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    kiryunatsuki

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    kiryunatsuki

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    演目:「さよなら」+1.5h
    偶然🌟が告白される現場に遭遇した🎈が開き直る話。
    両片思いの🎈🌟です。
    こちらでは初参加になります。
    新運営さま引継ぎありがとうございます&これからよろしくお願いします!

    さよなら、なんて絶対無理!「すまない。好きな人がいるんだ。だから君の気持ちには答えられない」
     それを聞いてしまったのは本当に偶然で。
    「る、類!? 今の聞いてたのか!?」
     何か口走った気もするが、そこから先の記憶は無い。

    ***

    「類! るーいー! 聞いているのか!」
     司の大声にはっとして返事をする。
    「ああ、すまない。ちょっと考え事をしてて。何かな」

     時刻は昼休み。類と司は屋上に並んで座って昼食をとっていた。偶然司が告白される現場に遭遇してから数日後のことである。

    「いや、大したことではないのだが……」
     司が何とも言えない表情をする。無理も無い、こんなやりとりをここ数日で何度か繰り返しているのだから。ショーの練習だけはなんとかいつも通りこなしているが、それ以外の時はこの有様だった。
    (失恋ってこんなに辛いんだな……)
     司の顔を見ていられず、類は顔をうつむける。
     気がつくと司が告白されている場面が頭に浮かんでしまう。司と一緒にショーができれば充分と、元より叶えるつもりはない想いだったのに、まさか司に好きな人がいると聞いただけでここまで苦しくなるとは。
     そうして、また思考の迷路に沈んでしまった類に、司が声をかけてきた。
    「何か悩みがあるなら聞くぞ。無理にとは言わんが」
     うつむけていた顔を司の方に向けると、司の表情には類への心配がありありと浮かんでいて。好きな人にそんな表情をさせていることに余計気分が落ち込んでしまう。類は無理矢理笑顔を作って答えた。
    「いや、大丈夫だよ。最近ちょっと夜ふかし気味でね。心配をかけてすまないね」
    「……それならいいんだが。今日は早く休めよ」
     まさか司に失恋して落ち込んでいるとは言えない。ごまかしではあるが、全くの嘘と言うわけでは無かった。実際、ここ数日、類は碌に眠れていなかったのだから。
     類の返事に司は納得いかないような表情をしたが、深くは追及しないでいてくれた。気を使わせたことに心の中で再び謝りつつ、この状況を早くなんとかしないと、と類は焦る。
    (早くこの気持ちにさよならしないと。本当に好きなら、好きな人の幸せを願うべきだ。……演出家として、友人として、隣にいられれば充分じゃないか)
     そう思えども、胸がつきりつきりと痛む。思わず胸を押さえようとした時、目の前に何かが差し出された。
    「ほら」
     司から差し出されたものをよくよく見ると、それはフォークに刺さった一切れのチーズケーキだった。おそらく司の弁当のデザートだろう。
    「ええと、どういうことかな、司くん」
    「疲れている時は甘いものと言うだろう。特別に分けてやろう」
     そう言われても類はうろたえてしまう。だってこれは、
    (いわゆる「あーん」というやつだよね!?)
     類の戸惑いが伝わったのか、司はなぜか頬を少し染め、慌てて、
    「ぶ、無作法だったな。すまん」
    と手を引っ込めようとした。
     類はとっさに司の手首を掴む。驚く司にかまわず、差し出されたチーズケーキにかぶりついた。数回咀嚼し、飲み込む。その様子を見た司は満足げに言った。
    「どうだ。我が家のチーズケーキは美味いだろう!」
     その言葉に、類はこくこくと数度うなずいた。正直なところ味わう余裕は無かったが。
    「あー、もう少し食べるか?」
    「いる」
     即答した。握ったままだった司の手首を離すと、先ほどと同じように司はチーズケーキを類の口に運んでくれた。類には理由がわからなかったが、司はとても楽しそうで、その様子を見た類もつられて自然と笑顔になっていった。そうして、結局チーズケーキは丸ごと類の胃におさまったのだった。
    「ごちそうさま。司くん、ありがとう」
    「ああ。……少しは元気になったようだな」
     司は類の顔を覗き込み、うれしそうに微笑んだ。その表情を見て、類は唐突に思った。

    (やだな)

     司に恋人ができても、何も変わらず類と接してくれるだろう。それでも、こういう司の優しさが、類以外の特別な人間に向けられるのが、嫌だと思った。
    (それに、僕以外の人間に司くんがこんな「あーん」するとか許せるわけがない!)
     しかし、司に好きな人と幸せになってもらいたいという気持ちも本当で。
     類は口元に手を当てて考え込む。
    (……だったら、司くんに僕のことを好きになってもらうしかない。大体、司くんに好かれてるというのに何も気づかない人間に司くんを任せられるはずがないだろう?)
     うん、そうだ、そうしよう、とひとり納得する類に、司が遠慮がちに声をかける。
    「おーい、類? また何か考え込んでいるが、大丈夫か?」
    「司くんっ!」
     うおっ、と司から驚きの声が上がる。自分の考えに耽っていた類が突然司の両手を握ったのだ。
    「ありがとう、君のおかげですっきりしたよ」
    「そ、そうか。よくわからんが、良かったな?」
     類のあまりの勢いの良さに気圧されたのか、戸惑いを露わに司が答える。そのまま数十秒、至近距離で類はじっと司を見つめる。少しずつ司の頬に赤みが増していった。
    「る、類? お前さっきから変だぞ。それにそろそろ手を――」
    「司くん」
     出来うる限りの甘い声で司の名を呼ぶ。びくりと、司の体が跳ねた。そっと、司の耳に唇を寄せ、ささやいた。
    「明日から覚悟しててね?」
     ばっ、と耳を押さえた司が類から距離をとる。その反応に満足した類は、用事ができたからといそいそと屋上を後にした。目を見開いたまま固まった司を置き去りにして。
    (うん、悪くない反応だった。あとは司くんの好きそうなシチュエーションをリサーチして、演出を練って。忙しくなるね)

    ***

     わけのわからないままひとり残された司は、顔を真っ赤にしながら、一体何なんだ……、と頭を抱えていた。
    (まさかあいつオレのことを……? しかしあの時)
    と、類に好きな人がいることがバレた時のことを思い返す。

    『る、類!? 今の聞いてたのか!?』
    『ああ、うん。聞くつもりは無かったんだけど。すまないね。……けど、君に好きな人がいるなんて思わなかったよ。君の恋が叶うといいね。応援してるよ』

    (どう考えても脈が無いよな。はっ、まさかあいつチーズケーキがそんなに気に入ったのか!? 明日も持ってこいってことか!?)

     こうして、司に好きになってもらいたい類と、とっくの昔に類のことが好きな司との一方的な戦いは始まった。
     結局、すれ違いは数週間に渡って続き、
    「オレのことをこれ以上弄ぶのは止めろ! お前が好きなのはチーズケーキだろう!?」
    「は!? 僕が好きなのは司くんだけど!?」
     という会話を経て、類は司の好きな人の正体を知ることになるのだった。
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