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    みずひ梠

    @mizu240

    主に妖怪松版ワンウィークチャレンジ参加作品となるSSを投げています
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    みずひ梠

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    【へそウォ妖怪松(雪)】【しま妖怪松】
    雪女が雪妖怪に出会う話

    雪妖怪……降り積もった雪の結晶のひとつひとつが、押し潰されて氷になっていく音がする。
    しょき、しょき、しょき、しょき。
    いつもなら残るはずの足跡は、吹雪に覆い隠されてすぐに見えなくなってしまった。……ボクがここに居ることすらも覆い隠すかのように。
    「寒いよ……」
    思わず、ぽろりと言葉がこぼれる。雪女であるボクには、到底ありえないはずの言葉が。
    ああもう……。兄さんのまねっこして、吹雪に乗って遊んだりしなきゃよかった……。
    もし過去に戻れるなら、自分の事をひっぱたいて止めたい。

    ボクらが住んでいる雪山は、一年中雪が溶けなくて、人の目で見る事はできない、不思議な雪山だ。妖雪山って兄さんは言ってた。……ここに流れ着くまでは、『妖雪山は全部で六つある』なんてこと、冗談だと思っていた。でも、本当だったんだ。
    ここはボクが知ってる雪山じゃない……。
    兄さんは、『妖雪山はどこかに大妖怪が封じられてるの。絶対に近寄っちゃダメだよ』って言ってた。もし、もしも、知らないうちに大妖怪の所に迷い込んじゃってたら……。どうなっちゃうんだろう。
    思わず身震いした。寒くて、怖くて、もう嫌になる。
    「誰か……助けて……」
    周囲に誰もいないことは分かりきっているのに、そう呟いていた。
    「……なら……良い……」
    誰かの声がかすかに耳に届いた。
    「え……」
    びっくりして、顔をあげた。そこには、さっきまでいなかったはずの旅人さんが立っていた。
    ……いや、違う。こんな吹雪の中、あんなに平然としてられる者が人間のはずが無い。
    なにより、彼にほとばしる妖気の、濃密さといったら……。敵意を持っていなくても、逃げ出したくなるくらいの威圧感……!
    大妖怪、だ。疑いようもない。
    ボクは目を見開いて、その場に硬直してしまった。
    「ふむ…………?神物を……咥えても……この妖気、抑えきれておらぬのか……まあ、良い」
    大妖怪様は、氷の膜が張ったような目でこちらを見つめながら、言葉を続けてた。
    「迷い子よ……我の望み、叶えるのなら……其方を助けて……やろう……」
    望み?望みって、何だろう。まさか命を差し出せとかいや、意図は分からないけどボクを助けてくれるって言ってる……と、とにかく……き、聞いてみなきゃ……
    「の、望みって……ッ、何ですか!」
    震える身体を抑えながら、振り絞ったその声に、大妖怪様は応えた。
    「一緒に……美味しいおいなりを…買いに行って……欲しい……」
    「は?」
    勝手に間抜けですごく失礼な声が漏れる。慌てて口元を抑えた。大妖怪様はそれを気にする素振りはなく、ぽつりぽつりと語り出した。
    大妖怪様はとてもゆっくり喋るので、全部聞くには随分の時間を要した。
    曰く、何時も稲荷寿司を届けてくれる方が近頃忙しいようで中々来れないのだと。
    仕方なく自分で買いに行こうと思ったが、人の世に降りるのは久々で物の買い方を忘れてしまったのだと。
    だから手伝って欲しいらしい。
    ……絶対的強者である大妖怪様が、こんなにちっぽけな望みを持っていた……なんてこと、知ってるのはボクだけなんじゃないだろうか。
    とにかくボクは大妖怪様に手伝ってもらって下山して、近くのお寿司屋さんで稲荷寿司を買ってあげた。大妖怪様はお金を持っていなかったので、お代はボクが払った。
    なんかちょっと嫌だったのは、大妖怪様への一種の畏怖のようなものが瓦解したからで、安価とはいえ稲荷寿司をいっぱい買わされたからじゃないんだから。ほんとに。
    心ゆくまで稲荷寿司を堪能したらしい大妖怪様は、ボクの方を見て
    「有難う雪童子、達者でな」
    と言ったが最後、その姿が掻き消えて辺りは吹雪に包まれた。目の前にあるのは、雪景色のみ。
    あれ……?
    ま、まさか用済みだからって元の場所に戻されたんじゃ……いや、そもそも寒さで見た幻覚だったんじゃ……
    そう思ってたら、突然駆け寄ってくる足音が現れた。これは、聞き覚えがある。
    「あーーちょっと!いつ帰ってきたの心配したじゃん、ばか」
    「に、兄さんー」
    ほっとしてぎゅっと抱きついた。
    「うわ!急に何何かあったの?」
    「に、兄さん……!あのね!」
    ボクは事の顛末てんまつを話そうとしたけど、兄さんの声に遮られてしまった。
    「ひゅッ……ね、ねえ……それ、どうしたの」
    「え?」
    ボクは兄さんが指さした、右の肩の方を見やった。そこには、そこには……真っ赤な舌をちろちろとのぞかせる、へ、へびさんがいた。
    「い、いやあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
    ボクの絶叫は、雪山全体に轟いたに違いない。
    しばらく経って、ふらりと姿を現した大妖怪様は、九尾の狐の御姿で、「申し訳の立たぬ事をしてしまった。燃流屔李もるでいが、御前おまえのその帯の飾りを気に入ってしまったらしくて、気づいたら御前おまえのところへと行きついていたのだ」と言っていた。
    兄さんもボクも揃って凍りついていたので、何も言えなかった。そういえばどうして封印されてるはずなのに普通に出歩いてるんですかとか、すごい名前のへびさんですねとかも言えなかった。
    お詫びにとすさまじい妖力のこもった水晶玉をもらったけど、何に使えばいいのか分からない。ていうか怖いし使いたくない。
    ボク達は今日あった事を記憶の底に封じ込めることにした。
    今日は何もない、素晴らしい一日だったんだって、思い込むことにした。
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