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    kiryunatsuki

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    kiryunatsuki

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    演目:「祝福」 + 2h
    にぶい🌟に振り回される🎈と、🎈🌟を祝福するモブの話。
    捏造クラスメイトなモブがしゃべります。

    お幸せに! 司くんはにぶい。それはもう驚くくらいに。
     例えば、一緒に屋上にいる時にさりげなく距離を詰めても、
    「寒いのか?」
    と真顔で聞かれたり。
     休日に一緒に観劇した帰り道、もう少し一緒にいたい、と告げても、
    「オレもまだ語り足りないぞ! 帰ったらセカイで落ち合うか」
    と笑顔で言われたり。
     僕の家で一緒にショーを見ている時に、直球で好きだと伝えても、
    「ああ、オレも好きだぞ。この作品は何度見ても素晴らしいな!」
    と画面から目を離さずに返されたり。
     司くんに絶賛片思い中の僕は、あの手この手で僕のことを意識してもらおうとしたが、そのどれもが通用せず、腹をくくって長期戦の覚悟を決めた。

     そんなある日のこと。
     放課後の教室で、僕は司くんと脚本を詰めていた。
     思いついた演出プランを夢中で話している最中、ふと司くんを見ると、優しい表情でこちらをじっと見つめていた。その表情にどきどきする内心を隠しながら問いかける。
    「どうしたんだい?」
    「いや、好きだなぁと思ってな」
     ……これはあれだ、(お前の演出が)と言葉の前に付くやつだ。司くんのにぶさを舐めてはいけない。そう思った僕は、
    「そうかい、ありがとう。嬉しいよ」
    と笑顔で返した。
     まさかそれを見ていた人がいたなんて気づきもせずに。

    ***

     翌日。
     いつものように学校に登校すると、下駄箱で声をかけられた。
    「神代、おめでとう! 良かったな」
     声の主を振り返ると、体育祭の応援団員だったクラスメイトがそこにいた。何のことかと問う前に、彼は僕の横をすりぬけて教室に向かってしまった。
     首を傾げながら、靴を履き替え教室に向かっていると、また同じように声をかけられた。
    「おはよう、神代くん。おめでとー!」
     声の主はやはりクラスメイトで、同じ緑化委員の女の子だった。今度こそはと先ほどの疑問をぶつける。
    「おはよう。さっきも言われたんだけど、なんの話かな?」
     彼女は僕の疑問に笑顔で答えてくれた。
    「ついに天馬くんと付き合えたって聞いて。よかったね!」
     周囲への牽制も兼ねて司くんへの気持ちは隠していないので、僕の片思いが知られていることに驚きは無い。……ここまで周りにはバレバレなのに、なぜ当の司くん本人には伝わらないのだろうか。まぁそれは置いておいて。
    「僕が司くんと付き合う?」
    「昨日天馬くんから告白されてたって聞いたよ」
     それを聞いて、昨日の教室での出来事を思い出した。あれを見た誰かが勘違いしたのだろう。
     思案する僕を見て、何事か察したのか、
    「……もしかして違ったかな?」
    と、目の前の彼女が少し気まずそうに言う。わざわざ否定するのも自分でダメージを受けそうだったので、
    「ご想像にお任せするよ」
    と曖昧に笑ってごまかした。ほっとした顔をした彼女を見送って、僕は彼女と逆方向に進んだ。この分だとおそらくクラス中に話が広まっているはずだ。さすがにその中に入っていく気になれなかった僕は、屋上に行くことを決めた。

    ***

    「類。るーいー!」
     肩を揺さぶられて目を開けると、目の前に司くんの顔があった。屋上で作業をしているうちに眠ってしまったようだ。起き上がって、すっかり固まってしまった体をほくしながら司くんに聞く。
    「おはよう、今何時?」
    「おそよう。今は昼休みだ。お前、いつからここにいたんだ。身体が冷えてるぞ」
     そう言いながら司くんは僕の手をとった。
    「冷たっ。今の時期によくここで寝られるな……。風邪を引くなよ」
     そんなことを言いながら、僕の手を両手で握りしめ、はぁーと息を吹きかけて温めようとしてくれる。その行動だけで、冷え切った身体がじんわり温まる気がした。……こういうことを平気でするから勘違いしたくなるんだよなぁ。
     勘違い、その言葉で、はたと屋上でさぼる原因になった今朝の出来事を思い出した。もしかして、司くんもクラスメイトに何か言われたかもしれない。これをきっかけに少しは意識してくれないかな、と淡い期待を込めて聞いてみる。
    「司くん、クラスメイトからお祝いの言葉を言われなかったかい」
    「ん? ああ、朝からたくさん言われたぞ! 類も祝われたのか?」
     笑顔で答えられて、僕は戸惑う。
    「うん、言われたけど……」
    「そうかそうか! まぁ、昨日の今日だったからさすがに驚いたがな。少し照れくさいが、オレ達のことを皆に祝ってもらえるのは嬉しいな!」
     ……????
     いつものように大きな身振りで喜びを表す司くんを見て、僕の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。
    「ちょっと話を整理しようか。司くんのクラスメイトが話してたことって、僕達が付き合うことになったって話で合ってるかい?」
    「ああ」
    「付き合うというのは、好き合っているふたりが恋人関係になるという意味なことは理解しているかな」
    「もちろん。さっきから何を気にしてるんだ」
     司くんが僕を怪訝な表情で見る。その表情に、いよいよ僕は混乱を極めた。
    「司くんはクラスメイトに僕達が付き合ってると誤解されたままでいいのかい?」
    「え?」
    「え?」
     司くんと顔を見合わせる。
     沈黙が流れた。司くんは下を向いて考え込んでしまう。僕はというと、何かとんでもない間違いを犯してしまった予感でいっぱいだった。冷や汗が背中を伝う。
     ぼつりと司くんは呟いた。
    「そうか。オレは類に告白をしたつもりだったんだが、伝わって無かったのだな」
     その言葉に僕の頭は完全にフリーズした。
     そんな僕を置き去りにして、いつものきりりとした眉を八の字にして、困ったように彼は笑った。
    「そうとわかれば、お前に迷惑がかかる前にクラスのやつらの誤解を解かねばな。失礼する!」
     そう言って、屋上をさっさと去ってしまう。そこでようやく我に返り、叫んだ。
    「待って、司くん、待って! 誤解にしないで!」
     そして、彼を追いかけるべく全力で走り出した。

     その後、紆余曲折の末、何とか司くんを捕まえて改めて僕の気持ちを告げた。僕の告白をちゃんと受け取ってくれた司くんに心底ほっとしたが、
    「お前って意外とにぶいんだな」
    と無邪気に笑われたので、今までの僕の苦労を懇切丁寧に説明してあげた。それはもう、司くんが真っ赤になって、もういい! と叫ぶくらいまで。
    ===
    ***
     これは、類が知る由もない、とある神高生達の間で交わされたSNS上の会話の記録。

    「今日のワンツーすごかったね……。特に神代くん」
    「昼休みに学校中で鬼ごっこしたんでしょ! わたし食堂に居たから見れなかったんだよね。見たかったなー」
    「なんか神代が好きだとか何とか叫んでたの聞いたけど。あいつら昨日からやっと付き合い始めたんでしょ。昨日の今日で何があった」
    「さぁ。でも昼休み終わり際に手をつないで帰ってきたから……」
    「痴話げんかか」
    「でもでも、よかったよね! わたし委員会が神代くんと一緒だから時々話すんだけど、すごいんだよ。話してるといつのまにか天馬くんの話になるの!」
    「有名だったもんね、神代くんの片思い。傍から見てると両思いだったけど……。前に膝枕で眠る神代くんを慈愛の目で見つめる天馬くん目撃しちゃってちょっと気まずかったよ。頭なでてたし」
    「まぁなんというか。お幸せに! って感じ?」
    「だね!」
    「そうだね」
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