第4話「本当のプリキュア」「共ポ〜〜!!こっちこっち!」
遠目から元気よく共ポジへ手を振るなしなの姿が見える。
「こんなとこに呼び出してなんの用アルか。」
「こんなとこって、普通のショッピングモールなんだけど。」
なしなの後ろからわかめだもひょいと顔を出す。
「せっかく友達になれたんだからもっと仲良くなりたいじゃない!共ポ!どこ行きたい?ワタシのおすすめはクレープとタピオカとそれからえーっとね。」
わくわくと笑顔で楽しみを計画するなしなを押しのけてわかめだが共ポジの手を掴む。
「共ポ、まずは私に付き合って。」
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「うーん。」
「悪くは無いけど。」
「次はこれ。」
わかめだに引きずられるまま様々なアパレルショップを回り、試着室へと押し込まれる。
「……一生分の服着た気がするネ。」
「着せ替え共ポちゃん可愛いよ!実はね、わかめだファッション誌の編集さんなの!それで今日は絶対共ポの服選ぶ!って前から張り切ってたのよ?」
理由はよく聞いてないけど、そうなしなが共ポジに伝える。
「共ポ、なしなこれ色違いであるみたいなんだけど。」
そう言ってわかめだが出したのは中華風の襟元、上部は肩から手首にかけて下はシースルーの生地を重ねて膝丈にかかるようすらりとスカートが伸びた白と水色の2種のワンピース。
「かわいい!!スカートに花の刺繍もあるんだ。」
「そうなのどっちの色も可愛いから後は共ポの好みなんだけどね。
どっちもあのリボンと似合うと思うよ。」
「……!」
「あのいつもつけてる水色のリボン大事なものなんでしょ?」
わかめだがだからそれに合う服を選ぼうと思ってと言葉を続けるが共ポジの耳をその音は通り抜けていく。
大事?そんなわけないあのリボンは……。
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いつもの習慣に沿って共ポジが朝早くから稽古場に向かう。しかしそこに自身のプリキュアの先生である師匠の姿は無かった。師匠が共ポジより遅く稽古場に来る事などこれまでには無く、共ポジが稽古場のドアを開ければいつも「おはよう、共。」と迎えてくれた。
「珍しいネ。」
そう思いながらどれだけ待っても師匠は来ない。流石になにかおかしいと思った共ポジは稽古場を飛び出した。
街中を探し回り気づけば日が暮れ始めていた。
「ししょ〜どこに行ったアルか〜?」
道端に転がっている小石を蹴りながら歩きボロボロに荒れ果て潰れた工場の前を通り過ぎよつとした時、複数人の声が聞こえた。
「ったく、手こずらせやがって。」
「老いぼれといえどプリキュアともなれば流石に手強いな。」
「xcrgv)juddxaaetcca。」
咄嗟にもの陰に隠れ息を潜める。そっと声のした方を覗き共ポジは目を見開いた。人間のような生物が五体、明らかに人ではない化け物が二十体、これまで共ポジが経験したことの無い敵の数だった。
そして、その中心にはあちこちから赤い色を流し手足を拘束された師匠の姿があった。
ヒュッと喉がなり頭が怒りで沸騰する。感情のままに飛び出そうとしたその瞬間、師匠の言葉を思い出す。
「戦場では常に冷静に。相手の動きをよく観察しなさい。」
怒りでグツグツと煮えたぎっていた脳がゆっくりとクールダウンしていく。
(まだだ、相手が1番油断してる、その隙を狙う。)
人間のような姿をした生物が楽しそうに笑う。
「弟子を殺すために手を組もう、だっけ?みんなを救う正義のヒーローがそ〜んなこと考えるなんてなあ〜!」
「最高のショーだよ!」
「敵のことそんなに簡単に信用するなんて、敵ながら心配するぜ、お 前 ら は 両 方 と も 死 ぬ ん だ よ 。」
『プリキュアはね、自分のために力を使っちゃダメなの。いつでも人に優しく、強い信念を持って。それがプリキュアよ。』
師匠の言葉がガンガンと煩いくらいに鳴り響く。
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私は中国で最強のプリキュアだった。誰もが私を尊敬し、賞賛し、皆が私を目標に日々努力をし、私のことを知らないものはいなかった。
ある日、ぃわかち星の使者が小さな少女を連れて私の元を訪れた。話によると事故でプリキュアになってしまったらしい。「キミに師匠になって欲しい...ってコト?!」と頼まれ、面倒だとは思ったが「師匠」という言葉に惹かれ引き受ける事にした。
少女には、共には、プリキュアとしての才能があった。そして、好奇心旺盛で多くの事を学ぼうとする積極性があった。渋々引き受けた仕事だったが、まるで子犬を飼っているようで可愛らしかった。
少し教えればすぐに自分のものにし、彼女は驚くべきスピードで成長していった。共の活躍は中国全土に広まり、私への賞賛の言葉は共へと移り変わっていた。
「プリキュアはね、自分のために力を使っちゃダメなの。いつでも人に優しく、強い信念を持って。それがプリキュアよ。」
綺麗事だった。それでも共は真っ直ぐな瞳で私を見つめる。
「師匠の信念は何アルか?」
気がつけば、共の強い信念のこもった真っ直ぐな瞳が恐ろしく、憎くなっていった。
(共を育てたのはこの私よ!この、私のおかげなのよ!)
共の力が無くなれば、共がプリキュアで無くなれば、私はまたスターになれる。魔法の力を奪うためには、共を殺すしかない。
「私を襲わない事を条件に今中国で最強と言われているプリキュアを共に排除しないか。」
恥もプライドも、プリキュアとしての信念も捨て、倒すべき悪への契約を持ちかけた。
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師匠は敵の言葉を否定も肯定もしなかった。どんなに敵に罵られても顔を伏せ微動だにしない。
「師匠今の話、ホントアルか?」
汚い笑い声で満たされていた廃工場が共ポジの声でしんと静まる。師匠はそれまで伏せていた顔をバッと上げ、目の前に立つ弟子を見て大きく目を開けた。突然音も無く現れた赤いワンピースに身を包んだ少女に敵達も反応出来ずにいる。
共ポジは真っ直ぐに師匠の目を見る。
師匠は、共ポジから目を逸らした。
敵が何か叫んでいる気がするが何も聞こえない。ただ、無我夢中で暴れ回った。
気がつけば地面は異形の生物で埋め尽くされていた。
師匠は共ポジが見た時と変わらない位置で体を小さく縮こませ震えていた。師匠に近づき、拘束されていた手と足を解放してやる。紐を解こうと手を伸ばした時、師匠が「ヒッ」と小さく声を上げ、恐怖で顔を歪ませたのを見、ズキリと何かに刺されたように心が傷んだ。
「師匠は我の事嫌いアルか?」
師匠は何も答えない。
共ポジは彼女のトレードマークともいえるおさげに手を伸ばした。三つ編みに結ばれた、彼女の中華風の衣装にそぐわないレースのついた淡い水色の可愛らしいリボンをギュッと握り、目の前で力無く項垂れる師匠の腰に視線をやる。ピンク、水色、黄緑、黄色、パステルカラーを基調とし、裾にはレースのあしらわれた可愛らしいドレスには明らかに異質な真っ赤な中華風の帽子がベルトに引っ掛けられぶら下がっていた。
共ポジはリボンを握っていた手をだらんと落とし、師匠の腰に掛かっている自分の帽子を取ると師匠に背を向けた。
すっかり日が落ち辺りは暗闇で満たされていた。空を見上げるとポツポツと数滴雨粒が顔を打ち、次第に強くなっていく。
「永别了。」
震える声で共ポはそう言うと二度と振り返る事無く廃工場を後にした。
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裏切られた、悲しかった、でも大好きな人だった。
そうか最後の言葉を口にしたはずなのに我はきっとまだ。
「白にするアル。」
今度こそ全部捨てよう。
本物のプリキュアになるために。
「うん、似合ってる流石私。」
「わねかだそれは間違い元が良いからネ。」
「わ か め だ!」
服を着替え軽口を叩き合う共ポジとわかめだの姿を眺めるなしな。
「よーっし共ポもより可愛くなったし次はワタシのお楽しみコース行こ!」
ファッション、雑貨屋、本屋たくさんの場所をなしな、わかめだと共に回っていく。
「えぇ〜〜!こういう風に遊ぶの初めてなの?!」
「ポコもフガも共ポも初めてがたくさんなんだポコ!」
「そっかじゃあ今日はもっともっと疲れるくらい遊ばないと、次ゲーセンね!」
人形のフリをするのも飽きてきたのかポコとフガももそもそと動き出す。
「かわ…いいアル。」
共ポジが見つめる先には、さぁ取ってと言わんばかりにつぶらな瞳をこちらへ向ける小さなぬいぐるみのストラップ達。
「わねかだへたくそネー!」
「共ポだって全然取れてないくせに。」
「気のせいアル。」
「これは大人の力見せるしかない。」
財布をかかえ両替機へと走るわかめだ。
「なしな!フガもやってみたいフガ!」
「フガが?もちろんいいわよ」
あくまでなしながやっているよう見えるようにフガを抱えUFOキャッチャーの機械を操作する。
「フガはもしかしてUFOキャッチャーの妖精だったフガ?」
「そ、そんなぁポコ!」
「ふふ、スペースジョークフガ!」
「スペースジョークは触覚に良くないポコ!」
そう喋るフガとポコの周りには可愛らしい景品の小さな山が。
「みんなにあげるフガ!!」
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「共ポ楽しい?」
椅子に座りフガから貰った小さなマスコットを撫でる共ポジになしなが話しかける。
「……楽しいネ、楽しかったよ、錠前、でもこんな幸せな時間が次の瞬間消えたら、例えばもしわかめだになにか裏切られたらどう思うアル。」
何かを思い出すように共ポジがなしなへ唐突な質問を問いかける。
「ううん、もしわかめだがワタシにひどいことしたらってこと?そんなの決まってるじゃない!わかめだに謝ってもらって仲直りするわ!」
「そんな簡単な事じゃないアル!我は本物のプリキュアにならないといけないネ!」
なしなの真っ直ぐな瞳を向けられ返す共ポジの言葉がつい大きくなる。
「ワタシ共ポの昔のことは何にもわかんない。でもワタシは共ポが初めてのクレープ選びにとっても悩んでた事、可愛いものが実は好きなこと、UFOキャッチャーが少し下手なこと全部今日知ったよ、強くてでも可愛くてそういうところ全部含めて共ポジっていう人間なんでしょ。」
「完璧な人間なんていないんだから。共ポが目指す本物のプリキュアだっていろんなものを抱えたままでもいいんじゃないってワタシ思うのよね!ねえ、共ポはどう思う?」
そうなしなは話し共ポジに質問を返す。
「我は。」
共ポジの言葉の途中でアイス屋に並んでいたわかめだ達がアイスを両手に抱え帰ってくる。
「甘くてひんやりしてとっても美味しいポコ〜〜〜!」
こちらに来るまでに我慢できなかったのかアイスを口にしたポコが歓喜のあまり飛び、甘くカラフルな色を共ポジに勢いよくぶつけるまであと数秒。
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「共、お誕生日おめでとう。」
そう言って手渡されたのはレースのついた淡い水色の可愛らしいリボン。
師匠を見ると、いつもリボンで2つにまとめた髪が解かれ、美しいブロンドヘアが風にそよそよと弄ばれていた。
「これ師匠のネ。」
「うん、その代わりに共のその赤い帽子と交換して欲しいの。」
「交換してどうするアルか?」
「おまじない。」
「おまじない?」
「そう。私と共が永遠の絆で結ばれますように、そういうおまじない。」
師匠は優しく微笑みながら共ポジのおさげにリボンを結び、共ポジの被っていた帽子を自分の頭に載せる。
「あなたはきっと素敵なプリキュアになる。共は私の自慢の弟子よ。」
共ポは笑いながら泣いた。師匠の衣装に不揃いな赤い帽子が可笑しくて。誰よりも尊敬する世界一のプリキュアに自慢だと言われたことが嬉しくて。
師匠から貰ったそのプレゼントは今まで貰ったどんなプレゼントよりも嬉しくて、宝物だった。
でも、いつからだろう。師匠がその赤い帽子を被らなくなったのは。
はっと目が覚める。夢を見ていたのだろうか。涙が頬を伝い慌てて手で拭う。
ベッドから出て、小さく変身の呪文を唱える。一瞬、眩い光で覆われ、プリキュアの姿となった共ポが鏡に映る。
赤い中華風のワンピースに似合わない水色の可愛らしいリボン。憎くて、はやく忘れてしまいたいのにずっとこのリボンを外せずにいる。
共ポジの態度からしても出会いは最悪だった黄色いプリキュアと緑のプリキュアを思い出す。あれだけぶつかりあったのに一緒に戦った後は馬鹿みたいな笑顔で「これからよろしく!」と2人揃って握手を求めてきた。
我のことを友達と呼んだ。
ふぅ、と溜息をつきもう一度鏡を見る。
楽しい思い出と同じくらい辛い思い出が詰まったこの布切れ。するりとリボンを解きクローゼットの奥にしまっていた赤い帽子を取り出す。
スマホがブブッと震え画面にメッセージが表示される。
『助けて〜(涙)』
チッと小さく舌打ちをし部屋の窓をあけ外に飛び出した。
戦闘後錠前がパタパタと走りよってくる。
「帽子にしたの?似合ってる!」
そう言って頭をポンと叩く。
「ねえ〜?!わかめだ〜〜!!」
「人のファッションに口を出すつもりは無いけど、うん、そっちの方が共ポらしい。」
ずっと心の中にこびりついていたあの思い出がスルスルと溶けていく。
「うるさいネ!」
そう言って錠前の頭を軽く叩き返す。
「共ポこれを受け取ってほしいんだポコ!」
ポコの手には錠前、クレソンと揃いのカラフルアミュレット。
「我は…それが無くても変身できるアル。」
「違うフガよ?これは共ポとおトモダチになった証なんだフガ!だからほら!」
「おそろいなんだポコ!はやく!はやく!」
「……ありがとうネ。」
受け取ったアミュレットを太陽の日差し溢れる空にかざす。
光が反射して赤が一際強く輝いた。
クローゼットには花の刺繍がカラフルに染まった白いワンピースと淡い水色のリボンが大事に仕舞われている。
錠前と話をした。けれど楽しい思い出も辛いあの日も全部今は置いていく。
いつかそれも全部抱きしめたまま走れるようになるように。新しい仲間と一緒にもっと強いプリキュアになるよ。だから……さようなら、師匠。
オレンジ色の空に3人のプリキュア達と小さな2人の妖精の笑い声が高く高く響いていた。