本題に入るつもりは無いらしい。其れ所か、人間の通りの大して多く無いこの場に於いても人目を気にするか。
    「…お前が変化を解けば良い話だろう」
    そう言ったが彼は聞く耳を持たない。
    「いえ!郵便配達の仕事をしている時は人の姿って決めてるんです!人としてありついた此の仕事に誇りが有るので」
    「…つい最近飛脚から転じたばかりのお前がか?」
    降って湧いた疑問を其の儘投げかける。然しまともな応えは帰って来なかった。
    「っっ!こ、細かい事は良いんですよっ!そんな事より〜ふふっ、先輩も隅に置けませんね〜中々面白い物を見せてもらいましたよ!」
    「…何?」
    また例の、したり顔。御満悦なようで何よりだが腹は立つ。
    「早く化けて下さい、ってば!そしたら直ぐにでも渡しますから!」
    面倒、だな。だが此奴、一度決めた事には相手が従うまで動かない。……まあ、良いだろう。
    仕方なく変化の術を用い、人間の姿をとる。
    すかさず後輩が紙を差し出して言う。
    「お届け物です、どうぞ!」
    「…此れは…書状、か?」
    「違いますよ〜今話題の、葉書です!」
    似たような物だろうとは思いつつ、指摘はしない。…さて、此奴が人間としての仕事を通じて渡して来たからには現世の物なんだろう。人間の姿をとっていた頃に書状を出される程関わりの有る者等居ただろうか?
    そう疑問に思いつつ、書状に記された文面を読んだ。

    残暑御見舞い申し上げます。

    暦の上では秋を迎えましたが、暑い日が続いております。
    お元気でしょうか。
    此方は健康でこそあれ、貴方が居ないことに
    寂しさを感じております。
    独りには慣れているつもりでしたが
    思い違いだったようです。
    せめて中秋の名月の出づる時迄にはお会いしたく存じます。
    綺麗な情景は お前さんと一緒に眺め観ると
    より一層美しく見えるから
    今年は残暑がことのほか厳しいようです
    お前さんは根を詰め過ぎる気があるから
    あまり無理はせぬように

    立秋

    此の字。見慣れた字だ。名は記されていないが、間違いようがない。我が伴侶の、一松からの書状だった。……一松ッこんな、こんな心遣いの溢れていて目を通すだけで満たされていくような書状なんてそうそう在るものじゃないぞッ!というか言葉だけなのに可愛いってどういう事だ今すぐにでも帰りたい然し仕事が続いているだが会いたいやはり一度だけ…否駄目だ!一度会ったらもう離れがたくなる!嗚呼ッ俺は一体如何すればッッどうすれば良いんだぁっ
    久々に一松の言葉を得る事のできた喜びと、直ぐにでも会いに行きたい心持ちと職務との折り合いが付かず大波乱の脳内に後輩の気の抜けた声が響く。
    「先輩?先輩〜」
    「参ったな、全然返事してくれないぞ?詳しい事情聞きたいんだが…もしかして嬉しすぎて放心状態になってるのかな?」
    図星。最悪だ。というか、邪魔だ。
    「…此の近くに在った料理茶屋。」
    其の一言に奴は、即座に顔を上げた。
    「好きなだけ食うと良い」
    だから早急に此の場を去れ、と告げる前に彼は姿を消していた。其の欲への忠実さは妖怪としては素晴らしいものだが、彼の様に成りたくは無い。
    嗚呼そうだ、厄介払いの詫びに勘定はしてやるつもりだったが奴は一松からの書状を盗み見たとしか思えぬ言動を取っていたな?ならば慈悲は必要ない。好奇心のあまり道理から大幅に外れた彼には丁度良い罰になるだろう。さて……。
    改めて、一松からの葉書を読み込む。
    成程、書状の利は幾度も其の言葉を噛み締める事のできる点に在ったのか。加えて温かみのある其の字から、術を用いずとも其の声を思い起こして聴く事ができる。
    満たされるまで只管に読み続けた後にそう思った。通信手段の発展なんざくだらないと見下していたのに、其の利を否応なく思い知らされた。
    落ち着いた頃に葉書から、ほんのりと一松の神気と妖気の発されているのを感じ取った。前者は意図して──神気の持つ効能を受け渡す為──託されたものだろうが、後者はそうでは無い。祈りを通じて込める事のできる神気とは違い、妖気は意図して込められるものでは無いからだ。そしてそれが引き起こされるのは、物に大して強い想いが掛けられた時のみ。即ち……幾度も思案しながら、此の文面を書き表してくれたのだろう。一松……。再び湧き上がり出て来た会いたい衝動を、葉書からの気を基に押し殺す。今……今は会う訳にはいかない。
    俺は……当分は、距離を取ると……会いたくなってしまうから念話(テレパシー)もいけないと、そう言って身勝手にも一松の社を出た。一松との甘い時を、青行燈としての仕事に邪魔されるのが嫌だった。其れを伝えていたから、一松は分かってくれて……送り出してくれた、けれど。……一松はそんな事、気にしてなかったんじゃないか?俺と可能な限り、一緒に居たかったんじゃないか?分からない。問う術も無い。否、在ったとしても俺は……やはり仕事が落ち着くまでは、一松と接触を図るような真似はしないだろう。一度それを成したが最後、一松の傍を離れられる筈があるまい。何より……良い雰囲気に成った時に限って呼び出しを食らうあの苦行にこれ以上耐え切れる自信がないッ!
    鬱陶しいと思いこそすれ青行燈としての仕事に誇りはある。其れを簡単に放棄する事などできやしないのだ。例え……大切なものを蔑ろにする事になったとして、も…………。
    否。やはり無理だ。今の俺にとって一松以上に優先すべきものなど無い
    そう断じて、転移の術を使う体制に入ったが。
    ──術を使う前に、俺の眼前の景色は全くもって異なる物に変質していた。此の事象の答えは一つ。
    「……九十話目。」
    呼び出しか。くそったれ。どうせ貴様らも決して百物語を成し遂げやしないだろう。構うものか。俺は一松に会いに行くッ…
    再び転移の術の使用を試みる。しかし。
    またしても、発動前に景色は変わり……
    「九十話目ー」
    嫌という程聞いた言葉が、愚か者の口から放たれた。何故だ。何故、今に限ってこうなるんだええい、三度目の正直だ
    「九十話目!」
    ……。まあ……そうだな……薄々想定してはいた。『二度あることは三度ある』何時だったか一松と共に読んだ諺集に其の様な物があった。その通りに、なっただけの事だ……。此処まで来ると神の悪戯であると気取らずには居られないが。さすれば其うなる運命であったと認めねばならないな。……他には……他には、己を納得させられる言はないのか。
    嗚呼そうだ、此の地も、先刻の地も、訪れた事の無い場所だった。この周辺に何か新しく、美しいものが見つけられるかもしれない。そうしたらまた、一松と共に来よう。其れで良い。其れで良いのだ……。
    今、一松と会う事は難しいと悟らざるを得なかった俺はその言葉で諦めがついた。後は黙って愚か者共の百物語の三重奏を聞いていた。今回とて例に漏れず、百話目に達した者達が居なかったのは、言うまでも無い。
    されど……結局の所、仕事から逃れる事はできやしないのだ。
    俺はもう、今現在一松の元へと行く事は諦めた。然し葉書は傷付けぬ様丁重に包装し、其の温もりの感じられる様に肌身離さず持ち歩く事にした。此れで一先ずはその存在を感じて居られる。
    俺は葉書を心の支えに職務に勤しむ事としたのだった。事が終わり次第、直ぐ様一松に会うと云う決意を、胸に抱きながら。
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