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    kiryunatsuki

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    kiryunatsuki

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    演目:「いい夫婦の日」 + 2.5h
    🌟がいい夫婦の日にがんばる話。
    二十代年齢操作&同棲🎈🌟です。

    いい夫婦の日の話 十一月も下旬となり、冬が近づいてきたある日の夜。風呂から上がると、類が真剣にテレビ番組を見ていた。音の賑やかさからするとどうやらバラエティ番組らしい。普段そういったたぐいのものは熱心に見ないのに珍しい、と思いながら、声をかけようとしたところで、ぽつりと類が呟いた。
    「いい夫婦かぁ……」
     出そうとした声をすんでのところで飲み込む。その音の響きに、うらやましいという気持ちが多分に含まれているように聞こえた。
     なんとなく声をかけるのがためらわれ、その場に立ち尽くしていると、類がオレの気配に気づいたのか、振り向いた。
    「お風呂空いたぞ」
     とっさに反応できた自分をほめたい。いかにも今出てきた、という雰囲気を装った。
    「うん、ありがと」
     笑顔でそう言うと、類は風呂場に向かって行った。さりげなくテレビの電源を消してから。
     類が風呂に入ったことを確認し、テレビの電源をもう一度つける。そこには「明日はいい夫婦の日~妻にやってもらえると嬉しいことランキング~」という文字が踊っていた。
     ……類もこういうことをオレにやってほしいのだろうか。
     先ほどの類の様子を思い出し、眉をひそめる。夜は受け入れる側をやっているとはいえ、妻になった覚えはない。だが、類がそれを求めているというならばやってみせようではないか!
     ちょうど大きな舞台が終わったところで、しばらくちょっとした休みをもらっている。早速明日から実践しようと、オレはランキングを眺めながら、頭の中で作戦をねった。

    ***

     そんなことがあった次の日。いつも通り類を起こし、朝食をふたりでとったあと、オレは仕事に向かう類を見送るために玄関に立っていた。
    「類、弁当だ。お昼に食べてくれ」
     柄にもなく少しだけ緊張しながら、布に包まれた弁当を渡す。ひとつ目の作戦である愛妻?弁当だ。
    「司くんが作ってくれたの?」
     類の問いにこくり、とうなずく。類は弁当を受け取ると、大事そうに鞄にしまった。
    「ありがとう。お昼が楽しみだなぁ」
     こちらが恥ずかしくなるくらいの笑顔を浮かべる類を見て、作って良かったと心から思う。
    「それじゃあ、行ってきます」
     そのまま玄関を出て行こうとする類に、ふたつ目の作戦を実行するべく慌てて声をかける。
    「類、待て。忘れ物だ」
    「うん? 何かな」
     オレの声に振り向いた類の唇に自身の唇を軽く重ねる。チュッとわざとリップ音を立てて離れると、ぽかんとした表情を浮かべた類がいた。
    「い、いってらっしゃいのキス……」
     呆ける類にいたたまれなくなり、何か言ってくれ、と蚊の鳴くような声で呟くと、突然類が抱きついてきた。
    「このまま司くんと一緒にいたくなっちゃったな」
     ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。どうやら作戦は成功したようだ。ほっと胸をなでおろしていると、その姿勢のまま、類がじっとこちらの顔をのぞき込んできた。あまりに熱心に見つめられ、じわじわと顔に熱が集まる。
    「る、類? どうした?」
    「……ううん、なんでもないよ」
     類の顔がせまってきたと思ったら、チュッ、と軽い口づけを贈られる。行ってきますと言い残して類は玄関を出て行った。
     オレはずるずるとその場にしゃがみこんだ。朝からなかなかダメージがでかい。顔に集まった熱を冷ますように手で扇ぐ。
     類も喜んでいたようだし、ここまでの作戦は大成功。あとは残りひとつ。最後の作戦に向けて、オレはぴしゃりと頬を叩いて気合いを入れた。

    ***

     夜。夕飯の支度と類を迎える準備をばっちり整えたオレは、類の帰りを今か今かと待っていた。これからやることを考えると気分が落ち着かず、何度も時計を確認したり、玄関の気配をうかがったりする。
     そんなことを何度か繰り返していると、玄関からガチャリ、と鍵を開ける音がした。慌てて履いていたスラックスを脱ぎ、玄関に早足で向かう。
     玄関に着くと、類が扉の方を向いて鍵を閉めていた。
    「おかえり」
    「司くん、ただいま」
     振り返った類がオレの姿を見てピシリ、と固まった。
    「類! ご飯にするか、お風呂にするか、そ、それとも……」
     言うはずだったセリフを最後まで言えず、上に着た類のパーカーのすそを強くにぎる。
     類の視線がゆっくりと上から下におりていく。それを見ていられず、ぎゅっと目をつぶった。下は下着しか履いていないが、だぼっとした大き目のパーカーのおかげでかろうじて見えていないはずだ。
     玄関が静まりかえる。あまりにも反応が無いので心配になり、そろそろと目を開くと、両手で顔を覆って天を仰ぐ類がそこにいた。
    「何やってるんだ」
     よくわからない反応に脱力して尋ねると、類はうなりながら答えた。
    「ちょっと待って。今本能と戦ってるから」
    「は?」
     聞いてもよくわからなかった。だが、待てと言われたので大人しく待つ。しばらくして、よし、と呟いた類が両手を下ろした。視線はオレから逸らされていたが。
    「とりあえずご飯食べようか」
    「はぁ!?」
     予想外の言葉に、驚愕の声を上げて類の肩に掴みかかる。
    「嘘だろ!? この三択でどうしてそうなるんだ!」
     がくがくと類をゆさぶる。ちょ、ちょっと落ち着いて、と類の制止する声が聞こえたが、これが落ち着いていられるか!
    「据え膳だぞ! 大人しくオレを食べろ!」
     自分でも何を口走っているかわからないまま涙目で叫んでいると、がしっと顔を固定された。
     苦笑した類がオレの顔をのぞき込んで言う。
    「そんな顔してる司くんを抱けないよ。ほら、風邪を引いてしまうから部屋に行こう」
    「うぅ……」
     そんな顔ってどんな顔だ。
     作戦の失敗を悟ったオレは、すごすごとスラックスが脱ぎ捨てられた部屋に戻った。

     夕飯を食べ終えて、類と並んでソファに座る。食後のお茶を飲んで一息ついたあと、類が口火を切った。
    「で、どうしてこんなことしようと思ったのかな」
     テレビ番組に影響された、などと正直に言う気にもなれず、かといってうまくごまかす言葉も思い浮かばず。類の顔を見ていられなくて、自然と視線が下を向いた。
     そんなオレにかまわず、類は続けた。
    「朝から何かあるかもしれないとは思っていたんだけど……」
     沈黙が落ちる。何も言わないオレにしびれを切らしたのか、そっと類が言った。
    「察するに、昨日のテレビ番組かな」
     言い当てられたことに驚き、思わず顔を上げる。オレの反応を見て、やっぱり、と類は眉を下げた。
    「不安にさせてしまったかな。ごめんね」
    「……別に不安にはなってないが」
     強がってみせたが、オレの内心なんて類にはばればれなのだろう。ますます眉を下げる類にこっちが焦ってくる。慌てて付け足した。
    「類が謝ることじゃないんだ。ただ、お前がああいうことをしてほしいと思っているなら期待に応えたい。今朝だって喜んでただろう?」
     オレの言葉に類は困ったように笑った。
    「確かに喜んだけどね。そりゃ司くんが僕のためにしてくれることなら何だって嬉しいよ。でも、君がしたくないことを無理にしてほしいわけじゃない」
     いまいち類が言っていることがわからず、首をひねる。
    「オレはお前の喜ぶことをしたいんだが」
    「う~ん。例えば司くんは僕が野菜を食べられるように工夫してくれるだろう? 僕が頼んだわけじゃないのに」
    「それはオレがお前に健康でいてほしいからやってるんだ」
    「うん、そういうことなんだよ」
     ……わかったようなわからないような。眉を寄せて考え込むオレの頭に暖かい感触が落ちた。類の手だ。そのまま、ぽんぽんとなでられる。
    「僕は司くんがしたいと思ったことをしてくれるのが一番うれしいな」
     優しく笑って、これで話は終わりだと言わんばかりの類にはっとする。危うくごまかされるところだった。まだ根本的なところが解決していない。
    「だが、昨日うらやましそうに番組を見てたよな。あれは何だったんだ」
     勢い込んで言ったオレに小首をかしげてにっこりと類は笑った。
    「そんなことないよ」
    「そんなことある! オレの目はごまかせんぞ」
     じっと類を見つめる。しばらくそのままにらめっこをしたあと、類は観念したようにため息をひとつついた。
     苦笑しながら類が答える。
    「うん、ごめんよ。うらやましいと思ったのは本当。……僕達も一緒に住むようになってからずいぶん経っただろう? 僕もそろそろ司くんと家族になりたいな、と思ってね」
     類の言葉に息を飲んだ。それって、つまり。
     驚きで固まるオレに向かって、悪戯っぽく類はウインクする。
    「忘れられない日にしたいから、どうか今日のことは忘れて、待っていてくれないかな」
     何を、なんて野暮なことは聞かなかった。勢いよく類の胸に飛び込む。うわっと声を上げた類と共にソファに倒れこんだ。
     涙で視界がかすみ、声も出せないオレは、ただ何度も首を縦に振る。そんなオレを類はそっと抱きしめてくれた。そのままふたりで体温を分かち合う。
     しばらくして、やっと涙も止まり落ち着いてきたころ。
     とある気持ちがむくむくと胸の中で膨らんできたオレは、その気持ちに従って、類に尋ねた。
    「類はオレがしたいことをしてほしいんだよな?」
    「うん、そうだね」
     少しの逡巡のあと、オレは言った。
    「い、一緒に風呂に入らないか。……そのあとは、類の好きなようにされたい」
     ゆっくりと体を起こす。見開かれた類のお月さまみたいな瞳に、とろけたオレの顔が映っていた。
    「っ」
     なんとも形容しがたい声を漏らし、類は素早く両手で顔を覆う。
    「嫌か?」
    「嫌じゃないです。ぜひお願いします」
     食い気味に答えた類に、オレは声を上げて笑った。

    ***

     それから半年後のオレの誕生日に。
     えむと寧々を巻き込んで、ワンダーステージで盛大にプロポーズされ、類の宣言通りに忘れられない日になるのは、また別の話。
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