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    あんちょ@supe3kaeshi

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    ひいあい夏Webオンリーの展示作品です!夏祭りにでかけるひいあい短編。読了目安:10分弱

    #ひいあい
    hiiro x aira

    君と夏祭りに行った日 今日、お祭りがあると知った僕は、早速藍良に電話をかけた。今日の予定がもう入っていたら潔く諦めるつもりで、藍良を夏祭りに誘おうと思ったのだ。
     僕たちは付き合い始めたばかりで、まだデートの経験も少ない。その経験を積む意味でも、藍良に楽しい思いをしてもらう意味でも、誘わない理由などない。部屋を訪ねる時間も、メッセージを打って返事を待つ時間も惜しく、僕は藍良に電話をかけた。
    『もしもしィ、ヒロくん?』
    「藍良、突然で申し訳ないのだけれど、今夜僕と夏祭りに行かない?」
     僕は自室の自分のベッドの側で、何故か壁に向かって立ったまま電話をしていた。幸い部屋には誰もいないので妙な目で見られることは無いが、自分で自分を客観視すると、どうしたって妙な図だ。
    『行く行くゥ! そっかァ、夏祭り今日だったっけ』
    「うん。じゃあ夕方迎えに……」
    『実家に頼んで浴衣持ってきてもらおうかなァ~。そうだ、マヨさんとタッツン先輩も』
    「ま、待って藍良!」
    『ん?』
    「僕は、藍良と二人で行きたいんだけど……」
    『んん~?』
     電話口で、藍良の声が少し笑っていた。これは、藍良が僕をからかおうとしている時の声だ。それは分かっていたけれど、今はそれに乗るしかない。
    「そ、その……先輩たちを呼びたくないとか、そういうわけじゃなくて……」
     顔が熱くなる。僕たちは付き合っているのだから、出かけようって誘ったら二人きりがいいと思うのが普通じゃないのだろうか。言い訳を始めたら、とうとう藍良が噴き出した。
    『あはは、分かってるよォ。意地悪してごめんね?』
    「……」
     僕はゴン、と音を立てて目の前の壁に頭を打ち付ける。火照っているのか、額に当たる壁がやけに冷たい。
    『あれ、ヒロくーん? 怒った?』
    「……怒ってない。二人で、出かけようね?」
    『ふふゥ、甘えてるヒロくんラブ~い! じゃあ準備しておくから、迎えに来てねェ』
    「うん。楽しみにしているね」
     その後すぐに、電話が切れた。藍良をお祭りに誘うだけで、こんなにドキドキするなんて。実際に出かける時になったら、僕はどうなってしまうのだろうか。


    ***


     夕方、僕は自室で浴衣に着替えて、藍良の部屋まで迎えに行った。僕の浴衣は、故郷の織物を浴衣として仕立て直してもらったものだ。藍色の生地の浴衣に、緋色の帯。この色合いが僕にとてもしっくりくる。
     廊下にも設置されている細い鏡で、変なところはないかと確認してから藍良の部屋を訪ねた。しかし、出てきた藍良の姿を見た瞬間、僕は自分がどんな姿をしているのかなんてどうでも良くなった。
    「待ってたよォ、ヒロくん」
     そう言って出てきた藍良は、淡い黄緑色の浴衣を着ていた。黄色で描かれた金魚模様に、橙色の帯。下駄の鼻緒も橙色だった。何より目を引いたのは、編み込まれた髪に飾られている、黄色の花飾りだった。手には籠のバッグを持っていて、頭の先からつま先まで、かわいらしい。
     言葉を失っている僕の顔を、藍良がのぞき込んでくる。藍良は薄く化粧もしていて、唇はかわいらしい珊瑚色をしていた。
    「ねェ、せっかく着たんだから何か言ってよォ」
    「あっ、ご、ごめん……あんまり綺麗だから、見惚れてしまって」
     僕が取り繕わずにそう言うと、藍良も頬を染めて満足そうに笑ってくれた。
    「ありがとォ、ヒロくんもカッコいいよォ!」
     藍良の提案で、星奏館の何もない壁を背景に、自撮りでツーショットを撮った。夏祭りシーズンが終わるころにSNSにアップするか考えるのだそうだ。僕としては、この藍良の姿は誰にも見せたくはないのだけれど。

     星奏館を出る時にすれ違った人たちにからかわれながら、僕たちは夏祭りの会場へと向かう。途中、人が多くなってきたところで藍良の手を握ったら、指同士を絡めて握り返された。
     からころと、お互いの下駄の音だけがやけに響いて聞こえる。もうこのまま会場へ辿りつけなくても今日は満足だなあ、なんて思ったりもした。

     特に問題なく夏祭り会場へとたどり着く。まっすぐ歩けないほどに人が多くごった返していたので、僕はますます強く藍良の手を握った。心なしか、藍良の肩がさっきよりも近い。お祭りの会場を、藍良と浴衣姿で歩いているだけでも、僕は既に楽しかった。
    「ねェ、あれ食べたい」
     そう言って、藍良がいちご飴の屋台を指差す。
    「いいよ。買ってあげる」
    「ほんと? やったァ!」
     普段は何かを奢ろうとすると遠慮する藍良も、今日はテンションが高いのか素直に乗ってくれた。
     僕たちは屋台の前に行って、いちご飴をひとつ購入することにする。お金を払う間だけ繋いだ手を解かないといけないのが少しだけ惜しかった。
     藍良にいちご飴を買ってあげて、再び手を繋ぐ。提灯の明かりを背景にいちご飴を舐める藍良の横顔がとてもかわいらしくて、僕はじっと見つめて網膜に焼き付ける。出来れば写真に撮りたいけれど、それは人混みを歩きながらでは危ない。
    「ちょっとォ、ヒロくん人の顔見すぎ……」
    「ご、ごめん……」
    「ふふ、いいよォ。でもちゃんと前見て歩いてねェ」
     藍良がくすくすと笑って、僕の肩に頭を寄せて甘えてくれた。僕が藍良と手をつなぐ時はいつも左手だから、藍良は髪飾りを頭の左側に付けてくれたんだろうか。さすがにそれは、たまたまだろうか。

     いちご飴を食べ終わった後は、藍良が水風船を欲しがったので「ヨーヨー釣り」とかかれた屋台で遊んだ。藍良が釣りあげた赤い水風船を見て「ヒロくんみたい」と言うのは何の悪戯かと思う。
     そうして遊んでいるうちに、もうすぐ花火が始まるとのアナウンスがあった。場所を取らないとと言う藍良に、有料観覧席に行ってみようと提案したら、大賛成してくれた。一番安い席は満員だったが幸い高い席はまだ空いていたので、奮発して良い席を買った。藍良は「S席だよォ」なんて言って喜んでいた。
     僕は買ったチケットと同じ番号のベンチを探して座る。特別観覧席の一番後ろのベンチが割り当てられていた。一番後ろの席ではあるが、ここなら後ろには誰もおらず、前の席の人が振り返らない限りは顔を見られない。いい席を当てたなと思った。
     周りにもカップルがいっぱいいて、自分たちの世界に浸っているようだった。これなら人目を気にしなくてもよさそうだ。もともとそんなの気にしていないのだけれど。
     藍良は水風船の紐を籠バッグにひっかけて落とさないようにしてから、バッグごと膝の上に置いた。それから座る位置をずらして僕の横にぴったりと座った。
    「どうしたの、藍良」
    「今日はいっぱい甘やかしてくれたから、とことん甘えてあげるゥ」
     そう言って、藍良は僕の肩に頭を乗せて甘えてきた。
     ほどなくして会場が一瞬静かになり、一発目の花火が上がる。花火大会の開始を祝福するような一発のあと、赤色や青色、金色など、色とりどりの花火が出し惜しみせずにあがってきた。
     川沿いの一般観覧エリアからは「わあ」とか「綺麗」とか歓声が上がっていたが、この「S席」の人たちは静かに談笑をしながら花火を見ていた。
    「綺麗……」
     藍良がそう言って、夜空を見上げている。僕はその横顔を盗み見て、しばらく目が離せなくなっていた。
    「ねェ、ヒロくん……」
     藍良が僕になにかを言おうとして、こちらを見た。目が合った瞬間、僕は何も考えずに藍良の肩を抱き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。その間に花火が何発も上がっていたけれど、構わず目を閉じて、藍良の柔らかな唇を食む。少しだけ、さっき食べていたいちご飴の香りがする。夢中で口づけていたら、藍良が僕の胸を押し返してきた。
    「ヒロくん、ダメ……」
     藍良の顔が真っ赤になっていた。かわいい。藍良は上目づかいで僕を見つめてから、次はその目を泳がせながら言う。
    「……今は、ちゃんと花火を見て」
     空に視線を戻した藍良の横顔。耳まで真っ赤になっているその様子から、僕はまた目が離せなかった。

     その日どんな花火が上がっていたかなんて、僕は全然覚えていられなかった。



    おわり
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    あんちょ@supe3kaeshi

    DONE【うさぎ⑥】塾一彩とうさぎ藍良のパロディ小説。コンセプトバーで働く藍良と、彼目当てに通っちゃう学生の一彩くんのお話。今回は藍良視点。◆◇◆◇9/10追記
    ◆◇今夜もウサギの夢をみる◆◇ Scene.10Scene10. ウサギの独白 ◆◇◆◇


     おれは、アイドルが好きだ。これまでもずっと好きだった。
     小さいころ、テレビの向こうで歌って踊る彼らを見て虜になった。
     子どものおれは歌番組に登場するアイドルたちを見境なく満遍なくチェックして、ノートにびっしりそれぞれの好きなところ、良いところ、プロフィールや歌詞などを書き溜めていった。
     小学校のクラスメイトは皆、カードゲームやシールを集めて、プリントの裏にモンスターの絵を描いて喜んでいたけれど、同じようにおれは、ノートを自作の「アイドル図鑑」にしていた。
     中学生になると好みやこだわりが出てきて、好きなアイドルグループや推しができるようになった。
     高校生になってアルバイトが出来るようになると、アイドルのグッズやアルバム、ライブの円盤を購入できるようになった。アイドルのことを知るたび、お金で買えるものが増えるたび、実際に彼らをこの目で見たいと思うようになった。ライブの現場に行ってサイリウムを振りたい、そう思うようになった。
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