猫神社の月夜の奇跡くりんばこの神社には猫がたくさんいる。神主さんの伽羅が猫好きでお守りも猫だ。
今日も今日とて他の猫どもから伽羅を護るのが俺の仕事だ。
(伽羅に触るな!)
体を大きく見せて口を開いて威嚇する。伽羅の膝に座ろうとした猫を追い払う。
伽羅の膝は俺の定位置なのだ。取られては困る。
「国広、また怒ってるのか」
大きな手が抱き上げてくれたので俺は体の力を抜く。伽羅が俺を抱き上げてくれている時は俺だけを見てくれているので本当に嬉しい。
「国広はお喋りな猫だな」
(伽羅は俺が護るからな!)
この気持ちが伝わったらいいのに、ずっとそう願っている。
伽羅は一人で寂れた神社で神主をしている。参拝客も猫くらいだから、静かなものだ。
夜、月を見ると必ず祈る。
(伽羅と話しがしたいです)
(伽羅が寂しくないように、)
「俺が伽羅を護りたい!」
見上げた月が強く輝いて、光が俺の体を照らした。目線の位置がだんだん高くなって、他の猫が悲鳴を上げて逃げていく。まさか! と思ったときには全裸の人間が神社の前に立っていた。
唯一逃げなかった兄弟猫が言う。
(兄弟その姿は人間のようだよ!)
手がある、足がある。声が、出る。
「ぁ、から。伽羅!」
最初はおぼつかない足取りで、だんだんと走れるようになり、まだ明りのついている部屋まで走った。
「伽羅!」
「……誰だ警察呼ぶぞ!」
「よ、呼ばないでくれ、国広なんだ!」
「国広は猫だぞ」
「猫が俺なんだ!」
起き上がった伽羅は木刀を持って近づいてくる。
人間の常識から言って、寝床に全裸の男が入ってきたらビビるだろう。
「伽羅はこの神社の神主で、一人で暮らしてて、猫が好きだ! 一匹一匹に名前を付けていて、国広という猫は猫が嫌いなタイプだ! 俺は伽羅に抱っこされるのが一番のお気に入りだ! これで信じてくれるか?」
木刀がちょっと怖くて、思わず上目遣いになった。おやつをねだるときに俺がいつもやるやるだ。
「……本当に国広、なのか。その瞳の色……」
「えっ?」
「国広は光彩に傷があるんだ。あんたの右目にも同じ傷がある」
「知らなかった……今人間になったばっかりだから……」
「俺の国広なんだったら、うちの猫たちの名前が言えるな? 最近入った猫の名前は何だ?」
「姫鶴のことか?」
「まだ誰にも名前を言っていないから、本当に俺の国広なんだな」
「最初からそうだと言っている!」
「ふ、服を貸すから着なさい」
「な、なあ伽羅俺は朝になったら猫の姿に戻ってしまう気がするんだ。だから今のうちに抱きしめて欲しい」
伽羅は一瞬顔を赤くして、俺の言っている意味を理解したのか木刀を置いて近づいてきた。
「男を抱く趣味はないんだが、あんただけは別だな。手が体が自然と動いてしまう」
「毎日俺を抱っこしてくれているだろう。俺はそれを返したかったんだ」
伽羅が背中に腕を回してくれる。抱きしめてくれたことに対して、俺は伽羅の背中に手を回して抱きしめることによって返すことができた。初めてのことで、嬉しかった。
「伽羅、好きなんだ」
「俺も国広の事が好きだ」
伽羅は泣いていたので、頬を舐めると少し笑った伽羅がいた。