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    CrazyCursedCkt

    @CrazyCursedCkt

    これはエロツイートなんですが、という枕詞をつければいいと思っている発振回路です(ダメです
    どうしてもなにかあったらメッセージからどうぞ。誤字とか。

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    POIPOI 13

    CrazyCursedCkt

    ☆quiet follow

    大人の男に対抗できるのは、若くて元気で体力あって振り回すだけのパワーがあるものだけなんだよな。
    観覧車はいいぞ。

    もっと近づくように 車の運転は単純でいい。MSやMAと違って、全周囲に気を張る必要もないし。
     ただ、その分、運転中に色々と考えてしまうのが良くない。
     シャリアはそんなことを思いながらハンドルを握る。助手席には、頬杖で窓の外を眺める部下。エグザベの後頭部は、丸くてきれいだ。頭の形の良さは、赤ん坊の頃の親の気苦労の一つらしい。よくよく手をかけられたのだろう。横目で見て、また前を向く。信号が赤に変わりそうだった。ゆっくりとブレーキを踏んだ。
     5年前のあのときに得た、強い喪失感。そこからの時間で覚えたその喪失感を紛らわせ、一時だけでも忘れる方法。
     そういう自分のだらしなさはきちんと明かしたつもりだったし、よくない部分があまりにありすぎて、彼の意中の相手は自分でありながら、他人事のように、こんな大人はやめておけ、と忠告までした。
     それでも、互いに成人で、エグザベは引かず、シャリアは断りきれず、お互いの想いはともかく、合意の上でその関係は結ばれた。
     恋人がしそうなことには、何でも付き合った。一応、恋人だったから。
     でも、互いに忙しい立場である。戦争は終わったとはいえ、世界の情勢が変わってしまった。自国がその火蓋を切って落としているので、後始末だって、合って当然なのであった。

    「で、どこへ行きますか?」

     先ほどから、声をかけてもそっぽむかれつづけている。
     最初に一言だけ、答えてはくれたが、そのあとはずっと無言だった。

     ––あなたも知らないトコロ。

     答えは抽象的で、正解がないクイズのようだった。車のナビにそう入れたら、適切な場所へ連れて行ってくれればいいのに。
     爛れた刹那的な関係で、ぽっかりと空いた穴を誤魔化し続けたシャリアには、この上ない難問だった。

    「どこですか? ここ」
    「さぁ。私も来たことがないので」

     駐車場の空いている区画に車を止めた。夜だったから、まばらにしか埋まっていない。車に鍵をかけて、ついてくるように促す。

    「……おおきい」
    「これはみごとですね」

     少し歩いた先に、目的の建造物はあった。電飾が七色に輝く観覧車だ。

    「私も、こういう乗り物は、脇を通って見上げることはあれど、乗ったことがないので」

     彼のリクエストは、あなたも知らないトコロ、だった。
     エグザベはこのコロニーへは来たことがないだろうし、自分も通りがかったことが何度かあるだけなので、条件だけは満たしているだろう。

    「乗りますか?」

     無言のまま、エグザベが頷いた。
     カウンターでチケットを二枚買い求める。

    「床も壁も透明なゴンドラもございますが、いかがなさいますか?」

     横で軽く首を振っているのを確認して、普通の方で、と伝える。
     夜景の写真がついたチケットと、日中の写真のチケットが渡された。絵柄が複数あるようだ。

    「はい、どっちがいいですか?」

     絵柄が見えるようにチケットを差し出すと、また無言で、夜景の方のチケットをエグザベは受けとった。
     平日の夜に、好んでこんなところに来るのは、カップルくらいだろう。カップルだって、翌日の仕事や予定を鑑みて、こんなところにはきっと長居しない。そんな状況だったので、デートスポットにも関わらず、閑散としている。
     列に並ぶと、割とすぐに自分たちの番が来た。
     ばこん、とドアが開く。ゆっくりと動くゴンドラに、まずエグザベを乗せてから、自分も乗り込んだ。
     乗り込むと係員がドアを閉め、行ってらっしゃい、と手を振った。

    「……僕のことなんて、こうやって、時間ができたらご機嫌を取って、それでなんでもチャラになる、と思ってる?」

     景色がゆっくりと変わるなか、やっと彼は口を開いた。

    「あなたは大人だから、知らないところに来ても、緊張もしないし、僕がいうことなんでもうまくきいて、うまくやってしまう。慌てたり、オロオロなんてしないし、困ったりだとかも……」

     それがくやしい。

     最後の一言は、言葉にしなかったけれど、あまりに強い感情で、見えてしまった。できる限り、見ないようにしていても、どうしても見えてしまうから、ある意味では不便だ。隠し事もできない。

    「そういうのは、どのくらい生きて、何をしてきたか、という経験値でしかない。
     私たちの間には、少なくとも10年くらいの時間の差がある。しかも、君はまだ学生時代を終えて、間もない。
     もう少し色々と経験したら、そんな差なんてあってないようなものになる」
    「でも、今は大きな差がある」
    「それを否定はしません」
    「……恋人をほったらかして、挙句拗ねてメチャクチャなことを言い出しても、あなたにはどうでもいいんでしょうね」

     散々な言われようだった。
     しかし忙しく、そんな中でもできる気遣いを怠ったのも事実だったから、何も言わなかった。

    「……自分が悪かった、と自分が折れればいいと思ってる?」

     もう言っていることが支離滅裂だ。だけど、止まらないんだろう。

    「夜景、きれいですね」

     全然関係のない一言を返す。街を見下ろせるほど、もう高い場所にいた。
     小さなゴンドラに2人きり。それもじきに終わる。

    「……アドバンテージなんて、何もないですよ。きみの要望を正確に汲み取れているのか、今も不安でいっぱいです。
     これがたとえば正解でないとして、残った時間できみに何をしてあげられるか、必死で考えている。
     乗ったことがないから、通りがかったことがあるだけのここに来たけれど、ここに、これがあると知っているじゃないか、と言われたらおしまいですしね」

     シャリアは言い募るエグザベに、ここまでの話を聞き、思っていたことを言った。

    「恋人の前で、オロオロするなんて格好悪いこと、きみも嫌でしょ。
     虚勢をうまく張れるようになるんですよ。歳をとるとね」

     付け足して、キラキラ光る夜景にまた視線を移す。

    「どうしたら、はやくそうなれるんですか」
    「相手をよく見て、相手の声を聞いて、よく考えることじゃないですかね」

     処世術としてそうしてきた。
     望みを叶えるために。
     でも、そうして求めたものは得られても肝心のものはまだ見つかっていなかった。
     エグザベが何か言いかけた時、ゴンドラの戸が開けられ、おかえりなさい、と笑顔で係員が声をかけてきた。
     シャリアは先に降り、エグザベの手を取って、彼を降ろす。
     エグザベは差し出された手を、無視することはなかった。降りて、緩いカーブのある足場に着地したとき、シャリアにそっと支えられても、おとなしくそれを受け入れた。シャリアはそれに少しホッとする。
     こういう過敏な時には、能力も研ぎ澄まされる。見ることも見られることも、見えなくすることも見ないふりも、一通り覚えた自分の方が、今の彼に触れても負担がないだろうと思った。何より、今の彼に、ほかの何人も触れさせたくはなかった。

    「ずるいな。やっぱりそうやって、いい気にさせて、ご機嫌取りして、うやむやにするの」
    「過敏な状態のきみが、誰かに触れて、誰かの思考を読み取ってしまったら、もっとしんどいでしょ」

     観覧車を降りて、それとなく駐車場に戻ろうと歩き出す。
     周りに人気がなくなると、さっそくまた絡んでくるから、思っていたことを白状した。エグザベはハッとして、唇を噛んだ。

    「……いつもそうやって僕のこと、手の内で転がして、楽しいですか」
    「うん、それは、ね」

     甘やかして、機嫌を取っているつもりだが、エグザベには少し刺激が強いみたいで、笑い出しそうになった。
     エグザベは女の子ではなく、しかもベッドではトップなので、今の自分のように、相手にしてやりたいのだろう。わかり切ってはいたけれど、そこは自分にもプライドはある。
     話している間に、車の前までたどり着いていた。ポケットの中のキーを取り出して、鍵を開ける。

    「まぁ、何事も経験です。期待してますよ」

     話を切り上げて、助手席のドアを開けた。
     また、ムッとした顔をして、エグザベは車に乗り込んだ。
     シャリアも運転席に乗り込んで、エンジンをかけながら尋ねた。

    「何食べますか?」
    「早くあなたより優位になりたい」
    「それ、夕飯のリクエスト?」
    「そう。食べたら、そうなれるもの!」

     またそっぽ向いてしまった。
     年下の恋人は難しくて可愛いことばかり言う。甘やかしてドロドロにして、今できることをできるだけたくさんやって、いつか彼に、本当に添い遂げたい人ができたとき、こうやってぐずった経験が活きればいい。手放したあとの、彼のことを想う。

    「じゃぁ、ホテルのルームサービスですね」

     怪訝な顔で、エグザベはこちらを向いた。

    「優位になりたいんでしょ」

     ちらり、と横目で伺うと、さぁっと赤くなって、言葉を失う彼。
     ざまあみろ。
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