2023/04/13 18:17※タキモル要素あり。すでに成人済、ナチュナルに同居してます※
彼女に初めて出会ったのは、まだまだ寒い3月初旬、4月からトレセン学園のトレーナーとして配属が決まった私が理事長に呼ばれ諸々の手続きをしに学園に行った時のことだった。
地図アプリがあっても道に迷う方向音痴の私が初めての場所でもらった紙の地図だけで目的の場所に着くことなど到底無理で、気づけばどこか分からない謎の実験器具に囲まれた彼女が使っている旧理科室にいたのは今では笑い話である。
そこから彼女の可能性に惚れ込み、共に歩み始めた月日は私たちにとってかけがいのない時間であった。
本来ならその辺りを彼女のすばらしさと共に詳しく語りたいところではあるのだけど……話が長くなるので今日はやめておく。
平日とあってかあまり並ばず買えた、地元で有名な洋菓子屋さんで買ったいちごのショートケーキと毎日悩みに悩んでようやく決めて買ったプレゼントをもう一度確認する。
サプライズ……になるかは分からないけれど、彼女が少しでも微笑んでくれればそれで全て問題なし!
今日はすべての景色がキラキラ輝いているようなそんな気がした。
その日、モルモッ……元トレーナーくんの様子は朝からおかしかった。
そわそわ落ち着かない様子で、こちらが話しかけても生返事しか返ってこず、明らかになにか別のことを考えているのがバレバレだった。
いや……昔から元トレーナーくんは嘘は下手くそ、すぐこちらに騙されるのでこんな大人で大丈夫なのかと当時トレセン学園の生徒だった自分でも心配したことがある。
いい大人になると誕生日なぞただ当たり前に通り過ぎていく1日だ。
それでも、こうして共にいてくれる者が自分の誕生日のことを考えてくれているというのは心地よく、こそばゆい。
朝食をこぼしかけている遅刻ギリギリ元相棒に声をかける。
慌てながら残りを食べ、バタバタと出かけて行った背中を笑いながら見送る。
「気をつけて行っておいで、モルモットくん」
「ただいまー!!!」
どうせすぐバレるとしてもなるべくなら隠しておきたいので、なるべくケーキとプレゼントを後ろに隠しつつ彼女がいるであろう部屋に入る。
「おかえり。今日はずいぶん早かったねぇ?」
そりゃ、いつもはてっぺん超えるか超えないかの人間が定時にあがって速攻帰ってくればその疑問は当然である。
「……タキオン」
「なんだい?」
彼女はすでに私が隠そうとしている何かに気づいているらしい。
ふわりと笑うその顔が少し赤い気がするのは気のせいではないと思いたい。
「誕生日おめでとう!」
ありったけの気持ちを込めた彼女のために選んだプレゼントとケーキは渡す瞬間が毎年のことながらめちゃくちゃ緊張する。
ふとタキオンの顔を見るとこちらをじっと見ていることに気づく。
「……ほんとうに」
タキオンがプレゼントとケーキを受け取りつつ続ける。
「君はサプライズと言うのが昔から下手だねぇ」
呆れ半分、嬉しそうなのが半分っぽくてひとまず安心したけど、バレちゃってたなぁー!
「うっ!おっしゃる通りでございます……。やっぱりバレてた?」
「朝からあんなにそわそわしてたらさすがの私でも気づくさ。……ああ、でもいくつになっても君に祝われるのは悪くないとそう思うよ」
ケーキとプレゼントはあとで一緒に楽しもうか、そう背中を向けたタキオンのうっすら見える首筋は真っ赤になっているのが見えた。
それに思わず胸が高鳴って後ろから抱きつく。
「私……あなたに会えて本当によかった」
同じ柔軟剤を使っているのに私のとどこか違う彼女の匂いが香ってきてくらくらしそうになるのをなんとか耐える。
「奇遇だね、私もそう思ってたところさ」
背中を向けていたタキオンがこちらに向き直り、そのまま額同士を軽くくっつける。
――あいしているよ、モルモットくん。
そう語ってくる瞳に目が眩んで瞳を閉じる。
降ってきた熱は今この瞬間だけはこの世界で私だけのもの。
私もあなたが大好きだよ、タキオン。