「辻ちゃんのえっち」
「なっ!…そん……こ……」
いい加減辞めたらいいと思うのに、どうにも辻ちゃんには意地悪をしてしまう。
年の瀬、任務もないので自宅でゴロゴロしていたら「大掃除の邪魔」と追い出されてしまった。
せっかくの休みだ、いいじゃないか、と思いつつも、ここは口答えすると何倍も返ってくるのは長年の流れでわかる。姉2人、末っ子長男とはそういうものだ。
メッセージアプリを起動して恋人に連絡してみる。元々夕方に落ち合って、深夜に初詣をしようと約束していた。
学校も結構ギリギリまでやっているし、冬休みも突入してなかったしで、クリスマスを楽しむだけの余裕はなく、というか、そもそものボーダーの仕事があった。そうだったわ。だから、それを穴埋めるために少しでも予定を調整してたんだった。
「……てことあって……今から……」
今からそっち行っていい?と指を走らせ送信ボタンを押す。
すぐに既読がついて、相手もきっと家族が忙しいのを手伝いたくも持て余して暇してたんだろうなーと思うと、なんだか笑ってしまった。辻ちゃん、中間子だし、要領は良さそうだけど、マイペースそうだもんね。
─大丈夫です、お待ちしてます─
思わず頬が上がってしまう。
自分の要求を理解してくれて尚且つ受け入れてくれた。たいしたことないように見えて、実はかなり俺の心臓鷲掴みにされている。やっぱり好きだなぁとじわじわと実感した。
で、冒頭に戻るわけだけど。
着いて早々
「今の時間、家族は買い出しに出てて」
と、言われれば、なんかもう期待しかなくない?!
えっ、俺ってば俗物的なのかな?……恨むならボーダーかなと思う。普段は仕事に従事した10代の若く持て余した感情を、舐めてもらっては困る。人並みに興味はあるじゃない?
手は繋いだ、キスは……俺からした。その時にそっと触れたら跳ね上がって後ろに飛んでいた。辻ちゃんは海老なの?拒否じゃないことは分かっていたので、別に不安になんかなってなかったから声出して笑ってしまった。不貞腐れたり怒るかと思ったら、俺を真っ直ぐ見つめて
「っ……次は、ちゃんと……」
と、必死に伝えてくれたので、あ、これは俺、一生大事にしないといけないヤツだって思ったよね。
そんな辻ちゃんの、所謂「次は」が、今回の、それ、その、そう!!
期待しててもおかしくないですよね。
「辻ちゃんのえっち」
にやぁと笑ってみたら、自分が発した言葉をみるみる理解したらしく、
「なっ!…そん……こ……」
と、分かりやすく返してくれた。
分かりやすくて可愛い辻ちゃん。俺はいつでもOKなんだけど、そんなことは伝えてやらない。手とり足とり教えて上げるのは、最初だけだよ。
どうせ手出できないでいるだろうと軽くみて一歩玄関に踏み出した。
途端に手首を掴まれて、引き寄せられる。
辻ちゃんの匂いがする。匂いフェチではないが、大きく吸い込むと胸の奥が柔らかく解けるのがわかる。
ずっとこうしていたい、俺の本能がそう言っている。
「……犬飼……せんぱ……」
胸に当てた耳から鼓動が聞こえる。どんどんどんどん速くなる。
あぁ、俺ってば愛されてるじゃん。
自分とは違った鼓動に、ひどく安心した。