瞳と琥珀糖 二月某日からひと月後の晩、山姥切国広は贈り物の包みを携え大倶利伽羅の部屋を訪れていた。あの時の返礼の品は早くから決めていた。
『琥珀糖』
以前、主から貰った時にまるで宝石のようなこれが菓子だと知って驚いた記憶。
作り方は入手したが、一人では流石に難しい。まして他ならぬ大切な相手に贈るものだから失敗だけはしたくないと、高級茶葉を手土産に歌仙に協力を依頼する。
「君がここまでするなんて余程のことなんだねぇ」
思いがけない相手に少々面食らいながらも
「まあ僕を頼りにしたのは正解だと思うよ」
とまんざらでもない様子。
正直頼みやすさなら燭台切だ。しかし信用しているので筒抜けはないと思うが、何となく伽羅の身内なのでいたたまれないというか。それで今回はノータッチでいてもらう事に。
元々伽羅の瞳の色を意識した琥珀色のものだけ作るつもりだったが、歌仙の提案により国広の瞳の色のものも作ることに。
「季節には合わないけど、丁度僕も見て食べて楽しめる菓子が欲しいと思っていてね」
と歌仙は自分用に薄桃色や薄紫色に色付けしたものも作っていた。
完成した琥珀糖は国広も思わず見惚れてしまうほど美しい出来で、そのなかでもより大粒なものを慎重に選んで透明なガラス瓶に詰めた。
そして、三月某日。
この前の礼という明確な理由があるからか、
水引きで象った梅の花があしらわれた薄桃色の和紙の包を躊躇いなく手渡してきた。
包みを解いて現れたその琥珀糖の美しさと 愛しい者から贈られた嬉しい気持ちに伽羅の表情も目に見えて和らぐ。
『食べても?』と視線で窺えば緊張した面持ちの国広がこくりと頷く。
吸い寄せられるように国広の瞳に似た碧色のそれを一つ取り出し口に運ぶ。咀嚼され形の良い喉を滑り落ちていく様子を呆然と眺めていた国広が思わず片方の目を押さえて息を飲む。
何事かと訝しむ伽羅に自分でも馬鹿なことを言っているな、と思いながら。
「まるで自分の目玉を喰われたみたいだ」
すると伽羅は、今度は琥珀色のをつまみそれを国広の口元に。夢の中の出来事のように差し出されるまま口に含みゆっくり噛んで飲み込んだ。散々味見をしたはずなのに、記憶にあるそれ以上に甘く感じた。
「これであいこ、だろう?」
国広が気がつけば近くに伽羅の顔があり一瞬、碧い瞳の色が映りこんだように見えて。自分の瞳にも伽羅の色が同じように見えているだろうか。
脳裏に閃いた想い。今お互いに大事なものを交換したのだ。ふいに目頭が熱くなる。
信じられる、信じてもいいんだ
瞼が瞳を覆い隠したすぐ後、追いかけるかのように寄せられた伽羅の唇がそっと国広のそれと重なり合った。