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    @t_utumiiiii

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    弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造

    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
     荘園に残された膨大な数の「日記」を元に、自らの内側に、過去に荘園に存在し、そこで姿を消した(あるいは、荘園主の裏を掻いて、ここではないどこかへ脱出した?)人々の人格を空想の中に再現し、彼らの口から、彼らの物語を聞く。彼らが物語る各々のアイデンティティを元に、探偵は、彼らを主軸に据えた「ここではないどこか」の物語を描き出す――過去の彼は、「オルフェウス」を名乗る著名な小説家であったらしい。ある日を境にその記憶から断絶された今の探偵に残っている創作者としての才能は、その残りかすのようなもので、かつてここに存在し、今探偵に向かって己の物語を語ることのある客人たちのアイデンティティを主軸に据えた物語はどれも散文的で、結末に向かっての僅かな盛り上がりを見せたところでぷっつりと途切れてしまう、実にお粗末な代物ではあったが、その出来栄えはどうあれ、小説家としての過去の記憶から切り離され、今や夢境に閉じ込められた探偵にも、いくらか空想を膨らませる程度の能は残っていた。

     この頃はますます埃っぽいソファに座り込んだまま、いつの間にか眠っていたらしい。目を覚ました探偵は再び目を瞑り、自らの内側に置いた一つの椅子のイメージの上に、一人の客人を座らせる――フレディ・ライリー。招待状を携えてかつてこの場所を訪れた人物の一人であり、彼はここで「弁護士」という職業を名乗っていた。彼がここに至るまでの足取りは、他の客人たちより幾分克明に記されている。彼はかつてこの場所で行われ、彼を含め多くの人物の行方を眩ませる原因となった「実験」の初期コンセプトに対する投資者の一人だった。彼は、自ら投資を行った病院(そこが「実験」の初期コンセプトを扱う現場だったのだが)で実施された治療法が、彼の妻に対して悪影響を与えたとして訴訟を試み、敗訴によって弁護士としての社会的な名誉を失い、極めて事務的な閑職に追いやられている。
     また、最愛の妻を喪った彼は、妻を救わなかった医療関係者を恨み、とりわけ彼の妻に「直接」手を下したある女医を恨んでいた――彼の妻は、リディア・ジョーンズ診療所で違法手術を受けている最中、他でもない医者に放置されたことによって亡くなっている。手口の悪質性(彼女は中上流階級のご婦人方に対して、〝違法手術〟を常習的に行っていたと思われる)から、この女医ことリディア・ジョーンズ医師は事件発覚後、速やかに指名手配をされたが、彼はこの人物を、彼を誤った投資に導いたメスマー医師とその一味と同様に、生ぬるい司法に委ねるつもりは無かった。
     何せ、リディア・ジョーンズが明確に殺害したとされる(その証拠がはっきりと残されている)人物は、たった一人――彼の妻一人――それは法廷という場において、「1」という微々たる数字にしかなり得ないことを彼はよく理解していた。勿論、堕胎手術を行っていたかどでリディア・ジョーンズは縛り首になるだろう。しかしライリーは、彼から最愛の妻を奪った罪を、「一件の殺人」という微々たる数字に収めるつもりは毛頭無かった。恐らくは姿と名を変えて、日の当たる社会から暗い路地裏へネズミのように逃げ込んだのであろうその医師を追い詰める為、ライリーは招待状を携え、この荘園へやってきた――そこには彼が望むような生活を送るに値する賞金の約束と、リディア・ジョーンズの行方について知っている旨のほのめかしがあった。
    「ああ、その話は何度も聞いた!」
     荘園の埃っぽい椅子に座り込みながら沈思していた探偵は、むさくるしい無精ひげでうっすらと覆われた顎を擦りながら、苛立たし気に声を荒げる。
    「何か、抽象的な事柄を空想することはないのか? 〝ここではないどこか〟に、自分がもし存在していたら。〝あの時ああでなかったら、〟自分はどうなっていたか、というようなことを……過去に自分が通過した人生の轍の検証ではなく……」
     ぶつぶつと独り言ちるにしては大きな声で喚く探偵の頭の中で、聴取される者が座らされる椅子に腰かけ、存外ラフに脚を組んでいるフレディ・ライリーは、あからさまに苛立っている探偵のその様子を「推理(本職)を放って空想ごっこか? 何ともまあ、優雅なものだな」と嘲笑った。
    「ここで時間を空費し、幻想を見て、何になる? 仮に君が、〝これ〟に意味を見出しているのであれば、是非ともその御高説を賜りたいところだが、〝探偵〟さん……君がここで為すべきことは、ここに残った断片を繋ぎ合わせ、事実らしいものを導き出す〝推理〟という営みだろうと、俺は思うんだがな。」
     縁取りの赤っぽい眼鏡の鼻宛てを押し上げ、これ見よがしに眼鏡の位置を調整するライリーが勿体ぶった風に、「まあ、幻想しか頭にない小説家こそが君の本業だというなら、俺が話すようなことは何もないが……」と続ける様を聞き届けることも出来ずに、探偵は頭を抱えて、その思考を打ち切った。
     招待客の多くは、荒れ果てた荘園に閉じ込められた探偵が日がな一日行う〝カウンセリング〟――彼が荘園に残された客人の痕跡を元に思い浮かべた、各々のアイデンティティとの対話という試み――に対して、時に呆れや侮蔑を見せながらも多少は協力的な仕草を見せはするものの、弁護士ライリーは殊に非協力的なアイデンティティの一人であり、彼には取りつく島というものがないのであった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
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