【ひいあい】ゲームの台詞 民衆が見守る中、天城一彩は馬上で精神を整えていた。ぴたりと動かない姿勢。風に揺れる羽織の裾だけが、時が進んでいることを教えてくれていた。自分は、固唾を飲む民衆の中のひとり。少しでも動けば、物音を立てれば、この場にいる全員の眉をひそめさせるのだろう。そう想像したら呼吸をするのさえ躊躇われた。
きらっと、彼の耳飾りが光った。遠くからでも分かる。彼の眼光は鋭い。パシっという乾いた手綱の音を合図に馬が走り出した。一頭の馬が走っているだけなのに地鳴りがするような迫力があった。その不安定な馬の上で、一彩が弓を構える。猛る馬とは対照的に、静かで美しい弓形に皆息を呑んだ。
音もなく放たれる矢。ヒュッと風を切る音と的が割れる音が高く響く。一彩の姿に見惚れていたら的中する瞬間を見逃していた。目の前を馬が通り過ぎる時、その大きさと迫力にはっとする。土埃の中、自分ははっきりと一彩の顔を見た。獲物を追いつめるような鋭い横顔を見たのはそれが初めてだったかもしれない。
3092