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    @t_utumiiiii

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    試合でフールズ・ゴールドにぶん殴られて意識がぶっ飛んだ心眼が幼年期探鉱者と遭遇する二次妄想 ※日記のないキャラクターの言動を捏造 ※サバイバーが全員荘園で生活しているタイプの自由な荘園妄想

    壊れた鳥籠(探鉱者又はフールズ・ゴールドと心眼) ヘレナは目の前の景色が「見える」ことに気が付くと、すぐにそれが夢であることを理解した。彼女が視力を失ったのはほんの幼い頃であったが、それでも無意識はかつて見た景色を覚えているようで、彼女は時に夢の中で、窓から指し込んでくる明るい日の光に照らし出された、懐かしい我が家の内装を、ほんの低い視点から見上げることがある――が、目の前の景色は穏やかな昼下がりを迎えた家の光景とは全く異なり、まるでネズミかモグラが地面に掘った穴の中にいるのようで、自分が穴の中にいることを考えればその天井はそれなりに高く、人が動き回るには十分広いとはいえ、絶対的な空間としては狭く、こもった臭いがして、薄暗い。穴の中に敷かれた線路の枕木を文字通り枕にしながら、着の身着のまま土の上に横たわっていた彼女の顔を上から覗き込んでくる男の子の顔が無ければ、彼女はそれが夢だと(つまり、自分が今「目が見えている」ことに)気付くのはもう少し遅れただろう。
     しかし、視力を失っているヘレナにとって、「見覚えのないもの」が見えるのはおかしいことだ。それらは彼女の目に映るものではなく、彼女の世界には、音の反響として現れるべきものだというのに、見覚えのない穴と粗末な線路、そして、彼女の顔を上から見下ろしている見知らぬ男の子の顔が今は、はっきりと見える。だからこれは、夢というより、写真家が扱う「写真世界」のようなものかもしれない。つまり、荘園のバグのようなものということだ。

     線路に頭を凭れ掛けさせて寝そべっているヘレナを発見したらしい、カナリヤの入った鳥籠を腕に抱えている子供が言うには、ここは坑道で、彼は父親のもとに忘れ物を届けに来たらしい。「今、何時ですか?」とヘレナが聞くと、そこらに時計が掛けられている訳でもない坑道の中で、さらに手荷物として時計を持っている風でもない子供は、「6時」だとはっきり答える。その断言ぶりに驚きながら腰を上げたヘレナを、子供は怪訝そうに見上げながら、「あんた、なんでこんなところにいるのさ」と甘さのない調子で続けた。
    「女は鉱山に入らない。それに、娼婦って格好でもないだろ。まさか、道に迷ったとか?」
     幼いのは顔つきばかりで随分と口の回る男の子はそこで、バカバカしいと言わんばかりに鼻で笑ったものの、ふと真面目な顔つきになると「まてよ……」と、まるで大人のようなことを言って、ぶつぶつと考え事を始める。こいつ、こんなところで寝てるなんて、キチガイかもしれないけど、みなりは悪くない。ここらで見かける人間じゃないし、もしかすると、親がお金をたくさんもってるかも。ヘレナに聞かせるつもりはないのだろうが、考えていることがそのまま口に出ている。自分の顔を見下ろしてくる子供の顔の線の丸さを見た時、咄嗟に(十歳にはなっていないぐらいだろう)とヘレナは思っていたものの、もしかすると、この子は、もっと小さい――六歳か七歳、いや、それよりも、もっと小さいのかも――と彼女は考えを改めつつ、「ここでまよったら死ぬよ」「穴の外まで案内してやるから、ぼくにちゃんとついてこい」と今度は彼女に聞こえるようなはっきりした声でそう言って、ヘレナを見上げて来た子供に、敢えて(聞こえていたけれど)と水を差すことは控えた。実際、ここがどういう性質の場所かは、まだよくわからない。物事に通じている子供の機嫌を損ねるのは、賢いやり方ではない。

     穴の中には不気味な程人が居らず、坑道というにはすれ違う鉱夫には一人も出くわさなかったが、子供は何ら疑問を持った様子もなく、鳥籠を抱えたまま「まずは父さんのところにお使いにいく」とだけ言って、後はヘレナが勝手についてくるべきだと言わんばかりの態度で小さな背中を向けるとてくてくと歩き始める。掘削の時間が決まっていて、この区画は人がいない時間かもしれない――と思いながら、ヘレナは子供が抱いているカナリアの方に意識を惹かれ始めていた。囀るカナリアの鳴き声を彼女は音としては聞いたことがあるものの、姿を見たことはなかった。この夢の――あるいは、この空間の――中でなら、その姿を見ることが出来るかもしれない――しかし、舗装されていない穴を歩き慣れている様子の子供は思いの外すたすたと進んでいき、ヘレナは常に遅れていた。
    「もう、ちょっと、ゆっくり、歩いて、くれますか……!」
     ヘレナが息も切れ切れにそう言うと、子供は不満そうにヘレナを振り返りながら、いっときはわざとらしく簡単にのろのろと歩くものの、すぐに意識が歩く方に集中してしまうのか、その内に歩く速度が戻ってしまう。とはいえ、ヘレナを案内するという目的に変わりはない様子で、縄梯子を使って移動する場所では、その根本にちょこんと立って待っており、ヘレナがふらふらと近寄っていくと「遅い」と、淡々とした口調の中にも不機嫌が窺える様子で言った。
    「ちょっと待って」と咄嗟に呼びかける名前を知らないことに苦慮していたヘレナが、そこで数度深呼吸をして息を整えながら、「……あの、お名前は?」と聞くと、子供は一瞬嫌そうな顔をしてヘレナの顔をじろじろと見てから、「……ひとの名前をきくなら、自分からじゃないの?」と、いかにも怪訝そうな口ぶりで言う。
    「私はヘレナ・アダムスといいます。職業は、えーっと、今は、勉強中なんです。大学生になるための。」
     子どもの言い分にそれもそうかと納得したヘレナが、そこで嫌な顔もしないで自己紹介を始めると、これまでの人生で未だ「だいがくせい」という言葉を聞いたことがなかったその子供は、うっすら口を開けてヘレナを見上げていたかと思うと、酸っぱいものを口に入れたかのようにいたく顔を顰めながら、後で親に言いつけられるとでも思っているような、明らかに気の進まない様子で「ノートン」と言ったが、ヘレナが習い性(彼女は基本的に振る舞いが丁寧な性質であり、それはハンディキャップを背負う彼女が、ハンディキャップの多い社会を生きる為、より他人からの手助けにアクセスしやすくなるための生存戦略だった)から、「ノートンさんですね」と敬称をつけるのを聞くと気を良くしたようで、顔はしかめっ面から無表情に戻ってヘレナをじろじろと見上げているばかりだが、口の方では「ノートンは名前だ。名前で呼ぶのはていねいじゃないから、キャンベルさんだ。キャンベルさんって呼べ」と矢継ぎ早に要求し、ヘレナが言われるままにそれに応じると、それに満足して顔を綻ばせるわけではないが、幾分満足げにフンと鼻を鳴らして顎を上げた。その後、子供は片手で鳥かごを持ちながら器用に縄梯子を降りていき、ヘレナが縄梯子に難儀しながらもおずおずと降りてくるのを下の階層で呆れ顔で眺めていたものの、大人しく待っていた。

     さらに深い場所に向かう途上で、段々と子供の歩く速さに慣れ始めたヘレナから、「どうしてカナリアを持ち歩くんですか?」という質問を受けると、子供は(お前は何も知らないんだな)と言いたげなませた仕草で首を振りながら、「毒ガスが出たときのためだ」と答えた。
    「こいつらは、毒をすったら、鉱夫より早く死ぬ。だから、こいつがだまって死んだのを見たら、僕たちは、毒でしぬまえに逃げるんだ」
     滑舌そのものは見た目相応に幼いものの、態度としてはまるで(常識だろう)と言わんばかりのすれっからした口ぶりをするノートンからの説明を受けながら、今のところ機嫌の良さそうに囀っている赤っぽい色をしたカナリアのくりくりとした目を見つめていたヘレナが「ちょっと、可哀想ですね」と思わず呟くと、幼いノートンはそれに絶句するようにヘレナの顔をじぃっと、いっそのこと睨む程の強さで見たのだが、そこから不機嫌に叫んだり、大人顔負けの舌打ちをしたり、嘲ったりするような真似はしなかった。
    「こいつらは、僕と同じだから……」
     ノートンも普段からそんなことを言う子供ではなかったが、唐突に現れた見慣れない、しかし害があるようには思われない人間を前に、少し調子をおかしくしているのか、そこから何かを言い出そうとして、しかし言葉を見つけられずに言い出しきれないというような、歯切れの悪い表情をした後に「しかたがない」と言う。
    「僕の父さんだって爺さんだって、ここで鉱夫をやってた。こいつの親の鳥だって、ここでカナリアをやってた。そういうものだから……」
     そこで初めて、監視するべき対象であったヘレナから目を逸らした子供の態度に、ヘレナは敢えて何かコメントをすることはなかった――生まれというのも才能であり、神は人それぞれに試練を与える。彼女は己のハンディキャップをそのようなものと理解しており、また他人に対してもそうであった――が、学校や本のことを聞いても反応の無かった子供が初めて空想的な事を口にしたことに、僅かな驚きと、嬉しさに似た喜びを覚えていた。それは、苦難の多い環境で育ち可愛げのない子供の中にもようやく子供らしさを見つけた、というよりは、「同類を見つけたかもしれない」というそれに近いものだ。
    「キャンベルさんは、詩人の才能がありますね」
     その頃には、やけにませた(そして得てして礼儀を失した)物言いをする子供相手に丁寧な口調で応じることに、多少の楽しみを感じ始めていたヘレナがそう言ったのを聞くと、子供は「詩人」という肩書を聞いたことはあったようで、幼い眉間をむっと顰めながら「まさか!」と言ったものの、ヘレナが、「私は将来、文学士になりたいんです。自分で詩を作るのも好きで……」と続けるのを見ると、「どうやら身なりが良い人間よりも、自分の方が才能があるのかもしれない」というところに思い至ったのか、子供は無表情のまま、しかし不思議と得意げに黒黒とした目でヘレナを見上げると、「僕はぜんぜん、詩人なんか金にもならないの、なりたくないけど……」と返す。自分の中に何かを見出したことがそれなりに喜ばしいのか、まるで無礼なことを得意げに言いながら、これ見よがしに背筋を伸ばしてヘレナの顔を見上げてくる子供の目を見ることに、ヘレナは僅かな喜びを覚えていた。

     それからヘレナは、カナリアと自分のことを是非詩にしてみましょうと子供に持ちかけたものの、韻律や押韻の話を続けたので、その子供からはいよいよ鬱陶しがられて、ついに鳥かごを抱えたまま、子供は走って逃げ出した。揺らされた鳥がキョキョキョと慌てふためいて鳴く音を聞きながらヘレナは、詩のことを語り合えるかもしれない相手に巡り合って、急に話しすぎてしまった己を恥じていた。相手はまだ声変わりもしていない、七歳ぐらいにもなっていないかもしれない子供で、詩という言葉をやっと知っているぐらいなのだから、最初に詩の規則や文法ではなく、まずは、自分をカナリアに例えた彼の感性を大切にするような、そんな話の運び方をするべきだった。相手を導く時には、相手の立場を想像して、そこから少しずつ歩み寄らなければいけない。先生のように、私は――

     そこでヘレナがふっと意識を取り戻すと、彼女の身体はその時、坑道とは全く異なる、平たく慣らされた土の上に寝そべっていた。電車が遠くの路面を走っている振動が地面から伝わってきており、視界は明暗程度がわかるぼやけたもので、つまり、先程までの坑道は、おそらく、白昼夢を見ていたんだろうという事がわかって、段々と自分の置かれた現状を理解していくにつれ、後頭部の痛みが激しくなってくる。
     ヘレナがその場でうつ伏せに倒れたまま身体を丸めながら、激しく痛む頭を抱えていると、遠くに投げられたつるはしが、まるでブーメランのように風を切って戻る音と、積まれた石同士がこすれ合うような硬い音。その日ヘレナが参加した試合のフィールドは永眠町、ハンターはフールズ・ゴールドだった。既に二人、ロケットチェアに括られて脱落した後で、解読済の暗号機は三台。脱出口が更新されている。地面に蹲っているヘレナの後頭部を、文字通り岩の礫で形成された固い拳で打ってダウンさせたハンターは、残る一人を探しに行くつもりのようで、蹲るヘレナを跨いで歩き去っていく音がするのだが、その時ちょうど何かが外れたのか、ヘレナの前に、かしゃんと音を立てて何かが落ちた。
     せめて痛みから気を紛らわせるもの欲しさに、彼女が音を頼りにしてそこに手を伸ばし、その場に落ちたものを撫で、金属でできているけれども、尖った刃物ではなさそうということを確かめてから掴んで、手元まで引き寄せ、探るように細部を触っていると、それは、出入り口がまるで爆弾によって内側から弾けたようになって大穴の開いた鳥かごのようだった。少なくとも招待客(サバイバー)は、試合に私物を持ち込むことを禁じられている。ハンターがどうかは知り得ることではないが、たぶん、これはハンターの携帯品だろうと、ヘレナは意味もなく目星をつけた。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE転生現パロの傭オフェ(広義) ※日記のないキャラクターの言動を捏造
    so sorry(転生現パロ傭オフェ) 黒い樹皮を晒した木立の間を容赦なく吹き抜ける吹雪に凍てつく程の森を抜けると、開けたところに出た。風に多分に含まれる雪氷の破片によって白く濁った視界が目の前を塞ぐように覆っているというよりもそれはむしろ、白い地平が、どこまでも白々しく続いて、視界が効かない中でも、殺伐とした地平線が目に浮かぶようだった。追撃を撒きながら走り続け、鈍く痛み、倦んだところから溶け出すような疲労を訴えている彼の脳は、ここから先には〝何もない〟という得体の知れない直観をすっかり信じ込んでいて、それがナワーブをいっそう苦しめた。
     身勝手な直観によって、思わずどっと崩れ落ちるように雪の上に付いてしまった自分の膝を、ナワーブは拳で叩きながら、どうにか立ち上がろうとする。あの屋敷、そして、そこを取り囲むようにあるこの森から、何としてでも離れ、俺は、外に出る必要がある。応援を呼び、調査の為に戻る。あの荘園で行われている実験を調査し、白日の下に晒す――そこで、追ってきた追手かそれ以外の何かに見つかったのか、まるでスイッチを押し込んだかのように、ぶつんと途切れた意識が、ここで戻った。これが、彼が所謂〝前世〟の記憶を取り戻した瞬間だった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE試合でフールズ・ゴールドにぶん殴られて意識がぶっ飛んだ心眼が幼年期探鉱者と遭遇する二次妄想 ※日記のないキャラクターの言動を捏造 ※サバイバーが全員荘園で生活しているタイプの自由な荘園妄想
    壊れた鳥籠(探鉱者又はフールズ・ゴールドと心眼) ヘレナは目の前の景色が「見える」ことに気が付くと、すぐにそれが夢であることを理解した。彼女が視力を失ったのはほんの幼い頃であったが、それでも無意識はかつて見た景色を覚えているようで、彼女は時に夢の中で、窓から指し込んでくる明るい日の光に照らし出された、懐かしい我が家の内装を、ほんの低い視点から見上げることがある――が、目の前の景色は穏やかな昼下がりを迎えた家の光景とは全く異なり、まるでネズミかモグラが地面に掘った穴の中にいるのようで、自分が穴の中にいることを考えればその天井はそれなりに高く、人が動き回るには十分広いとはいえ、絶対的な空間としては狭く、こもった臭いがして、薄暗い。穴の中に敷かれた線路の枕木を文字通り枕にしながら、着の身着のまま土の上に横たわっていた彼女の顔を上から覗き込んでくる男の子の顔が無ければ、彼女はそれが夢だと(つまり、自分が今「目が見えている」ことに)気付くのはもう少し遅れただろう。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE背景推理や荘園の記憶がない弁護士ライリーさんがエミリー先生の顔を見て凄い引っかかるものを覚えたのでナンパしてみたらうまくいったのでプロポーズまで漕ぎ付けるような仲になったんだけど……という二次(現パロ弁医)
    restoring the balance(弁護士と医師)※現パロ 世間における一般的な理解として、事前の内諾があることを前提にした上でも、「プロポーズ」という段取りには何らかのサプライズ性を求められていることは、ライリーも承知していることだった。彼は弁護士という所謂文系専門職の筆頭のような職業に就いていることを差し引いた上でも、それまでの人生で他人から言い寄られることがなく、また、それを特別に求めたり良しとしたりした経験を持たなかったが、そういった個人的な人生経験の乏しさは兎も角、彼はそのあたりの機微にも抜かりのない性質である――つまり、そもそも万事において計画を怠らない性質である。
     その上で、彼は彼の婚約者に対して、プロポーズの段取りについても具体的な相談を付けていた。ある程度のサプライズを求められる事柄において、「サプライズ」というからには、サプライズを受ける相手である当の本人に対して内諾を取っておくのは兎も角、段取りについての具体的な相談を持ちかけるということはあまり望ましくないとはいえ、実のところ、彼女がどういったものを好むのかを今一つ理解しきれておらず、自分自身もこういった趣向にしたいという希望を持たないライリーにとってそれは重要な段取りであり、その日も互いに暇とはいえないスケジュールを縫い合わせるようにして、個人経営のレストランの薄暗い店内で待ち合わせ、そこで段取りについてひとつひとつ提案していたかと思うと、途中でふと言葉を止め、「待て、もっとロマンチックにできるぞ……」と計画案を前に独りごちるライリー相手に、クリームパスタをフォークで巻き取っていた彼女は、見るものに知的な印象を与える目尻を緩め、呆れたような気安い笑い方をしてそれを窘めてから、考え事を止めたライリーが彼女の顔をじっと見つめていることに気付くと、自分のした物言いに「ロマンチストな」彼が傷付いたと感じたのか、少し慌てる風に言い繕う。いかにも自然体なその振る舞いに、彼は鼻からふっと息を漏らして自然に零れた微笑みを装いつつ、「君の笑顔に見惚れていた」といういかにもな台詞をさらっと適当に言ってのける。雰囲気を重んじている風に薄暗いレストランの中、シミ一つないクロスを敷かれた手狭なテーブル――デキャンタとグラス、それに二人分の料理皿を置くと手狭になる程のサイズ――の中央に置かれている雰囲気づくりの蝋燭の光に照らされている彼女は今更驚いた風に目を丸くすると、柳眉
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    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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