辻はペンライトほどの金属の棒を手に取ると、軽く振った。空気を切り裂く音と同時にそれは一メートルほどの長さになった。
「伸縮性のトレッキングポール、山登りの際の杖とかに仕えるやつです。軽くて丈夫なカーボン製で、携帯性がいいので護身用におすすめです。これ、あげます」
しれっと辻は笑って告げる。
「……あ、ありがとう」
「縮める時はこう、です。ガラスだと割れるのでなるべく固い面に押し付けて下さいね」
柄の部分を逆手に持ち直すと、コンクリートの部分に先端を置いてぐっと力をこめると、柄の部分に伸長したパーツは格納される。
はい、とそれを渡されて、犬飼はぞくっとした。そこまで近づいて分かる。彼が黒っぽいウィンドブレーカーを羽織っていた理由を。
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