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    @t_utumiiiii

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    @t_utumiiiii

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    オルフェオ時空のクリピは放っておいたら「リサの家」の土地を買収して店を存続させたかったら付き合えと迫ってると思いますが、オルフェオのウッズさんは庭師日記4のウッズさん(リサ・ベイカーの復讐者)なので返り討ちにするでしょうし、エミリー先生は薄々ウッズさんのやったことに気付いても見守ってくれるからハッピーエンドですね!

    夢境の幕間(泥庭、エマエミ) ホワイトサンドストリート周辺での不動産売買で財を成した――彼が自分自身で吹聴する程の名声があるわけではないが、その業績と所業は全くの無名というわけでもない――投資家ことクリーチャー・ピアソンは、夜道を肩で風を切るように歩いてくると、掛かっている「Closed」のプレートを一瞥もせず花屋のガラス扉を何食わぬ顔で押し開け、ドアベルを臆面なく鳴らしながら、まだ明かりの付いている店内に入った。そして、従業員を先に帰して一人、レジの締め作業を続けていた花屋の店主に向かって、挨拶をするというには下卑たにやつき方で笑いかける。
     それは珍しいことでもない。花屋「リサの家」の経営で成功を収め、いくつかの店舗を経営するうら若い店主のエマ・ウッズにピアソンがやたらと言い寄っているのは、今に始まったことでもなかった。
     上質な布を使った白い帽子――上品な紫のリボンが巻かれ、店のシンボルでもあるアザミのハットピンで留めてある――の丸い鍔の下から闖入者の顔をちらりと見るや否や、エマはそばかすの散る若く可愛らしい顔を、苦いものを噛んだときのように顰めながら「閉店よ」とうんざりしたように言うが、ピアソンはそれに堪えた風もなく「き、客じゃないからな」と、にやにや応じる。
    「俺はさ、たっ、大切な、話をしに来たんだ、大切な、わかるだろう? 客がいちゃ話にならない。ふ、二人きりじゃなくちゃあ、あ、あんただって、こっ、困ると思うが……」

     かくして閉店後の「リサの家」に押し入ってきたピアソンが、まっさらな白の上着のポケットから、いかにも勿体ぶった風の身振りで取り出したのは、数枚の土地の権利書であった。
     折り目正しく畳まれていたそれをレジの目の前に置かれて開かれると、その内容は嫌でもエマの目に入るし、そこに書きつけられていた住所はどれも、彼女にとって馴染みのある場所だった。それらはすべて、彼女が経営するここらでは有名な花屋こと「リサの家」がテナントに入っている場所だったのだ。つまり、今目の前でエマをにやにや見遣っている投資家に、それらの店舗の生殺与奪を握られているらしい。という現況を理解するのは、不動産に明るい訳では無いが店舗経営者であるエマにとって、何ら難しいことではない。
     見せびらかされた権利書を前に、レジの中身を確認する手を止めていたエマは、およそ屈託らしいものを感じさせない明るさのなかに、若干二十歳そこそこの年齢にして複数店舗経営を実現する才気が伺えるようにも見える深緑の目を丸くして、驚いた風の顔を作ってみせた(数年来彼女に執拗に言い寄っているピアソンの生業と性根を考えれば、それは別段驚くべきことでもなかったが、「あなたなら、そういうことをいずれしてくると思ったの」などと言ったところで、話が進むようにもエマには思えなかった。)。それから、うんざりするようにも困ったようにも取れる具合に眉尻を下げ、にわかに唇を尖らせながら、「こういうことをされると困るの」と零してみる。
    「わ、私だって! し、したくはないさ、こ、こんなことは……」
     エマの困り顔に満足するように薄ら笑っていたピアソンは、諸々の策を弄して地主を買収した側にも関わらず、自分が薄ら笑ったことを誤魔化したがる具合に肩を竦め、恐縮して見せるように腰を折って、鼻につくほど大仰な一礼をして見せたと思うと、次の瞬間には、腰を折って見せたのはポーズばかりで、大して反省をしているわけでもなさそうなことを隠しもしない機敏さで頭を上げながら、どうにも愉快でたまらないのか、やはりせせら笑う具合に緩んだ口元で「で、でもなぁ、」と切り出した。
    「これは、ウッズさんだって悪いと思うよ。い、いや、まあな、恥ずかしがるのも、可愛いもんだが、っげ、限度ってもんがさ、あ、あるだろう?」
     彼は続けて、「五年だ」と、ピアソンがきまってエマに向ける媚びるような猫撫で声から媚態が薄らぎ、その代わりに執拗さと、望むものを与えられないことへの不機嫌さが加わった不気味に低い声色でしきりに年数を復唱しながら、エマの前に手の平を広げて見せていたかと思うと、その手を下ろし、レジのテーブルの上に広げている権利書を手のひらで押さえながら、身を乗り出した。
    「っご、五年だよ……クリーチャーは五年も待ったが、あんたは返事の一つも寄越しやしない……」
     ピアソンはぶつぶつと言い募りながらさらに片手を伸ばしてくると、レジを一旦閉じていたエマの手首を掴もうとする。それに、習い性から――流石に彼にとっての外聞もあり、やたらと触ろうとしてくることはこれまでになかったが、この男から迫られること自体は、彼女にとって、今に始まったことではない――後退るエマに、男は下卑たぐらいのにやつき顔はそのまま、警告めいていっそう目を細めながら、「今日こそ、っへ、返事をさ、き、聞かせてくれ……聞かせてくれる、よな?」と言う。

    「こっ、ここからは、あ、あんた次第だよ、ウッズ“店長”……」

     その、さも取ってつけたような、いかにもわざとらしい言い方に気分を害したエマは顔を顰めたものの、掴まれた腕を振り払いはしなかった。目の前の男が何をするかわからないという恐怖から体が竦んでいる、というわけではなかった。
     それどころか、彼女はピアソンに腕を掴まれた格好のまま、微かに息を漏らし、「くすっ」と笑いすらした。そして、意中の相手から目の前で微笑まれた結果、毎度時間を掛けて丁寧に整えている顎髭を生やした顔を(直前で脅しつけるような身分相応の真似をしておきながら)年甲斐もなく赤らめている投資家が、彼女の店が入っている土地の権利書を押さえつけている手に、若々しく滑らかな女のものの手をそっと重ねると、「あのね、ピアソンさん」と、何時になく親密に、可愛らしく、甘やかな声で続けた。
    「エマから、ひとつ提案があるの、聞いてくれる?」
     そして、大人ぶった子供のするままごとめいて、声に笑いを含みながら小さく首を傾いで、上目遣いに見上げて来る彼女に、これは落ちただろうと、いかにも自分の目論見通りに話の進んだことを喜ぶほどの余裕もなく、あれ程望んだ愛情の兆しを受けてやたらと飛び跳ねる心臓にかえって困惑するように目を泳がせながら、ピアソンは引きつった顔で「ック、クリーチャーは、かっ、かか、か、構わないが」と、先刻の不機嫌さはどこへやら、すっかり熱っぽい声を上擦らせつつ、辛うじて取り繕った風に応じてくる。
     エマはそれに、少し拍子抜けをした、とでもいうように軽く首を竦めながらも、あくまで親しげな可愛らしい微笑みを崩さず、重ねた手の指を動かし、彼の手の甲に浮いた節をなぞりつつ、「ここだとちょっと、お話し辛いから……奥に来てくださる?」と、さも恥じらうように声を潜めながら続けた。



    ***


     翌日はロンドンでは珍しい程の清々しい晴れの日で、春めいて暖かな陽気に誘われるようにやたらと出歩く人々で、ホワイトサンドストリートは少し混み合っている程だった。
     通り沿いの孤児院で医師として活動をするエミリーが、彼女の良き友人であるエマが商う花屋である「リサの家」を訪れるのは珍しいことでもなかったが、その日は別の用件があった。彼女が活動するホワイトサンド孤児院の経営者でもあるクリーチャー・ピアソンが、昨晩から戻っていないという話を聞いており、その事情を伺うためというのが、今日の彼女の用件だった。

     彼は何も年端の行かない子供ではないので、一日二日音信が不通であろうと誰も気にしないし、エミリーの活動の場であるホワイトサンド孤児院にも、何ら支障はない。ピアソンは名目上、ホワイトサンド孤児院の経営者だったが、その実態は本当に金だけを出すだけの文字通りの投資家であり、孤児院の運営や管理は雇われの神父に丸投げの状態であることを、エミリーは関係者として適切に把握している。
     それでも、エミリーが敢えて、そのことを理由にエマの元を訪れた理由は、至極単純な直感だった。嫌な予感がした。彼女が何か、恐ろしいことに手を染めてしまったような……。(けれど、どうしてそんな根拠のない想像が、頭から離れなくなってしまったのかしら)エミリーの自問自答に、未だ答えは出ていない。
     エミリーは医師という――その場での適切かつ迅速な判断を必要とされることが少なくない――職業柄、根拠のない確信に頼ることが一切ないとは言えないものの、非科学的なそれにあまりの重きを置くことに、負い目を感じないこともない。何より、彼女にとって憂鬱なことは、自分の心がその瞬間、最良の友人を、まるでこの上なく疑っているような動きをしたことだった。つまり、彼女のことを、私は信用していないの? エマは、そんな恐ろしいことをするような人ではないわ――問題があるのは、むしろあの男の方――けれど、そこには何とも言い難い違和感があった。

     聞けば最近のピアソンは、例のお寒い「ウッズさんとのラブロマンス」のことをしきりに口にしていたらしい(最近でなくとも、誰かから水を向けられれば、所構わず喋っただろうが)。年単位で付き纏って返事も得られないのに、よくやるわね。というのがエミリーの所感であるが、「厄介なクリーチャー」はエミリーの呆れ等は露知らず、『近々彼女は良い返事をくれるだろう』と言って、やたらに帽子の角度を直してみたり、鏡の前に立ってみたりしていたらしい(し、エミリー自身その現場を見たことがある。)。
     エマは外見で相手を選ぶような女の子ではないことをよく知っているエミリーは、そんな物分りの悪い「厄介なクリーチャー」の言動を見聞きするたび、呆れる具合に鼻白んだものだが、その例の男と連絡が取れない――何らかの約束をすっぽかしたらしい――という話を孤児院で耳にしたとき、ふと、最近のピアソンのやたらに浮かれた様子を思い出し、それが妙に気にかかった。
     愛想がいいというにはどこか貼り付けたようで如何わしい奇妙な笑顔を口元に浮かべながら、結構な身分の方々に孤児院を案内するか、そうでなければ、明け方に酒臭い息で孤児院に“視察”に来たかと思うと、鍵をかけていたはずの空き部屋に入り込んで、子供用の二段ベッドの下で寝こけているような、しょうもない経営者、それでいて、エマから袖にされてもなかなか諦めない、厄介で物分りの悪い男という目で呆れるように眺めていると、つい忘れることがあるが、あの男は、曲がりなりにも、身一つで成り上がった――つまり、品行の良さというものや遵法の意識、過程の美しさというものにあまり心を砕かない、手段を選ばない――事業家であり、その生業は不動産投資だということだ。
     それが「近々いい返事が来る」と言って、やたらにはしゃぎまわっていた。あの男、やたらとエマに付き纏って鼻の下を伸ばしているだけでも気持ちが悪いのに、さらに自分の生業を、文字通り、己の私利私欲のために動かして、彼女の事業――「リサの家」の経営に、不利益が働くように動いたのではないか(そして、不利益に堪えかねた彼女が自分相手に“便宜”を求めてくることをわかっていて、「“時間の問題”」などと吹聴したのではないか?)(そして何より、その時に、エマが恐ろしいことに手を染めさせられてしまったのではないか)というのが、エミリーの見立てであり、注意深く観察をすれば、その痕跡らしいものはいくつか見えた。

     「エミリーが折角来てくれたから」といっそう楽しげなエマに言われるがまま、流石に生活スペースではないが、簡単な給湯設備と休憩スペースが設けられている店の奥に普段通り通されたエミリーは、その床が異様に掃き清められていることに気が付いた。そこは常に散らかされているわけではないが、まるで大掃除をしたばかりという風の床に店頭と裏を忙しく行き来するエマが持ち込んだのだろう花弁や砂埃が申し分程度にぱらぱらと散っている様には違和感があった。
    「何かあったのかしら?」
     すごく綺麗ね、とまで言うべきか否か少し迷ったエミリーが言葉を濁しながら聞いてみると、紅茶を煮出すためにやかんをコンロにかけているエマは「ちょっと掃除したの」と何気なく、普段どおりの明るい声で答えた。
    「最近暖かくなったでしょう?」
     冬場には目につかなかった埃が気になっちゃって、というようなことを微笑み混じりに続ける彼女に、エミリーは「ええ、そうね 本当に……」と頷いて見せる。そして、彼女が今しがた述べた春の陽気に誘われる風に、窓辺に立って中庭を覗いてみると、そこでも、洗ったばかりという風のシャベルが一本だけ、壁に立てかけてあるのが目に留まる。
    「……シャベルも洗ったのね」
    「ええ だって、今日はよく晴れているでしょう?」
     エマは普段通りの柔らかな、そして可愛らしい笑顔を口元にそう言いながら、テーブルに雑然と積まれた、売り物にならない花で彼女がよく編んでいる色とりどりの花のリースを、書類の類と一緒に抱えて、その端に寄せている。
    (そう、他は普段と変わらないのに、床だけがやたらに綺麗だから、気にかかったんだわ……)
     エミリーは頭を過るその思考に蓋をするように、ゆっくり瞬きをした。中庭はあくまで普段と様相を変えず、手を入れすぎないナチュラルな草地に、「リサの家」を有名にした要素の一つであるアザミが、見事に咲き誇り――何気なく庭を眺めていたエミリーは、そこで違和感を覚え、一点に目を留めた。
     中庭の一角に、土がむき出しの一角がある。まるで、掘り返したみたいな? 暖かな風が吹いて、一瞬日差しを遮っていた雲が流れて、再び太陽光に照らし出されたむき出しの土のそばに、なにか光るものがある。あれは――
    「あらエミリー、もう見つけたの?」
     気付けば、エマがすぐそばに立っていた。何とはなしの気まずさからエミリーがぎくしゃくと口角を上げて誤魔化すように笑う一方、エマはあくまで普段通りの調子で、「昨日の夜に思いついたんだけどね、お庭に新しいものを植えようと思って、少し掘り返したの」と口ずさむような調子で言いながら、エミリーがじっと見つめていたその庭の一角を指差す。
    「あそこに何を植えるかをね、貴女とお話したいと思ってたの……そう思ったら、エミリーが来てくれたのよ!」
     そういって楽しそうにきゃらきゃらと笑う素直な彼女の両腕が肩に触って、そのまま懐くように抱きついてくるのを、エミリーは止めはしなかった。止める理由がない。だって私はただ、この子を守りたい、救いたいだけだ。彼女が恐ろしいことをしたとしても、彼女が恐ろしい目に遭うより数段マシだ。私は二度と、この子を、一人ぼっちで、恐ろしい目には遭わせない……。

    「私の天使には、何でもお見通しなのね!」
     歌い出しそうな上機嫌さで喜ばしげな声を上げるエマに、彼女の腕の中に収められながら少し考え事に耽っていたエミリーは、思わず強張った。まるで、考えていることを――彼女を疑っていることを、見透かされたような気分になった。エミリーはその申し訳のなさから、美しい形をした細い眉尻を下げたまま、曖昧に微笑みつつ、「エマ」と、彼女の名前をよく確かめるように、慎重に、それでいて優しく、真摯な響きで呼ぶ。
    「なにか困ったことがあったら、一番に、私に相談して頂戴ね。」
     そして、僅かに曇ったブラウンの瞳を穏やかに伏せながら、「私はいつでも、あなたのために、最善を尽くすと誓うわ……」と続けるエミリーに、エマはにっこりと、いっそう無垢めいて可愛らしく微笑むと、「ほんとうに、夢みたいね!」と独り言ちる。
    「エマ?」
     彼女の様子を気に掛けるエミリーの呼びかけに、エマは頬への親愛のキスで応えると、「だって、そうでしょう?」と、形の上ではエミリーに同意を求めるように言うが、その深緑の目は、どこでもないところ――少なくとも、「ここ」には居ない筈の存在――それでいて、彼女たちのやりとりを観測している「あなた」を、確かに捉えている。

    「エマね、昔のことなんて、もうどうでもいいの。だって、私達は運命に勝利して、対価を分かち合ったんだもの。だから私達はずっと一緒で、二度と離れないの。二人で幸せに暮らすの……そう、あなたの夢物語よね」

     冷や汗の伝う息苦しい微睡みの中で仮定と推論は意味を失い、「あなた」(探偵)の意識は、暗く混沌とした淵へと落ちていく。
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    Replies from the creator

    @t_utumiiiii

    DOODLE弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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