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    @t_utumiiiii

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    転生現パロの傭オフェ(広義) ※日記のないキャラクターの言動を捏造

    so sorry(転生現パロ傭オフェ) 黒い樹皮を晒した木立の間を容赦なく吹き抜ける吹雪に凍てつく程の森を抜けると、開けたところに出た。風に多分に含まれる雪氷の破片によって白く濁った視界が目の前を塞ぐように覆っているというよりもそれはむしろ、白い地平が、どこまでも白々しく続いて、視界が効かない中でも、殺伐とした地平線が目に浮かぶようだった。追撃を撒きながら走り続け、鈍く痛み、倦んだところから溶け出すような疲労を訴えている彼の脳は、ここから先には〝何もない〟という得体の知れない直観をすっかり信じ込んでいて、それがナワーブをいっそう苦しめた。
     身勝手な直観によって、思わずどっと崩れ落ちるように雪の上に付いてしまった自分の膝を、ナワーブは拳で叩きながら、どうにか立ち上がろうとする。あの屋敷、そして、そこを取り囲むようにあるこの森から、何としてでも離れ、俺は、外に出る必要がある。応援を呼び、調査の為に戻る。あの荘園で行われている実験を調査し、白日の下に晒す――そこで、追ってきた追手かそれ以外の何かに見つかったのか、まるでスイッチを押し込んだかのように、ぶつんと途切れた意識が、ここで戻った。これが、彼が所謂〝前世〟の記憶を取り戻した瞬間だった。

     まるで二度寝から目を覚ましでもしたかのように、ぎくりと肩を揺らしながら顔を上げたナワーブには、不思議とそのまま立ち上がって走って逃げだしたくなるような混乱やひどい居心地の悪さ、常軌を逸したことが自分の身に起こったことによって感じる耐えられない程の恐怖を覚える、といったことはなかった。ただ、それまでうとうととしていたものがふっと目を覚ましたような、奇妙な感覚があった。講義室の前方では、ホワイトボードを背にスクリーンを移している割りには時代錯誤な片眼鏡を掛けた白スーツの男が、「記憶の回復」について滔々と語っている。この男は大学教授だ。今は、必須科目の初回講義で、教壇に立っているあの若い男は、栄えある初回講師であるらしい。
     軍人にも見えない人々が、各々の手に小型発信機のような薄っぺらい板を持ち、その板一枚を翳してあらゆる支払いを済ませていくという現代の知識は、奇妙なことに、ナワーブの頭の中に既に入っていたが、一方で彼がこれまで、この時代に送ってきた筈の「これまでの人生」のことは、不思議と覚えが無かった。まるで、それまで悪夢を見るように浮遊していた彼の魂が、不意に未来ある若者の肉体を乗っ取ったようで気分が悪いが、不幸中の幸いと言うべきか、時機が良かった。ナワーブが乗っ取ったこの身体の持ち主は軍人だったが、今年上官の勧めもあり、留学生として、このエウリュディケ大学に派遣され、これからまさに、異国の地での暮らしを始めるところだったらしい。急に人が変わったようになってしまったとしても、過剰に彼を心配し、これまでこの肉体で生活を続けていた人格を悼む人物はいないということだ。それには多少の罪悪感を感じないでもないが、そうであれば、幾分か気は楽になる。

     大学の構内にある寮のルームメイトとして現れたのは、ラガーシャツを着たウィリアム・エリスだった。〝過去〟のナワーブが最後に姿を見た時と、寸分違わない――強いて言えば、服装に使われている布地やロゴマークのデザインが、若干現代的な――ウィリアムは、これから暫く共に生活を送ることになる新たなルームメイトが部屋にやってきたのを見てとると、「お、来たな」と気安い声を掛けて来ながら、ナワーブが今しがた、片手で持てるボストンバッグだけの荷物を持って入った奥に長細い部屋には左右にロフトのベッドが配置されており、ベッドの下にそれぞれ各人のスペース――そこには学び舎の寮に必須の家具として机が備え付けられているが、ここよりもより賃料が安価な寮は、このスペースを潰して、二段ベッドを設置している――が、その向かって右側にあるベッドの下の机から出て来たかと思うと、気さくな笑顔と共にナワーブに歩み寄り、「二年のウィリアム・エリスだ。よろしくな」と、屈託なく手を差し出して、挨拶としての握手を求める。
    「すまなかった」
     気さくなウィリアムの笑顔を前に、目を丸くした(といっても、彼は大きく表情の変わる性質ではなく、相対するウィリアムに彼の驚きが伝わったとも思われないが)ナワーブが思わず零したその文句を聞いたウィリアムは、怪訝そうに片眉を上げ首を傾げながら「はぁ?」と返してくる。
    (彼に覚えはないのだろう。)
     自分だけが、異常な状態に置かれている――自分には〝前世〟の記憶があり、いくらその〝前世〟で、自分がそれと似通った顔の人間と出くわしたからといって、相手も同じように、〝前世〟の記憶があるとは限らない――ことを恐ろしい程の冷静さで易々と呑み込んでいたナワーブは、ウィリアムの反応に際してすぐさま、「すまない、勘違いだ。よく似ているやつに、前に会ったことがある。」と難なく軌道を修正すると、ウィリアムが差し出したまま行き場を失っていた手を取って握る。
    「ナワーブ・サベダーだ。よろしく。」

     ウィリアムは〝今生〟でもボールを追うことに余念がないらしく、この大学にはスポーツ推薦で入学したと聞いた(ここも〝前世〟と変わりなく、ウィリアムはナワーブが諸々を聞く前から、自分の過去の経歴や栄光なんかをよく話して聞かせるタイプだった。)。実家は飛びぬけて裕福と言う程ではないが、取り立てて貧困と言う訳でもなく、彼のレベルであれば個室のある寮か、何となれば、自宅から愛車を飛ばして通学することも不可能ではなかったらしいが、曰くそういうのは「格好良くない」から、しないらしい。
     そういった過去を経歴として持ち、将来的には一流のアスリートとして活躍する夢を持つ彼から「お前は?」と何気なく将来の話を向けられたナワーブは、荷解き、と言っても持ち込んだボストンバッグから、どうやら家族のものらしい写真の入った写真立て――残念ながら、午前の必須講義で〝前世〟の記憶を回復してしまったナワーブの目から見ると、その写真に彼の顔と共に映り込んでいる人物は、あまり見覚えがないもののように思われる――をひとつ取り出す手を止めると、一瞬だけ押し黙ってから、自分の記憶にある限りの、これまでの自分の経歴に関する必要最低限の情報を、淡々と伝えた。
     曰く、彼は既に故郷で軍人の職を得ており、上官の勧めから、留学生としてここにいること。生活の苦しい家族に楽をさせる為に、ここで少しでも多く学び、将来的には軍の階級の中か、或いは他の場所で、より多くを稼ぐことが目的だということ。モラトリアムらしからぬナワーブの回答に、ウィリアムは酷く驚いたように目を丸くして、改めて彼の顔を正面から見た後、「おう、サベダー、……さんは、しっかりしてるんだな……はは……」と、冗談めいてやや卑屈っぽく、逞しい首を竦めて笑う。
    「ナワーブでいい」
     そう年も変わらないだろうと続けるナワーブに、ウィリアムは苦笑いめいた表情を浮かべながらも、自分よりも背が低く、身体は薄く頼りなく見えるが、どうやら軍人らしい新たなルームメイトを肘で小突いて「お、おう……じゃあ遠慮なく」と返し、「フェアプレイで行こうぜ」と、さらに続けて軽口を叩いた。
     口にしたその言葉に、特段の意味はない。何となく口を突いただけの文句だ。しかし、ウィリアムはナワーブとの生活の中で、この言葉を頻繁に使うことになる。


     初対面で軍属として公に奉仕し、家族の為に滅私して稼ぐという内容の自己紹介を喰らった時から、ウィリアムはナワーブに対して、(この男は立派な奴だ)という印象を思っていた。彼は学年こそひとつ下だが、ある種の社会人経験があるからか、その判断は常に沈着であり、また、何かと警戒を怠らない性質でもあった。要は、良くも悪くも気の抜けたところが無かった。
     ウィリアムが話の流れで、所属するチームメイトたちに、彼のルームメイトのナワーブを紹介することになった時、ウィリアムのその誘いをナワーブは断らなかったものの、とはいえ、当然のことながら、早くから物事の現実を見極めている彼は、今を盛りにとモラトリアムを享受しているウィリアムのチームメイトと話が合うような人物ではなく、肩に着く程の長さの髪を後ろでひとくくりにしているエスニックな雰囲気の、質問に答えはするが、どちらかと言えば寡黙な男がもくもくと皿を空にしていく様は、若干場が盛り下がった(この寡黙なアジア人が、その場に呼んでいた女の子たちの関心を殊更に惹いたというのも悪かった)。それから数十分も経って酒を飲む奴の酒が回ってきた頃、ナワーブが空にした皿の枚数が尋常ではなくなってきたことに皆が気付くと、若干盛り下がっていたその場は逆に盛り上がり始めたのだが、それはまた別の話だ。
     「フェアじゃないだろう」とその日の帰り、すっかり暗くなり、車道沿いにぽつぽつとある白っぽい街路灯の他に何の光源もないレストランからの帰り道で、ウィリアムは言った。沈黙をものともしないルームメイトを慮って諸々話題を振った挙句、女の子の視線まで奪われ、結局場が盛り上がったものの、それは彼の気遣いによるものではなく、単にナワーブの大喰らいによって盛り上がったのだと思うと若干面白くない気持ちからワインばかりを飲んでいたのが妙なところに回っており、浅黒い肌、そしてそれ以上に、その目つきにはっきりその兆候が表れる程酔っぱらっていたウィリアムに肩を貸していた(ように見えるが、実際はウィリアムが彼を振り払って歩き出そうとするのを、肩を無理やり貸しながら抑え込んでいた。彼のルームメイトは、ウィリアムの目から見ると小柄だったが、確かに力は強く、またそれ以上に、人間の身体をどう扱えば良いのかをよく理解し、実践経験もあるように伺えた)ナワーブが「……何の話だ?」と、自分に話し掛けられていることを一拍遅れて理解した風に顔を上げて様子を窺うと、ウィリアムはようやく顔を上げたナワーブの、アジア人らしい厚ぼったい瞼の下にある、ややオリーブ色がかったブラウンの目をじっと見遣ってから、視線を横に逸らし、いかにも気に入らなそうにフンと鼻を鳴らしてそっぽを向き、「あんたはふるさとにさぁ、恋人とかもいるんじゃないのか?」と言いつつ、酔っぱらって据わりどころの定まらない首をがくんと傾いだ。
    「いや、婚約者か。そういうのが、いるんだろ、たぶん……」
     だってのに女の子を独り占めはずるい。いや、今日はアランが呼んできた子が、揃いも揃ってエスニックな趣味をしていたのかもしれないけどさ……と口籠るようにぶつぶつ続けるウィリアムに、ナワーブは敢えて、何も返事をしなかったが、しばらくそうやってぶつぶつやっていたウィリアムが、ナワーブに肩を借りている体勢になっていることを活かして、彼の首回りに掛けた腕に力を籠めつつ「で? ナワーブ、どうなんだよ」と若者らしくへらへらとした無責任な笑い方をしながら促したので、ナワーブは若干呆れ気味に、といっても、彼はあまり表情が表に出ないので、細い訳ではないが印象も薄い眉尻をやや下げたに過ぎないが、そうして「婚約者はいない」と返事をする。
    「そうなのか? てっきり子供でもいるのかと……」
     目を丸くしたウィリアムが何気なく続ける、素朴な分だけ失言めいた感想に、ナワーブは大して嫌気がさしている風でもなく淡々と、「故郷では、男は持参金がないと、結婚は難しい。」と返す。
    「じゃあこっちで彼女とかさ、作らねーのか?」
     呆気のない調子を帯びたウィリアムの質問に、ナワーブが「興味がない」と返すと、彼は一瞬ぎくりと身体を強張らせ、「あ、いや、別に悪いって訳じゃないが……」と弁解するような声色で言いながら、しかし咄嗟のことでつい眉頭に寄った皺を誤魔化すように、やや下世話に緩んだ笑顔を装いつつ「そっち系か?」と続けられた言葉の意味が理解できなかったナワーブ(彼はその手の事柄に敏い訳ではない上、彼が所属していたコミュニティは、ウィリアムが属するそれよりも、同性愛的なものに対して寛容ではなかった)が、「どういうことだ?」と首を傾ぐのを見ると、ウィリアムはかえって妙なことを聞いてしまったというように瞼を伏せて、彼にしては珍しく、人前であることを差し置いても自己嫌悪めいて少し眉間に皺を寄せ、自分の拳を眉間の皺に押し当てつつ、「いいや、何でもないさ……」とだけ言う。普通なら、そこからいいや気になるそれはどういうことなんだと話が続きそうなものだが、彼の寡黙なルームメイトは、ウィリアムにそれ以上喋りたい気持ちがないことを察したのか、或いは、単にそれ以上の質問を見出さなかったのか、「そうか」と言うだけで、その話は終わった。


     そのように、自らの行動や発言が若干軽率で、考えよりも身体が先走りがちであり、そこまで頭の回転が良くないというところをウィリアムは然して欠点だとは思っていなかったものの、割合冷静沈着なナワーブの生活や判断ぶりを間近にしていると、それまで自分の味のように思っていたその身軽さと向こう見ずさが、時に欠点めいて感じられるようにもなった。そんなウィリアムの新たな悩みが、時折言ったところで仕方がないが「フェアじゃあないよなぁ」と、ナワーブの淡々とした行動を前にした彼がそうやって口籠る原因にもなっていたが、その上で、自分たちはおおむね良い関係を築けているとウィリアムは考えていた。
     以前の顔合わせでの食べっぷりが随分と良かったことから、ナワーブは大した話をするわけでもないもののチームメイトから結構気に入られたようで、食事会のようなことがあると「お前のルームメイトにも声を掛けてくれよ」という声がウィリアムに掛かるようになっていた。それは、ウィリアムにとって若干腹立たしいこと――彼が「ウィリアムのルームメイト」と眼差されることで、まるで、自分がナワーブの前座になったかのような心地になる――ではあるが、敢えて誘わないでいることだって、できないことではなかった。一対一で会話をする分には、ナワーブはウィリアムの話の良い聞き手であり、共通科目のノートに至っては、彼は優秀な筆記者であり、前年度テストよりも試合を優先したことで必須単位をいくつか落としていたウィリアムは、彼の代返とノートに大いに助けられたものだった。
     ナワーブは時折夜に出掛けることがあったが、ウィリアムはそれも彼の生活だろうと思って、敢えて話の途中に中座されるような目立ったことをされない限りは口出しもせず、然して立ち入ることはしなかったし、そうやって見送った後に、彼のルームメイトはきまって、いつの間にか帰ってきているものだった。大学生のルームメイトなんてそんなものだろうというのが、ウィリアムの認識である。

     しかし、一方で、ナワーブは、彼が在室している時にウィリアムが出掛ける素振りを見せると、「どこか行くのか?」と聞いてくることがあった。聞かない時は勝手についてくる時だ。行き先を聞かれることが別段気に掛からない時であれば、それに「図書館」や「練習」だと素直に返してやれば、「そうか」と言うだけだったが、何となく言いたくない気分の時に「ちょっとそこまで」と言うと、彼は確実についてくる。「別に、どこだっていいだろ?」と一度口ごたえをするように返した時、彼は表情一つ変えないまま「お前は少し、脇が甘いところがある」と、まるで年端の行かない子供に言い聞かせるような調子で言い返して来たのだが、その時には若干の心当たりがあったウィリアムは、あまり明け透けに馬鹿馬鹿しい! お前は俺のママかと言って返すこともできなかった。
     何せ数か月前、途中からOBが参加してきた練習試合の後の飲み会の三軒目で妙な店に入り、勧められるままに、得体の知れない巻物を吸わされた結果、〝トリップ〟したことがあったのだ。その場ではトイレでゲエゲエと吐いている内に妙な力が沸き上がり、テーブルに金だけ叩きつけるように置いて走って逃げたが、すぐに立っていられない程の酷い目眩に襲われ、ジーンズのバックポケットに入れていたスマートフォンで、直近に連絡を取った相手に電話をして迎えに越させた。それが、ルームメイトの彼だった。別に大学生なんだから、多少の危険だって無いことはないだろう。ただその時は肩を貸してくれて随分と助かったんだが、ナイーブな彼は、俺の失態に何か感じるところでもあったのか、以来ナワーブは、まるで女の子供を持つ親か何かのように、俺のことをよく気に掛ける。


     その日も、出がけにナワーブから行き先を何気なく尋ねられたことに、たまたま虫の居所が悪く、若干気にかかるものを感じたウィリアムは、「確かにあの時は、俺がお前に尻拭いをさせて、俺も、悪かったと思っているけど……」という前置きを入れつつ、ナワーブの振る舞いに対して「フェアじゃないだろう、それは」と言った。
    「……何の話だ?」
     本当にわかっていないのか、或いはわかっていてただわかっていない風に返しているのか、ウィリアムの目にはいいやつであることはわかるものの、正確に何を考えているかまではあまりよく読めない表情で淡々と返してくるナワーブを相手に、ウィリアムは続けて、今のあんたのかかわり方は、まるで俺の保護者ぶっているようで、それは不健全なかかわり方だ、ということを若干拙く砕けた言葉で雑駁に続けた後に、「俺達はさ、友人だろ?」と言う。
     ウィリアムはそれを(つまり俺達は対等な付き合い方をしているのであって、俺の為すことを全て端から向こう見ずだと考え、後に続く失態に対してあらゆる支度を整えているというような、まるで保護者めいた関わり合い方をするべきではない)というつもりで口にしたのだが、そこでウィリアムの外出を察して読み進める手を一旦止めていた課題本をしおりも挟まずに閉じたナワーブが、ウィリアムの方を見やりながら、やはり何を考えているのか今一つ読み取れない表情で「お前が望むなら、そうだろう」と、持って回ったようなことを言い返してくるのが、ウィリアムは気に掛かった。
    「じゃあさ、お前は、ナワーブは、どう思ってるんだ?」
     やや息巻いた調子で続いたウィリアムからの質問に、ナワーブは、初対面の彼から自己紹介を進められた時と同様に、一瞬だけ黙りこくった。

    (お前には、すまなかったと思っている。)

     俺はお前のような奴を、何人も見殺しにした。お前たちは、最後まで俺を信じていた。まるで、完璧に信じていれば、あらゆる弾丸が肉体を貫かないと感じているかのように固く、お前たちは、俺を信じていた。俺は、その信頼に報いたかった。あの荘園に来るような時点で、俺達は本当の仲間ではなく、その場を凌ぐために集められた頭数、賞金を共に手にするためにお互いを活かしあうチームメイトというよりは、賞金という利害が食い合うかもしれない潜在的な敵、だったかもしれないが、俺達は、確かに仲間だった。俺は、あの荘園で、決してお前を助けるために手を貸した訳ではないが、最後二手に分かれる前には、俺を信じるお前のことを、これまでに見殺した多くの仲間のように、助けたいと思っていた。〝以前〟の俺は、それに報いることができなかった。俺はお前に、済まなかったと思っている。だからせめて、〝今〟目の前にいるお前が不利益を被ることのないように、守ってやりたいと思っている。だがこれは、彼が望む回答ではないだろう。

    「……俺には、友達がいたことがない……」
     だから、正直なところよくわからない、と、思いのほかざっくばらんな打ち明け話のようにナワーブが続けた言葉は、彼がやや演技がかって眉頭を寄せていることもあってか、思いのほか深刻めいて響いた。ウィリアムは急に明かされたその事情に驚くように片眉を上げつつ、即座に適切らしい反応を見つけることもできないで「そ、そうか」とやや遠慮がちに相槌を打つに留めたものの、そこから「だが、俺の態度がお前を不快にさせたのなら、悪かった」と、頭を下げるというにはただ頷く程度にしか見えない調子で項垂れるナワーブを見た時には既に、ウィリアムが、先刻まで彼に抱きつつあった疑念――彼は良いやつの筈だが、しかし、このウィリアム・エリスを下に見て、まさか、世話してやっているつもりになっているのではないか――はすっかり霧散しており、ウィリアムは一種の使命感に駆られるようにして、少し気まずそうに丸められたナワーブの肩を抱き込んでバンバンと無遠慮に背中を叩くと、「そんなこと言うなって!」と励ますように続けた。
    「俺らさ、親友だろ?」
     だから今度、カウンセリングに一緒に行こうぜ。気にするなって。友達なんかすぐにできる。と意気込んで続けるウィリアムの至極真面目な表情に、ナワーブはやや怪訝な顔をした(何せ彼の本心としては、あまり友達を作りたい訳ではなく、そういった交流は基本的に煩わしいものだと思っている)ものの、彼ははっきりと表情を作る性分ではない為、ウィリアムがそれを察するようなことは無かった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLEピアソンさんの偏食をささやかな復讐に利用していたウッズさんの二次
    ※『記憶の庭』(転生現パロ短大生してるウッズさん(記憶あり)の部屋に空き巣のクリピ(記憶なし)が居候してる)の設定
    ※食べ方が汚い
    食育(転生現パロ泥庭) ピアソンさんは果物のことを、食べ物だとはあまり思っていない、みたい。“前”がどうだったのかエマは知らないけれど、今のピアソンさんは、例えば、冷蔵庫に牛乳やチーズをちょっと入れておいたりすると、まるでネズミみたいにすぐ食べちゃうのに、キウイやイチゴなんかを入れておいても全然手を付けないし、エマが自分で食べるために切ったのを、ちょっと分けてあげようとすると、(彼は元々、あまり美味しそうにものを食べるひとではないけれど、)眉間に皺を寄せて、はっきり嫌そうなぐらいの顔をしながら、「ク、クリーチャーは、べっ、別に、い、いいよ」「ウウ、ウッズさんが、ぜ、全部、食べればいいだろ!?」と、まるで急に責めるようなことを言われたのでそれに怒りながら反論する、というような調子で言い返してくる。普段のピアソンさんは、エマの部屋に勝手に住み着いて、家賃や生活費を出したりもしない癖に、エマの部屋の冷蔵庫に入っているものは、だいたい自分が手を付けていいものだと思っているぐらいの人で、そんな殊勝なことを言うような人じゃないから、本当に、そういう果物が好きじゃなんだと思う。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE転生現パロの傭オフェ(広義) ※日記のないキャラクターの言動を捏造
    so sorry(転生現パロ傭オフェ) 黒い樹皮を晒した木立の間を容赦なく吹き抜ける吹雪に凍てつく程の森を抜けると、開けたところに出た。風に多分に含まれる雪氷の破片によって白く濁った視界が目の前を塞ぐように覆っているというよりもそれはむしろ、白い地平が、どこまでも白々しく続いて、視界が効かない中でも、殺伐とした地平線が目に浮かぶようだった。追撃を撒きながら走り続け、鈍く痛み、倦んだところから溶け出すような疲労を訴えている彼の脳は、ここから先には〝何もない〟という得体の知れない直観をすっかり信じ込んでいて、それがナワーブをいっそう苦しめた。
     身勝手な直観によって、思わずどっと崩れ落ちるように雪の上に付いてしまった自分の膝を、ナワーブは拳で叩きながら、どうにか立ち上がろうとする。あの屋敷、そして、そこを取り囲むようにあるこの森から、何としてでも離れ、俺は、外に出る必要がある。応援を呼び、調査の為に戻る。あの荘園で行われている実験を調査し、白日の下に晒す――そこで、追ってきた追手かそれ以外の何かに見つかったのか、まるでスイッチを押し込んだかのように、ぶつんと途切れた意識が、ここで戻った。これが、彼が所謂〝前世〟の記憶を取り戻した瞬間だった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE試合でフールズ・ゴールドにぶん殴られて意識がぶっ飛んだ心眼が幼年期探鉱者と遭遇する二次妄想 ※日記のないキャラクターの言動を捏造 ※サバイバーが全員荘園で生活しているタイプの自由な荘園妄想
    壊れた鳥籠(探鉱者又はフールズ・ゴールドと心眼) ヘレナは目の前の景色が「見える」ことに気が付くと、すぐにそれが夢であることを理解した。彼女が視力を失ったのはほんの幼い頃であったが、それでも無意識はかつて見た景色を覚えているようで、彼女は時に夢の中で、窓から指し込んでくる明るい日の光に照らし出された、懐かしい我が家の内装を、ほんの低い視点から見上げることがある――が、目の前の景色は穏やかな昼下がりを迎えた家の光景とは全く異なり、まるでネズミかモグラが地面に掘った穴の中にいるのようで、自分が穴の中にいることを考えればその天井はそれなりに高く、人が動き回るには十分広いとはいえ、絶対的な空間としては狭く、こもった臭いがして、薄暗い。穴の中に敷かれた線路の枕木を文字通り枕にしながら、着の身着のまま土の上に横たわっていた彼女の顔を上から覗き込んでくる男の子の顔が無ければ、彼女はそれが夢だと(つまり、自分が今「目が見えている」ことに)気付くのはもう少し遅れただろう。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE背景推理や荘園の記憶がない弁護士ライリーさんがエミリー先生の顔を見て凄い引っかかるものを覚えたのでナンパしてみたらうまくいったのでプロポーズまで漕ぎ付けるような仲になったんだけど……という二次(現パロ弁医)
    restoring the balance(弁護士と医師)※現パロ 世間における一般的な理解として、事前の内諾があることを前提にした上でも、「プロポーズ」という段取りには何らかのサプライズ性を求められていることは、ライリーも承知していることだった。彼は弁護士という所謂文系専門職の筆頭のような職業に就いていることを差し引いた上でも、それまでの人生で他人から言い寄られることがなく、また、それを特別に求めたり良しとしたりした経験を持たなかったが、そういった個人的な人生経験の乏しさは兎も角、彼はそのあたりの機微にも抜かりのない性質である――つまり、そもそも万事において計画を怠らない性質である。
     その上で、彼は彼の婚約者に対して、プロポーズの段取りについても具体的な相談を付けていた。ある程度のサプライズを求められる事柄において、「サプライズ」というからには、サプライズを受ける相手である当の本人に対して内諾を取っておくのは兎も角、段取りについての具体的な相談を持ちかけるということはあまり望ましくないとはいえ、実のところ、彼女がどういったものを好むのかを今一つ理解しきれておらず、自分自身もこういった趣向にしたいという希望を持たないライリーにとってそれは重要な段取りであり、その日も互いに暇とはいえないスケジュールを縫い合わせるようにして、個人経営のレストランの薄暗い店内で待ち合わせ、そこで段取りについてひとつひとつ提案していたかと思うと、途中でふと言葉を止め、「待て、もっとロマンチックにできるぞ……」と計画案を前に独りごちるライリー相手に、クリームパスタをフォークで巻き取っていた彼女は、見るものに知的な印象を与える目尻を緩め、呆れたような気安い笑い方をしてそれを窘めてから、考え事を止めたライリーが彼女の顔をじっと見つめていることに気付くと、自分のした物言いに「ロマンチストな」彼が傷付いたと感じたのか、少し慌てる風に言い繕う。いかにも自然体なその振る舞いに、彼は鼻からふっと息を漏らして自然に零れた微笑みを装いつつ、「君の笑顔に見惚れていた」といういかにもな台詞をさらっと適当に言ってのける。雰囲気を重んじている風に薄暗いレストランの中、シミ一つないクロスを敷かれた手狭なテーブル――デキャンタとグラス、それに二人分の料理皿を置くと手狭になる程のサイズ――の中央に置かれている雰囲気づくりの蝋燭の光に照らされている彼女は今更驚いた風に目を丸くすると、柳眉
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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